【徹底解説】建築家 山本理顕の人生と作品に迫る〜2024年プリツカー賞への軌跡〜

【徹底解説】建築家 山本理顕の人生と作品に迫る〜2024年プリツカー賞への軌跡〜
出典:Wikimedia Commons(Instituto Cervantes de Tokio)

こんにちは。ユアムーン 編集部です。

皆さんは山本理顕(やまもと りけん)という人物をご存知ですか?

山本理顕は日本の建築家です。工学院大学教授、横浜国立大学大学院教授などを経て、2024年3月6日の発表にてプリツカー賞受賞が決定しました。

丹下健三や磯崎新などの著名な建築家に並び、日本人9人目となるプリツカー賞を受賞した山本理顕は地域社会圏、コミュニティ、持続性と循環性など、人と地域、社会との繋がりにおける問題を未来を見据えながら建築で解決するというアプローチをとることで知られており、自身で「気配りの建築家」と位置付けています。

本記事ではそんな山本理顕の人生と作品についてご紹介します。

山本理顕について

基本情報

本名 山本理顕(Yamamoto Riken)
生年月日 1945年4月15日〜(78歳)
出身/国籍 中華民国/日本
学歴 東京藝術大学大学院 美術研究科建築専攻 修了
分野 建築
傾向 近代建築
師事した/影響を受けた人物 原広司に師事

経歴と作品

生い立ち

山本理顕は1945年4月15日は中国・北京に生まれ、神奈川県横浜市で育ちました。

1964年 関東学院中学校高等学校を卒業、1968年 日本大学理工学部建築学科を卒業。

1971年 東京藝術大学大学院美術研究科建築専攻を修了した後、東京大学生産技術研究所原広司研究室を経て1973年に山本理顕設計工場設立。独立しました。

独立後いくつかの個人宅の建築を経て、1987年に第39回日本建築学会賞を受賞します。

丘の上の風が運ぶ、キャリアの転機

『大崎市立岩出山中学校(1996)』

建築家としての転機となったのは1996年、大崎市立岩出山中学校のコンペでした。

コンペで選ばれた山本理顕が設計を担当し、これが日本建築学会東北支部からの1996年度東北建築賞作品賞を受賞します。

最も特徴的なのは、校舎と体育館および教科教室棟を仕分ける「風の翼」と呼ばれる曲面でしょう。

これは太陽光を反射して採光する働きをし、小高い丘という立地で発生する風を避ける役割も果たしていました。

町からは「従来の教育システムを改善していきたい」という要望から、日常生活空間と学習空間を分けることで双方の活動が自由で活発になることが狙われています。

これ以来、山本理顕は個人宅だけでなく公共施設のコンペに選ばれるようになり、キャリアの大きな転機となりました。

地域社会と教育施設の革新に応える

『埼玉県立大学(1998)』

1998年、『埼玉県立大学(1998)』の設計を担当します。

埼玉県立衛生短期大学を併設して設立された本大学は、「保健・医療・福祉の連帯と統合化」という教育理念の具現化を念頭に置いてデザインが進められました。

具体的には、「従来の看護学校ではなくて、高齢化が進む地域社会の中で今後、看護する人がどう働いていけるかを本気で考える施設が欲しい」という県からの要望があったといいます。

革新に積極的な提案に応えるため、山本理顕はいくつかのアイデアを形にしました。

一つ目は「街のような学習空間」です。

周囲が住宅街で高層の設計ができないことと、敷地面積が広いことから低層の棟と中庭を連続させ、まるで街の一部のような景観を作り出しています。

各学科の交流を促すため、それぞれの棟は街路でつながっており、屋上は芝生で緑化されています。

吹き抜けの通路もあり、学生の憩いの場や交流の場がふんだんに設けられています。

二つ目は「精緻な外観」です。

「医療福祉の統合」というコンセプトに合わせたガラス張りの洗練された外観は非常に人気が高く、映画やドラマ、コマーシャルのロケ地として多く利用されています。

大学としてではなく、見たことのある方も多いかもしれません。

三つ目は「サインデザインのこだわり」です。

広い敷地とたくさんの通路が行き交う設計は、利用者としての複雑さを生みます。

そのためシンプルで明快なサインデザインでサポートすることが欠かせません。

全部で9つある人型のアートワークは舟橋全二さん、サイン計画は廣村正彰さん、家具は近藤康夫さんなどが手がけ、それぞれが自分の居場所の目印になるだけでなく、交流の活性化にも繋がるように設けられました。

また、学生会館一階にはチャールズ・ロスによる「Spectrum 12」というアートワークが設けられています。

これは太陽光によって屋上通路の下に仕掛けられたプリズムが階下に虹を作るという仕組みになっており、人工物たる建築と自然現象が溶け合う風景が癒しや情操の育みをもたらします。

翌年にこの埼玉県立大学はグッドデザイン賞(金賞)を受賞、また2001年には日本芸術院賞を受賞します。

山本理顕とプログラム

ちなみに、『大崎市立岩出山中学校』『埼玉県立大学』の二つで山本理顕はプログラムという設計手法をとっています。

一般的な建築でも用いられる呼称・手法ですが、プログラムとは設計をする前に考慮されるクライアントの意向や立地などの条件で、これらの条件を満たす形で設計・デザインすることをプログラミング建築と言います。

山本理顕はこのプログラムを巧みに使って、クライアントの要件を高いクオリティで満たす建築を多く手がけています。

一方で、プログラミング建築の流行について

「シンボル性を担わないように建築をつくっていきたいと今、多くの建築家が思っているようです。(中略)でも建築をつくれば、ある程度の象徴性を担ってしまう、というのが私の意見です。どういうものを担うかは自覚的な方がいい。」

とも言っています。

顕著なのは『大崎市立岩出山中学校』の「風の翼」でしょうか。

丘の上に帆船のようにそびえる曲面の構造体は、いくつかの(実利的な)機能を持ってはいるもののやはり1番の役割は、地域社会に寄り添う中学校のシンボルとしての存在感でしょう。

モダニズム建築以降、公共施設も住宅も、街並みに溶け込むようなシンプルで洗練されたデザインが増えた印象がありますが、機能的であることと、シンボリックであることは山本理顕にとっては矛盾しないようです。

未来を“ひらく”大学づくり

『公立はこだて未来大学(2000)』

2000年、『公立はこだて未来大学(2000)』の設計を担当します。

北海道函館市にある道南唯一の公立大学で、「爆発的に進展をつづける情報社会のグローバル化に呼応しながら、システム情報科学を基軸にした人材の育成と研究の未来、そして地域の未来を拓くこと」を針路としています。

「スタジオ」とよばれる天井高20mに及ぶ箱型の大空間の中に研究室・教室ほかのすべての施設が収まっており、ガラスによって仕切られているため、雛壇状に配置された階段からパノラマのように函館の風景を眺めることができます。

あえて専門の部屋を作らず、家具や設備を自由に配置することができる設計で学生や教授の交流と自由な活動を後押しする狙いがあります。

翌年の2002年に第54回日本建築学会賞を受賞、2004年に公共建築賞最高賞を受賞します。

また、2005年の研究棟増設にも山本理顕設計工場が携わっており、二等辺三角形のモチーフが並んだ格子状の仕切りが特徴的です。

次世代の創り手をつくる。そしてプリツカー賞へ

『名古屋造形大学(2022)』

2018年から2021年名古屋造形大学学長を務め、その後、2022年に東京芸術大学客員教授に就任します。

2022年に『名古屋造形大学(2022)』を手がけます。

小牧市から名古屋市へキャンパスを移転することになり、それに伴って設計を山本理顕が担当することになりました。

アーティスト、デザイナー、アニメーション作家などを志望する学生が多く集まる『次の時代を切り拓く学生が集う「知と創造の森」』というコンセプトの美術大学で、

4階部分には全学生が作業できる「スタジオ」という大空間があり、学年や分野を横断した交流ができるスペースになっています。

そして2024年、プリツカー賞の受賞者として選ばれます。

社会情勢の混乱、環境問題や多様性への問題意識の活性化、コロナ禍を経たコミュニケーションの変化など、以前から山本理顕が取り組んでいた地域社会圏、持続性と循環性といった問題への意識が高まったタイミングでの受賞でした。

まとめ

いかがだったでしょうか。

プリツカー賞受賞も相まって、2024年現在最もホットな建築家ではないでしょうか。

独立までに手がけた個人住宅作品で培われたであろう、ひとつの建物が、あるいはその建物を利用する人々がどのように地域社会とコミュニケーションをとっていくかという山本理顕のアプローチは現代の情勢や消費者の心情を先取りしたようなものに感じます。

しかし山本理顕は問題意識を先取りしたわけではないとも思えます。

なぜならば、地域社会圏に代表される山本理顕が取り組んできた諸問題とそれへのアプローチは、建築史、ともすれば人類史においても普遍的なものだからです。

そして、山本理顕はそれらの問題は人と人が交わる場所、建築によって解決できるかもしれない、と長い年月をかけて投げかけているのではないかと思います。



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