【特集】リーロイ・ニュー/Leeroy New 今注目のフィリピンの現代アーティスト

リーロイ・ニューは、造形芸術、映像、ファッションなど、様々なエッセンスを取り入れて作品を制作するフィリピン出身の現代アーティストです。その活動の幅は非常に広く、ウェアラブルな作品から空間を大規模に活用したインスタレーションまで、多種多様な作品を創り出しています。

芸術をはじめ、経済、政治、ロジスティクスなど、様々な社会分野で世界の中心となりつつある東南アジア。その中でも非常に早いスピードで発展、変化し続けるフィリピンで活動する新進気鋭の現代アーティスト、リーロイ・ニューの作品と人物像に迫ります。

リーロイ・ニューについて簡単に紹介

基本情報

本名 リーロイ・ニュー(Leeroy New)
国籍/出身 ジェネラル・サントス(または、ヘネラル・サントス)
生年月日 1986年
分野/芸術動向 現代アート
学歴/出身大学など
  • フィリピン芸術高校(Philippine High School for the Arts)
  • フィリピン大学芸術学部(The College of Fine Arts at the University of the Philippines)
公式サイト/関連サイト 公式サイト:http://leeroynew.com/

Instagram:https://www.instagram.com/newleeroy/

受賞歴

・2020:Selected Artist for the 2020 Black Rock City Honoraria, Art Installation grant for Burning Man 2020 Recipient of the British Council Connections Through Culture SEA Grant
・2019:Curatorial Committee, Pasig River Art for Urban Change Project Organizing Committee, Escolta Block Festival
・2018:Head Artist-Designer, BAGANI TV show, フィリピン
・2017:Artist in Residence, Tua-Tiu-Tiann International Festival of Arts, 台北, 台湾
・2015:Recipient of the Asian Cultural Council (ACC) Artist Residency Grant, ニューヨーク

個展

2020:Dressing for The Edge of The World, The Drawing Room Gallery, マカティ, フィリピン
・2019:Aliens of Manila: New York colony, Pinto International, ニューヨーク
・2019:Aliens of Manila: Pulo Project, The Lab at Please Do Not Enter, ロサンゼルス
・2018:Exposition Hors Les Murs (Residency Exhibit), MAPRAA, リヨン, フランス
・2016:Partake Harder, Mo Space, The Fort Taguig

グループ展(2022)

・Dubai Expo 2020, Production Designer
・Hawaii Triennial 2022, ハワイ, アメリカ
・Sydney Biennale 2022, シドニー, オーストラリア
・Somerset House, ロンドン, イングランド, 2022
・Melbourne Rising 2022, メルボルン, オーストラリア, Exhibiting Artist
・Artist in Residence, 福岡アジア美術館 (FAAM)

ジェネラル・サントスで過ごした幼少期

リーロイの地元であるジェネラル・サントスはフィリピン南部のミンダナオ島に位置する都市で、漁業が町の一大産業となっています。1986年に生まれたリーロイは幼少期から絵を描くことが好きで、クリエイティブな子供でした。

当時はまだインターネットがなく、町にも現代アートはおろか芸術に触れる機会も少なかったといいます。そんなリーロイにとってアートへの入り口となったのはファンンタジーやホラー映画や「マジック:ザ・ギャザリング」のようなトレーディングカードゲームだったそうです。

こういったメディアからインスピレーションを得て、リーロイは自分の世界を紙の上に描いていたといいます。また、CGが主流になる前の時代ということもあり、映画のメイキング映像を見たリーロイは空想の世界を自ら創り出せることに大きな可能性を感じ、立体的表現に興味を持ち始めました。

リーロイの両親も彼の興味に対して理解を持っていたこともあり、順当に高校、大学と美術を学んでいきます。

仲間と学び合った大学時代

身に着けることができるウェアラブル・アートなものから大規模なインスタレーションまで、多彩な作品をつくるリーロイの原点は、大学時代に築かれたといえます。フィリピン芸術高校を卒業したリーロイは、フィリピン大学美術学部に入学して立体造形を学びました。そのとき、彼は演劇やダンスなどのパフォーマンス芸術を学んでいる仲間とともに作り上げる発表会に向けて、セットやコスチュームを作りました。「その経験を通して、立体造形で身に着けた技術を人体に適応することを学び、空間を動くためのスペースとして意識するようになった」とリーロイは話しています。

大学時代に紹介したもらった海外のアーティストからも影響を受けたそうです。特に、アレキサンダーマックイーン(Alexander McQueen)のファッションデザイナーとして有名なフセイン・チャラヤン(Hussein Chalayan)がデザインする型破りでSF的なファッションに強い感銘を受けたと言います。

こうした様々な芸術に触れる機会や表現の可能性を知ったことにより、リーロイは多彩な作品を作っていくことになります。

廃棄物から見つけた解放のカギ

大学時代にもう一つ、リーロイの今の作品に大きな影響を与えた発見がありました。それは、「廃棄物」という素材です。路上に捨てられたペットボトルから作られた宇宙服のような不思議なファッションは、環境問題への抗議のメッセージだと思うかもしれません。しかし、その根底にあるのは、欧米の芸術スタイルからの脱却であり、フィリピン独自の芸術表現を目指す探求心です。

スペインに300年程、アメリカに50年程統治されたフィリピンは、第二次世界大戦後に国家としての独立は達成したものの、アートシーンにおける欧米の影響は現在も色濃く残っています。例えば、芸術教育は主に欧米の芸術教育スタイルが中心となってる他、絵画やギャラリーなど、欧米スタイルのアートが「アート」として受け入れられています。

大学で私たちはいつも欧米のスタイルに囚われず、フィリピン人ならではの表現どう作っていくか」リーロイは学生時代からこのテーマに対して取り組み続けてきています。

その中で、リーロイが生み出した答えは、素材を芸術専門店で買わず、大きな市場を訪れそこで作品を作るために使えそうな新しい素材を探すことでした。素材から発想を広げてどのような造形を作れるかを模索し、時にはキロ単位で格安のおもちゃの部品などの素材を購入して作品を作ったと話しています。

「在学中は素材を手に入れるのがいつも課題でしたが、廃棄物を使うようになったら、大きいスケールの作品も作れるようになった」と話すリーロイ。現在の作品の中にも、公共空間を活用した大規模なものも多く、独創的な世界観が創り上げられています。

ギャラリーの枠を超えた表現

ギャラリーや美術館に展示する、いわゆる欧米のスタイルに従う必要性はないと考えたリーロイ。初めは、街に出て仲間と一緒に壁に絵を描くなどのストリートアートに挑戦していました。

彼の作品のコンセプトの一つとして、「日常生活とアートを近づける」というものがあります。つまり、アートに触れるために美術館やギャラリーに行くのではなく、公共空間に作品を配置し日常生活の中でアートと関係を持てるようにするということです。「作品をアートとして見てもらうのではなくて、何の先入観もなく出会ってもらいたい、関わってもらいたい」とリーロイは話しています

彼のコンセプトの根底には、フィリピンの植民地時代より前の歴史にも原点があります。欧米に支配される前のフィリピンでは、芸術は独立した分野ではなく生活の一部であり、芸術家自身も地域に溶け込み、地域のために作品を作っていました。

この”あり方”こそがフィリピンの芸術、芸術家としてあるべき姿と考えるリーロイは、行政や都市設計家、農学者などの専門家やコミュニティと協力し、様々なパブリックアートプロジェクトを進めています。

例えば、「Mebuyans Vessel」では、宇宙船のような構造物を作ることで、芸術と生活の距離を縮め、リーロイの考える未来を多くの人と共有し、フィリピンをよりよい社会へと牽引していこうとしています。

コロナ禍での作品制作

学生時代からコラボレーションを通して作品を常に進化させたリーロイですが、コロナ禍という制約された環境下で、自分にある挑戦をかけたといいます。コロナ禍のパンデミック時、できる限り素材を買いに行かず、そこにあるものを使うと決めまます。SNSで友達に連絡し、プラスチックボトルを回収するなどし、プラスチックボトルを活用したシリーズを作り出しました。

その中でも特に注目されるべき作品は、ペットボトルを用いて即興で制作した「ステートメントマスクです。コロナが流行し始めた頃、政府の準備が間に合わず、マスクが足りなかったため、人々は変わりにプラボトルなどで即席のマスクを作りました。

「友達がその写真を送り、僕の作品に似ているというのだった」そのように話すリーロイは、プラボトルのマスクの上に政府のコロナ対策に対する抗議の意思を書いた作品を作るようになりました。それらの作品は抗議活動に使用されることもあったそうです。

リーロイの考える世界

リーロイにとって、「プラスチックボトル」というように素材を限定することで、逆に可能性が広がっていきます。マスクから全身を追う宇宙服へ、そこから空間を変えるインスタレーションへと今も発想を広がり続けています

このような作品を作る上で、リーロイは初めに小さな構造物の制作から始めます。次に、それらがどのように人間の体に適応させられるかを考え、更にそれをある建築構造物レベルにまで発展させていきます。そして、最終的に、

立体造形の挿入で空間を独自の世界に、ウェアラブル・アートを着てもらうことで人々をそこに住む不思議な生き物に昇華させていきます。

子供の頃から自分の世界を描いていたリーロイ。今や、その自分の世界やフィリピンの文化的文脈を組み合わせ、SF的な空間や造形を、社会の現代性を反映させながら創りだしています。リーロイの作り出す作品には常に「世界観」が存在し、そこには文化があり、建築があり、生き物が住む、ある種の生態系が表現されています。

フィリピンは伝統的に話し言葉による文化が伝えられてきました。しかし、その反面、自分たちの未来の世界、フィリピン独自のSFというものがあまりなく、他国の未来像をただただ消費してきた。」とリーロイは話します。

その未来像の多くは、決して明るいとは言えません。例えば、リーロイの子供の時代の作品でいうとアメリカの場合「2001年宇宙の旅」や「ブレードランナー」等を代表するハリウッドの映画文化があり、この世界が破壊されていくことや、宇宙へ飛び出していく未来を描くSF作品が多いです。

しかし、フィリピンのように、世界の動きから少し離れている国がもし未来を想像したら、どうなるでしょうか。そのような国が創造する未来なら、この地球のバランスを取り戻す可能性を生み出すことにつながるかもしれません。「そのような未来を考えていくうえで、まず目の前の社会問題と向き合うことから始めたい。」このようにリーロイは話しています。

海外での活動について

フィリピンが抱えている社会問題の一つといえば、優秀な人材の活躍の場がないことです。リーロイフィリピン国内だけでなく、海外でも様々な作品を制作、発表しています。フィリピンでの活動はまだまだ海外に比べプラットフォームや流通の観点から制約が多くなっているためです。

海外での作品制作の場合もリーロイのスタイルは変わらず、その国、その場所で生み出される廃棄物に着目し、それをウェアラブルな作品や建築構造物へと昇華させていきます。

最近の展示で注目を集めたのが、イギリスのスマ―テストハウス(Somerset House)の中庭に展示されたインスタレーションです。この展示はリーロイ初のイギリスの展示で、イギリスの人たちに現代社会が直面している環境問題について考える機会となりました。

今後の展望

最後に今後の活動について質問しました

「あまり先のことを考えず、目の前に開いた扉に向かっていきる。瞬間瞬間を大切にする、それが昔から僕のスタイルだ。世界は常に変化し続けており、技術の発展により表現の可能性が大きく広がっているから、その方が新しい可能性見逃さずに済む。」

このように話していました。

常に新しいもの、新しい物語を作り続けていくリーロイ。今後の彼の新たな世界を楽しみに待ちましょう!

編集部の感想

今回リーロイさんを取材して強く感じたのは、彼のフィリピンの文化的文脈に沿った芸術を創造しようとする強い志です。

フィリピンは16世紀以降、スペイン、アメリカ、日本と数世紀にわたり統治され、第二次世界大戦後にようやく完全な国家としての独立を果たしました。しかし、数世紀にわたる外国による統治により、欧米の文化的影響は強く残り続けます。こうした中で、フィリピンの新しい芸術やフィリピン性を併せ持つ未来を創造していくことの難しさは、私たち日本人が想像する以上の困難があるでしょう。

今後、政治や経済の中心が東アジアから南アジアにかけた国々になっていくにあたり、芸術など文化的交流も盛んになっていくと思います。リーロイなど、様々な新進気鋭のアーティストたちの作品もより身近に見れるようになるといいですね!



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