コーポレートコレクションとは、企業が一定の方針のもとで、美術作品を継続的に収集・所蔵し、活用していく取り組みのことです。単発で作品を購入して飾ることとは異なり、「何を集めるか」「何のために集めるか」を決め、時間をかけて育てていく点に特徴があります。
オフィスにアートを置く企業は多くありますが、方針のある収集になると、ブランドの考え方を示す強い手段になります。この記事では、海外の大手金融機関の事例をもとに、コーポレートコレクションの考え方と始め方を整理します。
この記事で分かることは、次の3点です。
- コーポレートコレクションの定義と、単なるアート導入との違い
- ドイツ銀行とUBSの事例から見る、収集と活用の考え方
- 中小規模の企業でも応用できる、始め方とよくある失敗
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Toggleコーポレートコレクションとは何か
コーポレートコレクションは、企業が所有する美術品の集まりです。ここで大切なのは、個々の作品の価値よりも、収集の方針と、それを使い続ける仕組みがある点です。

| 項目 | 単発のアート導入 | コーポレートコレクション |
|---|---|---|
| 目的 | 空間を整える | ブランドの考えを示し、長期で育てる |
| 選び方 | 空間や予算に合わせて都度決める | テーマや方針を決めて選ぶ |
| 活用 | 設置して終わりが多い | 展示、貸出、発信、社内活用まで想定する |
| 時間軸 | 短〜中期 | 長期 |
目的が「飾る」から「育てる」に移ると、選ぶ基準も、管理の仕方も、発信の仕方も変わります。
なぜ企業が「集める」のか
企業が美術品を集める理由は、企業によって異なりますが、主に次のような目的が考えられます。

- ブランドの姿勢を示す:何を評価し、何を支援するのかが、収集の方針に表れる
- 働く人の環境をつくる:日常的に作品に触れる環境が、職場の体験を変える
- 文化への貢献:作家の支援や、作品の公開を通じて、文化の担い手になる
- 対外的な信頼の形成:長期の継続は、企業の姿勢の裏づけになる
企業と芸術の関係を批判的に検討した研究もあります。研究者のチン・タオ・ウー(Chin-tao Wu)は、著書『Privatising Culture: Corporate Art Intervention since the 1980s』(Verso, 2002年)で、1980年代以降に、企業が美術や文化の領域へ関与を深めた経緯を、米国と英国を中心に検討しています。企業の収集には、文化への貢献という側面と、企業の利益や評価につながる側面の両方があります。どちらかだけで語らず、自社がどこに立つのかを自覚して設計することが、信頼される収集の前提になります。
事例1:ドイツ銀行(Deutsche Bank)のアートコレクション
ドイツ銀行は、世界有数の企業コレクションを持つことで知られます。同行の公式サイト(art.db.com)によると、コレクションは当初、1945年以降のドイツ美術を基盤として築かれ、現在は主に紙の作品(ドローイングなど)と写真に焦点を当てています。公式ページはその理由として、これらの媒体がドローイング、観察、思索と深く結びついていることを挙げています。
作品は同行のオフィスで展示されています。公式サイトによれば、フランクフルトのタワーでは、各フロアが一人のアーティストにあてられており、約100人の国際的なアーティストが紹介されています。地域別の規模として、米州で7,000点近い紙の作品、英国のオフィスでは4,000点を超える作品が示されています。
なお、コレクション全体の点数や開始年は、公式サイトのページによって示し方が異なります。本稿では、公式ページで確認できた範囲の数字のみを挙げています。
この事例から読み取れるのは、収集に明確な軸(紙の作品と写真)があること、作品が執務空間にあること、フロア単位で一人の作家を紹介するような見せ方の工夫があることの三点です。
事例2:UBSのアートコレクション
スイスの金融機関UBSも、長く現代アートを収集してきた企業です。UBSの公式サイトは、同社が1960年代から現代アートの積極的なコレクターであると述べています。公式の追悼記事(ドナルド・マロン氏を偲ぶ記事)では、現在のコレクションは世界の700を超えるオフィスにわたる3万点以上の作品で構成され、1960年以降の作家を対象にしていると紹介されています。
UBSは、コレクションを社内だけにとどめず、書籍の刊行や美術館への貸出にも取り組んでいます。2016年には、コレクションを紹介する書籍『UBS Art Collection: To Art its Freedom』が、出版社ハッチ・カンツ(Hatje Cantz)から刊行されました。同社のコレクション担当責任者メアリー・ロゼル(Mary Rozell)がコレクションの歴史を、美術史家のディーター・ブーフハート(Dieter Buchhart)がエッセイを執筆しています。
この事例からは、社内に置くだけでなく、外へ開く(出版、貸出)ことで、コレクションが企業の姿勢を伝える資産になることが分かります。
中小規模の企業にも応用できる考え方
ドイツ銀行やUBSは、非常に大きな規模の例です。同じことをそのまま行う必要はありません。応用できるのは、規模ではなく、次の考え方です。

1. テーマを一つに絞る
ドイツ銀行が紙の作品と写真に焦点を当てているように、収集の軸を一つ決めます。たとえば、「地域の作家」「同じ素材で制作する作家」「若手の版画」といった具合です。軸があると、10点に満たない段階でも、コレクションとして見えてきます。
2. 方針を文書にする
何を、何のために、どんな基準で集めるのかを、短い方針文にします。担当者や経営者が代わっても、収集が継続しやすくなります。
3. 管理と活用の担当を決める
購入より、その後の管理(保管、保険、台帳)と活用(展示替え、発信、貸出)のほうが長く続きます。担当を決めておくことで、収集が放置されるのを防げます。
4. 外へ開く方法を考える
自社サイトでの紹介、社内見学、地域の施設への貸出など、小さくても外へ開く手段を持つと、ブランドの資産として機能し始めます。
始める前のチェックリスト
- 収集の目的を、一文で説明できる
- 収集の軸(テーマ、作家、媒体)が決まっている
- 予算の年間枠と、管理にかかる費用を見込んでいる
- 来歴や権利に関する資料を、作品ごとに保管する体制がある
- 台帳を作る担当者と、更新のルールがある
- 税務上の扱いを、事前に専門家へ確認している(※美術品の税務は、国税庁の通達に沿った個別判断が必要です)
よくある失敗
- 目的が曖昧なまま買い始める:後から統一感がなくなり、方針の説明ができなくなる
- 作品を置くだけで終わる:活用がなければ、コレクションの意味が社内外に伝わらない
- 投資の期待を前面に出す:作品の価値は変動するため、収集の目的を値上がりに置くと、判断が不安定になる
- 一人の好みに寄る:担当者が代わると方針が途切れる。判断基準を言葉にして残す
運営の実務:台帳・保管・権利
コレクションは、作品を買った時点ではなく、管理が始まった時点から運営が始まります。実務上、押さえておきたい項目は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 台帳 | 作品名、作者、制作年、素材、サイズ、取得日、取得価額、設置場所、状態を記録する |
| 保管・展示環境 | 直射日光、温度・湿度、振動、人の動線を確認する |
| 保険 | 設置中と輸送中の補償範囲を確認する |
| 権利 | 作品の写真を広報などに使う場合の許諾の範囲を、作家やギャラリーに確認する |
| 来歴 | 購入先、取引の経緯を示す書類を保管する |
特に権利の点は見落とされやすい部分です。作品を所有していることと、その画像を自由に使えることは別の問題です。広報物やウェブサイトで作品を紹介する場合は、事前に、使い方の範囲を作家や権利者に確認します。
また、コレクションを外へ開く場合は、貸出の条件(期間、輸送、保険、展示環境)を事前に決めておくことが必要です。こうした実務が整っているほど、コレクションは長く運営できます。節目の計画段階で専門家に相談しながら、方針と体制を並行して整えておくと、後の負担が軽くなります。
アートの視点:コレクションは企業の「もう一つの履歴書」
美術館のコレクションは、その美術館が何を価値と見てきたかを表す履歴書のようなものです。企業のコレクションも同じで、何を集めてきたかを並べると、その企業の関心や姿勢が見えてきます。
だからこそ、収集は「誰かに見せるため」だけでなく、「自社が何を大切にするか」を確かめる作業として始めるのが長続きします。オフィス移転や周年といった節目の計画段階で、専門家に相談しながら方針を整えておくと、最初の一点が選びやすくなります。
まとめ
コーポレートコレクションとは、企業が方針を持って継続的に美術作品を収集し、活用していく取り組みです。ドイツ銀行は紙の作品と写真に軸を置いてオフィスで展開し、UBSは世界の拠点に作品を置きながら、書籍や貸出を通じて外へ開いています。規模ではなく、軸・方針・活用の仕組みを持つことが、企業のコレクションを長く機能させる条件になります。
よくある質問(FAQ)
Q1. コーポレートコレクションは、大企業でないと始められませんか。
規模は必須ではありません。テーマを一つに絞り、方針を文書にして、管理と活用の担当を決めれば、少ない点数でもコレクションとして成り立ちます。
Q2. 作品を購入する以外の方法はありますか。
作家に新作を依頼する方法(コミッションワーク)や、展示のために作品を借りる方法などがあります。目的と予算に応じて選びます。購入する場合は、来歴と権利の確認が必要です。
Q3. 税務上の扱いはどうなりますか。
法人が購入する美術品は、1点の取得価額が100万円未満か以上かなどによって、扱いが異なります。個別の判断は、税理士などの専門家にご確認ください。
この記事を書いた Euphoric " " について
Euphoric " " は、ユアムーン株式会社が運営するアートメディアです。ユアムーンは、デザインとクリエイティブを軸にしたブランディング会社です。ブランドの言語化から、ロゴやWebサイトなどのデザイン、社内外への発信までを一貫して設計しています。ご希望に応じて、アートの選定・導入もお手伝いしています。
企業のコレクションは、収集方針の言語化から始まります。ブランドの考え方に沿ったテーマの設計と、作品の選定・導入、活用までを、一続きで設計しています。
参考資料
- Deutsche Bank Art「Deutsche Bank Collection」 https://art.db.com/deutsche-bank-collection/
- Deutsche Bank「Art in the Towers」 https://art.db.com/deutsche-bank-collection/art-in-the-towers
- UBS「To Art its Freedom」 https://www.ubs.com/global/en/our-firm/art/to-art-its-freedom.html
- Hatje Cantz「UBS Art Collection」 https://www.hatjecantz.com/products/17990-ubs-art-collection
- UBS「Celebrating the Life and Legacy of Donald B. Marron」 https://www.ubs.com/global/en/our-firm/art/2020/life-and-legacy.html
- Wu, Chin-tao (2002). Privatising Culture: Corporate Art Intervention since the 1980s. London/New York: Verso. https://library.cca.edu/bib/41427






