【特集】ヴィトール・スキエティ/Vitor Schietti 生命の力強さと長時間露光撮影

ヴィトール・スキエティ (Vitor Schietti)はブラジル出身で、近年海外で注目を集めている写真家です。

特に、長時間露光を巧みに操ったシリーズである「インパーマネント・スカルプチャー/Impermanent sculpture」が海外メディアで多く取り上げられています。日本語に訳すと「無常の彫刻」、つまり、同じ状態でとどまらない変化し続ける彫刻と言えるかと思います。制作の過程において絶妙な光のバランスを要求されるこれら作品群は、夕暮れ時の暗すぎもなく明るすぎもない一瞬の時間を使い撮影されており、完成された一つ一つの作品から生命の力強さや時間の儚さを感じることができます。

ヴィトールがこの作品を作り上げるまでにどのような軌跡を辿ってきたのか、これからどのような作品を想像していくのか、ヴィトールの作品と人物像を見ていきましょう。

ヴィトール・シエッティ (Vitor Schietti) について簡単に紹介

本名 ヴィトール・スキエティ (Vitor Schietti)
生年月日 1986年7月7日
国籍/出身 ブラジル(スペイン在住)
学歴 ・ブラジリア大学
・ニューヨークフィルムアカデミーロサンゼルス校
分野 写真/映像
公式サイト https://www.schiettiphotography.com/

受賞歴

・2021 Winner (BRA) Grande Prêmio Fotografe, First place on category Nature.

・2016. Winner. (USA) Photo District News Annual Award on category “Personal”.

・2015-2021. Mentor. (BRA) Panelist at four editions of “Ossobuco” (event inspired by TED talks, currently on podcast format).

展覧会

2022. Collective. Barcelona (ESP). “Tick of the Clock”, Gallery Potassi K19

・2020. Collective. Barcelona (ESP) Catalonia, the two faces. Filippo Ioco Studio&Gallery

・2019. Individual. Brasília (BRA) “Dreamscape”, Galeria XXX Arte Contemporânea.

・2019 & 2021 Collective. Barcelona (ESP) Art Lover Ground #13 & #14. Espronceda Inst.Art&Culture and NauBostik.

カメラとの出合い

ヴィトールとカメラとの出会い、写真家としてのキャリアの始まりは大学在学中、彼がフランス語を学びに4か月間カナダへ訪れていた時のことです。ヴィトールはブラジル屈指の教育機関であるブラジリア大学 (University of Brasilia)で広告関連の専攻について学んでいました。

ヴィトールはフランス滞在時に初めてデジタル一眼レフカメラを購入し、街中の写真(ストリートフォトグラフィー)を撮影していました。写真を撮影することで自分のアイデンティティを明確にしようと考えていたと話しています。

また、同時にヴィトールはブラジルのフォトスタジオのアシスタントとしても働いており、広告関連の撮影の仕事をしていました。こうした大学時代の経験がヴィトールを本格的にフォトグラファーとしてのキャリアへ誘います。

写真だけでなく映像にも興味のあったヴィトールは、大学卒業後にニューヨークフィルムアカデミーに留学します。ニューヨークフィルムアカデミーは映像を学べる学校として知られており、世界的に評価されている教育機関です。6か月間ロサンゼルスに滞在し、たびたび旅行をしながら2か月間の集中講座で映像制作について学びました。その後、映画製作に携わることを考えますが、最終的には写真制作に戻ります。

インパーマネント・スカルプチャーができるまで

インパーマネント・スカルプチャー(Impermanent sculpture)のアイディア、シリーズは一夜にして生まれたものではありません。

ヴィトールはキャリアの最初期から長時間露光という撮影テクニックを積極的に活用しており、研究を重ねていました。また、徐々に長時間露光を使う写真家としての知名度が広がり、写真講座を開くなどして自身の写真の技術を様々な人に教える活動も行っていました。

※長時間露光とは、カメラのシャッタースピードを10秒や20秒という非常に長い時間カメラのセンサーに光を取り込む撮影手法を指します。

こうした、クライアントワークや自主制作、写真講座の開催など、長時間露光に関する技法を深化させていく中で、エリック・ステラ―(Erik Stellar)というアーティスト/写真家に出会います。彼は、ライトドローイングやインスタレーション、パフォーマンスアート、機械式かつ電気的な彫刻など、様々な光に関連した作品を作ることで知られています。

ヴィトールはエリック・ステラ―の作品を自分のライトペインティングの事例として取り入れ、「無意識を撮影すること(Photographing the Unconscious)」として紹介しました。

しばらくの間、ステラ―の作品等の長時間露光やライトペインティングなどのリサーチを続け、よりアイディアを深化させていきます。そしてある日突然、水泳中に「木」と長時間露光により作り出される「輝き」を組み合わせるというアイディアにたどり着きました。

早速テストに取り掛かり、初めは水の上で花火を使い長時間露光の撮影に挑戦し、非常に美しい写真を撮影することに成功しました。(初めは火事にならないよう水の上で実験したそうです。)

そして、次に本命の「木」での実験を行い、想定通りの写真を撮影することに成功しました。ヴィトールはこの時、最高に美しいイメージを撮影することができたと話しています。

制作過程について

インパーマネント・スカルプチャー(Impermanent sculpture)を制作するためには、非常に骨の折れるプロセスを経る必要があります。この作品の最重要要素とも言えるのが時間で、夕方の暗すぎもなく明るすぎもない絶妙なわずかな時間で撮影を行う必要があります。

また、どの程度カメラのセンサーに光を取り込むか、絶妙に調節する必要もあります。通常のISOや絞り値などの設定の他にNDフィルターを取り付けるなど、制作の過程において光のバランスをコントロールするために一切の妥協はありません。

さらに、ヴィトールはこの作品を作るにあたり、複数枚の写真を組み合わせて一枚の作品を作り出します。各写真は、最低でも5秒程度、10秒以上のシャッタースピードを設定をすることもあります。屋外の時間帯により撮影条件が左右される環境であることに加え、長時間露光という自分の意図した瞬間を撮影することが難しい技法を活用し、その難易度の高さは想像に難くありません。

 

インパーマネント・スカルプチャー(Impermanent sculpture)の光は、前述の通り花火を活用することで生み出されています。ヴィトール本人が木に登り、時には水に入り、カメラに映し出される光の造形を作り出します。ドローンを活用したこともあるそうですが、それはコントロールが更に難しくなることからあまりうまくいかなかったようです。

ヴィトールは現在スペインに在住しており、規制の関係からブラジルでやっていたような大規模なインパーマネント・スカルプチャーを作ることは難しくなっていますが、それを逆手にとり新しいテクニックを取り入れ制作を続けています。例えば、この作品はケーキなどの装飾として使用される花火を用いて制作された作品で、ステンシル型を用いて制作されています。

これらシリーズ、インパーマネント・スカルプチャーは海外メディアで高い反響を受けています。DesignboomやThis is Colossalといったアート&デザイン関連メディアでその高い芸術性が評価されており、今注目の写真家と言えるでしょう。

 


日本の盆栽から着想を受けた作品

実はヴィトールは、今回のインタビューを機に盆栽をモチーフとした作品を制作しました。バルセロナの盆栽店と協力し、9種類の盆栽を用いたインパーマネント・スカルプチャーを制作しています。盆栽そのものを見たことがある人は多いかと思いますが、このように暗闇の中で煌びやかに輝く盆栽は新鮮で、私たちに新しい感覚を持たせてくれる作品なのではないかと思います。

プロジェクトの豊富さ

Extended Moments

ヴィトールについて検索すると、インパーマネント・スカルプチャー(Impermanent sculpture)が海外メディアで大きく取り上げられていますが、他にも様々な素晴らしいプロジェクトがあります。例えば、「Extended Moments」というプロジェクトでは、「多重露光」という1コマの中に2枚以上の複数枚の画像を重ねて写し込む(露光する)写真技法を用いて制作されています。

Maya rainbow

「Maya rainbow」というプロジェクトでは、長時間露光、複数のカラーフィルターを用いた光源、水、人の4要素を組み合わせ制作しています。人に水をかけることでできる「水しぶき」にストロボの強い光を当て、12秒のシャッタースピードで撮影しています。非常に幻想的な画面がそこに映し出されています。

こうした様々なプロジェクトを行う背景には、ヴィトール自身が様々なアーティストから積極的に学んでいこうとする姿勢があります。新しいものを取り入れていくことは、言葉にすれば簡単なようですが実行に移すのは容易ではありません。進化を追求する彼の力は私たち社会を前に進めるための原動力になりうるものです。

日本のクリエイターについて

ヴィトールは、日本の写真家や映画監督に影響を受けたこともあると話します。例えば、彼の自主制作プロジェクトの一つである「Silence(沈黙)」は、「七人の侍」等の著名な映画を制作したことで知られる映画監督、黒澤明から影響を受けています。

また、彼の大学時代の卒業制作で「夢」をテーマにしたコラージュ作品シリーズを制作しました。このシリーズも黒澤明からインスピレーションを受けていると話しています。

他にも、佐藤時啓、山中信夫、杉本博司など、様々な日本人写真家、アーティストに注目しており、将来的には日本で何かプロジェクトを行ってみたいと話しています。

クライアントワークと自主制作の違いや働き方など

ヴィトールはインパーマネント・スカルプチャーのような自主制作以外にも様々なクライアントワークをこなしています。映像や広告向けの写真、時にはヘリコプターから撮影するなど多岐にわたります。最近は動画制作の需要が高まっていることから、動画の撮影依頼が中心となっています。

クライアントワークと自主制作を進める中で、それぞれに使われる技術や考え方、プロセスは互いに影響しあうこともあるようです。

例えば、ファッション関連の撮影の際は、長時間露光の特徴でもある被写体がぶれることを逆に利用し美しいアートワークを制作します。

また、クライアントワークから自主制作に影響を与えることもあったようです。例えば、広告写真スタジオで学んだ編集技術は「From the Unreal to the Real(非現実から現実へ)」というプロジェクトで生かされています。

今後の展望と編集部の感想

いかがでしたでしょうか。長時間露光撮影を巧みに操るブラジル出身の写真家「ヴィトール・シエッティ」を紹介しました。最近特に注目を集めたインパーマネント・スカルプチャー(Impermanent sculpture)はもちろん、「Extended Movement」や「Maya Rainbow」など、様々な美しい作品を創り出していますね。

彼の作品からは、生命力や動き、静寂さなど、様々な感覚が呼び起されます。ディテールを見ていくと、一見ただの一枚の写真に見えても、複数枚の写真が巧みに組み合わされており、写真を超えた新しい何かが創造されていることがわかります。

ヴィトールは今後、過去の作品にとらわれることなく積極的に新しいプロジェクトを立ち上げていきたいと話しています。また、彼は動物保護に関する活動もしており、動物のポートレートの撮影もしていきたいと話しています。

今後の動向に期待大ですね!



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