【伝統工芸解説】古美術としての刀剣〜鑑賞のための歴史と見どころを解説〜

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皆さんは刀剣を鑑賞したことはありますか?

実物を見たことがない方もいれば、家にある!という方もいるかもしれません。

かつて武器として使用された刀剣は、現在では美術品としての価値を認められて鑑賞やコレクションの対象になっています。

近年は刀剣を鑑賞できる施設の充実やサブカルチャーの影響で人気が高まったこともあり、気軽に刀剣を鑑賞できるようになりました。

刀剣の魅力や鑑賞のポイントを押さえておくと、一層コンテンツや美術鑑賞を楽しむことができるでしょう。

本記事では刀剣の歴史と見どころについてご紹介します。

刀剣の基礎知識

古美術って?

まずは古美術というジャンルが生まれた歴史からご紹介します。

古美術という言葉が生まれたのは、第二次世界大戦が終了し欧米との貿易や文化交換が盛んになった頃のことです。

海外のアンティークが日本で人気になり、同時に日本の古い美術品や工芸品が海外で価値を帯び始めました。

これまでは古い美術品や工芸品を作者の知名度やジャンル問わず「骨董品」としていましたが、美術品として高い価値を持つものを「古美術品」と呼ぶようになりました。

古美術品について詳しく知りたい方はこちらの記事をどうぞ!

【伝統工芸解説】日本の古美術品とは?陶磁器・茶器・書画・刀剣について解説!

刀剣って?

続いて刀剣という言葉が何を指すかを確認していきましょう。

言葉通りの意味では「刃のついた手持ちの武器」ということになり、日本刀のような片刃のものはもちろん、西洋の剣のような両刃のもの、さらには槍や薙刀なども含めます。

日本では片刃の武器が主流になった経緯を踏まえ、東西の区別なく使う言葉として刀剣と言う言葉が誕生しました。

特に日本で作られた片刃の刀剣を「日本刀」、美術品としての価値を認められたものを「美術刀剣」と言い表します。

刀剣を解剖する

まずは刀剣を構成する代表的なパーツについて見ていきましょう。読み書きが難しい名称が多いので、刀剣のどこを指しているのか分かるだけで鑑賞の楽しさがグッと増すと思います。

刃先(はさき)と峰(みね)

刀剣の刃がついた切れる部分を「刃先(はさき)」といいます。逆側の研がれていない切れない部分を「峰」といいます。ここから、相手を殺傷しない程度に手加減することを「峰打ち」というようになりました。

刃文(はもん)

熱した刀身を急速に冷やす焼き入れという工程で生じる模様のことです。

黒い刀身と白い刃先が噛み合って出来ている模様ではなく、さらにその間にある部分を指します。

刃先の白い部分は「刃取り(はどり)」といって、刀を作る刀工が刃文を分かりやすく綺麗に見せるために研いで作った部分になります。

製造方法によって数十種類の刃文がありますが、大きく分けると直線的な「直刃(すぐは)」と曲線的な「乱刃(みだれば)」です。

刃文をよく見るためには光の加減や目線が重要になります。刀剣を鑑賞する時はさまざまな方向や角度から見て刃文が綺麗に見えるスポットを探してみるとよいでしょう。

因みに正式な表記は「刃文」で「刃紋」と間違えがちです。

柄(つか)

刀身を握るためのパーツです。刀身の「茎(なかご)」という部分を包むように木製の芯を作り、上から鮫皮(エイの皮のこと)と柄巻を施します。

柄巻は植物の蔓や動物の革、鯨のヒゲなど時代や刀工によって様々な素材が使われました。

柄には「目貫(めぬき)」という金具が取り付けられ、茎と柄を固定しています。

このようにとにかく持ちやすく滑らないような工夫が施されたパーツですが、現在ではその種類や出来を楽しむ鑑賞ポイントの一つになっています。

鍔(つば)

刀身と柄の間に挟み込まれた金具で、円形や角形など様々な形があります。

手が刀身に滑らないように施されたパーツで、刀の重心を調節したり刀を受けた時に手を保護する役目もあります。

戦で接戦になると鍔同士がぶつかり合うことから、互角の勝負を「鍔迫り合い」と言うようになりました。

鞘(さや)

刀身を覆い保護する役割をするパーツです。帯刀して出歩く時に用いる装飾が施されたものを「拵(こしらえ)」といいます。一方、自宅で刀剣を保管するために無加工の木材(白木)で作った鞘を「白鞘(しらさや)」といいます。

木を用いるのは木が湿気を吸い金属が錆びないようにするためで、高温多湿な気候の日本で長期保管をするために編み出された工夫といえます。

拵には漆塗りや金具をはじめ、鮫皮を貼り付けた「着せ鞘(きせざや)」蒔絵螺鈿といった伝統工芸の手法を取り入れた装飾もあります。

伝統工芸について詳しく知りたい方はこちらの記事をどうぞ!

【伝統工芸解説】日本の伝統工芸・漆芸品の種類と歴史を解説!

刀剣の歴史

人類が生み出した道具である刀剣の歴史は、人類の歴史と重なり合いながら紡がれてきました。刀剣のルーツは考古学、造形や装飾は美術や工芸の歴史に隣接します。刀剣生産の勃興と洗練は戦乱の世なくしてはありえなかったでしょう。

刀剣ひとつ取ってみても、人類のさまざまな歴史に想いを馳せることができることが興味深い点です。

古代から中世の刀剣

日本の刀剣史では「反り」がついた平安時代以降の作品を取り扱うことが一般的です。一般の刀剣のイメージや美術品として目にする作品も、平安から江戸時代にかけてのものが多いのではないでしょうか。

しかし、この「反り」こそ日本刀を語る第一歩というべき意匠なのです。その節目となる重要な作品の一つが平安時代に作られた「大刀三口」と呼ばれる三振りの刀剣です。

兵庫県播州清水寺に伝わる宝刀で重要文化財に指定されており、播州清水寺に縁のある坂上田村麻呂が帯びていたと伝えられています。

平安時代以前の直刀と同じ大刀という名が付けられているものの僅かに反りが認められる初期の刀剣で、反りが生まれる過渡期のデザインを残した歴史的に重要な作品です。

平安時代の反りは「腰反り」といい、中央よりも柄(腰)に近い部分に反りの中心がきます。その代表的な作品が国宝として知られる太刀「三日月宗近」です。三日月宗近は幾何学的なカーブではなく、切先になるほど直線に近くなりこれが緊張感を持たせています。

日本刀の中でも特に名刀とされる「天下五剣」のひとつ、三日月宗近。

その名前は「打ちのけ」と言われる刃の紋様が三日月型であることから付けられました。

天下五剣 三日月宗近/ホームメイト

出典:https://www.touken-world.jp/tips/25026/,刀剣ワールド, https://www.touken-world.jp/

刀剣の黄金期、鎌倉時代

鎌倉時代には刀工の仕事が盛んになり、現在国宝や重要文化財に指定されている名刀が多く生まれた黄金期を迎えました。

刀を評価するために言われる「折れず、曲がらず、よく切れる」という文句を実現するために切磋琢磨されて来た時代です。

刀工の中でも鎌倉の「相州伝」、京都の「山城伝」、岡山の「備前伝」などが知られています。

戦乱の世を写した南北朝時代

日本史において南北朝時代は、場合によっては室町時代と区別しないほど独立した時代相としての扱いは少ないものです。

南北朝時代を独立で取り上げることは刀剣史の特徴と言えるかもしれません。それほどに南北朝時代は刀剣にとって重要な時代でした。

南北朝時代の刀剣の大きな特徴は刀身が長く身幅が広い、豪壮な太刀が流行したことにあります。

その分、時代を経て生まれてきた反りは逆に浅くなり、古代の直刀のような印象すら受けます。

鎌倉時代に完成した刀剣のデザインにあえて逆らうムーブメントが起きたことは、幕府による秩序的な社会から戦乱の世への移行が起こった南北朝時代とのリンクを思わせます。

そしてこの「時代の揺り戻し」といえる現象は、後の桃山時代、江戸時代にも再び起こることを覚えておいてください。

国宝指定されている「日向正宗」。

ほとんど反りのない刃はまるで包丁のよう。

実際に短刀で、刃長は24.7cmほどです。

日向正宗/ホームメイト

出典:https://www.touken-world.jp/search-noted-sword/tengasansaku/54638/,刀剣ワールド, https://www.touken-world.jp/

大量生産と実用を求めた洗練の室町時代

幕府の盛衰によって刀剣の大量生産と実用化が求められたのが室町時代です。

たくさん作られたことで洗練された室町時代の刀剣は、まさに製品でした。

南北朝時代の長大なサイズは適性に戻り、反りは腰反りから中心が切先に近づき「先反り」へと変化しました。

古刀と新刀を隔てる革新の桃山時代

日本刀は慶長(1596〜1615)より前の刀を古刀、以降の刀を新刀という風に大別し、慶長年号のうちに作られた刀を特に慶長新刀といいます。

この分類の必要性が生まれたのは、革新によって刀剣が均一化したという変化にあります。

豊臣秀吉による天下統一によって戦乱の世が静まると、戦によって醸成された物流の発展が生活に活かされました。刀剣においても質の良い鋼と技術ノウハウが産地から全国へ広まり、地金(鋼の部分)は均一な明るい色を持つようになりました。

これによって刀剣の地域性が薄れ、刀工たちはオリジナリティや自由なデザインを求めるようになりました。

桃山時代の日本美術は「黄金と詫び」の両極の美観を持つとされ、日本刀においてもその傾向が見られます。

重要文化財に指定されている「朱塗金蛭巻大小拵」は鞘には朱塗が施され、金の板がゆったりとした「蛭巻(螺旋状に巻かれること)」にされています。

元々蛭巻とは、鞘や柄の強度を増すために金属を巻きつけたことに由来する実用的な装飾ですが、朱と金のコントラストを生み出しており、これまでにない色遣いは桃山時代の刀剣の特徴である自由と挑戦を象徴しています。

また、この時代特有の文化として戦が絶えない時代に武士たちは、兜の中に護符を貼り、刀には祈りのことばや経文、仏の姿などを掘り込んで無事と勝利を願っていました。

「黒漆塗朱に金蛭巻鞘 打刀拵」。

一般的な刀剣のイメージと大違いの鞘と柄の装飾が目立つ作品です。

黒漆塗朱に金蛭巻鞘 打刀拵/ホームメイト

出典:https://www.touken-world.jp/search-koshirae/attack-sword-koshirae/art0006101/,刀剣ワールド, https://www.touken-world.jp/

美術品として昇華した江戸時代

慶長を節目に大別される古刀と新刀に加え、十八世紀から十九世紀末にかけて作られた刀を新々刀といいます。

江戸時代に入ると幕府の権力が安定し、長く泰平の世が続いたことで徐々に刀剣の需要は減っていきました。

そのため刀剣は実用ではなく、身分を示すために持ち歩き権威を示すためや、部屋に飾って鑑賞して楽しむものになりました。

現代の私たちが楽しんでいる美術品としての刀剣の在り方は、この頃に生まれたといえるかもしれません。

実用性を求められなくなったことと、美術品としての価値を認められることによって刀身だけでなく刀装具にも手が施されました。

刀装具の装飾は日本の伝統工芸や美術史と結びつきがあります。桃山時代の例で見た通り、以前からも鞘に漆塗りを施したり、金箔が巻かれたりしていましたが、江戸時代からはより一層豪華絢爛な細工が施されるようになりました。

「茶石目地梅菊花螺鈿蒔絵 脇差拵」。

フィクション作品でも見ないほどの煌びやかさ。

こうした刀剣の多くは平安時代以降に作り始められ、

特に貴族が持つものや宮中行事に用いられるものは金や螺鈿が豪勢に使われました。

茶石目地梅菊花螺鈿蒔絵 脇差拵/ホームメイト 茶石目地梅菊花螺鈿蒔絵 脇差拵/ホームメイト

出典:https://www.touken-world.jp/search-koshirae/wakizashi-koshirae/art0001411/,刀剣ワールド, https://www.touken-world.jp/

刀剣鑑賞のポイント

刀剣の基礎知識と歴史を見てきました。これらを踏まえながら刀剣を鑑賞する時のポイントをご紹介します。

刀剣の見どころ1:姿の美しさ

まず刀剣を見た時の姿(刀剣の世界では太刀姿とも言います)は欠かせません。歴史の項で見てきたように、刀剣にはそれぞれの時代の様子が必ず反映されています。

時代観に疎い方は、その時代を治めていた組織に注目してみましょう。

刀剣は武器であり力の象徴であるため、所望した権力者や使っていた武士の文化や価値観が色濃く反映されています。

また、私たちが感じる刀剣の美しさは必ずしも刀工が美しく作ろう!としたものではなく、武器としての刀剣の美しさは実用性によるもの、いわゆる柳宗悦が提唱した「用の美」に通じるものがあります。

かといって当時の人々が刀剣を美しく感じなかったというわけではないはずです。

価値観の違う遠い昔の人たちが同じものを見ていたことに想いを馳せ「どんな美しさを感じていたのか?」「自分の感じる美しさと同じだろうか?」と考えながら鑑賞するとさらに刀剣の奥深い魅力に気づくことができるかもしれません。

柳宗悦、用の美について詳しく知りたい方はこちらの記事をどうぞ!

【徹底解説】柳 宗理の人生と作品に迫る

刀剣の見どころ2:地鉄の美しさ

次に地鉄(じがね)の美しさです。刀身をつくる地鉄は鉄を炭で焼いて炭素を加え、繰り返し鍛錬し、最後に研磨するという過程を経ます。

一つの素材が三様の美しさを見せ、さらに一つの作品の中に現れることは刀剣の他にない魅力の一つです。

これらが自然にはない人類の発明であることから、自然の美しさを表す宝石に対比して「人工の宝石」と表現する人もいます。

同様の文化は日本以外にも見られ、西洋ではダマスカスという鉄鋼で出来た剣などの工芸品を鑑賞する文化があります。

日本刀が持つ美しさに魅力を感じるのが日本人だけでないことから、自然の美しさと人工の美しさが同居した地鉄の魅力は、人類が普遍的に持ちうる美観の一つではないかと思います。

製造過程を知ることは、作品を楽しむための方法の一つです。刀を作る過程は絵画や彫刻ほど身近になく想像しづらいかもしれませんが、知識として押さえておくだけで鑑賞体験が変わるのではないかと思います。

刀剣の見どころ3:刃文の美しさ

最後に刃文の美しさです。前項でもご紹介した通り、刃文は刀身から刃先の間に生まれる模様です。刃文は製造方法によって種類がある上に全く同じものはない、その刀剣のオリジナリティといえる部分です。

刃文は直刃と乱刃に分けられるほか、鑑賞の視点ではさらにその模様が具象的か抽象的かに分けることができます。

具象的な刃文は波や炎、山並みに例えられるような模様で特に技術革新が進んだ新刀期以降に多く見ることができます。

抽象的な刃文は力強い直線や有機的で複雑な曲線などの模様で、古刀期から現代に至るまで様々なパターンが作られています。

「姿」を彫刻的な美しさとするなら、「刃文」は絵画的な美しさということができるかもしれません。

刃文をよく観察するために光の加減や目線を変えてみるほか、刀剣ごとの違いを見比べてみたり、具体的な何かに見立ててみると楽しめるかもしれません。

まとめ

いかがだったでしょうか。

本記事では語り尽くせないほど奥深い刀剣の世界ですが、刀剣の基礎知識を中心に鑑賞ポイントをご紹介しました。

現代日本で刀剣が身近にあるという方は少数派かもしれません。しかし日本の歴史や伝統工芸に深く関わっており、すでに興味のあるジャンルが実は刀剣と繋がりがあるかもしれません。

慣用句にも刀剣由来のものが多く今でも使われていて、文化として私たちの生活に残っていることがわかりますね。

興味を持ってくださった方は「世界に誇る鉄の芸術品」である日本刀を最も気軽に、奥深く鑑賞できる機会を逃さずぜひ刀剣の世界を楽しんでください!

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