KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)とは、最終的な目標に向けた進み具合を、途中経過の数字で確認するための指標のことです。たとえば「年間売上1億円」という最終目標があるとき、「月の商談数」や「問い合わせ件数」のように、目標に近づいているかを日々確かめられる数字がKPIにあたります。
この記事では、次の3点を整理します。
- KPIの意味と、KGI・目標との違い
- KPIの決め方と、陥りやすい失敗
- 認知や信頼など「数字にしにくい」ブランディングの成果を、どう指標に落とすか
コンテンツ
ToggleKPIとは:意味とKGIとの違い
KPIは「途中経過を測るものさし」
KPIは、目標そのものではなく、目標に至る道のりの状態を知らせる指標です。登山にたとえるなら、山頂が最終目標、通過すべき山小屋の到着時刻がKPIに近いイメージです。山頂だけを見ていても、いま順調かどうかは分かりません。途中の地点で確認できる数字があると、遅れや寄り道に早く気づけます。
KGIとの違い
KGI(Key Goal Indicator:重要目標達成指標)は、最終的に達成したい成果そのものを数字で表したものです。KPIはKGIを達成するための過程を測ります。

| 項目 | KGI | KPI |
|---|---|---|
| 位置づけ | 最終的なゴール | ゴールへの途中経過 |
| 例(店舗の場合) | 年間売上、利益 | 来店者数、購入率、客単価 |
| 確認の頻度 | 期末・年次が中心 | 週次・月次が中心 |
| 役割 | 成功の定義 | 軌道修正のヒント |
なお、KPIとKGIの呼び方や線引きは会社や業界によって違います。社内で言葉の意味をそろえておくことが大切です。
三つの関係:目的・KGI・KPI
実務では、「目的(なぜやるのか)」「KGI(何を達成するか)」「KPI(その過程をどう測るか)」の順に整理すると混乱しません。目的が曖昧なまま数字だけを決めると、数字を達成すること自体が目的になってしまいます。
KPIの歴史的な背景:バランスト・スコアカード
KPIという考え方が経営で広く使われるきっかけの一つが、ロバート・キャプランとデビッド・ノートンが1992年1月・2月号の『Harvard Business Review』に発表した論文「The Balanced Scorecard: Measures That Drive Performance」です。
二人は、財務の数字だけで経営を測ると、目に見えにくい資産(顧客との関係、社内の仕組み、人の成長など)の状態を見落とすと指摘しました。そこで、財務の視点に加え、顧客、社内プロセス、学習と成長という合計4つの視点で指標を組み立てる方法を提案しました。この考え方が、のちの「バランスト・スコアカード」として広がっています。
ブランディングの指標を考えるうえでも、この発想は参考になります。売上だけではなく、顧客の認識や社内の理解度も含めて見る、という考え方です。
KPIの決め方:4つのステップ

- 目的とKGIを決める:たとえば「周年事業を通じて、採用応募の質を高める」という目的なら、KGIは「新卒応募者のうち、志望動機に自社の理念を挙げた割合」のように、最終的な状態を数字で表します。
- KGIに影響する要因を洗い出す:何が変われば、KGIは動くのかを考えます。
- 測れて、動かせる指標を選ぶ:測定にコストがかかりすぎるものや、自社で動かしようがないものは避けます。
- 目標値・期限・担当を決める:誰が、いつまでに、どの水準を目指すのかを決めます。
目標設定の定番:SMART
目標を決めるときの定番の考え方に「SMART」があります。ジョージ・ドランが1981年に『Management Review』誌で発表した論文が起点とされ、元の文献では Specific(具体的)、Measurable(測定可能)、Assignable(担当が明確)、Realistic(現実的)、Time-related(期限がある)の頭文字とされています。のちに、Achievable(達成可能)、Relevant(関連性がある)、Time-bound(期限がある)という版が広く知られるようになりました。
KPIも同じで、「認知を上げる」ではなく「指名検索数を半年で〇件増やす」のように、具体性と期限を持たせると運用しやすくなります。
美術館の例で考える:数字は一つではない
美術館の評価を例に、複数の指標をどう組み合わせるかを考えてみます。
ルーヴル美術館は、美術の専門誌『The Art Newspaper』の集計を引用した報道によると、2024年の入館者数が約870万人で、世界で最も入館者の多い美術館でした(前年は約890万人と報じられています)。入館者数は、わかりやすく比べやすい指標です。
しかし、美術館の価値を入館者数だけで測ることはできません。作品の保存状態、研究や教育の活動、展覧会の評価、市民との関わりなど、数字にしにくい価値が多くあります。入館者数を増やすことを優先しすぎると、長期的に大切な活動が後回しになるおそれもあります。
これは企業のブランディングにも当てはまります。分かりやすい数字(フォロワー数、PV数など)だけを追うと、本来の目的から離れてしまうことがあります。数字は手段であり、目的の代わりにはなりません。
ブランディングの成果を測る指標の例
ブランディングの成果は、時間をかけて変化します。次のように、「認知」「理解」「好意・信頼」「行動」に分けて指標を選ぶと整理しやすくなります。

| 段階 | 見たいこと | 指標の例 |
|---|---|---|
| 認知 | 知られているか | 認知度調査、会社名・ブランド名での検索数 |
| 理解 | 正しく伝わっているか | 「何の会社か」の回答の一致率、社員が説明できる割合 |
| 好意・信頼 | 好まれているか | 好意度調査、推奨意向、口コミの内容 |
| 行動 | 選ばれているか | 指名での問い合わせ数、採用応募数・質、継続取引の割合 |
社内の指標も重要
ブランディングは社外だけの活動ではありません。社員が自社の理念を理解しているか、判断の基準として使っているかも重要な指標です。社内アンケートでの理解度や共感度、採用面接での志望動機の傾向などを、定点で見る方法があります。
仮の例:オフィス移転にあわせたブランディング
分かりやすくするために、仮の例を一つ挙げます。たとえば「従業員80名のソフトウェア会社が、オフィス移転を機にブランディングに取り組む」と想定すると、次のように整理できます。
- 目的:自社の理念が伝わるオフィスをつくり、採用と取引の質を高める
- KGI:移転後1年間の新卒・中途の応募者のうち、理念に共感して応募した人の割合を、現状から10ポイント高める
- KPI:会社名での検索数(月次)、社内アンケートの理念理解度(半年ごと)、オフィス見学の申し込み件数(月次)
これはあくまで仮の例で、実際の数値目標は自社の現状に合わせて決める必要があります。
避けたい落とし穴:見栄えのよい数字
フォロワー数やページの閲覧数のように、増えると成果が出たように見える数字は、「見栄えのよい指標」になりがちです。数字が増えても、それが会社の選ばれ方にどうつながるのかが説明できなければ、判断材料としては弱くなります。
見栄えのよい数字を使う場合は、「この数字が増えると、最終的に何がどう変わるのか」を一文で書けるかを確認します。書けない場合は、別の指標と組み合わせるか、参考値として扱うにとどめる方が安全です。
たとえば、ブランドの認知を高める目的でSNSを運用する場合でも、フォロワー数だけでなく、「会社名での検索数」や「問い合わせの際に挙がる認知経路」のように、行動に近い指標を組み合わせると、実態に近づけます。
なお、指標は一度決めたら終わりではありません。目的が変われば、見るべき数字も変わります。年に一度は、目的と指標の対応表を見直すことをおすすめします。
KPIを使いこなす:ツリー・運用のコツ・失敗例
KPIツリーで考える:指標を分解する
KPIが決めにくいときは、「KPIツリー」という整理の仕方が役立ちます。最終目標(KGI)を頂点にして、それに影響する要因を枝分かれさせていく方法です。
仮の例で考えてみます。たとえば「地方のホテルが、リブランディングを通じて、直接予約の比率を高める」と想定すると、次のように分解できます。
- KGI:直接予約(自社サイト・電話)の比率を、1年後に現状から一定程度高める
- 要因A:ホテルの名前を知っている人を増やす → 指標:ホテル名での検索数、認知度調査
- 要因B:サイトを見た人が「泊まりたい」と感じる → 指標:サイトの滞在時間、予約ページへの到達率
- 要因C:泊まった人が再訪・紹介する → 指標:再訪率、口コミの内容
これはあくまで考え方を示す仮の例で、実際の指標や数値は施設ごとに異なります。ポイントは、KGIに直接つながる要因を言葉にしたうえで、各要因を測れる指標に置き換えていく順序です。最初から指標の一覧を作ると、測りやすい数字ばかりが並びやすくなります。
KPIを運用に乗せるコツ
指標を決めても、日々の運用に乗らなければ意味が薄れます。運用の工夫を3つ挙げます。
1. 見る頻度を指標ごとに変える
問い合わせ数のように短期で動く指標は月次、社内アンケートや認知度調査のようにゆっくり動く指標は半年〜年次で見ます。すべてを毎月見ようとすると、変化が小さく、判断材料になりにくくなります。
2. 数字の背景を言葉で添える
数字だけを報告すると、増減の理由が分からず、次の行動につながりません。「検索数が増えたのは、周年イベントの記事がきっかけと考えられる」のように、背景の仮説を添えて共有します。
3. 担当を決めて、見直す日を決める
指標ごとに担当者を決め、半年ごとなど、見直す日をあらかじめ決めておきます。見直しの場で「この指標は今の目的に合っているか」を確認することで、数字が目的化するのを防げます。
KPI設定でよくある失敗
- 数字が多すぎる:多くの指標を追うと、どれも見られなくなります。重要な3〜5個に絞るのが現実的です。
- 測れるものだけを選ぶ:測りやすい数字に偏ると、本当に大切な成果を見落とします。測りにくくても重要なものは、アンケートなどで補います。
- KPIが目的化する:数字を達成するために、本来の目的に反する行動が生まれることがあります。定期的に目的に立ち返ります。
- 見直さない:事業の状況や市場は変わります。半年〜1年ごとに、指標が今の目的に合っているかを点検します。
まとめ
- KPIとは、最終目標に向けた進み具合を、途中経過の数字で確認する指標です。
- KGIは最終的なゴール、KPIはそこに至る過程を測るもので、役割が違います。
- 目的、KGI、KPIの順に整理すると、数字が目的化するのを防げます。
- ブランディングは、認知・理解・好意・行動の段階に分けて指標を選ぶと整理しやすくなります。
- 美術館の例のように、分かりやすい数字だけで価値を測らない姿勢が、長期的な成果につながります。
節目となる取り組みの前に、何をもって成功とするかを決めておくと、後の判断がぶれにくくなります。計画の段階で専門家に相談しておくのも、一つの方法です。
よくある質問(FAQ)
Q1. KPIとKGIはどちらを先に決めますか。
KGI(最終的に達成したい成果)を先に決め、そこから逆算してKPIを決めます。目的が曖昧なまま指標だけを決めると、数字の達成が目的になってしまいます。
Q2. ブランディングの成果は数字で測れますか。
測れる部分と、測りにくい部分があります。認知度調査、指名検索数、採用応募数などは数字にできます。数字にしにくい部分は、アンケートの自由回答やインタビューで補う方法があります。
Q3. KPIはいくつ設定すればよいですか。
会社の状況によりますが、重要なものに絞って3〜5個程度から始めるのが運用しやすいと考えられます。多すぎると、確認や改善が追いつかなくなります。
この記事を書いた Euphoric " " について
Euphoric " " は、ユアムーン株式会社が運営するアートメディアです。ユアムーンは、デザインとクリエイティブを軸にしたブランディング会社です。ブランドの言語化から、ロゴやWebサイトなどのデザイン、社内外への発信までを一貫して設計しています。ご希望に応じて、アートの選定・導入もお手伝いしています。
数字にしにくい成果ほど、取り組みの前に「何をもって成功とするか」を言葉にしておくことが大切です。ブランドの軸の整理から、デザインや発信の見直しまで、一貫した設計を行っています。
参考資料
- Kaplan, R. S. & Norton, D. P. (1992). The Balanced Scorecard: Measures That Drive Performance. Harvard Business Review, Jan-Feb, 71-79. 参考:Balanced scorecard https://en.wikipedia.org/wiki/Balanced_scorecard
- Doran, G. T. (1981). There’s a S.M.A.R.T. way to write management’s goals and objectives. Management Review, 70(11), 35-36. 参考:SMART criteria https://en.wikipedia.org/wiki/SMART_criteria
- The Art Newspaper 2024年入館者数調査(仏語版) https://artnewspaper.fr/2025/04/02/frequentation-notre-classement-des-musees-les-plus-visites-au-monde-en-2024
- Musée du Louvre プレスリリース「8.7 million visitors to the Musée du Louvre in 2024」 https://presse.louvre.fr/8-7-million-visitors-to-the-louvre-in-2024






