こんにちは。ユアムーン株式会社 編集部です。
皆さんはスティーブン・ダルドリーという人物をご存知ですか?
スティーブン・ダルドリー(Stephen Daldry)は、イギリスの舞台演出家・映画監督です。ロンドンのロイヤル・コート劇場の芸術監督を務め、ナショナル・シアターで演出した『夜の来訪者(An Inspector Calls)』で国際的な評価を得たのち、映画『リトル・ダンサー』で映画監督としてデビューしました。
映画では『リトル・ダンサー』『めぐりあう時間たち』『愛を読むひと』の3作でアカデミー賞監督賞にノミネートされ、舞台ではミュージカル『ビリー・エリオット』でトニー賞を受賞しています。テレビドラマ『ザ・クラウン』では製作総指揮と演出を担い、エミー賞も受けました。
本記事ではそんなスティーブン・ダルドリーの人生と作品についてご紹介します。受賞歴は、アカデミー賞やトニー賞、エミー賞を主催する団体の公式記録で確認したものだけを、表と図解にまとめています。
コンテンツ
Toggleスティーブン・ダルドリーって?
スティーブン・ダルドリーは、イングランド南西部のドーセットで生まれた演出家です。ブリタニカ百科事典は、葛藤を抱えた人物の物語を、繊細で奥行きのある手つきで描く監督・演出家と紹介しています。
劇場の現場から出発し、小さな劇場の芸術監督を重ねたのち、舞台、映画、テレビドラマのすべてで大きな賞を受けてきました。ひとつの分野にとどまらない仕事ぶりが、ダルドリーの大きな特徴です。
日本語では「スティーヴン・ダルドリー」と表記されることも多く、「スティーブンダルドリー」と中黒を入れずに書かれることもあります。いずれも同じ人物を指しています。
基本情報
| 名前 | スティーブン・ダルドリー(Stephen Daldry) |
| 生年月日 | 1961年5月2日(ブリタニカ百科事典、エンパイア誌)。1960年生まれとする資料もある |
| 国籍・出身 | イギリス。イングランド・ドーセット生まれ |
| 学歴 | シェフィールド大学(英文学の学士、1982年) |
| 分野 | 舞台演出家、映画監督、テレビドラマの製作総指揮・演出 |
| 代表作 | 舞台『夜の来訪者』(1992年)、映画『リトル・ダンサー』(2000年)、映画『めぐりあう時間たち』(2002年)、ミュージカル『ビリー・エリオット』(2005年)、映画『愛を読むひと』(2008年)、ドラマ『ザ・クラウン』(2016年〜) |
| 主な受賞 | トニー賞 演出賞(1994年・2009年)、ローレンス・オリヴィエ賞 演出賞(1993年・2019年)、エミー賞 ドラマシリーズ監督賞(2018年)ほか。アカデミー賞監督賞に3回ノミネート |

経歴と作品
演出家を志した少年時代とシェフィールド大学(1970年代〜1982年)
ブリタニカ百科事典によると、ダルドリーはイングランド南西部の町トーントンの劇団に加わり、15歳のときには演出家になると心に決めていました。
その後、英国空軍の奨学金を得てシェフィールド大学に進み、1982年に英文学の学士号を取得します。在学中は大学の劇団で演出を手がけました。卒業後はイタリアで道化師の見習いをするという、型にはまらない経験もしています(ブリタニカ百科事典)。
小さな劇場の芸術監督として(1984〜1992年)
イギリスに戻ったダルドリーは、シェフィールドに腰を落ち着けます。ブリタニカ百科事典によると、1984年から1986年までメトロ・シアター・カンパニーの芸術監督を務め、1986年から1988年まではシェフィールドのクルーシブル劇場で研鑽を積みました。

1989年から1992年まではロンドンのゲート・シアターの芸術監督を務めました。ブリタニカ百科事典は、ダルドリーがここで海外の作家による知られざる作品を積極的に取り上げたと書いています。この姿勢は、のちのロイヤル・コート劇場でも変わりませんでした。
『夜の来訪者』とロイヤル・コート劇場(1992〜1998年)
1992年は、ダルドリーにとって大きな転機の年になりました。ナショナル・シアターで演出したJ・B・プリーストリーの戯曲『夜の来訪者(An Inspector Calls)』が大成功を収め、同じ年からロイヤル・コート劇場の芸術監督を1998年まで務めます(ブリタニカ百科事典)。

『夜の来訪者(An Inspector Calls)』(1992年)
『夜の来訪者』は、1944年から45年の冬に書かれ、1946年にウエストエンドで初演されたプリーストリーの戯曲です。物語の舞台は1912年4月。裕福なバーリング家が、娘の婚約を祝う夕食のあとにくつろいでいるところへ、グールと名乗る警部が突然訪ねてきます。警部の調べが進むにつれ、家族一人ひとりが隠していたことが明らかになっていきます(作品公式サイト)。
ヴィクトリア&アルバート博物館の所蔵資料の解説によると、ダルドリーの演出によるこの作品は1992年9月11日にナショナル・シアターで開幕し、翌1993年8月25日にはロンドンのオールドウィッチ劇場に移って上演されました。

この演出の出発点は、ナショナル・シアターより前にありました。舞台照明の記録を集めるサイト「ザ・ライティング・アーカイブ」に、照明チームの一員が残した上演史によると、ダルドリーは1989年10月にヨークのシアター・ロイヤルで、美術・衣装のイアン・マクニール、照明のリック・フィッシャーとともにこの戯曲を演出していました。1992年の春、ナショナル・シアターの芸術監督リチャード・エアに上演を依頼されたダルドリーは、このヨークでの演出を作り直すことを選び、同じ制作陣で臨みました。音楽はスティーヴン・ウォーベックが書いています。
舞台の中心に置かれたのは、細い柱の上に建つ一軒の家です。同じ上演史は、電話ボックス、雨のカーテン、街灯、石畳の床なども加えられたと記しています。英国の文化批評サイト「ジ・アーツデスク」の劇評によると、家の正面の壁は人形の家のように蝶番で開き、中の家族の姿があらわになります。娘が部屋の端まで歩くと落ちないよう注意しなければならないなど、舞台装置そのものが登場人物を追いつめていく演出です。警部が観客に直接語りかける場面もあります。
上演史の筆者は、それまで「犯人探し」の芝居と見られがちだったこの戯曲を、社会への問いかけとしてとらえ直したことが成功の理由だったと振り返っています。
作品公式サイトによると、この演出はローレンス・オリヴィエ賞で最優秀リバイバル賞、演出賞、美術賞の3部門を受賞しました。ブロードウェイに渡ると、1994年のトニー賞で4部門を受け、ダルドリー自身も演出賞を受賞しています(トニー賞公式サイト)。
公式サイトは、このプロダクションがオーストラリアやアメリカを巡演し、ウエストエンドでの再演やイギリス国内の巡演を重ね、世界で500万人以上が観たと紹介しています。そして「史上最も長く上演されている戯曲のリバイバル」だとしています。1992年に生まれた演出が、30年以上たっても上演され続けているのです。ザ・ライティング・アーカイブの上演史は、オーストラリアや日本でも上演されたこと、イギリスの巡演では、この戯曲を授業で学ぶ多くの生徒が劇場を訪れることにも触れています。

映画監督デビュー『リトル・ダンサー』(2000年)
ブリタニカ百科事典によると、ダルドリーは1999年にデヴィッド・ヘアの一人芝居『Via Dolorosa』の演出でブロードウェイに戻りました。そして、それまで短編映画を1本手がけただけだったダルドリーに、思いがけず長編映画の監督の話が舞い込みます。それが『リトル・ダンサー(Billy Elliot)』でした。
『リトル・ダンサー(Billy Elliot)』(2000年)
舞台は1984年、ストライキに揺れるイングランド北部の炭鉱の町です。主人公の少年ビリーは、バレエと出会い、ロンドンのロイヤル・バレエ団で踊るという夢を抱きます。少年の夢は、やがて家族や周りの人々を巻き込んでいきます(映画情報サイト「映画の時間」)。ブリタニカ百科事典は、この作品を「バレエに居場所を見いだす少年の物語」と紹介しています。
映画の時間の紹介によると、作品は2000年9月29日にイギリスで公開され、500万ドルという低予算ながら世界の映画祭で高く評価され、1億ドルを超える興行収入をあげました。日本では2001年1月27日に公開され、2024年10月4日には『リトル・ダンサー デジタルリマスター版』として再びスクリーンに登場しています。
映画芸術科学アカデミーの記録によると、ダルドリーはこの作品で、2001年の授賞式のアカデミー賞監督賞にノミネートされました。長編第1作での監督賞ノミネートでした。
文学作品を映画にする(2002〜2014年)
『リトル・ダンサー』のあと、ダルドリーは小説を原作とする映画を続けて監督します。脚本家デヴィッド・ヘアとの協働が多いことも特徴です。
『めぐりあう時間たち(The Hours)』(2002年)
ピュリッツァー賞を受けたマイケル・カニンガムの小説を、デヴィッド・ヘアが脚色した作品です。ブリタニカ百科事典は、ヴァージニア・ウルフの小説『ダロウェイ夫人』をめぐる3つの物語として紹介しています。ジュリアン・ムーア、メリル・ストリープ、そしてウルフ役のニコール・キッドマンが出演しました。
アカデミー賞の記録によると、ダルドリーはこの作品で2003年の授賞式の監督賞に再びノミネートされ、キッドマンは主演女優賞を受賞しています。
『愛を読むひと(The Reader)』(2008年)
ドイツの作家ベルンハルト・シュリンクの小説を、再びデヴィッド・ヘアが脚色しました(ブリタニカ百科事典)。アカデミー賞の記録によると、この作品は2009年の授賞式で作品賞と監督賞にノミネートされ、主演のケイト・ウィンスレットが主演女優賞を受賞しました。ダルドリーにとっては、長編3作すべてで監督賞にノミネートされたことになります。
『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い(Extremely Loud & Incredibly Close)』(2011年)
アメリカの作家ジョナサン・サフラン・フォアの小説を映画にした作品です(ブリタニカ百科事典)。ニューヨークを舞台に、9歳の少年が父の残した鍵に合う錠前を探して街を歩く物語です。
『Trash』(2014年)
ブリタニカ百科事典は、ごみを拾って暮らす3人の少年が、政治の不正に関わるものを見つけてしまう物語と紹介しています。舞台はブラジルです。

ミュージカル『ビリー・エリオット』(2005年〜)
ダルドリーは、自身の映画を舞台に移すことにも挑みました。ブリタニカ百科事典によると、2005年にロンドンで初演されたミュージカル『ビリー・エリオット』は、エルトン・ジョンが音楽を手がけ、ローレンス・オリヴィエ賞を4部門で受賞しました。脚本と歌詞はリー・ホールが手がけています(ホリプロの日本公演の発表)。
2008年に開幕したブロードウェイ公演は、トニー賞で作品賞を含む10部門を受賞しました(ブリタニカ百科事典)。トニー賞公式サイトの記録では、ダルドリーは2009年のトニー賞でミュージカル演出賞を受賞しています。映画と舞台の両方で、同じ物語を自ら演出したことになります。
作品公式サイトによると、このミュージカルは5つの大陸で1,200万人以上が観て、世界で85以上の賞を受けています。2026年10月時点の公式サイトは、ロンドンでの上演から10年を経て、イギリス国内の巡演とウエストエンドへの帰還を告知しています。日本でも2017年7月に初演され、ホリプロは2023年に、2024年7月から11月の上演を発表しています。
舞台とテレビを行き来する(2013年〜)
映画で成功したあとも、ダルドリーは舞台の仕事を続けています。ブリタニカ百科事典によると、2013年にはピーター・モーガンの戯曲『ザ・オーディエンス』でヘレン・ミレンを演出しました。エリザベス2世と歴代の首相たちが60年あまりにわたって交わした、週に一度の非公開の会見を想像して描いた作品です。
2014年にはデヴィッド・ヘアの戯曲『スカイライト』の再演を演出し、キャリー・マリガンとビル・ナイが出演しました。この演出で、ダルドリーは2015年のトニー賞の演劇演出賞にノミネートされています(トニー賞公式サイト)。
『ザ・クラウン(The Crown)』(2016年〜)
『ザ・オーディエンス』で組んだピーター・モーガンと、ダルドリーは再びタッグを組みます。それがエリザベス2世の生涯を描くNetflixのドラマ『ザ・クラウン』です。ダルドリーは製作総指揮を務め、いくつかのエピソードの演出も手がけました(ブリタニカ百科事典)。
テレビ芸術科学アカデミーの記録によると、ダルドリーは2018年、エピソード「Paterfamilias」の演出でエミー賞のドラマシリーズ監督賞を受賞しました。2021年には製作総指揮として、作品がドラマシリーズ作品賞を受けています。
『The Inheritance』(2018年)
E・M・フォースターの小説『ハワーズ・エンド』から着想を得た戯曲で、2018年にロンドンで初演されました(ブリタニカ百科事典)。2019年のローレンス・オリヴィエ賞では、作品賞にあたる新作演劇賞などを受け、ダルドリーは演出賞を受賞しています(ブリタニカ百科事典、ブリティッシュ・シアター・ガイド)。ブロードウェイ公演は2019年に開幕し、トニー賞の演劇作品賞を受けました(ブリタニカ百科事典)。
スティーブン・ダルドリーの主な受賞
本文で紹介した受賞・ノミネートを、主催団体の公式記録とブリタニカ百科事典にもとづいてまとめました。
| 年 | 賞 | 部門 | 作品 | 結果 |
|---|---|---|---|---|
| 1993年 | ローレンス・オリヴィエ賞 | 演出賞 | 『夜の来訪者』 | 受賞 |
| 1994年 | トニー賞 | 演劇演出賞 | 『夜の来訪者』 | 受賞 |
| 2001年 | アカデミー賞 | 監督賞 | 『リトル・ダンサー』 | ノミネート |
| 2003年 | アカデミー賞 | 監督賞 | 『めぐりあう時間たち』 | ノミネート |
| 2009年 | アカデミー賞 | 監督賞 | 『愛を読むひと』 | ノミネート |
| 2009年 | トニー賞 | ミュージカル演出賞 | 『ビリー・エリオット』 | 受賞 |
| 2015年 | トニー賞 | 演劇演出賞 | 『スカイライト』 | ノミネート |
| 2018年 | エミー賞 | ドラマシリーズ監督賞 | 『ザ・クラウン』「Paterfamilias」 | 受賞 |
| 2019年 | ローレンス・オリヴィエ賞 | 演出賞 | 『The Inheritance』 | 受賞 |
| 2021年 | エミー賞 | ドラマシリーズ作品賞(製作総指揮として) | 『ザ・クラウン』 | 受賞 |
アカデミー賞の年は授賞式の年です。ブリタニカ百科事典によると、ダルドリーは2004年に大英帝国勲章(CBE)を受けています。

まとめ
いかがだったでしょうか。今回は、イギリスの舞台演出家・映画監督スティーブン・ダルドリーをご紹介しました。
15歳で演出家になると決めたダルドリーは、シェフィールドやロンドンの小さな劇場で経験を重ね、1992年の『夜の来訪者』で国際的な評価を得ました。その後、長編第1作の『リトル・ダンサー』から3作続けてアカデミー賞監督賞にノミネートされ、ミュージカル『ビリー・エリオット』や『ザ・クラウン』でも大きな賞を受けています。
劇場、映画、テレビと形は違っても、小説や戯曲の物語を、人物の心の動きに寄り添いながら描く姿勢は一貫しています。気になった作品から、ぜひ触れてみてください。
Euphoric " " の視点
ダルドリーは、劇場、映画、テレビと形を変えながら、小説や戯曲の物語を、人物の心の動きに寄り添って描いてきた演出家です。1992年の『夜の来訪者』では、それまで「犯人探し」の芝居と見られがちだった戯曲を、社会への問いかけとしてとらえ直しました。
すでにある物語でも、光の当て方を変えれば新しい意味が立ち上がる。長編第1作から3作続けてアカデミー賞監督賞にノミネートされた映画の仕事にも、その姿勢は通じています。表現の場が変わっても軸を失わないその歩みは、一つの物語を何度でも読み直す面白さを、観客に教えてくれます。
作品に触れるには
ダルドリーの演出作品は、上演・配信の権利者の公式サイトで紹介されています。上演や配信の状況は時期によって変わるため、最新の情報は各公式サイトをご確認ください。







