こんにちは。ユアムーン株式会社 編集部です。
皆さんは日本美術についてどれくらいご存知ですか?
このメディアを見ている方は日本にお住まいの方が多いかと思いますが、自分の住んでいる国の文化とはいえ知らない方も多いのではないでしょうか。
日本美術の中でも特に有名なジャンルといえば浮世絵ではないでしょうか。
学校の教科書などにも日本を代表する芸術文化として紹介される機会が多い浮世絵ですが、その歴史についてどれくらい知っているでしょうか。
本記事では美術初心者の方でもわかる浮世絵の鑑賞ポイントについて解説します。
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浮世絵って?
浮世絵とは具体的に何を指すのでしょうか。
浮世絵とは、戦国時代の終わり、徳川家康が慶長8(1603)年に江戸幕府を開きます。
天下泰平を成した江戸幕府では、これまで将軍や武士など力を持った人々のものだった芸術文化が町人へと下っていきました。
このため江戸時代は日本の歴史上ではじめて町人が文化を担った時代と言われています。
町人が慣れ親しんだ生活や流行を好んでテーマにしたため、江戸の世を浮かれて楽しむという意味で浮世絵という呼び名がつけられました。
浮世絵には大きく分けて二つの表現方法があります。
一つ目は「肉筆浮世絵」です。
画家が紙などに直接筆で絵を描くという方法で、これまでの絵画とは技法というよりは時代や描かれるテーマで区別されます。
浮世絵が描かれる時代よりも前にはじめて描かれた表現方法で、16世紀ごろに狩野派の絵師が風俗画(庶民の生活や風景を描いた素朴な絵画)を手がけたことで誕生したのが初期肉筆浮世絵と呼ばれるものです。
江戸幕府の成立によって初期肉筆浮世絵の文化が広く知られることになり、肉筆浮世絵という表現方法が誕生します。
しかし肉筆浮世絵はすぐに木版浮世絵にとって変わられ、大量生産ができる木版浮世絵に対して現代に至るまで制作数も少なく、海外への流入も比較的ありませんでした。
そのため木版浮世絵に対して地味な印象を受けますが、近年では重要文化財に指定されるなど注目が集まり、再評価がされています。
二つ目は「木版浮世絵」です。
木に描いた絵を彫り、色をつけて刷る版画のような形態で、白黒だけで表現する一色刷りからカラフルな多色刷りまで様々な種類があります。
別名を「錦絵」という通り、肉筆浮世絵よりも豪華で美麗なものとして富裕層や権力者を中心に愛されていきました。
最大の特徴は、元になる版画を作ってしまえば大量生産ができるという点です。
そのため木版浮世絵は世間に大きく普及し、その人気と独特な表現方法は海外へも広がりました。
時代が下った江戸時代中期以降になると、大量生産できるという特徴を利用して瓦版(当時の新聞)の挿絵や看板など広告イラストのような使い方もされており、宣伝技術としての発展もしていきました。
現在、私たちがイメージする浮世絵もこの木版浮世絵で描かれた作品が多いのではないでしょうか。
鑑賞ポイント1:浮世絵の魅力は「ジャポニズム」にあり!
芸術にはどれひとつとして同じものはありませんが、古今東西の芸術作品を見比べてみるとやはりヨーロッパで発達した西洋美術の影響の強さが見てとれます。
中でも浮世絵は、鎖国によって日本国内で文化が醸成されたことで独特な表現方法が発達したと考えられます。
同時期の西洋美術の表現方法と見比べながら、浮世絵の魅力を解説していきます、
浮世絵が流行した17世紀、西洋美術史ではバロック美術からロココ美術までの様式を辿る時代です。
当時はカラヴァッジョやレンブラント、ベラスケスなどキアロスクーロ(激しい明暗によるコントラストで立体感や構図的な効果を強調する表現方法)を用いたドラマチックな絵画作品が流行していました。
画面構成にも、聖書や神話などの具体的なシーンではない風俗を描くにあたりストーリー性を表現するための工夫が多く見られるようになりました。
一方で浮世絵は陰影やグラデーションを排し、色面によって画面を分割・構成していることが特徴です。
さらにモチーフの数は少なく、静的な情景を描いているものが多いなどの点も西洋美術との大きな違いです。
またモチーフの少なさから絵の中に余白があり、大胆な構図づかいに西洋の画家は衝撃を受けます。
このことが海の向こうで流行をもたらしたのが19世紀のヨーロッパで興ったジャポニズムです。
ゴッホやクロード・モネなどの画家が影響を受け、浮世絵をはじめとする日本美術の特徴を取り入れた作品を手がけ始めました。
レンブラント・ファン・レイン作『夜景』(1642)。
ひとびとの仕草や背景まで細かく描かれた密度の高い作品。
重要人物にスポットライトを当てるような明暗づかいはレンブラント光線という技法です。
菱川師宣作『見返り美人図』(17世紀)。
徹底的な引き算で作られていながら、表情や着物の柄は細く描写。
このポーズも、着物の帯と表情をひとつの構図に収めるためとされています。
鑑賞ポイント2:古典絵画はタイムマシン!昔の日本に飛び込もう
浮世絵に限らず、昔の絵画には当時の風景や習俗がありのままに描かれています。
時に絵画の描写は、考古学や歴史学において重要な証拠にもなります。
私たちは現代に生きながら、写真もビデオもない時代の景色を覗くことができます。
まさに昔の絵画はタイムマシンなのです。
数百年の時間を超えて当時の日本に思いを馳せたり、現代の日本と比較をしたり、思い思いの楽しみ方をできるのが浮世絵の魅力です。
例えば「役者絵(歌舞伎絵)」というジャンルは、歌舞伎役者を主題にした作品を指します。
まさに江戸時代に設立した大衆文化である歌舞伎は、絵画のテーマにするのにはぴったりでした。
初期の役者絵は、役によって決まった顔の描き方があり実際の役者に寄せたものではなく、役者の名前や紋を入れることで表現していました。
しかし歌舞伎と浮世絵の発展によって役者絵を実際の役者の顔に近づけるようになり、歌舞伎の演目や役者の宣伝としての働きも担うようになります。
さらに役者が亡くなった時には「死絵」と言われる絵が描かれ、マスメディアのような役割も果たしていたようです。
東洲斎写楽作『三世大谷鬼次の江戸兵衛』(1794)。
役者の上半身をクローズアップした表現方法は「大首絵」といい、役者の顔を目立つように描いたり歌舞伎の決めポーズを迫力ある構図で描くことができました。
背景の黒はニカワと雲母を混ぜたもので塗られ、役者の顔を引き立たせます。
また「美人画」というジャンルは女性の美しさをテーマした作品で、ただ美人の顔を描いたものではなく仕草やファッション、当時の人々にとっての美しさを窺い知ることができます。
美人画も役者絵と同じように、初期はモデルの顔を理想化したり、型に当てはめた描き方がされていました(今で言うフォトショ加工のようなものでしょうか?)。
多くの画家に描かれたモデルは現代でも名前が残っており、描かれる人物が権力者に限られていた日本の絵において、庶民の名前と肖像を知ることができるのは浮世絵のおかげと言えます。
喜多川歌麿作『寛政三美人』(1793)。
当時の美人画としては異例の写実性とされた喜多川歌麿の作品。
浮世絵には当時のヘアスタイルやファッション、季節の小物などが描かれています。
まるでファッション雑誌やスナップ写真のようですね。
鑑賞ポイント3:世界に誇るクールジャパンの原点!?江戸時代のカワイイを見てみよう
これまで西洋美術との比較や現代との文化の違いに着目して、浮世絵の鑑賞ポイントをご紹介してきました。
とはいえ、江戸時代の文化はピンとこないものも多いかもしれません。
そこで最後に、西洋美術や江戸文化を知らなくても楽しめるポップな浮世絵の鑑賞ポイントをご紹介します。
世界に誇る日本のカルチャーのひとつにマンガやイラストがあります。
ところでみなさんは「日本最古の漫画」はご存知でしょうか?
よく名前が挙がるのは平安時代ごろに描かれたとされる『鳥獣人物戯画』(12〜13世紀)という絵巻物です。
当時の人々の宮中行事や、動物たちが遊ぶ様子をコミカルに描いたもので、風刺画(カリカチュア)に分類される美術作品の中で唯一の国宝指定がされています。
時間の経過を絵巻物を読み進める流れに沿って表現するなど、漫画と共通する特徴を持つことから「日本最古の漫画」として知られています。
作者不明『鳥獣人物戯画』(12〜13世紀)。
セリフが聞こえてきそうなイキイキとした蛙のしぐさが絶妙。
浮世絵の文脈でも、「日本最古の漫画」として名前が挙がる作品があります。
それは葛飾北斎が長年書き溜めた画集である『北斎漫画』(1814-1878)です。
浮世絵そのものではありませんが、浮世絵画家の葛飾北斎による庶民のしぐさや表情、妖怪や慣用句をイラストで表現したものなど、ユーモラスな絵がたくさん残されています。
まるで現代のイラスト集のような読み応え。
他にも葛飾北斎はかわいくてユーモラスな作風で動物のスケッチや春画など、幅広いジャンルの絵画を描いています。
葛飾北斎『北斎漫画』(1814-1878)。
庶民の表情を描き溜めた「八篇 ひとびとの表情」より。
現代のイラスト集にも載っているキャラクター表情集の原点!?
カワイイ浮世絵画家といえば歌川国芳が欠かせません。
江戸末期に活躍した歌川国芳は15歳で初代歌川豊国に弟子入りしたエリートで、琳派や葛飾北斎などの先輩に絵を学びました。
幅広いジャンルの浮世絵を描く中で、歌川国芳の愛情が溢れているのが猫をはじめとする動物を描いた作品です。
歌川国芳は美人画や役者絵などの社会的・歴史的な作品を描く傍ら、猫や金魚などの生き物を主題にした絵も多く残しています。
ただ動物の絵を描くだけでなく、俳句や先人の作品をパロディしたり、ダジャレを絡めたりと遊び心たっぷりの作品をたくさん手がけました。
歌川国芳作『其のまま猫飼好五十三疋』(1798)。
江戸時代、東海道に整備された宿場である「東海道五十三次」をパロディした作品。
宿場の地名をもじった猫が描かれています。
猫のデフォルメ感やのびやかなしぐさから、歌川国芳の猫への愛情が伝わってきますね。
平安時代に萌芽の見えた日本美術とポップカルチャーのグラデーションは、浮世絵という大衆文化によって一層色濃くなったといえそうです。
これには先述した通り、日本における芸術が権力者のためのものから庶民のためのものに移り変わったという歴史的な理由が大きく関わってくるでしょう。
現代の私たちの感覚では浮世絵というと身構えてしまいますが、本来は庶民向け、大衆文化であったことを知っていれば大丈夫です。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
近年、日本絵画の展示会も多く開催される日本絵画ブームが起きています。
ジャンルは仏教絵画から現代アートまで様々ですが西洋絵画ほど見慣れているわけでもなく、なんとなく鑑賞へのハードルが高いと感じるかもしれません。
しかし現在の日本絵画に大きな影響を残している日本近代美術史を知ることで、西洋絵画との違いやアニメやゲームなどのサブカルチャーとの関連性まで知ることができるでしょう。
おすすめ書籍
浮世絵の鑑賞についての知識を深めたい方はこちらの書籍もおすすめです!
浮世絵の歴史
美術の教科書などを出している美術出版社の本です。オールカラーの図版に加え、絵師同士の人間関係などのコラムも充実しています。資料集として手元に置いておくのはいかがでしょうか。
浮世絵についての「もっと知りたいシリーズ」です。主要な作品を見開きページで見やすく紹介しています。ページ数も多くなく、読みやすいので浮世絵についてまず知りたい方におすすめです。同じ「もっと知りたいシリーズ」の葛飾北斎、歌川国芳など絵師の特集も合わせて読んでみてください。
浮世絵の解剖図鑑
名作浮世絵に描かれた江戸時代の文化を読み解く形式の本です。「この浮世絵が好きだけど、どんな風景を描いたんだろう」という疑問のある方にはおすすめ。「浮世絵はお江戸の街と暮らしにタイムスリップするドアを開けてくれる鍵です。」という帯コピーにグッときます。
「どんな人が浮世絵師になったの?」「浮世絵はどこで売られていたの?」などの疑問系の見出しで始まるので疑問に思ったところから読み出すことができます。コラムも充実しているので、浮世絵について深く知りたい方にはおすすめです。