こんにちは。ユアムーン株式会社 編集部です。
皆さんはオードリー・カワサキという人物をご存知ですか?
オードリー・カワサキ(Audrey Kawasaki)は、1982年にアメリカのロサンゼルスで生まれた日系アメリカ人の画家です。木の板に直接鉛筆で線を描き、その上に薄く絵具を重ねる方法で、少女や女性の姿を描いてきました。木目がそのまま画面の一部になる、あたたかみのある独特の絵肌で知られています。
作家の公式サイトは、カワサキが子どものころに日本の漫画を読んで絵を描き始めたこと、そしてアール・ヌーヴォーと日本の漫画という東西の伝統から影響を受けていることを紹介しています。2005年からはアメリカ国内外の画廊で作品を発表し、近年は美術館やマイアミの「ウィンウッド・ウォールズ」などで大きな壁画も手がけています。
本記事ではそんなオードリー・カワサキの人生と作品についてご紹介します。
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基本情報
| 本名 | オードリー・カワサキ(Audrey Kawasaki) |
| 生年月日(没年月日) | 1982年生まれ(2026年10月時点で存命。月日は一次情報を2つ確認できなかったため記載していません) |
| 国籍・出身 | アメリカ(日系アメリカ人)/カリフォルニア州ロサンゼルス生まれ・育ち。現在もロサンゼルスで暮らし、制作しています |
| 学歴 | 10代の終わりに放課後の美術教室ミッション・ルネッサンスで素描と絵画の基礎を学ぶ。高校卒業後、ニューヨークのプラット・インスティテュートに進学し、2年で学位を取らずに離れる |
| 分野 | 絵画(木のパネルに油彩・アクリル・鉛筆)、素描、壁画 |
| 傾向 | 木目を生かした画面に、少女や女性の姿を描く。鉛筆の線を残し、薄い絵具の層を重ねる |
| 影響を受けたもの | アール・ヌーヴォー、日本の漫画(公式サイト)。所属画廊の紹介では日本の木版画も挙げられています |
カワサキが影響を受けたアール・ヌーヴォーの画家や、ロサンゼルスで育った同時代の絵画の流れについては、以下の記事でも詳しくご紹介しています。
経歴と作品
漫画を読んで育った少女時代(1982年〜2000年代初め)
オードリー・カワサキは1982年、ロサンゼルスに生まれました。所属画廊の一つ、ジョナサン・レヴァイン・プロジェクツは、カワサキを1982年ロサンゼルス生まれの日系アメリカ人の画家と紹介しています。公式サイトによれば、カワサキはロサンゼルスで生まれ育ち、現在もこの街で暮らしながら制作を続けています。
絵を描くきっかけになったのは、日本の漫画でした。公式サイトは、カワサキが日本の漫画を読んで育ち、それに刺激されて幼いころから絵を描くようになったと書いています。10代の終わりには、放課後の美術教室「ミッション・ルネッサンス」に通い始め、素描と絵画の基礎を身につけました。
高校を卒業すると、ニューヨークの美術大学プラット・インスティテュートに進みます。しかし公式サイトによれば、カワサキは2年で、学位を取らないまま学校を離れました。その後、作家としての道を歩み始めます。
ロサンゼルスの画廊でデビュー(2003年〜2008年)
公式サイトの展覧会歴でもっとも早いのは、2003年1月にロサンゼルスのルームズ・カフェで発表した「Midori Series」です。2004年にはロングビーチのブラック・マーケットで「From a Small Green Room」を開き、2005年からは本格的に画廊での発表を始めました。公式サイトは、カワサキが2005年からアメリカ国内外のさまざまな画廊で作品を発表していると紹介しています。
2005年には、ウエスト・ハリウッドのギャラリー1988での「All The Real Girls」、2006年にはシアトルのロク・ラ・ルーでの「Four Dreams」など、西海岸を中心に展示が続きます。2007年にはフィラデルフィアのリネージ・ギャラリーで「The Innocents」、2008年にはサンタモニカのコプロ・ネイソン・ギャラリーで「Mayoi Michi(迷い道)」を開きました。展覧会や作品の題名に「Kakurenbou(かくれんぼ)」「Hajimari(はじまり)」のような日本語が多く使われているのも、カワサキの特徴です。
『Kurage no Yume』(2007年)
題名は日本語の「くらげの夢」です。画面の中央に少女の顔が浮かび、その周りを、ふわりと漂うくらげと、長く流れる髪が取り囲んでいます。背景には何も描かれておらず、木のパネルの明るい木目がそのまま見えています。

公式サイトの作品ページによれば、この絵は2007年の作品で、縦横15×20インチの木のパネルに油彩と鉛筆で描かれ、フィラデルフィアのリネージ・ギャラリーの展覧会「Innocents」で発表されました。輪郭は細い鉛筆の線で描かれ、髪やくらげには、木目が透けて見えるほど薄く色がのせられています。描き込まれた部分と、木のままの部分。その対比が、夢の中の浮遊感をつくり出しています。
木の板に描くという方法
カワサキの絵の最大の特徴は、木の板に描くことです。公式サイトは、カワサキの鋭いイメージは木のパネルの上に精密に描かれ、自然な木目が謎めいた主題にあたたかみを加えていると説明しています。
カワサキ自身は、公式サイトのよくある質問のページ(2017年12月22日付)で、制作の方法をくわしく書いています。木のパネルを選ぶのは、その柔らかくあたたかな色合いと、自然に流れる木目の模様のためだといいます。パネルは地元の工房に特注し、メープル、ニレ、カバノキなどの薄い板(突き板)を選んで、反りにくいMDF(木質の繊維板)に貼り合わせてもらっています。表面が細かく、細い線を描きやすいからです。

制作は、細かく磨いた木の面に、鉛筆で直接描くところから始まります。カワサキは、仕上がった絵にも鉛筆の線の一部を見せたいので、素描にとても時間をかけると書いています。0.5ミリの芯のシャープペンシルを使い、硬い3Hから柔らかい3Bまで芯を使い分けます。大まかに描いては練り消しで薄く消し、また描き直す。この作業をくり返して線を決めていくため、素描の段階だけで丸1週間かかることもあるといいます。
素描ができたら、定着液のスプレーで線を固め、さらにアクリルのメディウムを2回以上塗ります。カワサキは、これを透明なジェッソのようなものだと説明しています。この下地がないと、木が絵具を吸い込んで、思わぬところににじんでしまうからです。
色は、薄く溶いた絵具を何層も重ねてつけていきます。カワサキは、厚く塗らないので油彩にリンシードオイルなどのメディウムは使わず、少量の溶剤(Turpenoid)で絵具を薄めて、薄いウォッシュとグレーズを少しずつ重ねると書いています。最近はまずアクリルで明暗の土台をつくり、その上に油彩を薄く重ねる方法をとっているといいます。黒い絵具はなるべく使わず、ウルトラマリンブルーとローアンバーを混ぜて暗い色をつくります。仕上げにはニスを塗って画面を保護します。
絵の手がかりになる資料の集め方についても、カワサキは同じページで答えています。幼いころから、気に入った雑誌の切り抜きを夢中で集めてきたといいます。ファッションの見開き、広告、写真、イラスト、絵画、あるモデル、顔、ポーズ、手の形、色、光、雰囲気。好きだと思ったものは何でも取っておいたことで、自分がひかれるイメージの「型」が育ったと振り返っています。現在はインターネットで集めた画像をパソコンのフォルダに分けて保存し、目や唇の形、手や体のポーズ、光の具合などを探して組み合わせ、残りは即興で描くそうです。
一方で、カワサキは絵を学んでいる人に向けて、写真から描く練習も役に立つが、実際のモデルを前に描くことを強くすすめると書いています。立体の人間から学べることに勝るものはない、というのがその理由です。
木目を残すこと、鉛筆の線を見せること、絵具を薄く重ねること。カワサキの絵のやわらかな透明感は、この手順の積み重ねから生まれています。
ニューヨーク、東京、ロサンゼルス(2009年〜2014年)
2009年は、カワサキにとって活動の場が大きく広がった年でした。公式サイトの展覧会歴によれば、5月に東京のスペース・ユイで「Watching Shadows」、12月にニューヨークのジョナサン・レヴァイン・ギャラリーで「Hajimari」を開いています。この年に、日本とアメリカの両方で個展を開いたことになります。
2010年にはオーストラリアのメルボルンとシドニーで「Tangled」、2012年には再びニューヨークのジョナサン・レヴァイン・ギャラリーで「Midnight Reverie」を開きました。2013年にはスイスのバーゼルとアメリカのマイアミで、ロサンゼルスのシンクスペース・ギャラリーとともにアートフェアのSCOPEに個展形式で出品しています。2014年にはロサンゼルスのメリー・カーノウスキー・ギャラリーで「Hirari Hirari(ひらりひらり)」を開きました。
公式サイトのよくある質問のページによれば、カワサキは年に1回の個展と、いくつかのグループ展を目標に制作しています。作品の販売はすべて画廊を通して行い、2017年の時点では個人からの注文制作は受けていないと書いています。

壁画という新しい舞台(2015年〜2021年)
2015年ごろから、カワサキは木のパネルだけでなく、大きな壁にも描くようになります。公式サイトの壁画のページによれば、2015年にはカリフォルニア州のロングビーチ美術館で、壁画のフェスティバル「Pow! Wow! Long Beach」のために8×12フィートの壁画を描き、同じ年にマサチューセッツ州のウースター美術館でも、展覧会「Samurai!」にあわせて35×5フィートの壁画を制作しました。
2016年にはハワイ・ホノルルの「Pow! Wow! Hawaii」で37×23フィートの大きな壁画「The Siren」を、マイアミのホテルで「Bloom」を手がけています。2017年にはカリフォルニア州アナハイムの音楽施設ハウス・オブ・ブルースで「Shine On」を描きました。
『Dawa』(2017〜2021年)
ウィンウッド・ウォールズはマイアミにある壁画の空間です。ウィンウッド・ウォールズの公式サイトは、カワサキの作品を2017年から2021年までの壁画として紹介し、その緻密で技巧的な作風が漫画とアール・ヌーヴォーの両方から影響を受けていると書いています。
公式サイトの壁画のページによれば、『Dawa』は39×11フィート(約11.9×3.4メートル)の壁画です。角をはさんだ2面の壁に、左には大きな角をもつ羊、右には、たくさんの飾りのついた帽子と首飾りを身につけた女性が描かれています。灰色の濃淡で描かれた羊と女性の後ろに、ピンクと紫の雲が広がります。

木のパネルでは鉛筆の細い線が画面を支えていましたが、壁画では、その線がそのまま大きな面に引き伸ばされています。カワサキはよくある質問のページで、大きな作品や壁画のときは、紙に細かい素描を完成させてからスキャンし、プロジェクターで壁や板に投影すると書いています。パネルでつちかった線の美しさを、大きな壁でも保つための方法です。
題材の広がりと現在(2016年〜2026年)
パネルの作品でも、題材は少しずつ広がっていきます。カワサキはグループ展のテーマにあわせた作品も多く手がけています。
『Dreaming of Koholint Island』(2016年)
大きな頭巾のような形の中に、少女の顔が浮かんでいます。頭巾には、小さな鳥や動物、ハートや鍵のような記号が、ゲームの画面のように並んでいます。とがった耳が、少女が物語の世界の住人であることを感じさせます。

公式サイトの作品ページによれば、この絵は2016年に、ロサンゼルスのヒーロー・コンプレックス・ギャラリーで開かれた『ゼルダの伝説』の記念グループ展のために描かれました。12×12インチの木のパネルに油彩、アクリル、鉛筆で描かれています。漫画やゲームといった日本のポップカルチャーと、カワサキの繊細な線が自然に結びついた1点です。
『Ohana』(2018年)
三つ編みにした長い髪を肩から垂らし、細かな飾りのついた髪飾りと首飾りを身につけた女性が、遠くを見つめています。背景には、夕暮れの空に浮かぶ三日月と、針葉樹の森、重なり合う山並みが広がります。女性がまとう布の模様は、木目と溶け合うように描かれています。

公式サイトの作品ページによれば、この絵は2018年の作品で、24×24インチの木のパネルにアクリル、油彩、鉛筆で描かれ、ニューヨークのスポーク・アート・ギャラリーのグループ展「Suggestivism; Resonance」で発表されました。2007年の『Kurage no Yume』では背景が木目のままでしたが、この作品では背景の風景まで描き込まれています。
その後もカワサキは、2016年の「Interlude」、2017年の「Gilded Horizons」など、ロサンゼルスの画廊で個展を重ねました。公式サイトの展覧会歴によれば、2024年11月にはロンドンのストールン・スペース・ギャラリーで個展「Ghost Stories」を開き、同じ2024年にはロサンゼルスのジャイアント・ロボット GR2 のグループ展「Rakugaki Six」にも参加しています。GR2では、日本のひな祭りを祝うグループ展「Momo no Sekku(桃の節句)」で、ほかの作家との共同の壁画も描きました。
| 年 | 主な個展・壁画(公式サイトの展覧会歴・壁画のページによる) |
|---|---|
| 2003年 | 「Midori Series」(ルームズ・カフェ、ロサンゼルス) |
| 2007年 | 「The Innocents」(リネージ・ギャラリー、フィラデルフィア) |
| 2008年 | 「Mayoi Michi」(コプロ・ネイソン・ギャラリー、サンタモニカ) |
| 2009年 | 「Watching Shadows」(スペース・ユイ、東京)、「Hajimari」(ジョナサン・レヴァイン・ギャラリー、ニューヨーク) |
| 2012年 | 「Midnight Reverie」(ジョナサン・レヴァイン・ギャラリー、ニューヨーク) |
| 2014年 | 「Hirari Hirari」(メリー・カーノウスキー・ギャラリー、ロサンゼルス) |
| 2015年 | ロングビーチ美術館、ウースター美術館で壁画 |
| 2016年 | 「Interlude」(シンクスペース・ギャラリー、ロサンゼルス)、壁画「The Siren」(ホノルル) |
| 2017年 | 「Gilded Horizons」(メリー・カーノウスキー・ギャラリー)、ウィンウッド・ウォールズの壁画『Dawa』(〜2021年) |
| 2024年 | 「Ghost Stories」(ストールン・スペース・ギャラリー、ロンドン) |
まとめ
いかがだったでしょうか。オードリー・カワサキの人生と作品について、ご紹介してきました。
カワサキは1982年にロサンゼルスで生まれ、日本の漫画を読みながら絵を描き始めました。放課後の美術教室で基礎を学び、プラット・インスティテュートを離れたあと、2000年代の初めにロサンゼルスで作品の発表を始めます。2009年には東京とニューヨークで個展を開き、2015年ごろからは美術館やウィンウッド・ウォールズで大きな壁画も手がけるようになりました。
その絵の魅力は、方法の中にあります。木目の美しい板を選び、鉛筆の線に1週間をかけ、透明な下地の上に薄い絵具を何層も重ねる。アール・ヌーヴォーの流れるような線と、漫画の描線から学んだ表現が、木のあたたかな色の上で一つになっています。
題名に日本語を多く使い、東京でも個展を開いてきたカワサキの作品は、日本の読者にとっても身近に感じられるかもしれません。機会があれば、ぜひ木目と鉛筆の線が見えるくらいの距離で、実物をじっくり眺めてみてください。
Euphoric " " の視点
カワサキの絵のやわらかな透明感は、手順の積み重ねから生まれています。木目の美しい板を選び、鉛筆の線を残し、薄い絵具を何層も重ねる。公式サイトで自ら明かしているその方法は、一つひとつの工程を丁寧に重ねることの確かさを伝えています。
木のパネルで磨いた細い線は、やがてホノルルやマイアミの大きな壁画へと広がりました。日本の漫画とアール・ヌーヴォーに刺激を受けて描き始めた画家が、自分の方法を守りながら表現の舞台を広げてきた歩みは、描くことを志す人にとって大きな励ましになります。
この作品を見に行くには
カワサキの作品は、ロサンゼルスなどの画廊の展覧会で発表されてきました。2026年10月時点で、常設で作品を見られる所蔵館は確認できませんでした。展覧会の予定や最新の情報は、公式サイトをご確認ください。






