こんにちは。ユアムーン株式会社 編集部です。
皆さんは美術館に行ったことがありますか?
近年はポップカルチャーの展示なども増え、美術館に行くハードルはかなり低くなったかもしれません。
しかし、西洋絵画や現代アートなどの“ムズカシイ”ジャンルを鑑賞するのは難しそう…という方は多いのではないでしょうか?
本記事では美術初心者の方でもわかる現代アートの鑑賞ポイントについて解説します。
イントロ情報
現代アートって?
現代アートとは具体的に何を指すのでしょうか。
まず、現代アートにおける現代とはどの時代のことでしょう。
一般的には第二次世界大戦後、1950年頃から21世紀の今日までのアートを表します。
この区分の背景には、第二次世界大戦の終戦を機に芸術のあり方が変わったことを意味しています。
従来のアーティストは、教会や権力者といった裕福なパトロンによって資金的に支えられており、その題材も政治家やサロンの価値観に左右される側面が強いものでした。
第二次世界大戦後、アーティストはパトロンのしがらみから自立し、自由な画材やテーマを作品にできるようになりました。
このしがらみからの解放こそが、現代アートの自由な表現方法と多様なメッセージを形作っているといえるでしょう。
絵画や彫刻といったアカデミックな表現方法に囚われず、だれもがアーティストになれる可能性を開いたのが現代アートの魅力のひとつです。
一方で、自由で奇抜な現代アートの作品には「理解するのがむずかしい」「なぜこんな作品がアートなのか分からない」「高値で取引される価値って本当にあるの?」という疑問がつきものです。
そんな方のために現代アートをおもしろく鑑賞するためのポイントをご紹介します。
鑑賞ポイント1:現代アートの歴史をざっくりと理解する
前述の通り、現代アートは近現代の自由な表現方法をまとめて表す言葉です。
ひとくちに現代アートといっても様々なジャンルがあり、それぞれに名前や定義や存在しますがその全てを覚えることは難しいでしょう。
本項では、現代アートの歴史を見ていくことでジャンルの時系列から鑑賞のポイントを探っていきましょう。
現代アートの萌芽と言われている決定的な作品がマルセル・デュシャンの『泉(1917)』です。
ダダイスムの作家として知られるマルセル・デュシャンによるこの作品は、見ての通り既製品の男性用小便器に「R.MUTT」というサインを施しただけのものです。
ニューヨーク・アンデパンダン展という、出品料を払えばどんな作品も出品することができるという無審査の展示だったにも関わらずデュシャンは『泉』の出品を拒否されます。
つまり当時、この作品はアートとして認められなかったのです。
当然この一件は物議を醸し、多くの人が「アートとは何か」について考える衝撃的なきっかけを与えた作品でした。
マルセル・デュシャン作『泉』。
デュシャンは
「作品を起点として鑑賞者が思考をめぐらし、そして鑑賞者の中で完成される」
といいます。
あなたはこれをアートだと思いますか?
デュシャンが与えた衝撃に呼応するように、今後さまざまな現代アートのジャンルが生まれます。
とりわけ、デュシャンによって生まれたレディ・メイドという芸術運動はポップ・アートという新しいジャンルを切り開きました。
ポップ・アートとは大量生産、大量消費の社会にあった1950~60年代のアメリカで誕生した芸術運動のひとつです。ポップ(大衆文化)をテーマにした作品は今でも現代社会のアイコンとして人気を博しています。
ポップ・アートの代表的なアーティストがアンディ・ウォーホルです。
ウォーホルはシルクスクリーンプリントを利用して作品を大量生産することで、画家の手仕事や一点物であることを重視していた従来のアートのイメージを大きく変えました。
コカ・コーラやキャンベルスープなどの生活用品、ミッキーマウスや鉄腕アトムなどのキャラクター、俳優や政治家といった人物の肖像画を好んで作品にしたことも民衆に親しまれやすい要因だったのだと思います。
マリリン・モンローの肖像画として有名な作品『マリリン』はマリリン・モンローの突然死が社会を席巻している中で制作されたもので、社会情勢を反映したり風刺するスタイルは現代アートに通底するものを感じます。
アンディ・ウォーホル作『キャンベルスープ』。
産業革命で生まれたプロダクトデザインやパッケージデザインも
実は立派なアートなのです。
ウォーホルの登場により、作品の物質的な価値が大きく揺らいだアートシーンは、さらに先のステージへと発展していきます。
その第一人者がフルクサスやネオダダといった芸術運動に代表されるパフォーマンス・アートです。
パフォーマンス・アートとは、絵画や彫刻といった具象物ではなくアーティストと観客の身体を媒介とした表現方法の総称です。
場所は美術館やギャラリーで行われることもあれば、路上で行われることもあり、その場に居なければ2度と鑑賞することができない即興的な性格を強く持つジャンルです。
パフォーマンス・アートはこれまでの芸術になかった双方向性が重視され、また形のない体験価値を作品としたことも画期的でした。
双方向性を重視したアートは1960年代から流行を見せ、時代と共にインスタレーション・アート、リレーション・アート、ハプニングなどのジャンルに発展していきました。
オノ・ヨーコ作『カット・ピース』。
観客にアーティストの着た服を切らせるパフォーマンス・アート。
知らない人に刃物を渡し、服を切らせる。知らない人から刃物を渡され、服を切る。
お互いが一生に一度の時間を過ごす体験そのものが作品です。
アートとは何か?を発展させてきた結果、ついに形のない体験までもがアートになっていきました。
歴史の締めくくりとして、現代アートの現在「NFTアート」についてもご紹介します。
NFTアートとはブロックチェーン上に存在する作品で、非代替性(金銭や権利と引き換えることができない性質)を持ち、一人だけが所有権を主張できる仕組みを持っています。
デジタルデータによって制作されたという点でデジタル・アートに分類されますが、その価値の本質は作品の唯一無二性にあるといえるでしょう。
注目すべきは現代アートの現在が、現代アートの歴史の一端を担ったアンディ・ウォーホルの芸術の大量生産と真逆のコンセプトを辿っていることです。
現在わたしたちが目にするアート作品は実態のあるものではなく画像データやコピーされたイメージが多くを占めるようになり、アートを鑑賞する・所有するという意識が希薄になっているのではないでしょうか。
ウォーホルが風刺した大量生産・大量消費されるアートはもはや当たり前となっているのです。
その中で、知的財産権などの関心も高まった2020年前後に現れたのがNFTアートです。
所有体験までもがアートの価値となった現在、今後アートはどのようになっていくのか楽しみです。
BEEPLE作「Freefall」。
NFTアートの最前線で活躍しているデジタルアーティスト・BEEPLE。
伝統的なオークションであるクリスティーズで初めて出品された
NFTアート「Everydays」シリーズも彼の作品です。
鑑賞ポイント2:作者の人生を作品の一部として見る
美術の歴史の中で、現代アートにしかない魅力がひとつあります。
それは、作者に会ったり話を聞くことができる可能性があることです。
作者の人生や価値観は、もちろん作品に多かれ少なかれ影響を与えます。
現代アートでは草間彌生が良い例でしょう。
草間彌生は前衛の女王の異名を持つ日本の現代アートの代表的な人物です。
彼女は幼い頃から統合失調症の症状とされる幻覚に苦しみ、その症状を和らげるために幻覚を絵に描きはじめたのがアーティストの原体験とされます。
また、男根の形をしたソフト・スカルプチャー(布やゴムなど柔らかい素材で具象物のオブジェを作る表現方法)も作品に多用されており、これは家庭で性に対して非常に厳格であったため性体験に対して強いショックを受けたことを由来します。
このような作者の物語は、作品だけを見ただけでは感じとることは難しいでしょう。
さらに、現代を生きる作者の人生には、現代で起こった社会現象が影響を与えていることが多くあります。
これらの要素をリアルタイムで知ることができるチャンスに恵まれているのが、現代アートの魅力ではないかと考えます。
私たちから見た過去のアートも、当時の人々にとっては現代アートだったに違いありません。
そんな厳然たる現代を眺め、評価する人々がいるからこそ、大きなうねりとなり次の現代アートが生まれていくのだと思います。
皆さんもぜひ美術館やイベントに積極的に参加して、リアルな現代アートを楽しんでみてください。
草間彌生作「Yellow Pumpkin」。
心の中から不安の種をひとつひとつ吐き出すように埋め尽くされたパターン。
恐怖や不安はもちろんですが、集合体ゆえのぬくもりも感じる不思議な作品です。
鑑賞ポイント3:杉本博司の考える現代アート
デュシャンピアン(デュシャン主義者)を自称する杉本博司というアーティストはこのように語っています。
視覚的にある強いものが存在し、
その中に思考的な要素が重層的に入っているということが、
現代アートの2大要素だ。
(小崎哲哉「現代アートとは何か」河出書房新社,2018年3月,276ページ)
この言葉を借りて、現代アートに欠かせない要素を考えてみましょう。
まず「視覚的にある強いもの」についてです。
一般的に、アートのほとんどは視覚情報を前提としています。
この定義は平面的にしろ立体的にしろ、美術史の長い歴史の中でほとんど変わっていないように思えます。
杉本博司の言葉からすると一見して「なにこれ?」と思わせる仕組みが、現代アートには前提としてあると考えられます。
ただし、この前提ゆえに刺激的、挑戦的なビジュアルの現代アートが多く存在するのも事実です。
作者の主張やメッセージが強く反映される現代アートは、社会問題や政治などをモチーフとした作品も多くあります。
人によってはストレスを感じる作品もあるので、鑑賞するときは心身が健康なタイミングが良いでしょう。
次に「思考的な要素が重層的に入っている」について考えてみましょう。
前半を作品の「外側」とすると、こちらは作品の「内側」と言えると思います。
この一文で重要なのは「重層的に」という部分です。
ビジュアルから、あるいはタイトルから理解できるテーマやコンセプトは少なくありません。
たとえば、前項の「作者の人生を作品の一部として考える」も重層的な思考のひとつです。
他には社会現象(問題)、言葉遊びなども多く使用される要素です。
これらはコンテクスト(背景、文脈)という言葉でまとめることができます。
このように、ビジュアルとコンテクストを分けて見ることで現代アートの見え方が変わってくるかもしれません。
鑑賞ポイント4:アートの価値を「お金」で可視化する
多くのアートは売買に伴って金銭的な価値が付与されます。
美術館やネットで鑑賞するだけでは値段を意識することはあまりないかもしれませんが、値段は私たちがアートの価値を直感的に理解する手掛かりとなります。
一方、「どうしてこの作品にこんな値段がついてるの?」と疑問を抱く方が多いのも事実です。
現代アートの価値がデッサン的な巧拙だけで決まるものではないことは、ここまで読み進めてくださった方にはお分かりいただけるかもしれません。
では具体的にアートの値段とはどのように決まるのでしょうか。
まずは現代アートの売り上げランキングをご紹介します。
2023年現代アーティスト売り上げランキング
順位 アーティスト 売り上げ高 1 ジャン=ミシェル・バスキア 約2億3500万ドル($235,524,904) 2 奈良美智 約9000万ドル($97,737,808) 3 バンクシー 約4800万ドル($48,873,898) 4 セシリー・ブラウン 約4700万ドル($47,713,568) 5 ジェフ・クーンズ 約3600万ドル($36,136,551) 6 キース・ヘリング 約3500万ドル($35,807,795) 7 クリストファー・ウール 約3300万ドル($33,671,700) 8 ダミアン・ハースト 約3200万ドル($32,722,142) 9 ジョージ・コンド 約3200万ドル($32,064,762) 10 マーク・グロッチャン 約3000万ドル($30,025,287) (『THE 2023 CONTEMPORARY ART MARKET REPORT』より作成)
現代アーティスト限定の、売上高のランキングである点には留意すべきですが、著名なアーティストがずらりとならぶ壮観なランキングとなっています。
アートの値段を決める要因は大きく2つに分けられます。
1つ目は「希少性」。
黄金やダイヤモンドと同じように、アートも希少なものほど高い値段をつけられます。
世界一有名な肖像画『モナ・リザ』や美術史上最高価格の絵『サルバトール・ムンディ』をはじめ、レオナルド・ダ・ヴィンチの作品は軒並み高額の値段がついています。
ダ・ヴィンチはルネサンス三大巨匠に数えられる画家ですが、膨大なスケッチを残した反面、完成した作品が少なく、絵を売った実績が少なかったため希少性が高いのです。
ランキングではジャン=ミシェル・バスキアが希少性に該当するでしょう。
27歳でこの世を去ったバスキアは、現代アートにカテゴリされながら新作が望めない、つまり出品される作品数が限られています。
これにより需要と供給のバランスが崩れ、値段が高騰する傾向にあるのです。
2つ目は「パフォーマンス」。
オークションは現在、世界的に人気を博す興行的側面を高めています。
近年では、実業家の前澤友作氏が所有していたバスキアの作品がオークションにかけられ、約8500万ドル(約110億円)で落札されたというニュースがありました。
このように世界中の国を代表する富裕層や実業家が表立ってオークションに参加することで、アートへの関心が高まるパフォーマンスとして機能しているのです。
実際、パフォーマンス的にオークションで敢えて高額で落札したり、トラブルによって作品の値段が高騰したりする場合も多々あります。
つまり「作品の価値=金銭的な価値」という図式は一面的な見方で、アートの価値はこれに加えて前述した「希少性」「パフォーマンス」といった要素が掛かった複合的なものなのです。
資本主義社会を支えるために乗せられる税金、といったところでしょうか。
バンクシー作「風船と少女」。
資本主義的アートシーンを風刺するためオークションで裁断されかけたこの作品の価値は、
元の落札額100万ポンド(約1億円)から1500万ポンド(約25億円)に跳ね上がった。
鑑賞ポイント5:現代アートの主役はあなた
最後に、シンプルですが重要な鑑賞ポイントをご紹介します。
それは、現代アートの主役はあなたということです。
現代アートの大きな特徴は、作品そのものだけで意味やメッセージが完結せず、鑑賞者が感想を持ったりアクションを起こす双方向性が存在しているという事です。
つまり「作者の解釈による作品」と「鑑賞者の解釈による感想」の両者があって初めてアートとして成立するという特徴を帯びているのです。
あなたが現代アートを目にした時、すでに現代アートの片棒を担いでいると言ってしまってもいいでしょう。
これは権力者の価値観によって正解が定められていた近代以前のアートでは考えられないものです。
「正解はない」とか「感想は自由」と言われると、逆にハードルを高く感じるかもしれません。
そんな時は、本記事で取り上げた鑑賞ポイントを手掛かりに、自分だけの解釈を醸成してみてください。
マウリツィオ・カテラン作「コメディアン」。
あなたはどう解釈しますか?
まとめ
いかがでしたでしょうか?
現在はプロアマ問わず現代アートの展示会が開かれ、目を惹く作品が多いことから書籍や動画で解説をあげているコンテンツも充実しています。
そしてやはり作家本人と会ったり話を聞くことができるのは現代アートの唯一無二の魅力なのです。
現代アートはむずかしい、という印象が少しでも和らげば幸いです。
おすすめ書籍
現代アートの鑑賞についての知識を深めたい方はこちらの書籍もおすすめです!
現代アート入門
近代から現代にかけて現代アートがどのように生まれたのか解説された本です。モダン・アートやアヴァンギャルドといった、本記事では省略した近代芸術から丁寧に説明されています。現代アートの成り立ちについてさらに詳しく知りたい方におすすめです。
現代アートとは何か
「ミュージアム」「アーティスト」「評論家」といったアートを構成する要素ごとに現代アートについて紹介した本記事では取り上げなかった現代アートシーンを支えるディーラーとキュレーターの存在や、現役アーティストのインタビューなどについても書かれています。
めくるめく現代アート イラストで楽しむ世界の作家とキーワード
作家ごとに現代アートの具体的な作品や、作家の人生について詳しく解説されています。ジャンルごとの歴史と関わりや、作家の名言なども載っているので、どんな現代アートがあるのかもっと詳しく知りたい!という方におすすめです。