こんにちは、ユアムーン株式会社 編集部です。
皆さんは、ウォルフガング・ヴァインガルドというデザイナーをご存知でしょうか?
ヴァインガルドは、「スイススタイル」の特徴であるグリッドベースによる配置規則を捨て「ニューウェーブスタイル」の源となったデザイナーで、その作品は実験的で表現力豊かなものが多く、後のグラフィックデザインの発展に貢献しました。
今回はそんなヴァインガルドの経歴や作品をご紹介していきます!
ウォルフガング・ヴァインガルドってどんな人?
基本情報
本名 | ウォルフガング・ヴァインガルド(Wolfgang Weingart) |
生年月日 | 1941年2月6日 |
出身 | ドイツ セーラムバレー |
学歴 | メルツアカデミー(Melz Akademie) バーゼル・スクール・オブ・デザイン(Basel School of Design) |
職種 | グラフィックデザイナー タイポグラファー |
取得した賞など
- 2005年: MassArtから名誉博士号を授与
- 2013年: デザイン業界の最高の栄誉である、AIGAメダルを受賞
- 2014年: 連邦文化局からスイス グランプリ オブ デザイン賞を受賞
デザインへの興味
ヴァインガルドは、1941年2月にスイスとの国境に近いドイツのセーラムバレーにて誕生します。
小学校に入学すると、彼は「針金」を使って家の輪郭やバイク、風景などを作り、このころから視覚デザインへの関心を持つようになりました。
1954年、ヴァインガルドはポルトガルに移り、リスボン・ドイツ学校に入学します。
そこで彼の技術的才能を見抜いた教師は、個人レッスンを行い、彼の芸術的才能を育てました。
ヴァインガルドは算数や数学は苦手で、得意なのは絵と工作だけ、抽象的な科目は理解しにくいと言っています。
1958年、18歳になったヴァインガルドは、ドイツのシュトゥットガルトにある芸術・デザインの大学であるメルツ・アカデミーの応用芸術・デザイン分野の2年制コースに入学します。
彼は、版画の技法であるリノカットや木版画のスケッチを学ぶことを強く望み、活字の印刷などにも強い関心を抱いていました。
彼はこの頃に初めて金属活字と出会い、1960年からルーヴェ印刷にて3年間、活字鋳造の見習いをします。
この間ヴァインガルドは、清潔感・可読性・客観性を追求するグラフィックデザインの様式である『スイス・スタイル(国際タイポグラフィー様式)』に傾倒し、インスピレーションを得ていました。
スイススタイル(国際タイポグラフィー様式)とは
1920年にロシア、オランダ、ドイツで生まれ、1950年代にスイスで更に発展したグラフィックデザインスタイル。
スイススタイルは、非対称のレイアウト、グリッド構造を用いた配置、「Akzidenz Grotesk(Helveticaの原型)」などのサンセリフ体、左揃えのテキストなどの特徴があり、建築や芸術など様々な分野に影響を与えた。
初期のスイススタイルの作品の多くは、テキストとしての使用に加え、タイポグラフィーを主要なデザイン要素としている。
(wikipediaより一部引用: https://ja.wikipedia.org/)
出典:Examination of the letter M(Woldgang Weingart), Neugraphic, http://www.neugraphic.com/
1962年、活字鋳造の技術を取得していたヴァインガルドは、通常とは異なる文字間隔や単語の繰り返しなどの実験を始め、「M」という文字に興味を持ち、その後何年も「M」を使ってタイポグラフィーの研究をします。
これは、全くの好奇心からサイズや位置、角度を変更したり、曲げたり、分解したりとしていたようです。
1963年、ヴァインガルドはバーゼルにてエミール・ルーダーと、アーミン・ホフマンに出会います。
その後、スイスのバーゼルに移り、バーゼル・スクール・オブ・デザインに入学しました。
これまでスイススタイルに傾倒していたヴァインガルドですが、学校でタイポグラフィーを学んでいる内に「スイススタイル」の発展が不毛で、匿名的であるため停滞しているということに気づき、すぐに学校を辞めてしまいます。
ところが、1968年にアーミン・ホフマンからバーゼル・スクール・オブ・デザインに新たに設立された部門、「Weiterbildungsklasse für Grafik(グラフィックのためのクラス)」でタイポグラフィーを教えてほしいと依頼されます。
ヴァインガルドの教育方針
バーゼル・スクール・オブ・デザインで教鞭を執ることになったヴァインガルドは、「スイススタイル」を出発点としていますが、それを生徒に強制することは決してなく、反骨精神を持って、この学校の厳格な慣習から自分自身と生徒たちを解放しようと試みました。
彼の目標はタイポグラフィーの教育に新しい生命を吹き込むことでした。
彼の実験では、「直角を放棄し、広い文字間隔を使用し、字のウェイトを変え、段落の字下げをやめ、見出しを長方形に反転させ、明るい色を取り入れる」など、様々な試みをしました。
ヴァインガルド自身は「スタイル」を作るつもりはありませんでしたが、バーゼル・スクール・オブ・デザインで行った試みは、ヴァインガルドの生徒たちが「ヴァインガルド風」として広め、後に『ニューウェーブ』というスタイルとして確立しました。
ヴァインガルドは、エイプリル・グレイマンやダン・フリードマンなど新しいタイポグラフィーを世に広めることになるグラフィックデザイナーを育てたことでも有名です。
またヴァインガルドはバーゼル・スクール・オブ・デザインのみでなく、スイスのブリッサーゴでグラフィックデザインの夏季プログラムを開講したり、世界中で講義を行っており、彼に影響されたグラフィックデザイナーは多いのではないでしょうか。
関連記事:
エイプリル・グレイマンってどんな人?テクノロジを活用したデザインの先駆者
ニューウェーブの特徴
ニューウェーブは、『スイスパンク・タイポグラフィー』などとも呼ばれ、グリッド構造よりも「遊び心」に重点を置き「スイススタイル」から離れる文体運動で、ニューウェーブのタイポグラファーは「将来のデザイナーがグラフィックデザインを探究するための道」を切り開きました。
スタイル自体は「スイススタイル」の厳密なグリッドベースによる配置規則に反抗し、「一貫性のない文字間隔」、「1つのワードの中で様々なウェイトの文字を使用する」、「直角のないフォント」などの特徴があります。
「ニューウェーブ」は読みやすさの限界を広げ、グリッド構造を無視することで、活字を無秩序に配置したりすることができるようになり、アーティストは自己表現をするための自由を得ることができました。
昨今のグラフィックデザインにおいても、無秩序に文字を配置している「遊び心」のあるデザインを見かけることができます。
これは「ニューウェーブ」が生まれたからこそ「スイススタイル」を無視するという考え方が浸透し、自由なデザインが溢れる世界になることができたのではないでしょうか。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
今回は「スイススタイル」に反抗し、新たなスタイルを確立するきっかけとなったグラフィックデザイナー、ウォルフガング・ヴァインガルドについてご紹介させていただきました!
彼がグラフィックデザイン界に与えた影響は計り知れないもので、彼の教え子にもまた優秀なグラフィックデザイナーが多く存在します。
ヴァインガルドについて興味を持った人は、さらに調べてみてはいかがでしょうか?