パブリックアートとは?ファーレ立川・六本木ヒルズに見る街のブランディング

パブリックアートとは?ファーレ立川・六本木ヒルズに見る街のブランディング
写真:Wpcpey / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0。トリミング・文字入れ。この画像もCC BY-SA 4.0で提供)

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パブリックアートとは、街路、広場、公園、駅前、商業施設の共用部など、誰もが立ち入れる公共性の高い場所に設置されたアート作品のことです。美術館に足を運ばなくても出会えることが特徴で、街の景観や待ち合わせ場所、地域の記憶そのものになることがあります。

企業にとっては、本社ビル、ホテル、商業施設、再開発の計画で「この場所をどんな場所にするか」を示す手段にもなります。この記事では、国内の代表的な事例と、制度、維持管理の実務までを整理します。

この記事で分かること

  • パブリックアートの定義と、街のブランディングで果たす役割
  • ファーレ立川、六本木ヒルズ、海外の「パーセント・フォー・アート」の事例
  • 企業が導入するときの進め方と、見落としやすい維持管理・権利の論点

パブリックアートとは何か:定義と特徴

パブリックアートは、美術館や画廊の中に置かれる作品とは違い、日常の動線の上にある作品です。ここでは、次の3つの特徴で捉えます(編集部の整理です)。

パブリックアートの3つの特徴(場所に開かれている、場所と結びついている、長期間そこにある)をまとめた図
図:パブリックアートの3つの特徴
  • 場所に開かれている:入場券や予約がなくても出会える
  • 場所と結びついている:その場所の歴史、用途、人の流れを前提に作られる、または選ばれる
  • 長期間そこにある:展覧会のように会期が終わらず、維持管理が必要になる

ベンチや車止め、換気口などの都市の機能を兼ねる作品もあり、「見るもの」と「使うもの」の境目がゆるやかな点も特徴です。

なぜ街のブランディングにアートが使われるのか

街や施設の印象は、建物の形や店の種類だけでは決まりません。「ここはどういう場所か」を、言葉を使わずに伝えるのがアートです。

たとえば、駅前の再開発で、同じ大きさのビルが並ぶだけの街と、歩くたびに作品に出会える街とでは、記憶に残る度合いが違います。作品は待ち合わせの目印になり、写真に撮られ、SNSで共有されることで、街の名前とともに広がります。これが、パブリックアートが街のブランディングに使われる理由です。

事例1:ファーレ立川(東京都立川市)

米軍基地跡地の再開発とアート

ファーレ立川は、米軍立川基地の跡地に、1994年に完成した再開発地区です。事業を担ったのは住宅・都市整備公団(現在の都市再生機構の前身)です。公団がアート計画のプロポーザルを行い、1992年に北川フラムさん率いるアートフロントギャラリーが指名され、作家の選定から設置までを担いました。

ファーレ立川の歩行者空間。彩色された人物彫刻群と巨大な赤い植木鉢の作品が見える
ファーレ立川の街並み。手前はサンデー・ジャック・アクパンの彩色彫刻、奥の赤い鉢はジャン=ピエール・レイノー《オープン・カフェテラス》
写真:RuinDig/Yuki Uchida / Wikimedia Commons(CC BY 4.0)

数字で見る規模

立川市の案内や美術手帖によると、ここには36か国92人のアーティストによる109点のパブリックアートがあり、1994年10月13日に誕生しました。参加作家には、ドナルド・ジャッド、ニキ・ド・サンファル、ジャン=ピエール・レイノー、岡﨑乾二郎さんなどがいます。

ベンチや換気口が作品になる

ファーレ立川の作品の多くは、ベンチ、車止め、換気口といった都市機能を兼ねています。作品を「置く」のではなく、街の設備そのものをアートとして設計することで、歩く人の日常の動線にアートが入り込んでいます。

ガラスケースに収められ、ネオン管をまとった自転車の作品
立川高島屋S.C.の駐輪場にあるロバート・ラウシェンバーグ《自転車もどきVI》。駐輪場のネオンサインを兼ねる作品
写真:赤猫法師 / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)

維持管理という課題

一方で、2023年1月には、立川高島屋S.C.の改装計画に伴い、岡﨑乾二郎さんの作品《Mount Ida─イーデーの山(少年パリスはまだ羊飼いをしている)》に2月以降の撤去が計画されていることが明らかになりました。作家本人や美術評論家連盟などの働きかけを経て、高島屋は撤去を撤回し、作品は保存されることになったと報じられています。街の再開発が進むなかで、作品の所有、管理、更新の取り決めが課題になりうることを示す例です。

事例2・3:六本木ヒルズと海外の制度

事例2:六本木ヒルズ(東京都港区)

六本木ヒルズは2003年4月に開業した複合施設で、敷地内には「六本木ヒルズ パブリックアート&デザインプロジェクト」による作品群があります。敷地内には20組以上のアーティストによる作品が設置されているとされます。

その象徴が、ルイーズ・ブルジョワの《ママン》です。高さ約10メートルの巨大なクモの彫刻で、六本木ヒルズの入り口にあたる「66プラザ」に設置されています。

六本木ヒルズの広場に立つ巨大なクモの彫刻《ママン》と行き交う人々
六本木ヒルズ「66プラザ」に設置されたルイーズ・ブルジョワ《ママン》(2013年撮影)
写真:Wpcpey / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)

ここで注目したいのは、作品が単なる装飾ではなく、「この場所に来た」ことを示す記号として機能している点です。作品の名前や姿で、場所を伝えられる。ブランディングの観点では、大きな資産です。

事例3:海外の「パーセント・フォー・アート」

公共の建設費の一部を芸術に充てる制度が、「パーセント・フォー・アート」です。米国フィラデルフィアは、1959年にこの制度を始めた最初の都市とされています。同年3月にフィラデルフィア再開発公社が制度を設け、12月には市議会が、市が資金を出す建設事業の総額の1%をその場所に合わせた原作のパブリックアートに充てる条例を可決しました。

公共の建設費の一部を芸術に充てるパーセント・フォー・アート制度が、フィラデルフィアから各都市へ広がった流れを示した図
図:パーセント・フォー・アートの広がり

その後、ボルティモア(1964年)、サンフランシスコとハワイ(1967年)、シアトル(1973年)などに広がりました。連邦レベルでも、一般調達局(GSA)が1963年に連邦の新しい建物への芸術導入の取り組みを始め、1972年に「Art in Architecture」プログラムとなりました。現在は建設費の0.5%を充てるとされています。

二塁に滑り込む走者と野手を表したブロンズ彫刻
ジョー・ブラウン《Play at Second Base》。フィラデルフィア市の「建設費の約1%を芸術に」の条例により、旧ベテランズ・スタジアムのために制作された彫刻(現在はシチズンズ・バンク・パーク付近)
写真:Smallbones / Wikimedia Commons(CC0)
連邦ビル前の噴水に置かれた、帆のような形のステンレスの彫刻
デヴィッド・フォン・シュレーゲル《Voyage of Ulysses》(1977年)。米国一般調達局(GSA)の建築芸術プログラムで、フィラデルフィアの連邦裁判所前に設置
写真:Carol M. Highsmith(米国一般調達局のための撮影) / Wikimedia Commons(パブリックドメイン)

日本は、制度として一律ではありませんが、自治体や再開発、民間の開発の中で、独自にアートを組み込む例が見られます。企業が自主的に取り入れる場合も、考え方は同じです。計画の初期から予算と枠組みを組み込むことが、作品を後付けで置くより効果的になりやすい、というのが編集部の見方です。

街のブランディングで効く3つの条件

パブリックアートが街や施設のブランドに結びつくかどうかは、作品の有名さだけでは決まりません。事例から、編集部は次の3つの条件が重要だと考えています。

  1. 日常の動線にあること:ファーレ立川のように、ベンチや車止めなど毎日使うものに作品が組み込まれていると、意識しなくても記憶に残ります。
  2. 目印になる強さがあること:六本木ヒルズの《ママン》のように、遠くからでも目に入る存在感があると、場所そのものの記号になります。
  3. 説明が用意されていること:作者、制作の背景、作品の意図を伝える案内(キャプションやガイド)があると、「ただ置かれているもの」から「理由のある作品」へと印象が変わります。

3つ目は見落とされがちです。作品を選ぶ理由をブランドの言葉で説明できることが、街の物語になります。

企業がパブリックアートを導入するときの進め方と実務チェック

たとえば「地方都市で新しい複合施設を計画している企業を想定する」と、次のような流れが考えられます(仮の例です)。

企業がパブリックアートを導入する際に整える、場所の目的・予算・作家選び・設置条件・権利・維持管理の6項目を示した図
図:導入前に整える6つのこと
  1. 場所の目的を言葉にする:誰が、どんな時間を過ごす場所にしたいのか
  2. 予算の枠を早期に確保する:設計段階から、作品の予算を組み込む
  3. 作家・作品の選び方を決める:コンペ、推薦、公募など
  4. 設置条件を確認する:重量、安全、雨風、メンテナンス、周辺の動線
  5. 権利と契約を整理する:作品の所有、著作権、利用の範囲
  6. 維持管理と更新の計画を立てる:清掃、修復、将来の撤去・移設の取り決め

作家・作品の選び方

作家や作品の選び方には、いくつかの方法があります。ファーレ立川では、住宅・都市整備公団がアート計画のプロポーザルを行い、北川フラムさん率いるアートフロントギャラリーが、作家の選定から設置までを担いました。企業が導入する場合も、次のような選び方が考えられます(編集部の整理です)。

  • コンペ:複数の作家や企業から提案を募り、審査で選ぶ
  • 推薦・指名:専門家やキュレーターの推薦で、作家を決める
  • 公募:広く作家を募り、応募の中から選ぶ

どの方法でも、「なぜこの作家なのか」を、ブランドの言葉で説明できることが大切です。選定の過程を記録しておくと、完成後の広報や、社内外への説明に役立ちます。

導入前のチェックリスト

  • [ ] 設置する場所の目的を、一文で説明できるか
  • [ ] 作品の予算を、建設計画の初期から確保しているか
  • [ ] 作家・作品を選ぶ理由を、ブランドの言葉で説明できるか
  • [ ] 安全性(重量、強度、転倒、接触)の確認を行ったか
  • [ ] 所有、著作権、利用の範囲を契約で整理したか
  • [ ] 維持管理の担当と費用、将来の更新・撤去の方針を決めたか

見落としやすい論点:権利と維持管理

著作権との関係

著作権法第46条は、原作品が街路、公園など一般公衆に開放されている屋外の場所などに恒常的に設置されている美術の著作物について、一定の場合を除き、方法を問わず利用できると定めています。例外は、彫刻の増製・譲渡による提供、建築の著作物の建築による複製、屋外に恒常的に設置するための複製、専ら複製物の販売を目的とする場合などです。

したがって、屋外の作品を背景に写真を撮って発信することは、原則として可能です。ただし、彫刻の増製や、専ら複製物の販売を目的とする場合などは制限があるため、事前に権利の範囲を確認しておく必要があります。詳しくは、次の知財の回で整理します。法的な判断は、弁護士など専門家にご確認ください。

撤去・移設の可能性を最初に決めておく

街や施設は、時間とともに変わります。ファーレ立川で撤去計画が持ち上がった例が示すように、周辺の再開発や建物の更新に伴って、作品の扱いが問われることがあります。導入の段階で、作品の所有者は誰か、移設や撤去が必要になったときの手続きと費用は誰が負うか、作者への連絡や意見聴取をどう行うかを、契約に書いておくと、将来の対立を防げます。

作品は、置く日よりも、置き続ける間のほうが、ブランドへの影響が大きくなります。

維持管理の責任

屋外の作品は、雨風、日差し、人の接触にさらされます。清掃や修復を誰が、どのくらいの頻度で、どの予算で行うのかを、導入時に取り決めておく必要があります。取り決めがないと、劣化が進んでも誰も手をつけられず、ブランドの印象を下げる原因にもなります。

まとめ

パブリックアートとは、誰もが出会える場所に設置されるアートで、街の景観や記憶、ブランドの記号になる存在です。ファーレ立川は36か国92人の109点で、街の機能そのものをアートにしました。六本木ヒルズでは、《ママン》が場所の象徴として機能しています。海外では、フィラデルフィアのように、制度として予算を確保する仕組みも生まれました。

導入で大切なのは、作品の選定だけでなく、計画の初期の予算確保、権利の整理、そして長期の維持管理です。アートは置いた日よりも、置き続ける時間のほうが長い。その前提で設計することが、街と企業のブランドを育てると私たちは考えています。

よくある質問(FAQ)

Q1. パブリックアートと彫刻(モニュメント)は同じですか。

重なる部分はありますが、同じではありません。パブリックアートは、彫刻に限らず、壁画、ベンチ、光、映像など、公共の場所にあるアート全般を指します。モニュメントは記念を目的とするものに使われることが多い言葉です。

Q2. 民間の施設に置く作品も、パブリックアートと呼べますか。

商業施設や本社ビルの共用部など、誰もが立ち入れる場所にあれば、一般にパブリックアートとして紹介されることが多いです。ただし、営業時間外は入れない場所など、公共性の度合いは施設によって異なります。

Q3. 費用はどのくらいかかりますか。

作品の規模、素材、作家、設置工事、保険、維持管理で大きく異なるため、一概には言えません。海外の制度では建設費の1%という目安がありますが、日本では案件ごとに決めるのが一般的です。計画の初期に見積りを取り、予算の枠を決めることをお勧めします。

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この記事を書いた Euphoric " " について

Euphoric " " は、ユアムーン株式会社が運営するアートメディアです。ユアムーンは、デザインとクリエイティブを軸にしたブランディング会社です。ブランドの言語化から、ロゴやWebサイトなどのデザイン、社内外への発信までを一貫して設計しています。ご希望に応じて、アートの選定・導入もお手伝いしています。

パブリックアートは、場所の目的を言葉にし、作品の選定から維持管理までを一貫して設計することで、長く価値を保ちやすくなります。ユアムーンでは、その設計から相談をお受けしています。


参考資料

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