こんにちは。ユアムーン株式会社 編集部です。
皆さんは美術館に行ったことがありますか?
近年はポップカルチャーの展示なども増え、美術館に行くハードルはかなり低くなったかもしれません。
しかし、西洋絵画や現代アートなどの“ムズカシイ”ジャンルを鑑賞するのは難しそう…という方は多いのではないでしょうか?
本記事では美術初心者の方でもわかる西洋絵画の鑑賞ポイントについて解説します。
目次
イントロ情報
西洋絵画って?
西洋絵画とは具体的に何を指すのでしょうか。
まず、西洋絵画といった時の西洋とは、多くの場合ヨーロッパ諸国のことを指します。
これは美術が、その基礎となるギリシャ・ローマ文化の影響を強く受けていることに由来しています。
西洋美術史は古代ギリシア・ローマ美術から出発し、12~16世紀にかけて勃興したゴシック美術やルネサンス美術といった様式を経てヨーロッパ諸国(特にイタリア)に爆発的に広まり、美術の中心地となった経緯があります。
西洋=アメリカというイメージを持つ方も多くいるかもしれませんが、アメリカ合衆国の独立よりもはるかに長い歴史を持つ西洋絵画の世界においては表立ってアメリカを意味することはあまりありません。
アメリカで発達した美術様式を特別に指す場合、アメリカン・〇〇(アメリカン・ポップなど)と呼称されることもあります。
次に、絵画とは具体的に何を指すのでしょう。
絵画は画材によって大きく油彩、水彩、テンペラ、フレスコの四つに分類できます。
その中で西洋絵画に最も用いられているのは油彩です。
べっとりとした顔料を油で溶いて使うので、画家によって筆致がさまざまに出るのが特徴です。
画材はだいたい同じ!
ここまではイメージ通りの方も多いかもしれませんが、西洋絵画の大きな特徴の一つに「天井画・壁画」という要素があります。
西洋絵画は宗教との結びつきが強いことから、教会や礼拝堂の壁に直接描かれたり、飾られることが前提の作品が多くあります。
作品が当時どのように展示されていたのかを想像してみるのも絵画の鑑賞ポイントの一つになると思います。
鑑賞ポイント1:宗教的文脈
現代の日本人にはとっつきにくいポイントですが、西洋絵画は宗教的文脈、特にギリシア神話やキリスト教との結びつきをなくしては語れません。
これは絵画が神学(宗教学)を広めたり、学ぶための手段として利用されてきた歴史に由来します。
そのため、西洋絵画(特に古典絵画やルネサンス期)の作品には聖書のシーンを描いたものが多く、キリスト教の中身を知らない人には何を描いているか分からないのも無理はありません。
神話も聖書も内容が膨大ですから、登場人物やシーンをすべて理解しようとする必要はありません。
注目するべきポイントは「神と人の関係」です。
「神と人の関係」とは、神話や聖書で神と人の関係がどのように描かれているかということです。
神話でも聖書でも多くの場合、人は神によって作られた被造物(似姿)という存在です。
そしてギリシア神話ではプロメーテウスの火によって、キリスト教では禁断の果実によって知恵や文明を得る代わりに不完全な存在となります。
これによって人は死の運命や原罪を背負ったり、試練を与えられることになりました。
以上の大まかな構造を知っていれば、神(あるいは天使)と人が描かれている絵を解き明かすヒントになるでしょう。
実際に描かれているエピソードはもっと複雑ですが、「神は人に命や試練を与える」「人の死や罪を犯す姿」というモチーフはブレないので、ぜひ手がかりにしてみてください。
ミケランジェロ作「アダムの創造」。
最初の人類アダム(左)に神(右)が命を吹き込む劇的シーンを描いている、と分かればOK!
鑑賞ポイント2:寓意と象徴とアトリビュート
「鑑賞ポイント1:宗教的文脈」と関わりが深い2つ目のポイントとして、寓意と象徴とアトリビュートがあります。
西洋宗教の登場によって発達した表現方法ですが、宗教画に限らず、今日ではポップカルチャーにも用いられる手法です。
寓意(アレゴリー)とは、抽象的概念をモノに置き換えたものです。
例えば「死=骸骨」「平和=ハト」のように、具体的な形を持たない概念を実在するモノに置き換えて表現するのは典型的な寓意(アレゴリー)と言えます。
他にも「果物=成熟または衰退」のように文脈によって意味が異なるパターンや、「ヴァイオリン=刹那的な人生」のように直感的には意味が読み取れないパターンも存在します。
このような表現方法を用いた絵画を寓意画(ヴァニタス)と言います。
ヴァニタスという言葉にはラテン語で「空虚」を意味し、その多くは人生や文明の儚さや虚しさを表す風刺的な側面を持っています。
パルミジャーノ作『弓を削るアモル』。
書物(=知識)を踏みつけて弓を作る様子は、知恵より実用的な道具や経験が尊いというメッセージが読み取れます。
象徴(シンボル)とは、抽象的な概念を記号や図形に置き換えたものです。
身近な例には文字、国旗などがあります。
日の丸自体は具象物(太陽)を描いたモノですが、白地に配置することで「日本」という抽象的な存在を表すシンボルになります。
寓意と似た定義ですが、象徴と意味が関係ないことが重要なポイントです。
また、図形以外に色や音も広くシンボルと捉えることができます。
象徴単体で絵画に用いられることは少ないですが、近代以降の抽象絵画にはとても多用されている手法です。
ピート・モンドリアン作『コンポジションⅡ』。
三色をエネルギッシュに配置したこの作品は色のシンボルを活用したといえますが、
有名になりすぎてこの配置がシンボルと化している感があります。
アトリビュート(持物)とは、描かれているキャラクターが持つアイテムのことです。
これは寓意の応用といえる表現方法で、「人物の特徴」と「アイテムの持つ意味」を寓意によって結びつけることで描かれている人物を特定することができます。
例えば、青いマントに赤い服を身につけている女性が描かれているとき、その女性は聖母マリアであると特定することができます。
当時の青の顔料にはラピスラズリという希少な鉱物が用いられており、その希少性から聖書の中で特別な存在である聖母マリアの図像に使われることになったという経緯があります。
このように、アトリビュートは寓意よりも具体的なエピソードを伴う場合が多くありますが、そのすべてを覚える必要はありません。
この章で紹介した寓意・象徴・アトリビュートは本来、聖書の内容を広める際に、文字が読めない人にも物語が伝わるように発展していったものです。
もし西洋宗教に詳しくないのであれば、積極的に寓意・象徴・アトリビュートを手がかりにして作品を楽しみましょう!
サンドロ・ボッティチェリ作『ヴィーナスの誕生』。
ヴィーナス(中央)の貝殻、ゼピュロス(左)の風、ホーライ(右)の花柄の衣。
すべてがアトリビュートです。
鑑賞ポイント3:カウンターカルチャー的性質
多くの創作物に共通するポイントですが、西洋絵画は特にカウンターカルチャー的側面が強いジャンルです。
この章では西洋美術史の中心的なジャンルをカウンターカルチャーという視点で見ていきましょう。
西洋絵画の中で最も有名なカウンターカルチャーはルネサンス美術でしょうか。
西洋美術史の中で長いあいだ“良い”とされてきたのは宗教画です。
それは絵画そのものが国政のひとつであった宗教の頒布に利用されてきた歴史に由来します。
今で言うプロパガンダ的な側面があった歴史画ですが、その代償に、聖書を元に描かれた理想的な絵画はどれも没個性的で現実味がなく、創作としての価値と多様性を薄れさせていました。
そこで誕生したのがルネサンス美術です。
ルネサンスとはフランス語で「再生」を意味し、古代ギリシア・ローマを手本とする人間的な美しさを追求しようという美術様式です。
古代の美術を理想としながら、輪郭線の排除や空気遠近法といった新しい手法でリアルな宗教画を描いたことで、現実世界に生きる私たちが本当に追い求めるべき美とは何かを画壇に問うたのです。
ダ・ヴィンチ作『最後の晩餐』。
描かれているのは新約聖書のワンシーンですが、輪郭線のないスフマート技法や遠近法、横長の構図、すべての手法が絵を見る人を聖書の中へ誘います。
ルネサンス美術を機にバロック美術、新古典主義といった様式を経て、宗教画をどのようにリアルに劇的に描くかに腐心した時代が続きます。
その間に発展した美術学校や絵画工房といった教育機関でもそれらを推奨し、アカデミズム美術という一大ジャンルが築かれます。
それに反旗を翻したのがギュスターヴ・クールベ、フランソワ・ミレーに代表される写実主義のアーティストたちです。
神話や聖書の登場人物ばかりをありがたがる風潮を打破すべく、名のない一般市民の生活にフォーカスをあてた生々しい作品を発表し物議を醸します。
ギュスターヴ・クールベ作『オルナンの埋葬』。
オルナンとはクールベの生まれ育った山村のこと。つまり田舎です。
当時の官展に田舎の一般市民の葬式を描いた作品を出品するだけでも大変なことですが
この作品は歴史画にしか用いられないような大きなキャンバスに描かれており、
いろんな意味で批判を受けました。
写実主義はアカデミーやサロンの批判的な意見を纏いながらも流行にこぎつけました。
その流行の中で絵画に描かれた人物のキャラクター性やドラマ性に注目が集まり、ロマン主義が興ります。
形を変えながらも、絵画を見る人が没入できるようなドラマチックな様式が長く流行したこの時代に、衝撃的な作品が発表されます。
それがクロード・モネの『印象ー日の出』です。
名高き印象派の語源となったこの作品は、リアルタイムで移り変わる光を表現した曖昧なタッチと、登場人物もストーリーもない風景画という点で物議を醸しました。
ここで西洋絵画は「聖書を元にした理想的な絵を描く古典美術」でも「現実の人物や風景をリアルに描く写実主義」でもない「作者の心象や観念を反映した現代美術」へと発展を遂げます。
クロード・モネ作『印象 日の出』。
リアルタイムの光の移り変わりを描くことができるようになったのは、
絵の具チューブの発明によって戸外制作が可能になったためです。
曖昧なタッチも、風景画を描くことも、絵の具チューブの誕生によって生まれたのです。
後期印象派と呼ばれる世代になると、曖昧で荒々しいタッチは凝縮され、二次元的な世界へと広がっていきました。
発展の鍵になったのはポール・セザンヌという人物です。
彼は印象派グループと懇意にしながら、キュビズムの萌芽となる抽象表現へと発展させたことで「近代絵画の父」と呼ばれています。
その影響を受けたのがパブロ・ピカソ。ジョルジュ・ブラックと共に、従来の視覚的に正しいとされた遠近法ではなく、平面を分割して異なる距離や角度の図像を描くキュビズムを創始しました。
パブロ・ピカソ作『アヴィニョンの女たち』。
後期印象派の平面的な構成に加え、二次元的遠近法であるキュビズム、一般市民の裸婦像、スペインでの生活やアフリカ彫像をヒントに描いたという点でプリミティヴィズムも取り入れており、カウンターカルチャー的要素がこれでもかと盛り込まれています。
印象派からキュビズムにかけての発展を経て、今で言うアーティスティックな絵画のイメージを固めていった西洋絵画ですが、決定的な芸術運動がここで興ります。
シュルレアリスムの登場です。
これまでのカウンターカルチャーと大きく異なるのは、無意識に作品をつくるという点です。
夢や幻覚にインスピレーションを受け、無意識で無秩序な作品に本当のアート性を見出そうとしたのがシュルレアリスムでした。
もはや現実から遠く離れた作品は画壇に衝撃を与えましたが、絵画のみならず(本来シュルレアリスムは詩文が発端でした)様々なジャンルのアートを巻き込み、現行の作品のみならず過去の作品の再評価まで行われる一大ムーブメントになりました。
サルバドール・ダリ作『時間の固執』。
シュルレアリスムの名手ダリは、指先にスプーンを乗せたままうたた寝をし、寝た瞬間にスプーンが落ちた音で起きると言う手法でアイデア発想をしていたようです。
とろけたような形の時計はチーズを見て思いついたと言われています。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
時代も文化圏も言語も異なる芸術を理解するのは難しいことかもしれませんが、注目するポイントを知っているだけで作品の印象や面白さが変わってくるのがアートの魅力ではないかと思います。
アートが知識を得ると面白くなるのが事実である一方で、知識を得る前の自分に戻ることはできないのも事実です。
ぜひ初めて作品を見たときの印象や、知識を得ていく過程で見た印象も大切にしながら、アートの奥深さを楽しんでいってください。
おすすめ書籍
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