「ややこしや〜 ややこしや」
このフレーズ、一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
日本が誇る能楽師、野村萬斎さんが出演する子供向け番組で披露されている一節です。
日本の伝統芸能、「能楽」をご存知ですか?野村萬斎さんはこの能楽の世界で活躍されている能楽師です。
能楽とは、能と狂言の総称で、約600年近い歴史を持ちます。
歌舞伎ならなんとなく分かるけど、能が何かは知らない…
そもそも能と狂言の違いがわからない…
そんな方が多いのではないでしょうか。
世界の演劇の中でも最古と言われており、2008年にはユネスコ無形文化遺産にも要録された「能楽」。
この記事では能楽初心者の方に向けて、能楽の魅力や歴史、どこで見られるかについて解説いたします!
能と狂言の違い
能楽とは能と狂言の総称と書きましたが、二つにははっきりとした違いがあります。
まず能ですが、能は歌舞劇で面と装束をまとい、謡や演奏とともに演じられるのが特徴です。
能には悲劇的なストーリーが多く、神話や歴史上の話を題材にしていることが一般的です。
主役のような役割のことを「シテ方」と呼び、その周りで話を進めていくのが「ワキ方」と言います。能の大きな特徴とも言える面や煌びやかな装飾をつけるのはシテ方で、ワキ方は素顔のまま舞台に立ちます。
シテ方、ワキ方の他にも、演奏を担当している笛や小鼓、太鼓のなど、それぞれに複数の流派が存在します。
例えばシテ方だと観世流や金剛流。ワキ方だと宝生流などです。
それぞれがいくつかの流派に分かれていますが、全てのパートを同じにしなくてはならないわけではなく、違う流派同士で公演することも可能です。
一方、狂言は静かに演じられることの多い能とは打って変わり、風刺が利いた笑いを誘う会話劇が基本です。
現代で言うところの、「コント」を思い浮かべると近いかもしれません。
また、大体の主人公は名前を太郎冠者(たろうかじゃ)といい、ごく普通の町人。普通の人間が普通に暮らす中で起こるドタバタを楽しく笑う舞台なんです。
狂言の流派は2つ。「和泉流」と「大蔵流」です。その流派の中にも家単位で派閥があり、それぞれで公演を行っています。
能と狂言は、上演時間も大きく違います。
能は平均1時間〜1時間半くらい。狂言は平均して20〜40分程度です。この二つは通常交互に上演されます。これは、能と狂言を繰り返し上演することにより、能で張り詰めた空気を、狂言でふっと和らげる効果があります。
ちなみに、能と狂言とよく比較される『歌舞伎』について気になる方は、こちらの記事をオススメします。
>>>【初心者向け】歌舞伎の基本を押さえよう!
能楽の歴史
能楽の歴史を簡単にご説明いたします。
まず、能楽の源流は奈良時代と言われています。大陸から渡ってきた「散楽」が広まり、やがて「猿楽」と呼ばれるように。
狂言も能と同じように誕生し、一緒に成長していきます。
狂言は、もともと散楽が持っていた滑稽さなどを基調として発展して行きましたが、能は大きく変化して、歌舞や幽玄さ、荘厳さなどを取り入れるようになり、全く別なタイプの演劇として成り立ちます。
14世紀後半には、能の名手観阿弥が誕生しました。観阿弥は猿楽の芸術性を高め、その息子である世阿弥が現在にまで伝わる「能」の芸術性を確立させたと言われています。
以降、織田信長や豊臣秀吉など戦国時代の武将にも親しまれ、徳川家康が能を保護するなど江戸時代も脈々と受け継がれ、現在に至ります。
今ではユネスコの無形文化遺産にも選ばれ、日本が誇る古典芸能として確固たる地位を得ました。
能楽の魅力
ここでは能楽の魅力についてご紹介します。
能の魅力
能面
能ではシテ(主役)が仮面を被るのが一般的です。
この面にも、男面や女面から、般若や白色尉など様々な種類があります。
公演中、ほぼこの仮面を外すことはありません。なので表情を読み取ることはできないのですが…
なんとみているとなんとなくストーリーに合わせて泣いていたり笑っていたりするように見えてくるんです。不思議ですね!
音楽
能では、笛、小鼓、大鼓、太鼓の4種類を使った演奏とともに上演されます。
これらと謡に合わせて舞が展開されていくのですが、その独特なリズム、節回しからは何百年にもわたって受け継がれてきた荘厳さを感じます。
狂言
親しみやすさ
能は歌舞劇、狂言はセリフ劇です。
人間が普遍的にもつおかしみだったり滑稽さだったりを表現しているので、能はちょっと難しかったかな…という方でもきっと楽しめるはず。
狂言も能と同じように何百年と長い歴史を持っていますが、人間の愚かしさやおかしみははるか昔から変わっていないんだなということを肌で実感させられます。
能がみられる劇場
能楽を観にいくときは、服装は普段着でOK。
肩肘張らずに気軽に観に行ってみましょう!
国立能楽堂
国立能楽堂は、1983年9月に開場した能楽の専用劇場です。
本格的な舞台で能を楽しむことができます。
横浜能楽堂
横浜市にあるこちらも能楽専用劇場です。
こちらにある能舞台は1875年に建てられた関東地方では最古の舞台となっています。
まとめ
日本が誇る古典芸能をご紹介しました。
能ってなんだか難しそう…そんな心のハードルを乗り越えて、ぜひ観に行ってみませんか?
ピンと張り詰めた能の空気に息を飲み、狂言で肩の力を抜いて笑って。
きっと自分なりの楽しみ方が見つかるはずです。