トンマナとは、「トーン&マナー」を略した言葉で、ブランドの見た目・言葉づかい・振る舞いに、一貫した「調子(トーン)」と「作法(マナー)」を持たせるための取り決めのことです。ロゴや色といった個々の要素ではなく、それらをまとめて貫く「らしさ」の方針を指します。
トンマナが決まっていないと、担当者や制作会社が変わるたびに印象が変わり、同じ会社の発信なのに別の会社のように見えてしまいます。この記事では、トンマナの意味と決め方を、事例を交えて整理します。
この記事で分かることは、次の3点です。
- トンマナの意味と、ロゴ・ガイドラインとの違い
- 無印良品とテート(Tate)の事例から見る、トンマナが機能する条件
- トンマナを決める5つの手順と、よくある失敗
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Toggleトンマナとは何か:定義と範囲
トンマナの「トーン」は、ブランドが発するメッセージの調子や雰囲気です。「マナー」は、そのトーンを守るための作法や表現のルールにあたります。たとえば、色の使い方、写真の撮り方、文章の語尾、余白の取り方、対応の仕方などが含まれます。

トンマナが対象とする範囲は、見た目だけではありません。
| 領域 | 決める内容の例 |
|---|---|
| ビジュアル | 色の使い方、写真の雰囲気、余白、書体の選び方 |
| 言葉 | 語尾(です・ます調など)、一人称、使う言葉と避ける言葉 |
| 音・動き | 動画のテンポ、BGMの傾向、アニメーションの速さ |
| 振る舞い | 問い合わせへの返し方、店舗や受付での接し方 |
ロゴやコーポレートカラーは、トンマナを形にした一部です。ブランドガイドラインは、決めたトンマナを文書化したものと位置づけると、整理しやすくなります。
なぜトンマナが重要なのか
人はブランドを、ロゴ一つではなく、さまざまな接点の積み重ねで記憶します。ウェブサイト、パンフレット、名刺、店舗、SNS、電話の応対。接点ごとに調子が違うと、「この会社は結局どんな会社なのか」が曖昧になります。
マーケティング研究者のジェニファー・アーカー(Jennifer L. Aaker)は、1997年の論文「Dimensions of Brand Personality」(Journal of Marketing Research, 34巻3号, 347-356頁)で、ブランドを人の性格になぞらえて捉える「ブランドパーソナリティ」の枠組みを示しました。この論文では、ブランドの性格を「誠実さ(sincerity)」「興奮(excitement)」「能力(competence)」「洗練(sophistication)」「たくましさ(ruggedness)」の5つの次元で整理しています。
トンマナを決めるとは、このブランドパーソナリティを、見た目や言葉の具体的なルールに置き換える作業だと捉えることができます。「誠実なブランドでありたい」と考えるなら、その性格にふさわしい語尾、写真、色を選び続けることになります。
事例1:無印良品の「エンプティ」という調子
無印良品の公式サイトに掲載されたアートディレクター・原研哉氏の寄稿によると、原氏は無印良品の本質を「エンプティ(空っぽ)」という言葉で捉えています。ユーザーが自由に使い方を決められる余白を残すことが、無印良品のあり方だという考え方です。
同サイトでは、2003年に制作された新聞広告が、地平線だけを撮影したものだったと紹介されています。そこには地球と人間しか映っていません。他社が「これが欲しい」と思わせる広告を打つなかで、あえて何も語らない姿勢を示した事例です。原氏はこの広告について、特定のメッセージを伝えるというより、無印良品とは何かを、受け手が自由に感じ取って解釈できることを意図した、と説明しています。
この事例から学べるのは、トンマナは「何を足すか」だけでなく「何を足さないか」も含むという点です。商品、広告、店舗を貫く一つの調子が決まっていると、個々の判断で迷ったとき、「それは私たちらしいか」という物差しで決められます。
なお、無印良品の考え方を「これでいい」という言葉で説明する解説も見られますが、良品計画が公式に定義した表現かは確認できなかったため、本稿では扱っていません。
事例2:テート(Tate)が「変わり続けても、テートである」ためにしたこと
英国の美術館グループ、テート(Tate)の事例も参考になります。複数の美術館を一つのブランドとしてまとめる、というトンマナの課題が、はっきり表れているからです。
デザイン情報サイトのクリエイティブ・レビューやイッツ・ナイス・ザットによると、現在のテートのマークは、ウルフ・オリンズ(Wolff Olins)が、2000年のテート・モダン開館に合わせた組織全体のリブランディングの一環としてつくりました。中心にあったのは「look again, think again(もう一度見て、もう一度考える)」という考え方で、変化し続けながらも、一目でテートだと分かる設計が目指されました。
その後、2016年にデザイン会社のノース(North)が、このアイデンティティを見直しました。ノースは、ゼロから作り直すのではなく「進化させる」ことを選び、テートの全ての美術館とデジタル領域で、一つのロゴを共通で使えるようにしました。また、配色は、マーティン・クリード(Martin Creed)が手がけたテートのメンバー向けの委嘱作品から取られており、今後も数年ごとに新しいアーティストで更新される予定だと紹介されています。
ここから読み取れるのは、トンマナは固定ではなく、核となる調子を守りながら、更新の仕組みを内包できるということです。アーティストの作品を取り込む配色の更新は、美術館ならではの方法ですが、「核を決めて、周辺は更新する」という考え方は、企業にも応用できます。
トンマナの決め方:5つの手順

手順1:ブランドの核を確認する
トンマナは、土台となる考え方がなければ決められません。パーパス、ミッション、ポジショニング(選ばれる理由)を確認します。まだ言語化されていない場合は、トンマナより先に、そこを整える必要があります。
手順2:性格を3〜5語で言葉にする
ブランドを人にたとえたとき、どんな性格かを3〜5つの言葉で表します。アーカーの5つの次元は、言葉を選ぶときの手がかりになります。たとえば「誠実」「落ち着き」「知的」といった言葉です。
手順3:「らしい/らしくない」を対で書く
言葉だけでは判断がぶれるので、具体的に「らしい表現」と「らしくない表現」を対にして書きます。

| 観点 | 「らしい」例 | 「らしくない」例 |
|---|---|---|
| 言葉 | 事実を淡々と伝える | 過剰な煽り文句 |
| 写真 | 自然光、余白のある構図 | 加工の強い演出 |
| 色 | 抑えた2〜3色 | 多色使い |
上の表は書き方の見本であり、各社の実際の内容は、ブランドの性格によって変わります。
手順4:主要な接点で試す
名刺、ウェブサイトのトップ、パンフレット、SNS投稿など、主要な接点3〜4つで実際に試作します。紙の上では整合していても、実物にすると調子がずれることがあります。
手順5:ガイドラインにして、更新の担当を決める
決めた内容を、ブランドガイドラインとして文書にします。そのうえで、運用の窓口と、見直しの時期を決めておきます。トンマナは作って終わりではなく、守る仕組みと更新の仕組みがあって初めて機能します。
よくある失敗
- 好みで決めてしまう:担当者や経営者の好みで決めると、担当が変わったときに崩れる。性格の言葉から出発すると、説明がつく
- 見た目だけを揃える:色と書体は揃っているのに、文章や応対の調子が違うと、印象は一貫しない
- ルールが多すぎる:細かすぎるルールは守られない。核となる3〜5点に絞る
- 更新を想定していない:時代や事業の変化に合わせて見直す前提がないと、形骸化する
トンマナを社内で運用するコツ
トンマナは、決めることよりも、使われ続けることのほうが難しいものです。運用で意識したい点を挙げます。
「見本」を先に置く
言葉のルールだけでは、現場は動きません。「この写真は合っている」「この文面は合っていない」という実物の見本を、数点でも用意しておくと、判断が早くなります。
外部の制作会社と共有する
ウェブ制作や印刷物、動画の制作を外部に出すとき、トンマナが共有されていないと、会社ごとに解釈が分かれます。依頼の最初に、ブランドの性格の言葉と見本を渡し、確認の窓口を一つにしておきます。
例外の扱いを決める
キャンペーンや周年事業など、通常とは違う調子にしたい場面は必ず出てきます。そのときに「どこまで外してよいか」を決めておくと、例外が増えてルールが崩れる事態を防げます。たとえば、色や書体は変えず、言葉の調子だけ柔らかくする、といった範囲の決め方があります。
定期的に見直す
年に一度など時期を決めて、実際の発信を並べて見直します。ルールに合っているかだけでなく、ルールそのものが今のブランドに合っているかも確認します。
アートの視点:トンマナは「作家の文体」に似ている
美術の世界では、作家の「らしさ」は、一つの作品ではなく、作品群を貫く調子から感じ取られます。色の選び方、筆致、主題の扱い方。個々の作品は違っていても、「あの作家だ」と分かる。この感覚は、トンマナの目指すところとよく似ています。
企業が空間にアートを取り入れるときも、トンマナは判断の軸になります。作品の選定、展示の仕方、解説文の言葉づかいまで、ブランドの調子と合っているかを確かめることができます。オフィスの新設やリブランディングといった節目の計画段階で専門家に相談しながら、空間と言葉の両方の調子を揃えておくと、後の発信がぶれにくくなります。
まとめ
トンマナとは、ブランドの見た目・言葉づかい・振る舞いに一貫した調子と作法を持たせる取り決めです。無印良品のように「足さない」ことを含めて核を決めること、テートのように核を守りつつ更新の仕組みを持つことが、機能するトンマナの条件になります。性格の言葉から出発し、「らしい/らしくない」を対で書いておくと、運用が安定します。
よくある質問(FAQ)
Q1. トンマナとブランドガイドラインは同じものですか。
同じではありません。トンマナは「らしさ」の調子と作法という考え方そのもので、ブランドガイドラインは、それを文書にして共有するためのものです。
Q2. トンマナは誰が決めるのが良いですか。
経営者、広報、ブランド担当など、ブランドの核を理解している人が中心になり、制作会社や現場の担当者と一緒に決める形が一般的です。決めたあとに運用する人がいなければ形骸化するため、窓口の担当を決めておくことが大切です。
Q3. 途中でトンマナを変えてもよいのですか。
変えてかまいません。テートの事例のように、核を残して周辺を更新する方法もあります。ただし、変更の理由と範囲を明確にし、ガイドラインを更新して関係者に共有することが必要です。
この記事を書いた Euphoric " " について
Euphoric " " は、ユアムーン株式会社が運営するアートメディアです。ユアムーンは、デザインとクリエイティブを軸にしたブランディング会社です。ブランドの言語化から、ロゴやWebサイトなどのデザイン、社内外への発信までを一貫して設計しています。ご希望に応じて、アートの選定・導入もお手伝いしています。
トンマナは、ブランドの言語化と、デザインや表現のルールをつなぐ位置にあります。言葉と見た目と空間の調子を揃えるところまでを、一続きで設計しています。
参考資料
- Aaker, J. L. (1997). “Dimensions of Brand Personality.” Journal of Marketing Research, 34(3), 347-356. DOI: 10.1177/002224379703400304 https://www.citedrive.com/en/discovery/dimensions-of-brand-personality
- 無印良品「無印良品とクリエイター 原研哉」 https://www.muji.com/jp/flagship/huaihai755/archive/hara.html
- It’s Nice That「North evolves Tate identity to be more adaptable」 https://www.itsnicethat.com/news/north-tate-identity-210616
- Creative Review「06. Tate (1999), Wolff Olins」 https://www.creativereview.co.uk/the-tate-logo/
- Design Week「Tate refreshes its logo to bring together all of its galleries」(2016年6月) https://www.designweek.co.uk/issues/20-26-june-2016/tate-galleries-reveals-evolving-logo-diverse-audience/






