ブランドの知財とは、ブランドを形づくる名前、マーク、色、形、デザイン、表現といった無形の資産を、法律上の権利として守り、使いこなすための考え方です。代表的なものが、著作権、商標権、意匠権の3つです。
アートを企業に取り入れるとき、特に混同されやすいのが「作品を買うこと」と「作品の著作権を持つこと」の違いです。この記事では、3つの権利の基本と、アート導入の場面で起きやすい論点を整理します。
この記事で分かること
- 著作権・商標・意匠の違いと、ブランドでの使い分け
- 美術作品を購入したときの「所有権」と「著作権」の関係(展示・屋外設置・複製)
- アーティストに依頼・契約するときに確認したいポイント
※この記事は法令の一般的な整理です。個別の事案は、必ず弁護士・弁理士などの専門家にご確認ください。
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Toggleブランドの知財とは:3つの権利の違い

| 権利 | 守るもの | 発生の仕方 | 存続期間 |
|---|---|---|---|
| 著作権 | 創作された表現(絵画、彫刻、写真、文章など) | 創作と同時に発生し、登録は不要 | 原則として著作者の死後70年 |
| 商標権 | 商品・サービスを区別する名前やマーク(文字、図形、色彩、立体的形状、音など) | 特許庁への出願・登録で発生 | 登録から10年(更新可) |
| 意匠権 | 物品・建築物・画像の形状、模様、色彩のデザイン | 特許庁への出願・登録で発生 | 出願から25年 |
根拠は、それぞれ次の条文です。
- 著作権:著作権法第17条第2項は、著作者の権利の享有にはいかなる方式の履行も要しないと定め、第51条第2項は、著作権が著作者の死後70年を経過するまで存続すると定めています。
- 商標権:商標法第19条第1項は、存続期間を設定の登録の日から10年とし、第2項で更新を認めています。
- 意匠権:意匠法第21条第1項は、意匠権(関連意匠を除く)の存続期間を意匠登録出願の日から25年と定めています。
ブランドでの使い分け
たとえば、ある会社のブランドを例にします(仮の例です)。
- 社名やロゴ、キャッチコピーのうち「商品・サービスの名前として使うもの」は、商標で守る
- ロゴを描いたイラストや、広告に使う写真・絵画は、著作権で守られる(創作者に帰属する)
- 独自の形の家具、店舗の外観や内装、アプリの画面は、意匠の対象になりうる
意匠法第2条第1項は、意匠を、物品、建築物、画像(機器の操作の用に供されるものなど一定のもの)の形状、模様、色彩などであって、視覚を通じて美感を起こさせるものと定めています。物品だけでなく、建築物や画像も含まれる点がポイントです。

画像:米国特許商標庁の公報 / Wikimedia Commons(パブリックドメイン)
意匠の出願で気を付けること
意匠法第3条第1項は、意匠登録出願の前に日本国内または外国で公然知られた意匠や、刊行物に記載された意匠、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠などは、登録を受けられないと定めています。つまり、新しい家具や空間のデザインを、出願の前にWebサイトやSNSで公開してしまうと、登録が難しくなる可能性があります。
独自のデザインを守りたい場合は、公表の前に、専門家に相談して出願の時期を決めることが大切です。
美術作品を購入したときの「所有権」と「著作権」
別々の権利であるという原則
企業がアート作品を購入すると、作品という「物」の所有権を得ます。しかし、それだけでは作品の著作権は移りません。最高裁判所は1984年1月20日の判決(顔真卿自書建中告身帖事件)で、美術の著作物の原作品に対する所有権は、有体物としての面に対する排他的支配にとどまり、無体物である著作物そのものを直接排他的に支配する権能ではない、という趣旨を示しています。
つまり、作品を購入しても、作品の画像を自由に印刷物やグッズにできるわけではありません。複製や翻案などの権利(著作権)は、原則として作者のもとにあります。
展示はできる:著作権法第45条
一方で、購入した作品を社内やロビーに飾ることは、通常は問題ありません。著作権法第45条第1項は、美術の著作物または写真の著作物の原作品の所有者、またはその同意を得た者は、これらを原作品により公に展示できると定めています。展示権は著作者が専有する権利(第25条)ですが、原作品の所有者には、この例外が認められています。
屋外に恒常的に置く場合の例外
ただし、第45条第2項は、街路、公園その他一般公衆に開放されている屋外の場所、または建造物の外壁その他一般公衆の見やすい屋外の場所に、美術の著作物の原作品を恒常的に設置する場合には、第1項を適用しないと定めています。
つまり、購入した作品を、公共性の高い屋外の場所に恒常的に設置する場合は、展示について作者の許諾を得ておく必要があります。パブリックアートや、本社の外構に作品を置く計画では、必ず確認してください。

写真:RuinDig/Yuki Uchida / Wikimedia Commons(CC BY 4.0)
展示に伴う複製:図録・解説・案内
著作権法第47条は、美術の著作物を原作品により公に展示する者が、観覧者のための解説や紹介を目的とする小冊子への掲載や、解説・紹介のための上映・公衆送信、所在に関する情報の提供のために、必要と認められる限度で作品を複製できるとしています。著作権者の利益を不当に害する場合は、この限りではありません。
ここで注意したいのは、広告や商品販売への利用は、この範囲に含まれない点です。
屋外に設置された作品の利用:第46条
著作権法第46条は、原作品が前述の屋外の場所に恒常的に設置されている美術の著作物は、次の場合を除き、いずれの方法によるかを問わず利用できると定めています。
- 彫刻を増製し、またはその増製物の譲渡により公衆に提供する場合
- 建築の著作物を建築により複製し、またはその複製物の譲渡により公衆に提供する場合
- 屋外の場所に恒常的に設置するために複製する場合
- 専ら美術の著作物の複製物の販売を目的として複製し、またはその複製物を販売する場合
そのため、屋外のパブリックアートを背景にした写真を発信すること自体は、原則として認められています。一方、作品を模したグッズを制作・販売する場合などは、例外に当たりうるため、事前に権利者への確認が必要です。
アーティストに依頼・契約するときの論点
著作権の譲渡と利用許諾
ロゴのイラスト、壁画、ブランドのための作品などをアーティストに依頼する場合、完成した作品の使い方に応じて、契約で「著作権を譲渡する」のか「利用を許諾する」のかを決めます。著作権法第61条第1項は、著作権の全部または一部を譲渡できると定めています。
見落としやすい2点
- 翻案権等の特掲:第61条第2項は、著作権を譲渡する契約で、第27条(翻訳権、翻案権等)または第28条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は譲渡した者に留保されたものと推定するとしています。つまり、「著作権を譲渡する」とだけ書いても、作品を加工して使う権利が移っていない可能性があります。
- 著作者人格権:第59条は、著作者人格権は著作者の一身に専属し、譲渡できないと定めています。著作者人格権には、公表権(第18条)、氏名表示権(第19条)、同一性保持権(第20条)が含まれます。作品を切り取る、色を変える、文字を重ねるといった加工は、同一性保持権に関わりうるため、契約で取扱いを決めておく必要があります。
利用許諾の範囲は「具体的に」書く
利用許諾で揉めやすいのは、範囲が曖昧なときです。たとえば「広報に使ってよい」とだけ書くと、Webサイトだけなのか、印刷物や動画、屋外広告も含むのか、判断が分かれます。次のように分けて確認すると、後から迷いにくくなります。

- 媒体:Webサイト、SNS、印刷物、動画、展示、屋外広告など
- 地域:国内のみか、海外も含むか
- 期間:1年、3年、期限なしなど
- 改変:トリミング、色の変更、文字の重ね合わせの可否
- 再許諾:関連会社や制作会社に使わせてよいか
範囲を書面に残しておくことが、作家にとっても企業にとっても安心につながります。
契約書のチェックリスト
- [ ] 成果物の範囲(作品、ラフ、データなど)
- [ ] 著作権は譲渡か、利用許諾か
- [ ] 譲渡する場合、第27条・第28条の権利も特掲しているか
- [ ] 利用許諾の場合、範囲(媒体、地域、期間、複製・改変の可否)
- [ ] 著作者人格権の扱い(氏名表示、改変の可否)
- [ ] 作者名の表記方法(作品キャプション、広報物)
- [ ] 作品の修復・撤去・移設時の取り決め
- [ ] 作品が第三者の権利を侵害していないことの確認
商標とアートの関係:作品とロゴ、先に出願した人が強い

作品を依頼しても、商標権は自動では生まれない
アーティストにロゴのデザインを依頼し、完成したイラストの著作権を譲り受けても、それだけで商標権が得られるわけではありません。商標法第18条第1項は、商標権は設定の登録により発生すると定めています。ロゴを商標として守りたいなら、使う企業が、使う商品・サービスの区分を指定して出願する必要があります。

画像:エドゥアール・マネ / Wikimedia Commons(パブリックドメイン)
先願主義という考え方
商標法第8条第1項は、同一または類似の商品・役務について、同一または類似の商標の出願が異なる日に二つ以上あったときは、最先の出願人のみが登録を受けられると定めています。つまり、先に出願した人が優先されます。ロゴを公表したあとに、他社が先に似た商標を出願していた、という事態を避けるには、公表前の調査と出願が重要になります。
権利が重なるとき:著作権との関係
作品をもとにしたロゴや商品を使うとき、他人の権利と衝突することがあります。商標法第29条は、登録商標の使用が、商標登録出願の日前に生じた他人の著作権と抵触するときは、その部分で登録商標を使用できないと定めています。意匠法第26条にも、意匠登録出願の日前に生じた他人の著作権と抵触するときは、登録意匠を実施できないという同様の考え方があります。
登録ができたからといって、無条件に使えるとは限りません。作品や素材の権利者から必要な許諾を得ているかを、あわせて確認する必要があります。
ブランドとして整理したい4つの場面
| 場面 | 主に関わる権利 | 確認すること |
|---|---|---|
| 作品を購入して社内に展示する | 所有権、展示(第45条) | 屋外・公共の場所でないか |
| 作品を広告やWebに使う | 著作権(複製・公衆送信) | 作者の許諾の範囲 |
| 作品を元にロゴやグッズを作る | 著作権(翻案)、商標 | 翻案権の許諾、商標調査 |
| 店舗の内装や家具をオリジナルにする | 意匠、著作権 | 意匠登録の要否、デザイナーとの契約 |
まとめ
ブランド知財の基本は、著作権・商標権・意匠権の違いを理解し、アートの導入の場面ごとに、確認すべき権利を整理することです。作品を購入しても、著作権は原則として移りません。展示は第45条で認められますが、公共性の高い屋外に恒常的に設置する場合は例外です。
アーティストとの契約では、譲渡か許諾か、翻案権の特掲、著作者人格権の扱いを、最初に決めておくことが、後のトラブルを防ぎます。これらを節目の計画段階で専門家に確認しながら進めることで、アートは長くブランドの資産として使い続けられます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 購入した絵画を、会社のパンフレットに載せてもよいですか。
作品の所有権があっても、パンフレットへの掲載は複製にあたり、原則として著作権者の許諾が必要です。展覧会の解説や紹介を目的とした範囲では第47条の例外がありますが、一般の広報物や広告は含まれません。作者または権利者に確認してください。
Q2. 著作権は登録しないと発生しませんか。
いいえ。著作権法第17条第2項により、著作権は創作と同時に発生し、登録などの手続きは不要です。商標権や意匠権とは異なります。
Q3. 作品を外壁に設置したいのですが、注意点はありますか。
建造物の外壁など、一般公衆の見やすい屋外の場所に恒常的に設置する場合は、第45条第2項により所有者の展示の例外が適用されません。作者の許諾を得て契約書に残してください。
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この記事を書いた Euphoric " " について
Euphoric " " は、ユアムーン株式会社が運営するアートメディアです。ユアムーンは、デザインとクリエイティブを軸にしたブランディング会社です。ブランドの言語化から、ロゴやWebサイトなどのデザイン、社内外への発信までを一貫して設計しています。ご希望に応じて、アートの選定・導入もお手伝いしています。
アートの導入では、作品の選定とあわせて、権利の整理と契約の設計が欠かせません。ユアムーンでは、ブランドの考え方を整理するところから相談をお受けしています。
参考資料
- 著作権法(昭和45年法律第48号)第17条、第18条〜第20条、第25条、第27条、第28条、第45条〜第47条、第51条、第59条、第61条(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/345AC0000000048
- 商標法(昭和34年法律第127号)第2条、第3条、第19条(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/334AC0000000127
- 意匠法(昭和34年法律第125号)第2条、第3条、第21条(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/334AC0000000125
- 最高裁判所第二小法廷 昭和59年1月20日判決(昭和58年(オ)第171号、顔真卿自書建中告身帖事件)裁判所 裁判例情報 https://www.courts.go.jp/hanrei/52181/detail7/index.html
- 美術の著作物等の展示に伴う複製等に関する著作権法第47条ガイドライン(日本博物館協会など6団体の連名、2019年1月22日策定)https://www.j-muse.or.jp/02program/pdf/chyosakuken47guide.pdf











