BMWアートカーとは?製品をキャンバスにするブランド戦略を事例で読み解く

BMWアートカーとは?製品をキャンバスにするブランド戦略を事例で読み解く
写真:BMW Group PressClub(報道利用可)

アートコンシェルジュ|最初の一枚から、一生のコレクションまで。無料で相談する

BMWアートカーとは、ドイツの自動車メーカーBMWが、世界的なアーティストに車体のデザインを委ね、走る作品として発表してきたプロジェクトのことです。1975年のアレクサンダー・カルダーから始まり、2024年にはジュリー・メヒレトゥが20台目として手がけました。製品そのものを「キャンバス」にする点が、企業のアート活用の中でも特徴的です。

この記事では、アートカーの歩みを確認したうえで、製品をキャンバスにするブランド戦略から、企業が学べる視点を整理します。

この記事で分かること

  • BMWアートカーの始まりと、主な作家・車両の年表
  • 2024年の20台目(ジュリー・メヒレトゥ)の事例
  • 製品をキャンバスにするブランド戦略から、企業が学べる4つの視点

BMWアートカーの歩み:1975年、ル・マンでの一台から

始まりの一台:カルダーの3.0 CSL

アートカーの発端は、1975年のル・マン24時間レースです。フランスのレーシングドライバーで、オークショニア(競売人)でもあったエルヴェ・プーランが、レースで目を引く車をつくろうと考え、友人でアメリカの彫刻家のアレクサンダー・カルダーに、BMW 3.0 CSLの塗装を依頼しました。プーランは、サム・ポージー、ジャン・ギシェとともにこの車で走りましたが、完走はできませんでした。

カルダーの彫刻の前で、自ら塗装をデザインしたBMW 3.0 CSLの横に立つアレクサンダー・カルダー(白黒写真)
アレクサンダー・カルダーと、彼が塗装をデザインしたBMW 3.0 CSL(1975年)
写真:BMW Group PressClub、撮影:Jean-Marie Bottequin(報道利用可)

ル・マン24時間の公式サイトの記事は、カルダーが多色の塗装をデザインしたこと、その反響が大きかったことを伝え、この車がル・マンのBMWアートカーの第一号だったとしています。ここから、毎回あらたに作家を迎える流れが続いていきます。

方眼紙のような格子と曲線が描かれた白いBMW 3.0 CSL
フランク・ステラのアートカー(BMW 3.0 CSL、1976年)
写真:BMW Group PressClub(報道利用可)

その後も、プーランは1977年にロイ・リキテンスタインが手がけた320iターボでル・マンに出場し、総合9位でレースを終えています(BMWBLOGの一覧による)。1976年にはフランク・ステラの3.0 CSLが、1979年にはアンディ・ウォーホルのM1が続きました。最初の一台は完走できませんでしたが、取り組みは一度の話題で終わらず、作家を替えながら続いていきました。この「続いた」という事実が、のちの歴史を形づくっています。

アトリエで、黄色と網点の図案が描かれた車の模型に向かうロイ・リキテンスタイン
320iの模型に図案を描くロイ・リキテンスタイン(1977年)
写真:BMW Group PressClub(報道利用可)

主なアートカー一覧

資料によると、BMWアートカーの歴代作家と車両は、次のように紹介されています。

BMWアートカーの歩みを、1975年のカルダーから2024年のジュリー・メヒレトゥまでの代表的な作家と車両で示した図。Euphoric
図:BMWアートカーの歩み
年作家車両
1975年アレクサンダー・カルダー3.0 CSL
1976年フランク・ステラ3.0 CSL
1977年ロイ・リキテンスタイン320i ターボ
1979年アンディ・ウォーホルM1
1999年ジェニー・ホルツァーV12 LMR
2010年ジェフ・クーンズM3 GT2
2016年ジョン・バルデッサリM6 GTLM
2024年ジュリー・メヒレトゥM ハイブリッド V8

上表は代表的な作家を抜粋したもので、全作品の一覧ではありません。アートカーの総数について、BMWは2024年のメヒレトゥの車を「20台目」と位置づけており、1975年以降20人の作家が手がけたと説明しています(媒体によって数え方が異なる場合があります)。

青い壁に年代順に並ぶアートカーのミニチュアと「BMW ART CARS 20 Artists 50 Years of Innovation」の表示
歴代20台のアートカーのミニチュア展示(アート・ドバイ2025)
写真:BMW Group PressClub(報道利用可)

なお、ル・マンのBMWアートカーのうち、ジェフ・クーンズの2010年の車は、ル・マンで見られた最後のアートカーだったと、ル・マン24時間の公式サイトは紹介しています。また同サイトは、2026年1月28日から2月1日にパリで開かれるレトロモビル2026で、ル・マンを走った7台のBMWアートカーが展示される予定だと伝えており、約50年にわたる歩みを振り返る位置づけとされていました。

展示会場に並ぶカルダーの3.0 CSLとリキテンスタインの320i
カルダー(奥)とリキテンスタイン(手前)のアートカー。2025年の「BMWアートカー・ワールドツアー」スウェーデン会場
写真:BMW Group PressClub、撮影:Alexander Arnholm(報道利用可)

2024年の20台目:ジュリー・メヒレトゥの「M ハイブリッド V8」

2024年5月21日、パリのポンピドゥー・センターで、20台目のアートカーが発表されました。アーティストは、ジュリー・メヒレトゥです。車両はレース車両の「BMW M ハイブリッド V8」で、ゼッケンは20番、2024年6月のル・マン24時間に、BMW M Team WRTから出場しました。ドライバーは、ロビン・フリインス、ルネ・ラスト、シェルドン・ファン・デル・リンデです。

ポンピドゥー・センターの会場で照明を浴びるメヒレトゥのアートカーと来場者
ポンピドゥー・センターで発表された20台目のアートカー(ジュリー・メヒレトゥ、BMW M ハイブリッド V8、2024年5月)
写真:BMW Group PressClub(報道利用可)

デザインの出発点は、メヒレトゥが2021年から2023年にかけて制作した絵画『Everywhen』です。メヒレトゥは、この車を絵画の「リミックス」「マッシュアップ」だと説明しています。報じられた発言として、「絵画が車に滴り落ちていくように見えた」「車のキドニー(フロントグリル)までもが絵画を吸い込んだ」といった言葉が伝えられています。

実際の車体は、FIAの規則に適合させるため、塗装ではなく車体に合わせたラッピングで仕上げられ、3Dマッピングで車体の形状に合わせてグラフィックを調整したと報じられています。また、メヒレトゥは、この車を展示するものとは考えていないと語っています(Octane誌の報道による)。

コーナーを曲がるメヒレトゥのアートカーの正面。車体全体に絵画の線と色が広がる
ル・マン24時間を走るメヒレトゥのアートカー。絵画の筆致が車体の形に沿ってラッピングされている
写真:BMW Group PressClub(報道利用可)

ここには、アートカーの特徴がよく表れています。作品が飾られて終わるのではなく、製品が本来の舞台(ル・マン)で使われることまでが、作品の一部になっているのです。

サーキットで後続車を従えて走るゼッケン20のメヒレトゥのアートカー
2024年のル・マン24時間で、ほかのレース車両とともに走る20番のアートカー
写真:BMW Group PressClub(報道利用可)

製品をキャンバスにするブランド戦略とは

製品をキャンバスにするとは、企業が自社の主力製品そのものを、作家の表現の場として開くことです。広告にアートを使う、空間にアートを置くといった方法とは、次の点で異なります。

製品をキャンバスにするブランド戦略を、空間にアートを置く方法や広告・パッケージに使う方法と比べた図。Euphoric
図:アートの置き方の3パターン
方法アートの置かれる場所作品と企業の関係
空間にアートを置くオフィス、店舗、ホテル環境として体験させる
広告・パッケージに使う広告、商品の包装商品の見た目を飾る
製品をキャンバスにする製品そのもの製品の役割と作品が重なる

美術館や画廊で作品を見る体験と、製品として手にする・使う体験は異なります。製品がキャンバスになると、作品は日常の道具や乗り物の中に入り込み、鑑賞の場と生活の場の境目が薄くなります。ただしその分、企業は作品が実際に使われる場面での安全性や品質にも責任を持つことになります。この両面を引き受ける覚悟が、取り組みの信頼を左右する、と編集部は考えます。

製品がキャンバスになると、作品は「企業が持つ飾り」ではなく、企業の核心に作家が関わった証拠になります。BMWの場合は、レーシングカーという、最も技術と誇りが集まる製品に、50年近く作家を迎え入れてきたことが、ブランドの姿勢を示す物語になっています。

企業が学べる4つの視点

アートカーの事例から、規模や業種が違う企業にも応用できる視点を、編集部の見立てとして4つ挙げます。BMWの事業上の成果を示すデータは、本記事の調査では確認していないため、ここでは事業効果には触れません。

BMWアートカーの事例から企業が学べる4つの視点(任せる範囲、継続、使われ方との両立、作家の権利)をまとめた図。Euphoric
図:企業が学べる4つの視点

視点1:作家に「任せる範囲」を最初に決める

アートカーは、車体の塗装という大きな変更を、作家の判断に委ねています。企業が作家を迎えるとき、どこまで任せるかを決めておくと、作品の力が出やすくなります。たとえば、製品の機能や安全に関わる部分は企業が守り、見た目の表現は作家に任せるといった線引きです。2024年の車で規則に適合したラッピングが選ばれたように、守るべき条件は最初に共有しておく必要があります。

視点2:単発ではなく、継続する

1975年から2024年まで、約50年にわたり、BMWは作家を迎え続けています。一度の話題ではなく、積み重なった歴史が、ブランドの語りになっています。企業が取り入れる場合も、年1回の展示や、同じ作家との継続的な協働など、規模に応じた継続の形を考えることが大切です。

視点3:製品の本来の使われ方と矛盾させない

アートカーは、走ることを前提にしたレース車両です。メヒレトゥが「展示するものとは考えていない」と語ったように、製品の使われ方と作品が両立していることが、説得力につながります。たとえば、食品なら食べる場面、文房具なら書く場面で、作品が邪魔にならず、むしろ体験を豊かにしているかを確認します。

視点4:作家の名前と作品の権利を、きちんと扱う

製品に作品を載せるときは、作家名の表示、改変の範囲、利用期間などの取り決めが欠かせません。アートカーの場合の契約条件は公開されていないため、ここでは触れませんが、一般的に、製品化では著作権の扱いを書面で整理する必要があります。詳しくは本連載の「アーティストとのコラボ商品の作り方」で解説しています。

自社に置き換えるとどうなるか

4つの視点に共通しているのは、作家を「外部の装飾担当」ではなく、ブランドの物語を一緒に語る相手として扱っていることです。作家は、自分の作品が使われる文脈を知り、納得したうえで制作に臨みます。企業も、作家の表現に任せる部分を受け入れます。この信頼関係は、契約書だけでは生まれず、最初の対話の丁寧さに左右されます。

自動車ほどの規模でなくても、製品をキャンバスにする考え方は応用できます。たとえば、地域の菓子メーカーを想定してみましょう。これは仮定の例です。定番商品の包装を、地域の作家が年に一度、新しいデザインに替える仕組みにすれば、製品が「毎年変わる作品」になり、継続的な語りが生まれます。

その際は、次の順で検討すると整理しやすくなります。

  1. 製品の核を決める:どの製品を、ブランドの象徴として開くのか
  2. 任せる範囲と守る条件を決める:機能、安全、表示の義務など
  3. 作家を選ぶ:作品の世界観が、製品の使われ方と合うか
  4. 契約を整える:権利、クレジット、期間、在庫の扱い
  5. 発表の場を設計する:発売だけでなく、制作の過程や作家の言葉も伝える

よくある誤解

誤解1:アートカーは有名な作家を並べただけの宣伝だ
作家の名前の力はありますが、一台ごとに作家の表現を車体に載せ、実際に走らせる点に特徴があります。名前だけで説明できるものではありません。

誤解2:製品をキャンバスにできるのは大企業だけだ
規模は異なっても、「製品の一部を作家に開く」考え方は、小さな会社でも取り入れられます。

誤解3:アートを載せれば、製品が売れる
アートの効果は、製品の質や、ブランドの姿勢との整合性に左右されます。作品を載せること自体が目的にならないよう、注意が必要です。

導入前のチェックリスト

  • [ ] 作家に開く製品(または一部)を決めている
  • [ ] 製品の機能・安全・法令上の条件を、作家に共有している
  • [ ] 作品が、製品の使われ方と矛盾していない
  • [ ] 作家名の表示や、作品の改変範囲を決めている
  • [ ] 一度で終わらせず、次の展開の見通しがある
  • [ ] 発売以外に、制作の過程を伝える場を考えている

まとめ

BMWアートカーは、1975年のカルダーから2024年のメヒレトゥまで、製品そのものを作家に開いてきた、継続的な取り組みです。要点を整理します。

  • 始まりは1975年のル・マン24時間で、プーランがカルダーに依頼した3.0 CSL
  • 2024年にジュリー・メヒレトゥが20台目を手がけ、レースで走らせた
  • 製品をキャンバスにするとは、企業の核心に作家が関わる設計である
  • 学べる視点は、任せる範囲、継続、使われ方との両立、権利の扱いの4つ
  • 規模が違っても、製品の一部を作家に開く考え方は応用できる

作品を載せること以上に、製品とブランドの姿勢が重なっているかどうかが問われます。まずは、自社のどの製品を作家に開けるかを、考えるところから始めてみてください。

よくある質問(FAQ)

Q1. BMWアートカーは、全部で何台ありますか。

BMWは、2024年のジュリー・メヒレトゥの車を「20台目」と位置づけており、1975年以降20人の作家がアートカーを手がけたと説明しています。媒体によって数え方が異なる場合があります。

Q2. アートカーは、実際にレースを走ったのですか。

ル・マンを走ったアートカーがあります。1975年のカルダーの車は、ル・マン24時間に出場しましたが、完走はできませんでした。2024年のメヒレトゥの車も、ル・マン24時間に出場しています。すべてのアートカーがレースを走ったわけではなく、展示専用の車もあります。個別の車については資料で確認してください。

Q3. 日本の企業が、同じような取り組みをするには何から始めればよいですか。

規模の大きな取り組みでなくても、特定の製品の包装やデザインを、期間を決めて作家に託す形から始められます。契約や著作権の扱いは、最初に整理し、弁護士などの専門家に確認してください。

あわせて読みたい


この記事を書いた Euphoric " " について

Euphoric " " は、ユアムーン株式会社が運営するアートメディアです。ユアムーンは、デザインとクリエイティブを軸にしたブランディング会社です。ブランドの言語化から、ロゴやWebサイトなどのデザイン、社内外への発信までを一貫して設計しています。ご希望に応じて、アートの選定・導入もお手伝いしています。

製品や空間にアートを取り入れる場合は、ブランドの核を言葉にしたうえで、作家に任せる範囲を設計することが重要です。節目の計画段階から、ご相談をお受けしています。

参考資料

NEW POSTS / 新着記事

開催中の展覧会いま行ける展覧会を、終了が近い順に157件 開催中/7日以内に終了 7件展覧会を探す
全国の美術館・博物館ガイド全国の美術館を、エリアから26館掲載美術館を探す