こんにちは。ユアムーン株式会社 編集部です。
皆さんがアートや絵画と聞いて思い浮かべる作品は何でしょうか?
ダ・ヴィンチの『モナ・リザ』?ゴッホの『星月夜』?
思い浮かんだ作品の多くは、西洋画ではないでしょうか。
ギリシア・ローマに端を発する芸術文化の影響は大きく、ヨーロッパがその中心にあったことは間違いありません。
しかし私たちが暮らすアジア圏にも同様の芸術文化の歴史があります。
本記事はアジア大陸の東洋諸国を中心に芽生えた東洋絵画についてご紹介します。
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東洋絵画って?
東洋絵画とは具体的に何を指すのでしょうか。
東洋美術(オリエント)は西洋美術(オクシデント)と比較されて用いられる言葉です。
東洋美術では、インドからイランに渡るアジアにエジプトを加えた広い地域を東洋と表すことが多いです。
現代では地理的な認識が改められたことで、東洋という包括的な分野は細分化されていきました。
東洋の範囲も東アジア、西アジア、南アジアへと分類され、日本美術や中国美術といった国単位でのジャンル分けもされました。
また、今回は「東洋絵画」として主に彫刻や陶芸を除いた、いわゆる絵画作品についてご紹介します。
東洋彫刻について詳しく知りたい方はこちらの記事をどうぞ!
鑑賞ポイント1:宗教を知る
アジア圏で信仰されている主な宗教には仏教、イスラム教、ヒンドゥー教などがありますが、その中でも広く知られ、文化との結びつきが強いものがキリスト教、イスラム教に並ぶ世界三大宗教である仏教です。
諸説ありますが、根本を辿ると仏教とヒンドゥー教は古代インドで勃興したバラモン教(古代ヒンドゥー)と呼ばれる宗教に辿ることができます。
その発祥は紀元前13世紀ごろで、キリスト教の起こりとされる紀元一世紀よりも1300年も前の話です。
この歴史から、仏教とヒンドゥー教はアジア圏で広く浸透し、芸術文化にも大きな影響を与えました。
仏教には仏陀(悟りを開いた釈迦という人物)という開祖がいて、基本的にはその姿が布教のために描かれてきました。
悟りを開いたあとの釈迦を描いた(象った)『如来』や、悟りを開くための旅をしている途中の釈迦を描いた(象った)『菩薩』など聖典のエピソードによって多くの種類があります。
これは如来?菩薩?どっち?
ヒンドゥー教はインドを発祥とする宗教で、世界で三番目に信者の多い宗教と言われています。
仏教と同じくバラモン教の教典を源流としながらも、創造神や破壊神が登場する「神話的」な多神教宗教です。
青い肌の色や、顔や腕がたくさん生えているなど、一見して人間とかけ離れた姿をしている神の姿が描かれます。
仏教の睡蓮は泥の中から綺麗な花を咲かせる聖なる植物
イスラム教はこの中で唯一、バラモン教ではなくキリスト教の源流であるユダヤ教から派生した宗教と言われています。
唯一神アッラーと、その教えを受けた預言者ムハンマドが伝えた聖典『クルアーン』を信仰します。
キリスト教や仏教に比べて起こりが遅かったこともあり、イスラム教に取って宗教美術が担った役割は小さいものでした。一方で、聖典が普及した後の時代であったため挿絵として描かれた細密画(ミニチュアール)が発展しました。
当時のことを知れる良い資料になると言います
また、東アジアに広まった宗教に道教があります。
仏教から影響を受けつつ、老子や孔子といった人物を神聖視し、その思想(哲学)を基にした神仙思想を信仰する宗教です。
中国独自の宗教で、教えを広めるためにわかりやすくエピソードを描いた道釈人物画などが多く制作されました。
歴史上の人物から伝説の人物、神話の神様まで、信仰対象が混交しているアジアの宗教観をまとめてインド神話と言うこともあります。
誰が人で誰が神様か、わかりますか?
宗教絵画を見るにあたって、主なアジア宗教と特徴をご紹介しました。
これらを全て覚えておく必要はありませんが、目の前の作品が「どの宗教か」「誰を描いているのか」「何を伝えているのか」の手がかりになればと思います。
鑑賞ポイント2:宗教絵画はポスター。
人類の歴史において、宗教は重要は意味を持ちます。
まだ社会基盤が出来ていない時代、人々が団結を強めたり、未知のものに対しての不安を取り除くことに役立ってきました。
そんな宗教の教えを広めるため、文字が開発されてからは教典が作られましたが、それ以前の時代や文字の読めない人や異文化の人に教えを説くために用いられたのが宗教画です。
そういう意味で、宗教絵画とは現代でいうポスターのようなものだと言えます。
例えば、イスラーム美術の表現技法に「アラベスク」というものがあります。
アラベスクとは「アラブ風の」という意味で、曲線が交差し、蔓草と葉のような模様が絡み合うモチーフを描いたものです。
この表現方法の起こりは、神の言葉を書いた文字をデザインチックにしたカリグラフィックにあります。
モスクなどに見られる緻密なアラベスク。
文字から模様へ、文化を問わない形へ抽象化したことで神のイメージや宗教の教義が直感的にわかるようになりました。
この抽象表現がさらに進むと、シンボルやアトリビュートといった表現へと発展していきます。
道教美術は先述の通り、人物ではなく教えを重要視した表現を発展させており「誰が」描かれているかではなく「何が」描かれているかに重きを置いているという点で、純粋な宗教絵画であると言えます。
時代が下って政治体制が整い、権力者や武将の人物画を描くようになっても同じ力学が働きます。
鑑賞ポイント3:宗教絵画を踏まえた“非”宗教絵画
ここまで、宗教絵画を中心とした東洋美術の見方をご紹介してきました。
しかし、東洋絵画にはもちろん宗教絵画以外の作品もあります。
このような作品はどのように見れば良いのでしょうか。
実は、宗教絵画と非宗教絵画には意外な繋がりのある鑑賞ポイントがあります。
東洋美術が宗教から一歩離れ、芸術に踏み込んだきっかけのひとつに「水墨画」の発明があります。
日本でもお馴染みの技法で、それもそのはず奈良時代の頃から中国によってもたらされ、1000年以上の歴史を持つ表現方法です。
水墨画の一大ジャンルが現実の風景を描いた「山水画」です。
現実の風景を忠実に描いたものもあれば、再構築によって架空の景色を描いたものもありました。
おそらく現実の風景を描く過程で、架空の風景を描くようになったはずですが、そのモチベーションはどこにあったのでしょうか。
当時の画家が架空の風景を描くモチベーションこそ、宗教だったのです。
その中心にあったのが「鑑賞ポイント1」でご紹介した道教です。
山水画という名の通り、水墨画で描かれる風景には雲がかかるほどの高い山やそこに流れる川が描かれることがモチーフに選ばれることが多くありました。
その理由は、高い山が神仙という尊い存在を、流れる川が清らかな思想を表すシンボルとして用いられていたからに他なりません。
道教に登場する神聖化された人物や、シンボルになる景色、動植物(鳳凰など)を描くことが、架空の風景を描くモチベーションになっていたのです。
神を見出すことができるのは、ヒト特有の能力だとか…
人も文字も描かれていない、メッセージも明確でない風景画は、これまでご紹介した方法では鑑賞できないと思うかもしれません。
しかし掘り下げると風景にも当時の人々の信仰が隠れていることが分かります。
例えそこに直接的な信仰対象が描かれていなかったとしても「こんな荘厳な場所には神や仙人が住んでいるかもしれない」と思った時、風景画は一転、宗教絵画に変わるのです。
まとめ
いかがだったでしょうか。
東洋絵画を鑑賞する時に知っておくべきことや注目すべきポイントについてご紹介しました。
鑑賞という作業は、やってみると思いのほか能動的で大変な部分もあります。
近年はインスタレーションアートというジャンルが人口に膾炙し、表現者と鑑賞者の双方向性が求められる向きが強まっています。
しかしインスタレーションとは、年代で区切られたジャンルではなく鑑賞態度そのものではないでしょうか。
数千年前の古典作品から現代アートまで、すべての表現は鑑賞者の態度によってインスタレーションアートになりうると私は考えています。
そしてそれは、表現者に答えを求めるべくもない古典であればこその鑑賞態度ではないかと思うのです。
おすすめ書籍
東洋絵画をもっと知りたい方にはこちらの書籍がおすすめです!
カラー版 東洋美術史
東洋彫刻について詳しく書かれた書籍は少ないのですが、こちらは美術の教科書などにも利用されている東洋の美術史について網羅的に載っている本です。一冊で建築や絵画についても学ぶことができるので、ジャンルごとの比較をしても楽しめるでしょう。










