「美しき逃避行」を年間テーマとする2009年最後のウィンドウを飾るのは、デザイナー、吉岡徳仁の手による「吐息」。息を吹きかけられて柔らかく揺れるのは、エルメスの象徴ともいえるスカーフです。
エルメスのスカーフのもつ美しい柄、豊かな色彩、シルクの風合などの特徴を余すところなく見せるために導き出された究極のシンプルな表現。同時に、吐息に吹かれてはらりと舞うスカーフの動きは、夢のような美しさで私たちを別世界へと引き込みます。
そして、このウィンドウのもう一人の主役が女優、木村多江。彼女が生み出す優しくて透明感あふれる「吐息」は、まるでそこだけ別の時間が流れているかのような錯覚を引き起こします。スカーフが描く美しい世界の一部であるかのような吐息。その完璧なまでの一体化は、一種の神々しさを帯びています。
吐息に揺れるスカーフは、銀座の街を行き交う人々にしばしその喧騒を忘れさせ、「美しき逃避行」へと誘います。立ち止まったウィンドウに広がる幻想的な世界は、冬の寒さに舞い込む春風のように、新しい何かの始まりを告げているのかもしれません。
アーティストプロフィール
吉岡徳仁 Tokujin Yoshioka
1967年、佐賀県生まれ。2000年吉岡徳仁デザイン事務所を設立。2001年に発表された紙の椅子「Honey-pop」が世界の注目を浴びる。プロダクト、店舗、空間デザイン、インスタレーションなど、その活動は多岐に渡り、数々の作品が、MoMA、ポンピドゥーセンターなどの世界の主要美術館で永久所蔵品として選ばれている。その活動はデザインの領域を超え、アートとしても世界で高く評価されている。
2009.11.19~2010.1.19と約10年前に展示されたこの作品。
今尚、その斬新な演出は我々の心に残り続けています。
空間デザインをする上で大きな勉強となりました。