全15回のうち 第1回
連載「美術館の英語を読める人になる」
painting / drawing / picture絵画の英語、3つの違い
「絵画」を英語で言うと painting。では、鉛筆で描いた絵は?写真は?この記事は、連載「美術館の英語を読める人になる」の第1回です。単語を覚えるのではなく、美術館の解説文を1本読みながら、その言葉が「なぜそう使われるのか」を確かめていきます。
連載の全体像と学ぶ順番は、アート英語カリキュラム 目次にまとめています。
読了目安 約15分(練習問題を含む)使える型 3つ練習問題 4問
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この回を読むと、作品を見て「これは drawing で、painting ではありません」と英語で言い分けられるようになります。
この回で扱う言葉
picture絵・写真・画像など、像全般
painting
絵画
決め手絵具(paint)を使って描いたか
oil painting, watercolor painting
drawing
素描・ドローイング(いわゆるデッサン)
決め手鉛筆・木炭・チョーク・ペンなど、絵具以外で描いたか
pencil drawing, charcoal drawing
picture
絵・写真・画像など、像全般
決め手種類を特定しない、いちばん広い日常語
take a picture, in the picture
動詞も同じ考え方で分かれます。絵具で描くなら paint、鉛筆やペンなどで描くなら draw。描く人は painter(絵を描く人)または artist(絵画に限らず美術の作り手全般を指す、より広い語)です。
絵のジャンルを表す基本の言い方も、あわせて確認しておきます。
今日の1枚

DETAIL
DETAILまずは、美術館で作品の横に貼られている作品ラベルの形で見てみます。ラベルの読み方そのものは第6回で詳しく扱います。
Georges Seurat (French, 1859–1891)
Aman-Jean (Portrait of Edmond François Aman-Jean), 1882–83
Conté crayon on Michallet paper
24 1/2 × 18 11/16 in. (62.2 × 47.5 cm)
The Metropolitan Museum of Art, Bequest of Stephen C. Clark, 1960 (61.101.16)
- 作品名
- 《アマン=ジャン(エドモン・フランソワ・アマン=ジャンの肖像)》
- 作家
- ジョルジュ・スーラ(フランス、1859–1891)
- 制作年
- 1882–83年
- 素材・技法
- コンテ・クレヨン、ミシャレ紙
- サイズ
- 62.2 × 47.5 cm
- 所蔵
- メトロポリタン美術館(ニューヨーク)素描・版画部門
- クレジット
- Bequest of Stephen C. Clark, 1960(61.101.16)
- 画像
- The Met Open Access(CC0)/作品ページ(The Met)
点描の絵画で知られるスーラですが、この作品には絵具が使われていません。今日は「painting ではない名作」から、painting という言葉の輪郭を確かめます。スーラの生涯と作品については、ジョルジュ・スーラの解説記事で詳しく紹介しています。
美術館の解説文で読む
美術館の壁に掲げられる解説文(ウォールテキスト)の書き方にならって、この作品の解説を英語で書きました(Euphoric " " によるオリジナルの文章です)。まず英文を通して読み、そのあと訳で確認してください。
There is no paint1 in this portrait. Seurat drew his friend Edmond François Aman-Jean, also a painter, entirely in conté crayon2, a hard black crayon that catches on the raised grain of textured paper and skips over the hollows. By varying his pressure, he built the figure from tone rather than outline. The sitter’s profile emerges6 from a dark ground, and his white collar holds the brightest light in the picture3. The sheet4 is not a study for a painting but a finished work in its own right5. Shown at the Paris Salon of 1883, it was the first work Seurat exhibited publicly. Its flickering, granular surface anticipates the small, separate touches of color in his later paintings, such as Circus Sideshow (1887–88).
下線と番号は、このあとの「読み解き」1〜6に対応しています。
全訳を読む
訳:この肖像には、絵具が一切使われていません。スーラは、友人で同じく画家のエドモン・フランソワ・アマン=ジャンを、すべてコンテ・クレヨンで描きました。コンテ・クレヨンは硬い黒のクレヨンで、凹凸のある紙の盛り上がった部分に引っかかり、くぼみは飛び越えていきます。スーラは力の入れ具合を変えながら、輪郭線ではなく濃淡で人物を組み立てました。モデルの横顔は暗い地から浮かび上がり、白い襟が画面の中でいちばん明るい光を受けとめています。この一枚は絵画のための習作ではなく、それ自体で完結した作品です。1883年のパリのサロンに出品され、スーラが初めて公に発表した作品となりました。ちらちらと粒立つ表面は、《サーカスの客寄せ》(1887–88年)など、のちの絵画に見られる小さく分かれた色のタッチを予告しています。

同じ作家、同じ寄贈者による2点ですが、《アマン=ジャン》はメトロポリタン美術館の素描・版画部門(Drawings and Prints)、《サーカスの客寄せ》はヨーロッパ絵画部門(European Paintings)の所蔵です。美術館自身が、painting と drawing を「何で描かれているか」で分けて管理していることがわかります。
読み解き:なぜこの言い方なのか
解説文は、いきなり「絵具がない」と書き出しています。painting という語は paint(絵具)から来ているので、英語では原則として絵具を使っていなければ painting とは呼びません。どれほど濃密で、絵画のように見えても、コンテ・クレヨンで描かれたこの作品は drawing です。冒頭の一文は、読者が抱きそうな「これは絵画だろう」という思い込みを先回りして外す、解説文らしい書き出しです。
もう一つの注意点は portrait(肖像)です。日本語の「肖像画」には「画」が入っているため、portrait painting と言いたくなりますが、英語の portrait は描き方を問わない言葉です。絵具なら a painted portrait、素描なら a portrait drawing、写真なら a portrait photograph と言えます。
日本語の「描く」は一語ですが、英語は画材によって動詞が分かれます。
絵具なら paint、鉛筆・木炭・チョーク・クレヨン・ペンなどなら draw。
この作品について Seurat painted Aman-Jean. と言うと、事実と違う文になってしまいます。
画材を示す前置詞は in です。draw in pencil(鉛筆で描く)、draw in charcoal(木炭で描く)、paint in oils(油絵具で描く)。in の後ろに冠詞が付かないのは、画材を「素材」として捉えているからです。
一方 draw with a pencil のように with を使うと、手に持った「道具の1本」に焦点が移るので冠詞 a が付きます。解説文やラベルの文脈では、作品が「何でできているか」を言う in が基本です。
また、drew his friend のように draw + 人で「その人を描く」になります。draw a portrait of his friend と言う必要はありません。
この作品は drawing なのに、ここでは picture が使われています。
picture は絵・写真・画像を含む最も広い語で、in the picture は「画面の中で」という意味の決まった言い方です。
種類を問わない語なので、素描にも絵画にも写真にも使えます。
逆に、ここを in the painting とすると誤りになります。作品の種類を特定する語(painting, drawing, print, photograph)は、その作品の素材と合っている必要があるからです。迷ったら picture か、次に見る work を使うと安全です。
なお日常会話では take a picture が「写真を撮る」です。美術館で Can I take a picture? と聞けば「(作品の)写真を撮ってもいいですか」の意味になります。
短い解説文の中で、この作品は this portrait、the sheet、a finished work、the first work と呼び方を変えています。日本語の解説では「本作」を何度も繰り返せますが、英語の文章は同じ語の繰り返しを避けて言い換えるのが一般的です。読むときは「全部同じ作品を指している」と気づけるかどうかが、内容を追えるかどうかの分かれ目になります。
- sheet
- 一枚の紙。素描や版画など、紙の作品を指すときの美術館らしい言い方です。紙の作品全般は works on paper と呼ばれます。油彩画を the sheet とは言いません。
- work
- 作品を指す最も中立的な語。素材を問わず使えます。artwork も同じ意味ですが、解説文では work が多く使われます。piece はやや口語的ですが、展覧会の告知文や批評でも普通に使われます。
study は「習作」、つまり本番の作品のために、構図や人物の一部などを試しておく制作物です。
似た語と比べると、分類の軸がそれぞれ違うことがわかります。
軸が違うので、組み合わせることもできます。油絵具で描いた習作は an oil study、素描による習作は a preparatory drawing(下準備の素描)です。美術館の解説文で定番の言い方です。
では、なぜ解説文は「習作ではない」と断るのでしょうか。西洋の美術の伝統では、素描は油彩画を描く前の準備段階として扱われることが多くありました。スーラ自身も、大作《アニエールの水浴》の前にたくさんの素描や小さな油彩の習作を制作しています。
だからこそ、この素描がそれだけで完成した作品として描かれ、サロンに出品されたことは、わざわざ書く価値のある情報になります。
in its own right は「(何かの付属ではなく)それ自体として」。not A but B(A ではなく B)と組み合わせると、美術館の文章でよく見る「格上げ」の言い回しになります。
ちなみに日本語の「デッサン」はフランス語の dessin に由来する言葉で、英語では drawing と言います。人物モデルを見て描く授業は life drawing です。
解説文の動詞の時制に注目してください。Seurat drew …、he built … は過去形。一方 The sitter’s profile emerges …、his white collar holds … は現在形です。
作家の行為は140年以上前に終わった出来事なので過去形、横顔が暗がりから浮かび上がって見えるのは今この紙の上で起きていることなので現在形。
英語の解説文では、この使い分けが基本です。
The profile emerged from a dark ground. と過去形にすると、作品の描写ではなく物語の一場面のように読めてしまいます。
なお sitter は「肖像のモデルになった人」、ground は「地(背景の地色)」です。ground と background の違いは、第3回(光と影)と第4回(構図)で扱います。
使える型3つ
作品の種類を言い分ける、いちばん基本の形です。A, not B の語順で、正しい方を先に言います。
「誰が、何を、何で描いたか」を一文で言う形です。画材が絵具なら painted、それ以外なら drew。画材の前は in です。
画面のどこに何があるかを言うときの形です。素材に関係なく使えます。
練習問題
( )に入る語を選んでください。
- Seurat (drew / painted) Aman-Jean in conté crayon.
- Circus Sideshow is an oil (painting / drawing / picture).
- Excuse me, could you take a (painting / drawing / picture) of us?
模範解答を見る
- drew:コンテ・クレヨンは絵具ではないので draw。
- painting:油絵具で描かれているので oil painting。
- picture:「写真を撮る」は take a picture。
《サーカスの客寄せ》は油彩・カンヴァスの作品です。型2を使って、「スーラは《サーカスの客寄せ》を油絵具で描いた」という1文を英語で書いてください。
模範解答を見る
Seurat painted Circus Sideshow in oils.
カンヴァスまで入れるなら Seurat painted Circus Sideshow in oils on canvas. 絵具なので drew ではなく painted です。単数の in oil も正解です。
次の日本語を英語にしてください。
「この素描は習作ではなく、それ自体で完成した作品です。」
模範解答を見る
This drawing is not a study but a finished work in its own right.
not A but B と in its own right を組み合わせます。
別解:This drawing isn’t a study; it’s a finished work in its own right.(セミコロンで2つに分けた、少しくだけた形)
好きな作品を1点選び、それが painting か drawing か、何で描かれているかを英語で1〜2文書いてください。
解答例を見る
It’s a drawing, not a painting. The artist drew it in pencil on paper.
This is a painting. The artist painted it in oils on canvas.
答えは作品によって変わります。「型1で種類を言い、型2で画材を言う」の2文構成にすると、まとまった説明になります。
この回の言葉は、次にここで出てきます
この連載では、一度学んだ言葉を後の回でもう一度使います。第1回の言葉は、次の回で再登場します。
- EP02第2回 色を語るtonehue・tone・palette の使い分けの中で本格的に扱います
- EP03第3回 光と影emerges from a dark ground明暗法(chiaroscuro)を説明する決まり文句として
- EP04第4回 構図in the pictureforeground・background と組み合わせて画面の位置を言います
- EP05第5回 筆の跡と質感in + 画材painted in thick oils など、絵肌の説明へ
- EP06第6回 作品キャプションの読み方drawing / painting, sheet, studyラベルの素材欄(medium)と寸法欄(Sheet: …)で確認します
- EP07第7回 壁の解説文の型study, anticipates習作と完成作を並べた解説文の読み方として
- EP09第9回 作家のステートメントを読むportrait, sitterホイッスラーの肖像画を題材にした読解で
- EP15第15回 卒業課題It’s a drawing, not a painting.100語で語るときの1文目として
次回予告と目次
第2回 色を語るhue・tone・palette
ゴール:hue・tone・palette を使い分けて、作品の色づかいを1文で説明できるようになる。
画像:フィンセント・ファン・ゴッホ《糸杉のある麦畑》1889年 The Metropolitan Museum of Art, Purchase, The Annenberg Foundation Gift, 1993(1993.132)/Open Access(CC0)
全15回の一覧と、学んだ回のチェック表はアート英語カリキュラム 目次にあります。
全15回の目次を見る- 【徹底解説】ジョルジュ・スーラとは?点描で光を組み立てた新印象派の創始者の人生と作品を解説!
- アートの英単語31語|「表現」・構図・美学は英語で?例文つき辞典単語を引きたいときに
- 美術の専門用語を英語で|明暗法・図像学・来歴など31語の辞典
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