【徹底解説】スーザン・フィリップスとは?自分の歌声で空間を彫刻する美術家の人生と作品を解説!

【徹底解説】スーザン・フィリップスとは?自分の歌声で空間を彫刻する美術家の人生と作品を解説!

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こんにちは。ユアムーン株式会社 編集部です。

皆さんはスーザン・フィリップスという人物をご存知ですか?

スーザン・フィリップス(Susan Philipsz)は、1965年にスコットランドのグラスゴーで生まれ、ドイツのベルリンを拠点に活動する美術家です。自分の声で歌った歌や音楽を、駅や橋の下、庭園、美術館の展示室などに流し、音そのものを彫刻のように空間に置く作品で知られています。

2010年には、イギリスの現代美術の賞として知られるターナー賞を受賞しました。テートによると、音のインスタレーションでこの賞を受けたのは、フィリップスが初めてです。本記事ではそんなスーザン・フィリップスの人生と作品についてご紹介します。

スーザン・フィリップスって?

スーザン・フィリップスの歩みを5段階で示した図。1965年の誕生、2000年のニューヨークでの滞在制作、2010年のターナー賞、2019年のリヴォリ城、2026年のリヨン・ビエンナーレへと進む。
図:スーザン・フィリップスの歩み

基本情報

本名スーザン・フィリップス(Susan Philipsz)
生年月日(没年月日)1965年生まれ(月日は公式の資料で確認できなかったため記載していません)
国籍・出身イギリス/スコットランド・グラスゴー生まれ
学歴ダンディーのダンカン・オブ・ジョーダンストーン美術大学で美術を学び、ベルファストで美術の修士課程を修了
分野サウンド・インスタレーション(音の作品)
傾向自分の声で歌う歌や音楽を、場所の歴史や建築と結びつけて空間に流す。音を彫刻のような形として扱う
師事した人物・影響を受けた人物公式の資料で確認できなかったため記載していません
主な受賞ターナー賞(2010年)、大英帝国勲章OBE(2014年)
拠点ドイツ・ベルリン(2026年のリヨン・ビエンナーレの紹介による)

フィリップスと同じように空間全体を使う表現や、同じ年代にターナー賞の周辺で活躍した作家については、以下の記事でも詳しくご紹介しています。

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経歴と作品

グラスゴーに生まれ、美術を学ぶ(1965年〜1990年代)

スーザン・フィリップスは1965年、スコットランドのグラスゴーに生まれました。スペインの芸術センター、ラボラル(LABoral)の紹介によると、ダンディーにあるダンカン・オブ・ジョーダンストーン美術大学で美術を学び、その後ベルファストで美術の修士課程を修了しました。

ターナー賞の審査員は、のちにフィリップスの作品を、音の没入的な性質を生かし、自分の声を使って力強い「彫刻的な体験」をつくり出すものと評しました。音を、見えない彫刻として空間に置く。この考え方が、フィリップスの仕事の土台にあります。

ニューヨーク、ベルリン、サンアントニオでの滞在制作(2000年代)

ラボラルの紹介によると、フィリップスは2000年に、ニューヨークのMoMA PS1の国際スタジオ・プログラムに選ばれました。その後、ベルリンのクンスト・ヴェルケで1年間の滞在制作を行い、2003年にはアメリカ・サンアントニオのアートペースの国際作家プログラムにも参加しています。同じ2003年には、テート・ブリテンの英国美術の3年展「Days Like These」にも参加しました。

ラボラルは、フィリップスの声について、ベルカント(オペラなどの伝統的な歌唱法)の訓練をまったく受けていないと書いています。そして、その自然さと専門的な訓練のなさが、作品と聞き手のあいだに感情的なつながりを築く助けになっていると説明しています。よく知られた歌を作家自身が歌い直すことで、展示空間の感じ方そのものが、心地よくも不思議な体験へと変わるといいます。

サウンド・インスタレーションとスーザン・フィリップス

サウンド・インスタレーションは、音を使って空間全体を作品にする表現です。目に見える物が少ないかわりに、聞こえてくる声や音楽が、その場所の見え方や感じ方を変えていきます。

2026年のリヨン・ビエンナーレは、フィリップスの仕事を次のように紹介しています。一つひとつの作品は、それが発表される場所との対話の中で構想され、音は、見る人の身体と建築、そしてそこに積み重なった歴史を結びつける彫刻的な形として扱われます。調査に基づいてつくられ、音楽と歌、声、記録された音源、くり返しと沈黙が組み合わされます。不在、喪失、記憶、そして希望というテーマに目を向け、音がもつ感情と心理への響きを生かしているといいます。

スコットランド国立美術館は、フィリップスが自分をサウンド・アーティストとは定義していないと紹介しています。20年以上にわたって、音を物理的な、あるいは彫刻的な体験としてとらえ続けてきた作家です。

スーザン・フィリップスの作品を形づくる3つの要素を示した図。訓練を受けていない自分の声、場所と建築、その土地の歴史の3つが重なり合って、音の彫刻が生まれることを示している。
図:音の作品を形づくる3つの要素

ターナー賞と『Lowlands』(2010年)

2010年、フィリップスはターナー賞を受賞しました。テートによると、審査員が授賞の理由に挙げたのは、グラスゴー国際美術祭での『Lowlands』の発表と、スペインのビーゴ現代美術館(MARCO)のグループ展「Mirrors」での『Long Gone』の発表です。賞は、ミウッチャ・プラダから手渡されました。

『Lowlands』

審査員は、フィリップスの作品が知性と本能の両方に訴える反応を引き起こし、音と視覚の関係についての一連の判断を映し出していると評価しました。テートは、フィリップスがターナー賞を受けた4人目の女性であり、音のインスタレーションで受賞した最初の人物だと紹介しています。

テートの写真では、テート・ブリテンの白く広い展示室に、黒いスピーカーが壁ぎわに2台だけ置かれています。中央の木のベンチには来場者が1人座り、何もない壁のほうを向いて耳を傾けています。目に見える作品は小さなスピーカーだけで、部屋全体が声で満たされることで作品になっていることが分かります。

スーザン・フィリップス『Lowlands』のテート・ブリテンでの展示風景。白い展示室の壁ぎわに黒いスピーカーが2台あり、中央の木のベンチに来場者が1人座っている
スーザン・フィリップス『Lowlands』、テート・ブリテン「ターナー賞2010」展での展示風景(2010年10月)。サウンド・インスタレーション。画像出典:テート公式サイト「Turner Prize 2010」ページ(引用)

テート・ブリテンのディレクターで審査委員長だったペネロペ・カーティスは、BBCの取材に対し、グラスゴーでの発表も、それをテートに移した展示も、まったく並外れたものだったと語っています。

大英帝国勲章と各地の美術館での発表(2010年代)

ニュージーランドの公共芸術団体SCAPEの紹介によると、フィリップスは2014年に、英国美術への貢献により大英帝国勲章(OBE)を受けました。テートの作家名の表記も「Susan Philipsz OBE」となっています。

同じ紹介によると、2010年代には、2012年のドクメンタ(ドイツ・カッセル)、2013年のニューヨーク近代美術館(MoMA)のグループ展「Soundings: A Contemporary Score」、2015年のバルティック現代美術センター(イギリス・ゲーツヘッド)での個展「A Single Voice」、2015年のテート・ブリテンでの個展などで作品を発表しました。2017年にはベルリンのハンブルガー・バーンホフ、2018年には釜山ビエンナーレにも参加しています。テートのコレクションには、『I See a Darkness』(2008年)などの作品が収められています。

川の上で響く歌『Flow my Tears』(2019年)

2019年、フィリップスはニュージーランドのクライストチャーチで、SCAPEの公共芸術シーズンのために『Flow my Tears』を発表しました。SCAPEによると、フィリップスの声は、ニュージーランドでもっとも古い鋳鉄の橋であるハミッシュ・ヘイ橋の下から響き、1596年に作曲されたエリザベス朝のリュート歌曲を歌いました。SCAPEは、その歌声が、まるで川そのものが歌っているかのように空間に流れたと書いています。

SCAPEは、フィリップスの言葉として「音は、記憶のきっかけとして本当に働きます。人を特定の場所と時間へ連れ戻すことができるのです」という趣旨の発言も紹介しています。SCAPEはまた、フィリップスが作品を置く場所には、交通や移動の歴史と結びつくところが多いとも紹介しています。

風の音でつなぐリヴォリ城(2019年)

同じ2019年、イタリアのリヴォリ城現代美術館は、チェルッティ・コレクションの一般公開を記念する企画の第1章に、フィリップスら7人の作家を招きました。美術館によると、フィリップスの新しいサウンド・インスタレーションは、リヴォリ城の屋外の中庭と、チェルッティ・コレクションの邸宅の庭園の両方に置かれ、風の音に着想を得た響きで、邸宅美術館と現代美術館を結びました。企画はキャロリン・クリストフ=バカルギエフによるものです。

2つの離れた場所に同じ音を置き、聞く人の頭の中で場所どうしをつなぐ。この方法は、次に紹介するリヨンの作品にも受け継がれています。

リヨンの通り抜けに響く『We are the weavers』(2026年)

2026年、フィリップスはフランスの第18回リヨン・ビエンナーレ(国際展「Passer d’un rêve à l’autre(ある夢から別の夢へ)」)に、新作『We are the weavers』を出品しました。

『We are the weavers』(2026年)

ビエンナーレの紹介によると、この作品は、リヨンの絹織物の職人たちに結びつく19世紀の抗議の歌『Le Chant des Canuts(カニュの歌)』のくり返しの一節をもとにしています。その一節は、リヨンの歴史的な抜け道「トラブール」の連なりと、リヨン美術館の庭園から同時に響きます。

フィリップスはこれに『I Hear Thunder』と『Pop Goes the Weasel』の2曲を織り交ぜ、かつての修道院の回廊に響く多声の曲をつくりました。すべての声部をフィリップス自身が歌っており、本人はこれを「歌の彫刻」と呼んでいます。いくつもの場所で聞こえる声は、街の場所と歴史をつなぎ、いまでは見えなくなった人々の暮らしと労働に存在を与えます。作品は、クロワ=ルースの工房から、商人たちと下の川へと向かった絹職人たちの道筋をたどっています。

ビエンナーレの写真では、アーチの回廊に囲まれたリヨン美術館の庭園で、木の幹に黒いスピーカーが1台取りつけられ、その下で2人の来場者が足を止めて見上げています。

スーザン・フィリップス『We are the weavers』のリヨン美術館の庭園での展示風景。アーチの回廊に囲まれた庭の木の幹に黒いスピーカーがあり、2人が見上げている
スーザン・フィリップス『We are the weavers』(2026年)、第18回リヨン・ビエンナーレ、リヨン美術館の庭園での展示風景。サウンド・インスタレーション。Photo: Emmanuelle Firman。画像出典:リヨン・ビエンナーレ公式サイト(引用)

まとめ

いかがだったでしょうか。スーザン・フィリップスの人生と作品について、ご紹介してきました。

フィリップスは1965年にグラスゴーで生まれ、ダンディーとベルファストで美術を学んだのち、ニューヨーク、ベルリン、サンアントニオでの滞在制作を経て、自分の声を使った音の作品をつくってきました。2010年には『Lowlands』などの発表でターナー賞を受け、音のインスタレーションで受賞した最初の人物になりました。

クライストチャーチの橋の下の『Flow my Tears』、風の音でリヴォリ城と邸宅の庭をつないだ作品、リヨンの抜け道に響く『We are the weavers』と、その作品はいつも、場所の建築と歴史に耳を澄ますところから生まれています。

展示室にスピーカーしか見えなくても、そこには確かに作品があります。機会があれば、フィリップスの作品の前で目を閉じ、声が空間をどう変えていくのかを感じてみてください。

Euphoric " " の視点

フィリップスの作品の多くは、展示室にスピーカーしか見えません。それでも、自分の声で歌う一つの旋律が流れると、橋の下や駅、庭園といった場所の印象が静かに変わっていきます。2010年に音のインスタレーションとして初めてターナー賞を受けたことは、目に見える形を持たない作品も美術として受け止められることを示しました。

作品はいつも、その場所の建築と歴史に耳を澄ますところから生まれています。見ることに慣れた私たちに、聴くことで空間と向き合う楽しさを思い出させてくれる作家です。

この作品を見に行くには

フィリップスの作品の多くは、会期や場所の決まった展示のために制作されます。作品の記録や最新の情報は、次の公式ページなどでご確認ください。

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