こんにちは。ユアムーン株式会社 編集部です。
皆さんはヴィンセント・ジアラーノという人物をご存知ですか?
ヴィンセント・ジアラーノ(Vincent Giarrano)は、1960年にアメリカのニューヨーク州バッファローで生まれた写実の画家です。ニューヨークの街角の店先、落書きの残る扉の前に立つ女性、ホテルの部屋で荷造りをする人など、都市のありふれた一瞬を、油彩でていねいに描いてきました。
ジアラーノは画家になる前、アメリカン・コミックの描き手でした。DCコミックスの公式サイトには、バットマンのシリーズを手がけた作家として名前が載っています。漫画の仕事で暮らしたニューヨークへの愛着が、のちの絵画の土台になりました。本記事ではそんなヴィンセント・ジアラーノの人生と作品についてご紹介します。
コンテンツ
Toggleヴィンセント・ジアラーノって?

基本情報
| 本名 | ヴィンセント・ジアラーノ(Vincent Giarrano)。コミックの仕事ではヴィンス・ジアラーノ(Vince Giarrano)の名で知られます |
| 生年月日(没年月日) | 1960年生まれ(2026年10月時点で存命。月日は公式の資料で確認できなかったため記載していません) |
| 国籍・出身 | アメリカ/ニューヨーク州バッファロー生まれ |
| 学歴 | 1982年、ニューヨーク州立大学バッファロー校で美術学士(BFA)。1985年、シラキュース大学で美術修士(MFA) |
| 分野 | 油彩画(都市の風景、人物、静物、風景)。かつてはコミックのイラストレーター |
| 傾向 | リアリズム(写実)。現実の場面や物を、自然なままの姿で描く |
| 師事した人物・影響を受けた人物 | 本人は、19世紀のリアリズム、印象派、ポスト印象派、アシュカン派といった同時代の生活を描いた時代に共感すると語り、画家ロバート・ヘンライの「芸術家はジャーナリストである」という考えを挙げています |
| 拠点 | コネチカット州(2026年10月時点の所属画廊の紹介による) |
ジアラーノと同じように都市の情景を描いた画家については、以下の記事でも詳しくご紹介しています。
経歴と作品
バッファローで絵を描き始める(1960年〜1985年)
ヴィンセント・ジアラーノは1960年、ニューヨーク州バッファローに生まれました。作品を扱うクラーク・ギャラリー(Clark Gallery)の紹介によると、幼いころから絵を描き始め、17歳で初めて人体デッサンの授業を受けるまでは独学で描いていたといいます。
ジアラーノはニューヨーク州立大学バッファロー校で学び、1982年に美術学士(BFA)を取得しました。その後シラキュース大学の大学院に進み、1985年に美術修士(MFA)を取得しています。作家の公式サイトの略歴にも、この2つの学位が記されています。
ニューヨークでコミックの描き手に(1980年代後半〜1990年代)
大学を出たジアラーノは、ニューヨーク市に住み、イラストレーションの分野で働きました。クラーク・ギャラリーの紹介はそう書いています。
その仕事のひとつが、アメリカン・コミックでした。DCコミックスの公式サイトの作家ページには、「ヴィンス・ジアラーノ(Vince Giarrano)」の名で、『Batman: Knightquest – The Crusade』や『Batman: Shadow of the Bat』、『Batman: Zero Hour』などの単行本が並んでいます。マーベル・コミックスの公式サイトにも、1995年の『Spider-Man 2099 Special』第1号の作家として名前が載っています。
ジアラーノの作品を紹介した美術メディアのMy Modern Metは、ジアラーノがコミック会社のために下描き(ペンシル)とペン入れ(インク)を担当するプロのイラストレーターだったと書いています。そして、この時期にニューヨークに住んだことで、この大都市を好きになった。その愛着が、独学で始めた絵画の土台になったと説明しています。
2025年に個展を開いたブラスワークス・ギャラリーも、コミックの仕事がジアラーノに強い物語の感覚を与えたと紹介しています。一枚の絵の中で、ある瞬間の前後を想像させるジアラーノの画面には、コマを割って物語を語る漫画の経験が生きているのかもしれません。

コネチカットで油彩画へ戻る
クラーク・ギャラリーの紹介によると、ジアラーノはその後コネチカット州に移り、油彩による絵画へと戻りました。同ギャラリーは、ジアラーノを「コネチカット州に暮らす写実の画家」と紹介しています。
公式サイトの略歴には、2005年ごろからの展覧会と、地元コネチカット州のワシントン美術協会で人体デッサンや絵画の講座を受け持ってきた記録が並んでいます。2009年からは、コネチカット州マディソンのスーザン・パウエル・ファインアート(Susan Powell Fine Art)で、ほぼ毎年のように個展を開くようになりました。公式サイトの略歴によると、その題名は「New York Soho Paintings」(2009年)、「New York Scenes」(2010年)、「NYC Street Scenes」(2011年)と、ニューヨークを描いたものが続いています。
ジアラーノは、画家ポッドキャスト「The Savvy Painter」のインタビューで、イラストレーションから絵画へ移るときに、文章を書くことが助けになったと語っています。考えを整理し、集中を保ち、調べものをするうえでも、書くことが役立ったといいます。
ジアラーノの考えるリアリズム
ジアラーノは、自分の仕事を「リアリズム(写実)」と呼んでいます。
クラーク・ギャラリーの紹介は、ジアラーノの作品は自然主義、つまり場面や物を自然な状態のままに描くことにもとづいていると説明しています。静物、人物、風景とさまざまな題材を描くけれど、それらをつなぐのは、ジアラーノがとらえる静かで誠実な瞬間だといいます。また、ジアラーノは冷たい光の差す場面を好み、それが題材の内省的な雰囲気をさらに強めている、とも書いています。
同じ紹介には、ジアラーノ本人の言葉も載っています。自分の作品では、リアリズムは画面のイメージだけにとどまらず、作品の考え方そのものにも及んでいる。実際の生活の経験について自分に語りかけてくるものを描き、見る人に場面の本物らしさを感じてほしい。もうひとつ大切なのは、どこまで描き込むかという点で、私たちの目はとても特別なやり方でものを見ている。目がどう焦点を合わせ、何に焦点を合わせるか。その知覚の性質を使って、より信じられる印象をつくることに関心がある、という趣旨です。

『Hardware Store in Lower East Side』
ジアラーノの描く街角には、人がいないものもあります。公式サイトに掲載されている『Hardware Store in Lower East Side(ロウアー・イースト・サイドの金物店)』は、マンハッタンの下町の金物店を真正面から描いた作品です。
赤い日よけの上に「HARDWARE」の大きな看板が掛かり、その上には工具やペンキの缶を描いた黄色い看板が並んでいます。店先には緑のごみ箱と白い自転車が置かれ、上の階には非常階段とその影が斜めに走ります。看板の文字や工具は、近づいて見ると細かく描き込まれているのではなく、手早い筆の跡で形をとらえています。目が焦点を合わせる場所と、そうでない場所を描き分けるという、ジアラーノの言葉を思い出させる絵です。公式サイトでは「oil 9×12」と表示されています(油彩。大きさの単位は書かれていません)。

ニューヨークの女性たちを描く(2010年代)
ジアラーノの名を広げたのは、ニューヨークに暮らす若い女性たちを描いた作品です。
My Modern Metは、ジアラーノの絵を、落書きの残る扉、色とりどりの角の店、狭く混み合ったアパートの部屋に、若い女性たちがいつものように過ごしている姿として紹介しています。そして、街の片隅を切り取った自然な構図のため、どの絵も都市の生活の気取らないスナップ写真のように感じられる、と書いています。
ジアラーノ本人も同じ記事で、自分の芸術は主に、実際の生活の経験の感覚や、現代の暮らしの中で美しいもの、面白いものについて語っているのだと話しています。都市に住んでいるときに感じる特別な感覚があり、それを絵に映したかった、という言葉です。
公式サイトの略歴によると、2017年にはニューヨークのギャラリー・ヘノック(Gallery Henoch)で個展「New York City Women」が開かれました。
『East Village』
公式サイトに掲載されている『East Village(イースト・ヴィレッジ)』は、マンハッタンのイースト・ヴィレッジの建物の前を描いた横長の作品です。灰色に塗られた古い建物の正面には、女性の顔を中心にした浮き彫りの装飾があり、その下で、黒いフードの女性が地下へ続く階段の手すりの前にしゃがみこんでいます。
左には「ATM」の赤い文字が光る店先があり、右には赤い扉へ続く階段と、落書きの残る石の柱が見えます。錆の浮いた鉄柵、はがれかけた塗装、歩道のしみまで、ニューヨークの古い街並みの手ざわりが描き込まれています。女性はこちらを見ず、街の時間の中にひとりで溶け込んでいます。公式サイトでは「oil 24 x 36」と表示されています(油彩。大きさの単位は書かれていません)。

『Jade with Graffiti』
『Jade with Graffiti(落書きとジェイド)』では、落書きで埋めつくされた扉の前に、ひとりの女性が腕を組んで立っています。黒いダウンジャケットに黄土色のスカート、厚底のブーツという姿で、豊かな髪の女性は、静かにこちらを見ています。
画面の右半分は、白いスプレーで大きく描かれた落書きの扉が占めています。左にはショーウィンドウの商品が並び、足もとの歩道には水たまりが広がっています。人物と同じだけの重さで、街の壁や扉、歩道が描かれていることが、この絵を肖像画ではなく、街の一場面にしています。公式サイトでは「oil 11 x 14」と表示されています(油彩。大きさの単位は書かれていません)。

美術館の展覧会へ(2013年〜2016年)
2013年からは、ジアラーノの作品が美術館の展覧会にも並ぶようになります。公式サイトの略歴には、次の展覧会が記されています。
| 会期 | 美術館での展覧会(公式サイトの略歴による) |
|---|---|
| 2013年3月〜2014年2月 | スミソニアン協会ナショナル・ポートレート・ギャラリー(ワシントンD.C.)「Outwin Boochever Competition」 |
| 2013年〜2014年 | BP肖像画賞2013(ロンドンのナショナル・ポートレート・ギャラリー、アバディーン美術館、ウルヴァーハンプトン美術館) |
| 2014年9月20日〜11月30日 | フォートウェイン美術館「Contemporary Realism Biennial 2014」 |
| 2015年・2016年 | バトラー・インスティテュート・オブ・アメリカン・アート「National Midyear Show」 |
アウトウィン・ブーチェヴァー肖像画コンペティションは、スミソニアン協会のナショナル・ポートレート・ギャラリーが開く肖像画の公募展です。BP肖像画賞は、ロンドンのナショナル・ポートレート・ギャラリーの肖像画の公募展です。ジアラーノはどちらにも入選し、英米の肖像画の美術館で作品が展示されました。公式サイトの略歴には、2013年にワシントンD.C.のナショナル・ポートレート・ギャラリーでデッサンの講座を受け持ったことも記されています。
『Aureta Packing at the Empire』
屋内を描いた作品もあります。公式サイトに掲載されている『Aureta Packing at the Empire(エンパイアで荷造りするアウレタ)』では、濃い青の壁の部屋で、黒い服の女性が、金色のスパンコールの服を両手で広げて見つめています。
手前には青と黒のしま模様の布やベッドが写り込み、右には虎の模様の椅子と、開いたままのトランクが置かれています。壁の大きな鏡には隣の部屋の明かりが映り、白いランプシェードが光っています。題名の「Packing(荷造り)」のとおり、旅の途中の、ある部屋での短い時間を切り取った一枚です。公式サイトでは「oil 16 x 20」と表示されています(油彩。大きさの単位は書かれていません)。

現在の活動(2020年代)
2020年代に入っても、ジアラーノは個展を続けています。公式サイトの展覧会の欄には、2021年のニューヨークのフォーリー・ギャラリーでの個展「New York Narrative」、2022年のマサチューセッツ州のクラーク・ギャラリーでの個展、2023年のニューヨークのダシア・ギャラリー(Dacia Gallery)での個展、2024年のスタジオ・ヒル・ギャラリーでの個展が並んでいます。
2025年5月には、スーザン・パウエル・ファインアートで個展「City Color」が開かれました。同じ年の8月から9月にかけては、ブラスワークス・ギャラリーで初めての個展を開いています。そして2026年4月15日から5月1日まで、ニューヨークのダシア・ギャラリーで新しい個展「After Hours」が開かれたことが、公式サイトで告知されています。
公式サイトの報道の欄には、雑誌『American Art Collector』205号の表紙や、『Beautiful Bizarre』48号の特集記事も紹介されています。「The Savvy Painter」のインタビューの紹介文は、ジアラーノが複雑さのための複雑さではなく、真実と誠実さを伝える作品をつくろうとしていると紹介しています。
| 年 | 主な個展(公式サイトの略歴・展覧会の欄による) |
|---|---|
| 2009年 | 「New York Soho Paintings」(スーザン・パウエル・ファインアート) |
| 2013年 | 「Truth and Beauty」(ヘインズ・ギャラリーズ、ナッシュビル) |
| 2017年 | 「New York City Women」(ギャラリー・ヘノック、ニューヨーク) |
| 2021年 | 「New York Narrative」(フォーリー・ギャラリー、ニューヨーク) |
| 2025年 | 「City Color」(スーザン・パウエル・ファインアート)/ブラスワークス・ギャラリーで個展 |
| 2026年 | 「After Hours」(ダシア・ギャラリー、ニューヨーク) |
まとめ
いかがだったでしょうか。ヴィンセント・ジアラーノの人生と作品について、ご紹介してきました。
ジアラーノは1960年にバッファローで生まれ、ニューヨーク州立大学バッファロー校とシラキュース大学で美術を学びました。ニューヨークでイラストレーターとして働き、ヴィンス・ジアラーノの名でバットマンなどのコミックを手がけたのち、コネチカット州に移って油彩画へ戻りました。
『Hardware Store in Lower East Side』の金物店、『East Village』の古い建物の前の女性、『Jade with Graffiti』の落書きの扉。ジアラーノは、ニューヨークの街角のありふれた一瞬を、目が焦点を合わせるやり方を意識しながら描いてきました。2013年には英米のナショナル・ポートレート・ギャラリーの公募展に入選し、2026年にもニューヨークで個展を開いています。
本人が語るように、ジアラーノのリアリズムは、画面の見た目だけでなく、実際の生活の感覚を伝えることを目指しています。機会があれば、絵の中の街を歩くつもりで、細部と余白の両方を眺めてみてください。
Euphoric " " の視点
バットマンなどのコミックで物語を絵にしてきたジアラーノは、油彩画に戻ってから、ニューヨークの街角のありふれた一瞬を描き続けています。金物店、古い建物の前に立つ女性、落書きの扉。どれも特別な出来事ではありません。
目が焦点を合わせる場所と、そうでない場所を意識して描き分ける方法は、写真のような正確さとは別の、その場に立っている感覚を画面にもたらしています。2013年には英米のナショナル・ポートレート・ギャラリーの公募展に入選しました。日常の風景を見る目を、少し変えてくれる絵です。
この作品を見に行くには
記事で紹介した作品は、作家の公式サイトや画廊の展覧会で公開されてきました。2026年10月時点で、常設で作品を見られる所蔵館は確認できませんでした。展覧会の予定や最新の情報は、公式サイトをご確認ください。







