こんにちは、ユアムーン株式会社 編集部です!
皆さんはウェルディという作曲家をご存知ですか?
ウェルディは19世紀を舞台に活躍した作曲家で、数多くの名作オペラを生み出しイタリア・オペラに変革をもたらした功績から「オペラ王」の異名を持つ、音楽史においても重要な人物です。
この記事ではウェルディの生涯と彼が遺した作品についてご紹介します!
目次
ジュゼッペ・ウェルディとは?
基本情報
本名 | ジュゼッペ・フォルトゥニーノ・フランチェスコ・ヴェルディ(Giuseppe Fortunino Francesco Verdi) |
国籍/出身 | フランス |
生年月日 | 1813年10月10日~1901年1月27日 |
分野/芸術動向 | ロマン派音楽 |
経歴と作品
幼少期から音楽に興味を持っていたヴェルディは教会のオルガン弾きであったバイストロッキに教えを乞い、瞬く間にその才能を開花させました。その腕前は評判を呼び、父の取引相手であった音楽好きの商人アントーニオ・バレッツィの後押しを受けたこともあり、若干10歳にして上級学校と音楽学校への入学を果たしたのです。
その後、バレッツィの援助も受けながら当時の音楽の中心地であったミラノへの留学を目指し、音楽院への入学を試みましたが不合格となってしまい、その代わりに音楽院に勤める教師の一人であったヴィンチェンツォ・ラヴィーニャから指導を受け始めます。
ラヴィーニャは早くにヴェルディの才能を見抜いた人物で、作曲の指導だけでなく数々の演劇を鑑賞させたりスカラ座のリハーサルを見学させたりと、ヴェルディに目をかけていたことが分かるエピソードが数多く残っています。
その後のヴェルディは22歳になった年にミラノから故郷であるブッセートへ戻り、かねてから親密な関係であったバレッツィの長女マルゲリータと結婚します。ブッセートの楽団の指揮者兼音楽監督を務めながらも作曲家としての活動も諦めておらず、25歳に再びミラノへと居を移しその翌年に処女作であるオペラ「オベルト」を書き上げ、オペラ作家としての第一歩を踏み出したのです。
以下ではヴェルディの作品を年代ごとに紹介していきます。
初期
ヴェルディは活動初期から著名な作品を残している作家であり、現代でも再演されている作品の中にも初期に作られたものが含まれています。
「オベルト」
「サン・ボニファーチョ伯爵オベルト」とも呼ばれるこの作品は、先にも述べたようにヴェルディの処女作となるオペラです。実は「オベルト」以前からも作曲はしていた様なのですが、ヴェルディ自身の手によって楽譜ごと捨てられてしまい作品として残っている中で最も古い作品が「オベルト」となります。
伯爵であるオベルトとその娘レオノーラが、政敵でありかつてレオノーラを騙し裏切った男リッカルドに復讐をするためにリッカルドの結婚式が行われている街へ向かうところから物語は始まります。
レオノーラがリッカルドへの恨みと捨てきれない恋心の間で葛藤するシーンやリッカルドの花嫁になるはずであった公女クニーツァがリッカルドをレオノーラのもとに向かわせながらも寂しさを歌うシーンなど単純な復讐劇と括ることの出来ない重厚な人間模様が描かれている作品であり、悲劇的なシーンを華麗に彩る楽曲が魅力のひとつとなっている作品でもあります。
処女作ということもあり、ヴェルディの作品の中では旋律の拙さや深みのなさなどを感じるという評価もありますが、それらを差し引いても非常に興味深い作品であると言えると考えています。
最近では2007年にスペインで再演された際のDVDもあるため、興味のある方は是非一度ご覧になってみて下さい!
「ナブッコ」
現代に多くの作品を残しているオペラ王ヴェルディの作家としての歩みは、実は順風満帆とはとても言い難いものでした。
彼はミラノへ戻ってから3年間の間に妻子を全て病で失っています。
続けざまに幼い娘と息子、妻のマルゲリータまでもを喪い、失意のうちに一時は音楽から離れようとしていたヴェルディでしたが、「ナブッコ」の原作に登場する「行け、わが思いよ、黄金の翼に乗って (Va, pensiero, sull’ali dorate)」という言葉をきっかけに再び音楽への意欲を取り戻し、ヴェルディの代名詞のひとつともなっているオペラ「ナブッコ」を書き上げたのです。
「ナブッコ」は古代のバビロニアを舞台としており、バビロニア国王であるナブッコと王女アビガイッレがエルサレムを支配するための戦争を始めようとするところから始まります。
エルサレムの王の甥であるイズマエーレは人質であるナブッコの娘フェネーナと禁断の恋に落ちてしまったことで、バビロニア軍に対抗するためにフェネーナを傷付けることが出来ず敗北してしまいます。
ここだけ聞くと恋に生きる若者の話かのように思えますが、この後アビガイッレの出生の秘密やバビロニアの神官たちの暗躍、アビガイッレと対立したナブッコによる協力などによってバビロニアとエルサレムを巻き込み、神々の奇蹟などを含んだ壮大なストーリーが描かれていきます。
「ナブッコ」の中でも特に有名な楽曲である合唱曲「行け、我が想いよ、金色の翼に乗って」は今日のイタリア国民のとっても第二の国歌のような立ち位置にあるとされる意見もあるほどで、ヴェルディの葬儀の際に自然と群衆が歌ったというエピソードもあります。
柔らかなハーモニーと華やかなメロディによって構成された、祖国への思いをひたむきに歌う美しい楽曲ですので、どうぞ一度聞いてみてください。
中期
彼の作曲家としてのキャリアの中に「ガレー船の年月」と呼ばれる多作の時期があります。ここではその「ガレー船の年月」を含む期間の作品をいくつか紹介します。
「アッティラ」
「フン族の王アッティラ」という戯曲を基とした今作ですが、台本を依頼した作者が台本を書きかけにしたままスペインへ旅行、後に移住してしまったりヴェルディ自身もリウマチを患ったりと数々のトラブルに見舞われ、完成までに長くかかった作品のひとつであるとされています。
そんな苦労の甲斐あってか、「アッティラ」は初演から高い評価を受け、長らく人気のオペラ作品として上演され続けてきました。
「アッティラ」はフン族の王であるアッティラが悲劇的な最期を迎えるまでの物語です。
アッティラを中心として、アッティラによって侵略を受けた土地の領主の娘オダベッラと彼女の恋人であるフォレスト、アッティラに恨みを抱くローマの将軍エツィオたちによる複雑な人間模様や随所に挟まれる感情の込められた楽曲たちなどから成る作品で、最後までどんな結末が待っているのか分からない衝撃の展開の連続となっています。
個人的にお勧めしたいのは劇中でアッティラへの復讐を誓うオダベッラが祖国への愛を高らかに歌う「聖なる無限の祖国への愛よ」という曲です。力強い高音と華やかな旋律から成る壮麗なアリアで、彼女の気高い在り方を感じることが出来るのではないかと思っています。
「リゴレット」
今作はヴェルディ中期の傑作と呼ばれており、公開に当たって特に多くの難関があった作品でもあります。元となった作品の登場人物の外見や言動に対して当時の西洋諸国では賛否両論が巻き起っており、一度完成しかけた作品が上演禁止の憂き目にあったという記録も残っています。ヴェルディは原作の大きな改変を嫌がり、舞台となる場所や時代を変更することで登場人物のキャラクター性を保ちながら公開することに成功しました。
タイトルにもなっている「リゴレット」は作中に登場する道化師の名前で、彼と彼の美しい娘ジルダ、ジルダに一目ぼれした好色な公爵を中心に物語は紡がれていきます。
公爵に恋をしたジルダと、公爵の悪評を知るが故にその恋を引き裂こうとするリゴレットの親子はすれ違い、最後は公爵の身代わりになることを決めたジルダをリゴレットが殺してしまうという悲しい結末を迎えます。
「リゴレット」は多くのアリアが含まれている作品ですが、その魅力は重奏にあるとされています。
作中では同時に複数の人物がそれぞれの心情を歌い上げるシーンがあり、これはオペラでしか表現できないだろうと言われています。
中でも、「美しい愛らしい娘よ」という4重奏では、酒場の娘に言い寄る公爵とそれに対してまんざらでもない酒場の娘、その光景を目撃して嘆き悲しむジルダと改めて公爵への復讐を誓うリゴレットのそれぞれが歌い上げる旋律によって重厚なハーモニーが生み出されています。
晩年
晩年のヴェルディは過労やストレスによる体調不良やライバルたちの死去などに苦しみながらも、数多くの名作を遺しています。
「椿姫」
ヴェルディの特長である、悲劇でありながらも明るさ・華やかさ・力強さを失わない楽曲たちから成るヴェルディの代表作とされることも多い、世界的にも有名な作品です。
高級娼婦である主人公のヴィオレッタは、舞踏会でアルフレードという貴族の青年と出会います。アルフレードは1年前からヴィオレッタに恋をしていることや娼婦としての生活をやめて欲しいことを切に訴え、ヴィオレッタはアルフレードに抱いた淡い恋心と現実との間で揺れ動きます。
その後、豪奢な生活を捨ててアルフレードと生きることを決めたヴィオレッタとアルフレードは、郊外で穏やかな生活を送っていました。
しかし、アルフレードの父ジェルモンが「アルフレードの妹の縁談のために」とヴィオレッタに願った為、彼女はアルフレードに「元のパトロンの元へ帰る」と嘘を吐いて彼との生活に終止符を打ちました。
しかし、ヴィオレッタに裏切られたと勘違いしたアルフレードはヴィオレッタを追いかけ、彼女を酷く侮辱してしまいます。
その後、ジェルマンがヴィオレッタとの約束をアルフレードに教えたことで誤解は解けたのですが、その時にはヴィオレッタは病に侵されその命を終えかけていたのでした。
最後、死の間際で誤解の溶けたアルフレードと再会することの叶ったヴィオレッタは、アルフレードやジェルモンに見守られながら眠りにつきました。
演出家によっては最後のシーンはヴィオレッタの幻覚で、彼女はひとりで寂しくなくなったのだとする場合もあるようですが、個人的にはアルフレードが間に合った場合の方が救いがあるのではないかと思っています。
「アイーダ」
「アイーダ」というタイトルは知らなくとも、劇中に登場する「凱旋行進曲」は聞き覚えがある、という方もいるかもしれません。
「凱旋行進曲」はサッカーの試合や映画などでも用いられており、知らず知らずのうちに私達の生活に根付いている楽曲と言っても過言ではないかもしれません!
アイーダトランペットと名付けられたファンファーレ用のトランペットによって壮大で華やかな異国情緒あふれる雰囲気が表現されており、聞くだけでエジプトの空気を感じることが出来るような活き活きとした楽曲です。
「アイーダ」はファラオ時代のエジプトとエチオピアを舞台に、エチオピアの王女アイーダとエジプトの将軍ラダメスの禁断の恋を中心として、ラダメスに恋をしているエジプトの王女アムネリスやエジプトへの復讐を誓うアイーダの父アモナスロなど、様々な人々が描かれた物語となっています。
この部分だけだと先に紹介した「ナブッコ」と似通っているように見えるかもしれませんが、「ナブッコ」とは異なり「アイーダ」の結末は悲劇となっています。
ラダメスは戦争で活躍したことへの褒美として王女アムネリスとの結婚を命じられますが、アイーダへの恋心からアイーダと共に全てを捨ててエジプトから逃げだそうとします。
しかし、それをエチオピア国王アモナスロに利用され、エジプトへの裏切り行為とみなされ死罪を告げられてしまいます。
地下で生き埋めの刑に合うラダメスのもとに逃げたはずのアイーダが現れ、2人は愛を誓いながら静かに息を引き取っていく、という悲しいお話となっています。
他の作品
ヴェルディの作品の中には、いくつかシェイクスピアの戯曲が元となっているものがあります。
「マクベス」
ヴェルディの「マクベス」は作曲自体は中期に行われたのですが、作曲から18年後の1865年に大幅な改訂が成され現在では改訂版の方が主流となっています。
1827年に初演した際は成功したかに思われたのですが、その後それほど経たずして多くの批判を集めることとなり、「真の駄作」とまで評されるようになっていしまいました。
その後、パリで再上演する際にバレエが追加されたり一部のアリアが変更されたりなどの大幅な改訂を行いましたが、成功とは言い難い結果に終わったとされています。
当時多くのイタリア人の風潮として、ヴェルディの作品に描かれている愛国心/愛郷心の表現をリソルジメント運動や、それに伴うVIVA VERDI(当時のサルディーニャ国王で会ったヴィットーリオ エマヌエーレをイタリア国王にしようとする運動)と結び付けていたらしく、「マクベス」で描かれているマクベス夫妻の野望と破滅までの物語がそれらとそぐわなかったことが不評の原因であったのかもしれない、という意見も残されています。
ストーリーの大筋はシェイクスピアのものと相違なく、魔女と出会い予言を受けたことで権力に飲まれ、国王や友人までもを手に掛けてしまい内外の重圧から狂気の中で最期を迎えるマクベス夫妻の顛末が描かれています。
「オテロ」
ヴェルディの集大成と評される作品で、完成までに実に7年の月日を費やしたとされています。
物語はキプロスを舞台に、総統であるオテロとその妻デスデモーナ、副官のカッシオと旗手のイヤーゴを中心として紡がれていきます。
イヤーゴの話術によってオテロは妻のデスデモーナがカッシオと浮気をしていると勘違いして嫉妬の余り、自身の手で妻を殺してしまいます。
最後に、真実を知ったオテロは自責の念から自死を選び妻の遺体に最期のキスを求めて息絶えるシーンで終幕となります。
ヴェルディは、物語の中で悪役にあたるヤーゴに心惹かれていたらしく作曲中は今作をヤーゴと呼んでいたという記録もあるそうです。
「オセロ」の中でも有名な言葉と言えば「お気をつけ下さい、将軍、嫉妬というものに。 それは緑色の目をした怪物で、ひとの心をなぶりものにして、餌食にするのです。」でしょうか。
日本語訳版に登場するこの表現は「オセロ」を読んだことが無いけれど聞いたことがある、という方もいらっしゃるかもしれません。
これは悪役であるヤーゴの台詞なのですが、彼自身もまた嫉妬に突き動かされたひとりなのかもしれません。
まとめ
今回はオペラ王と呼ばれた作曲家、ヴェルディについて紹介しました。
ヴェルディが遺した数多くの作品もさることながら、彼自身の生涯も非常に興味深く様々なエピソードを持つ魅力的な人物です。
もしこれを機にヴェルディや彼の作品に興味を持っていただけたのであれば幸いです。
「オベルト」
歌劇「オベルト」ビルバオ・オペラ2007年
記事中にもある比較的最近上演された「オベルト」のライブ映像です。
有名歌手も多く出演しており、見ごたえのある作品となっています。
「オセロー」
日本語版の「オセロ」の書籍になります。
記事でも紹介した台詞や内容に興味を持っていただけたのであれば、読むことをお勧めします。