こんにちは。ユアムーン株式会社 編集部です。
皆さんはリチャード・プリンスという人物をご存知ですか?
リチャード・プリンス(Richard Prince)は、1949年生まれのアメリカの美術家です。雑誌の広告写真をカメラで撮り直して自分の作品にする「リフォトグラフィー(再撮影)」で知られ、なかでもタバコの広告に登場するカウボーイを撮り直した「カウボーイ」のシリーズは、現代美術の歴史に残る作品として世界の美術館に収められています。
2026年にプリンスの大規模な回顧展を開いたウィーンのアルベルティーナ美術館は、プリンスを「アプロプリエーション・アート(盗用芸術)」のもっとも著名な作り手の一人と紹介しています。既存の画像を自分の作品に取り込むその方法は、作者とは誰か、オリジナルとは何かという問いを投げかけ、ときに裁判にもなってきました。
本記事ではそんなリチャード・プリンスの人生と作品についてご紹介します。カウボーイのシリーズの成り立ちや、よく知られた著作権の裁判で実際に何が判断されたのかも、裁判所の文書をもとに整理します。
コンテンツ
Toggleリチャード・プリンスって?

基本情報
| 本名 | リチャード・プリンス(Richard Prince) |
| 生年月日(没年月日) | 1949年生まれ(2026年10月時点で存命。月日は美術館の資料で確認できなかったため記載していません) |
| 国籍・出身 | アメリカ/当時アメリカが管理していたパナマ運河地帯の生まれ。ボストンで育つ |
| 学歴 | 美術館の資料で確認できなかったため記載していません |
| 分野 | 写真(再撮影)、絵画、彫刻、コラージュ、執筆 |
| 傾向 | アプロプリエーション・アート。1970年代から活動した「ピクチャーズ・ジェネレーション」の一人とされる |
| 師事した人物・影響を受けた人物 | 美術館の資料で確認できなかったため記載していません。同世代の作家としてシンディ・シャーマン、シェリー・レヴィーンらと並べて語られます |
| 拠点 | ニューヨーク(2026年のアルベルティーナ美術館の紹介による) |
プリンスと同じく既存のイメージや大衆文化を作品に取り込んだ作家・美術の流れについては、以下の記事でも詳しくご紹介しています。
経歴と作品
パナマ運河地帯に生まれる(1949年〜1960年代)
リチャード・プリンスは1949年、パナマ運河地帯で生まれました。ミュンヘンの現代美術コレクション、ゲッツ・コレクション(Sammlung Goetz)の作家紹介によると、この土地は当時アメリカが管理していた地域で、プリンスはその後マサチューセッツ州ボストンで育ちました。
アルベルティーナ美術館が2026年の回顧展で「鍵となる作品」として紹介したのが、1968年から69年にかけて制作された『The Magic Castle』です。プリンスはヨーロッパを旅する中で、パリやフィレンツェ、ウィーンの城や川、記念碑を撮りました。そして、土産物店や美術館の売店で売られていたスライド写真を、テーマごとに分けて自分の写真と混ぜ合わせました。
同館の解説によれば、このときプリンスは、自分の撮った写真が、売られている観光写真の決まりきった絵柄とほとんど変わらないことに気づきました。写真のオリジナリティや「自分が撮った」という作者性は、すでにある約束事やイメージによって前もって決められているのではないか。この問いが、のちの作品につながっていきます。
同館は、もっとも初期の作品群として「グレイ・フォルダー」も紹介しています。スナップ写真のような何気ない写真を2枚以上組み合わせたコラージュで、言葉と画像を組み合わせて写真の「証拠らしさ」を揺さぶったり、写真の上に絵具を塗ったりしています。走る車から同じ方向をくり返し撮った写真を並べ、時間の流れを表す作品もありました。同館は、のちのプリンスの特徴となる方法が、すでにこれらのコラージュに現れていると述べています。
タイム・ライフ社の切り抜き係から(1970年代)
プリンスは1970年代にニューヨークへ移りました。ゲッツ・コレクションによると、生計を立てるために出版社タイム・ライフ社で働き、編集者のために記事を切り抜く仕事を担当しました。オレゴン大学のジョーダン・シュニッツァー美術館も、プリンスがタイム誌の切り抜き部門で働きはじめ、そこで雑誌の広告写真を集めて撮り直すようになったと紹介しています。
アルベルティーナ美術館の解説によると、記事を切り抜いたあとに残るのは、腕時計やペン、室内装飾といった商品の広告がほとんどでした。この素材に惹かれたプリンスは、1977年に初めて35ミリカメラで広告を撮り直します。トリミングや拡大、手作業の修正によって、ロゴや説明の文字を戦略的に取り除き、広告が本来もっていた「商品を売る」という役割から画像を切り離しました。
撮り直した写真は、似た構図のものどうしでグループにして並べられました。同館は、同じような並べ方をくり返すことで、広告の作りものらしさや、見る人の欲望に働きかける視覚の約束事が見えてくると説明しています。とくに注目されたのは性別のステレオタイプで、似たポーズと服装でくり返し撮られた男性モデルは「権威」を、女性モデルの広告は「誘惑」の演出を、それぞれ見せていたといいます。
『Untitled (Three Men Looking in the Same Direction)』(1978年)
1978年の『Untitled (Three Men Looking in the Same Direction)』は、そうした初期の再撮影の代表的な作例です。3枚の写真が横に並び、どれもスーツにネクタイ姿の男性が、画面の右の方へ顔を向けています。1枚目の男性は口ひげをたくわえ、背景にはレストランのメニューが写っています。2枚目は眼鏡をかけて手をあごに添え、3枚目は記念碑のような石造りの建物の前に立っています。
3人は別々の広告から撮り直された人物ですが、服装も表情も顔の向きもよく似ています。並べることで、広告の男性像がいかに型どおりにつくられているかが、説明なしに伝わってきます。題名の「同じ方向を見る3人の男」という言葉も、そのまま画面の説明になっています。


ピクチャーズ・ジェネレーションの一人として(1980年代前半)
アルベルティーナ美術館は、プリンスの仕事がしばしば「ピクチャーズ・ジェネレーション」と並べて語られると説明しています。1970年代からニューヨークで活動した作家たちのゆるやかな集まりで、マスメディアが生み出すイメージの洪水が、わたしたちの現実の見え方をどう形づくっているのかを、具象的なイメージを使って批評しました。ゲッツ・コレクションは、同じ世代の作家としてシンディ・シャーマン、シェリー・レヴィーン、ローリー・シモンズの名を挙げています。
ジョーダン・シュニッツァー美術館の資料には、1982年のプリンスの言葉が引かれています。プリンスは、自分の写真は雑誌の中にあった「場面」や映画のスチルに近いものを、本物の写真にしたのだと語っています。
『Untitled (Three Women with Heads Cast Down)』(1980年)
1980年の『Untitled (Three Women with Heads Cast Down)』は、横幅4.5メートルを超える大きな作品です。白黒の粗い粒子の写真が3枚並び、それぞれの女性が、うつむいて目を伏せています。1枚目の女性は明るい髪で、模様のある上着を着ており、2枚目と3枚目の女性は暗い色のコートを着ています。背景は暗く、強い光が顔と髪だけを浮かび上がらせています。
3人の女性は別々の写真から取られていますが、うつむいた姿勢をそろえて並べることで、ひとつの物語の連続した場面のようにも見えてきます。どこかで見たことがあるような、しかし誰なのかは分からない女性たち。広告や映画の画面が、いかに似た身ぶりをくり返しているかを感じさせる作品です。

アルベルティーナ美術館によると、1982年から84年にかけて撮られた「ファッション」のシリーズでは、ファッション写真を狭く切り取って拡大し、強い光と大きなクローズアップで、顔を社会の期待や文化的な幻想を映すスクリーンのように見せました。同館は、プリンス自身が文章「The 8-Track Photograph」の中で、こうした方法を、既存の録音を再利用する音楽のサンプリングになぞらえていると紹介しています。
1980年代前半に始まった「ギャングズ」のシリーズでは、9枚から12枚の画像を決まった格子に並べて、1枚の印画紙に焼き付けました。広告だけでなく、サブカルチャーの雑誌や大衆メディアの画像も混ぜることで、思いがけないつながりが生まれます。複製のときに生じたかすれや粗さは、あえてそのまま残されました。同館が引くプリンスの言葉によれば、疑わしい画像でも、何度もくり返し、あるいは似た画像のそばに置いて見せれば、見る人はそれを本当だと信じるかもしれない、とプリンスは考えてきたといいます。また同館によると、1984年に友人たちの肖像をつくったときには、カメラの前でポーズをとってもらうのではなく、それぞれから手持ちの写真を5枚ずつ借り、そのうち1枚を撮り直して肖像にしました。
カウボーイのシリーズ(1980年代〜)
プリンスを有名にしたのが「カウボーイ」のシリーズです。アルベルティーナ美術館は、このシリーズがタバコの銘柄マールボロの広告から始まったと説明しています。プリンスは広告の枠を切り直し、文字や商標を取り除いたうえで、写真を大きく引き伸ばしました。それでも、仕上がった写真に残るぼけや網点(印刷の細かい点)が、雑誌から撮り直したものであることを伝えています。
同館によれば、カウボーイは自由と男らしさの象徴であり、アメリカ西部開拓の国民的な神話の一部でもあります。プリンスがこの広告を取り上げたのは、マールボロの広告がほころびを見せはじめ、タバコ会社が健康団体からの批判を強めていた時期でした。同時に1980年代には、ロナルド・レーガンのような政治家が、強さや権威、懐かしい国の姿の象徴としてカウボーイ像を使っていました。同館は、プリンスのカウボーイは批判と肯定のあいだを揺れ動き、マスメディアの画像の力を示しながら、その美しさも利用していると述べています。
『Untitled (Cowboy)』(1991〜1992年)
サンフランシスコ近代美術館(SFMOMA)が1992年に収蔵した『Untitled (Cowboy)』は、横幅およそ1.8メートルのカラー写真です。青い空と山並みを背景に、白いカウボーイハットに黄色いコートのカウボーイが、茶色の馬を走らせながら、片手で投げ縄を頭上に大きく振り回しています。コートの裾は風にあおられて大きく広がり、馬は画面の右へ向かって駆けています。
映画の一場面のように劇的な写真ですが、近づくと、色の粒が粗く、輪郭がわずかににじんでいることに気づきます。これが、雑誌の印刷物をもう一度撮ったことの跡です。見慣れた広告の英雄像が、美術館の壁に大きく掛けられたとき、わたしたちは初めて、それが「つくられたイメージ」であることを意識します。メトロポリタン美術館も、1989年の『Untitled (cowboy)』を所蔵しています。

ジョークの絵画(1980年代半ば〜)
写真で知られるプリンスですが、1980年代半ばからは絵画にも取り組みました。ジョージア大学のジョージア美術館は、プリンスが1980年代半ばからジョークを題材にした作品をつくりはじめ、最初は紙に手書きでジョークを書き、やがて絵具を塗ったキャンバスにジョークの文章をシルクスクリーンで刷るようになったと説明しています。同館によれば、プリンスはジョークをアメリカ人の無意識を表すものと考え、「おもしろくあることは、生き延びるための方法だ」と語っています。
アルベルティーナ美術館は、絵画へ進んでからもプリンスの仕事は写真に根ざしていたと述べています。漫画の家具やオチの文字といった断片をシルクスクリーンで刷り、白い絵具でつないだ「ホワイト・ペインティング」も、さまざまな出どころの画像を組み合わせる点で、写真の「ギャングズ」と同じ考え方でつくられているといいます。
『Tell Me Everything』(1989年)
SFMOMAが所蔵する1989年の『Tell Me Everything』は、幅およそ2.9メートルのキャンバスを黄緑色一色で塗り、その中央に一行だけ、白い文字で英語のジョークを刷った作品です。文面は「精神科医に会いに行ったら、『すべて話してください』と言われた。話したら、今では彼がぼくのネタをやっている」という意味です。
ジョージア美術館によると、この一文は、プリンスが古本屋で最初に出会ったジョークでした。他人のネタを自分のものにしてしまう医者の話は、他人の画像を自分の作品にしてきたプリンス自身の方法とも重なって見えます。2024年に同館で開かれた展覧会「Richard Prince: Tell Me Everything」は、このジョークを題名にしていました。同館によれば、プリンスは2013年にコメディアン、ミルトン・バールのジョークの資料を買い取り、何千枚ものカードが入ったファイル棚を写真に撮った作品もつくっています。

絵画と並んで、プリンスは立体作品にも取り組みました。ジョーダン・シュニッツァー美術館によると、1980年代後半から、広告や自動車雑誌に出てくるスポーツカーのボンネットを注文して取り寄せ、塗装して壁に縦に掛ける「フッド」のシリーズを制作しています。プリンスは「すでに塗られているものを塗りたかった」と語っています。
アップステートと美術館での評価(1990年代〜2000年代)
アルベルティーナ美術館によると、1990年代後半、プリンスは暮らしの場をニューヨーク州の田園地帯(アップステート)に移し、身のまわりの風景をカメラで撮るようになりました。「アップステート」のシリーズは、何気なく撮ったように見えて、実は細やかに構図が考えられています。同館は、ウォーカー・エヴァンズに連なるアメリカのドキュメンタリー写真の伝統の中に位置づけ、プリンスにとって、画像を撮り直すことと立体の世界を撮ることのあいだに根本的な違いはないと説明しています。
2000年代には、ニューヨーク・タイムズ紙の記事と、同じ紙面に載った宝飾店ティファニーの広告を組み合わせ、単色の絵具で塗り込めたコラージュ「ティファニー・ペインティング」を制作しました。
2007年には、ニューヨークのソロモン・R・グッゲンハイム美術館がプリンスの回顧展を開きました。ジョーダン・シュニッツァー美術館は、この展覧会を、写真、絵画、彫刻、紙の作品を集め、1970年代以降の現代美術におけるプリンスの革新の意味を示した、それまででもっとも包括的な回顧展だったと紹介しています。
著作権の裁判で何が判断されたか(2008年〜2024年)
他人の写真を作品に取り込むプリンスの方法は、裁判でも争われてきました。ここでは、よく知られた二つの裁判について、裁判所の文書に書かれていることだけを整理します。
一つ目は、写真家パトリック・カリウが起こした裁判(Cariou v. Prince)です。アメリカ連邦第2巡回区控訴裁判所の2013年4月25日の判決によると、カリウは2000年に写真集『Yes Rasta』を出版しました。プリンスはその写真を加工して取り込んだ絵画とコラージュのシリーズ「Canal Zone」を制作し、2007年から2008年にかけてサン・バルテルミー島のホテルと、ニューヨークのガゴシアン・ギャラリーで発表しました。カリウはプリンスとガゴシアン側を訴え、ニューヨーク南部地区連邦地方裁判所は2011年にカリウの主張を認めて差し止めを命じました。
控訴裁判所は、地方裁判所が使った基準を誤りだとしました。地方裁判所は、フェアユース(公正な利用)と認められるには、プリンスの作品がカリウや元の写真について論評していなければならないとしていましたが、控訴裁判所は、法律はそこまで求めていないと判断しました。そのうえで、問題になった30点のうち25点はカリウの写真のフェアユースにあたると結論づけ、残る5点については、正しい基準で判断し直すよう地方裁判所に差し戻しました。その後、裁判の記録によると、2014年3月に当事者の合意により訴えが取り下げられています。
二つ目は、2014年に発表されたシリーズ「ニュー・ポートレート」をめぐる裁判です。アルベルティーナ美術館によると、このシリーズは、写真共有サービスのインスタグラムの投稿を、いいねやプリンス自身のコメントが見える状態でまるごと画面に写し取り、作品にしたものです。この作品に自分の写真を使われた写真家ドナルド・グラハムとエリック・マクナットが、それぞれプリンスと作品を展示した画廊を訴えました。
ニューヨーク南部地区連邦地方裁判所は2024年1月25日、二つの裁判で最終判決を出しました。判決文によると、裁判所は原告の請求を認め、被告側の抗弁を退けました。そのうえで、元の写真とプリンスの作品、作品を載せた本などの複製・展示・販売を禁じ、損害賠償として、作品の販売価格の5倍の額と、原告がかかった費用を支払うよう命じています。判決文には、この金額と費用が当事者のあいだで合意されたものであることも書かれています。

同じ「他人の写真を使う」方法でも、作品ごと、裁判ごとに判断は分かれています。プリンスの作品は、オリジナルとは何か、作者とは誰かという問いを、美術の外の社会にも投げかけてきたといえます。
現在の活動(2010年代〜)
ジョーダン・シュニッツァー美術館によると、プリンスは2014年に始めたインスタグラムの肖像のシリーズの続編を、2020年にガゴシアンで発表しました。プリンスはこのシリーズについて、それが美術に見えるのかどうか確信がなかったこと、そしてそれこそがいちばん良いところだったと語っています。
同館はまた、プリンスが視覚的な作品と並んで多くの文章を書いてきたことも紹介しています。2019年から2020年にかけては、グッゲンハイム美術館が初めて作家に所蔵品の展示を任せた展覧会に、プリンスも参加しました。そのときプリンスは「いつも、まず主題を考え、媒体はその次。主題をどう解釈するかを考える」と語っています。
近年のプリンスは、自分自身が集めてきた本や資料を前面に出した作品も手がけています。アルベルティーナ美術館によると、映画のスチルやサイン入りの宣材写真などの記念品を組み合わせた「パブリシティ」のシリーズでは、撮り直すのではなく、集めたものそのものをコラージュにしています。
2026年4月17日から8月16日まで、ウィーンのアルベルティーナ美術館で、写真を中心にした大規模な回顧展が開かれました。同館によると、1970年代から現在までの約150点で構成され、「ファッション」「ギャングズ」「カウボーイ」といった代表的なシリーズに加えて、あまり展示されてこなかった作品や未公開の作品も紹介されました。
| 年 | 主なシリーズ・出来事 |
|---|---|
| 1968〜69年 | 『The Magic Castle』(ヨーロッパ旅行の写真と観光スライド) |
| 1977年 | 雑誌の広告を35ミリカメラで初めて撮り直す |
| 1980年代前半 | 「ギャングズ」を始める |
| 1982〜84年 | 「ファッション」 |
| 1980年代 | 「カウボーイ」(マールボロの広告の再撮影) |
| 1980年代半ば〜 | ジョークの作品 |
| 1980年代後半〜 | 「フッド」(自動車のボンネット) |
| 1990年代後半 | 「アップステート」 |
| 2000年代 | 「ティファニー・ペインティング」 |
| 2007年 | グッゲンハイム美術館で回顧展 |
| 2014年〜 | 「ニュー・ポートレート」 |
| 2026年 | アルベルティーナ美術館(ウィーン)で回顧展 |
まとめ
いかがだったでしょうか。リチャード・プリンスの人生と作品について、ご紹介してきました。
プリンスは1949年にパナマ運河地帯で生まれ、ボストンで育ちました。1970年代にタイム・ライフ社で記事を切り抜く仕事をする中で、残った広告に目をとめ、1977年に初めてそれを撮り直します。ロゴや文字を取り除いて並べ直すだけで、広告の男性像や女性像がいかに型どおりかが見えてくる。この「リフォトグラフィー」が、プリンスの出発点でした。
マールボロの広告を撮り直したカウボーイのシリーズ、他人のジョークを一行だけ刷った絵画、インスタグラムの投稿を写し取ったニュー・ポートレートと、素材は変わっても、すでにあるイメージを取り込み、別の文脈に置くという方法は一貫しています。その方法は、2013年と2024年の裁判のように、社会の中でも問われてきました。
広告や雑誌、SNSの画像は、毎日のように目の前を流れていきます。プリンスの作品の前に立つと、見慣れたそれらの画像を、少し立ち止まって見直したくなるかもしれません。
Euphoric " " の視点
プリンスは、雑誌の広告から文字やロゴを取り除き、撮り直して並べることで、見慣れたイメージがいかに型どおりにつくられているかを浮かび上がらせました。広告の英雄像が美術館の壁に掛けられたとき、私たちはそれが「つくられたイメージ」であることに初めて気づかされます。
その方法は、オリジナルとは何か、作者とは誰かという問いを、裁判の場を含む美術の外の社会にも投げかけてきました。広告や雑誌、SNSの画像が絶えず流れる今、立ち止まって見直す目を養うことの大切さを、その作品はあらためて示しています。
この作品を見に行くには
記事で紹介した作品は、次の館などに所蔵されています。2026年10月時点で、サンフランシスコ近代美術館の作品ページでは、いずれも「現在展示されていません」と表示されています。展示替えがあるため、最新の情報は公式サイトをご確認ください。






