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Toggleブランドアーキテクチャとは:複数のブランドの関係と役割を整理する設計図
ブランドアーキテクチャとは、企業が持つ複数のブランド(社名、商品名、サービス名、施設名など)の関係と役割を整理し、どのブランドがどのブランドを支え、どう見せるかを決める「設計図」のことです。
事業が広がると、名前は自然に増えます。新しいサービス、グループ会社、ホテルや商業施設の新設、周年事業での新ブランド。そのたびに名前を足していくと、お客様にも社員にも、「どれがどの会社の何なのか」が分かりにくくなります。ブランドアーキテクチャは、そうした混乱を防ぎ、新しいブランドを足すときの判断基準にもなります。
この記事で分かることは、次の3点です。
- ブランドアーキテクチャの基本的な型(ブランデッド・ハウスとハウス・オブ・ブランズなど)
- トヨタとレクサス、Alphabet、Tateなど、実在の事例に見る整理の仕方
- 自社のブランドを整理する手順と、よくある失敗
4つの型:ブランド関係スペクトラム
ブランドアーキテクチャの代表的な整理が、デービッド・アーカーとエーリッヒ・ヨアヒムスターラーの「ブランド関係スペクトラム」です。二人は、著書『Brand Leadership』(Free Press、2000年)と、同年の論文「The Brand Relationship Spectrum: The Key to the Brand Architecture Challenge」(California Management Review)で、この考え方を示しました。

スペクトラムは、親ブランド(企業名など)の影響が強い順に、大きく4つの型に分かれます。
| 型 | 考え方 | 特徴 |
|---|---|---|
| ブランデッド・ハウス | 1つのマスターブランドが、幅広い商品・サービスを覆う | 認知が1つに集まり、効率が良い。反面、1つの失敗が全体に響く |
| サブブランド | マスターブランドに、個別の名前が添えられる | 親の信頼を借りつつ、個別の特徴を出せる |
| エンドースド(保証付き)ブランド | 各ブランドは独立して見せるが、親が裏で保証する | 独立性を保ちながら、信頼の裏付けを示せる |
| ハウス・オブ・ブランズ | 各ブランドが独立し、親の存在をあまり見せない | 異なる顧客層・価値観に、別々に向き合える。反面、育てるコストが重い |
アーカーらの論文は、ブランデッド・ハウスとハウス・オブ・ブランズを両端とし、その間に連続的な段階があるものとして整理しています。ハウス・オブ・ブランズは、複数の事業にまたがってブランドを活用する規模の経済や相乗効果を手放す代わりに、個々のブランドが狙う市場で最大の効果を出せる、という対比です。実際の設計は、両端のどちらかを選ぶ二択ではなく、その間のどこに置くかを考えることになります。
なぜ大事か:ブランドの数が増えると、起きること
ブランドが増えたとき、整理されていないと起きやすいことを、編集部の見立てとして挙げます。
- お客様が「同じ会社の別のサービス」だと気づかず、信頼が引き継がれない
- 社内でも「どれを主力として育てるか」が曖昧になり、予算や人が分散する
- 新ブランドを足すたびに、ロゴや名前の決め方が毎回変わる
- 1つのブランドの不祥事が、他のブランドにも波及する
ブランドアーキテクチャは、これらを防ぐための仕組みで、特に、周年事業、リブランディング、新施設の新設といった節目で見直されることが多い領域です。
事例1:トヨタとレクサス ―― 別ブランドをつくった判断
トヨタ自動車が1989年に米国で展開した高級車ブランド「レクサス」は、親の名前を前に出さない型の例として知られます。
自動車専門誌Wardsの記事によると、レクサスの最初の車種LS 400は、1989年のデトロイトモーターショーで発表され、米国での発売は1989年9月1日でした。同記事は、トヨタがLSを「最高の車」にしたいと考え、その車を売るために別の販売部門を立ち上げる必要があると判断した、と伝えています。

写真:Coolalabright / Wikimedia Commons(CC BY 4.0)
これは、「大衆車で信頼を築いた親ブランドの名前が、高級という新しい約束に必ずしも合わない」場合の判断として読めます。親の信頼を借りる利点と、新しい約束に合う名前を選ぶ利点を、どう比べるか。ブランドアーキテクチャは、まさにその比較のための枠組みです。

写真:Tyoron2 / Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0)
事例2:Alphabet ―― 事業ごとの責任を切り分ける
2015年8月10日、グーグルはラリー・ペイジさんの発表により、持株会社「Alphabet」を設立し、事業を再編すると発表しました。ラリー・ペイジさんがAlphabetのCEO、セルゲイ・ブリンさんが社長を務め、スンダー・ピチャイさんがGoogleのCEOになると発表されました。ペイジさんは公式ブログで、会社をより「すっきりとして、責任の所在が明確」(原文は cleaner and more accountable)にできると説明しています。

写真:Håkan Dahlström / Wikimedia Commons(CC BY 2.0)
これは、名前の見せ方というより、事業と責任を整理する構造の例です。ブランドアーキテクチャは、デザインや名前だけの話ではなく、組織の構造や意思決定と結びついています。この事例は、「ブランドの整理」と「組織の整理」を同時に考える必要があることを教えてくれます。

出典:Alphabet Inc. / Wikimedia Commons(パブリックドメイン・商標)
事例3:アートの世界から ―― Tateは「1つのブランド」で複数の館をまとめた
アートの世界に目を向けると、イギリスのTateが分かりやすい例です。
Tateの公式サイトの沿革によると、新しい館名「テート・モダン」「テート・ブリテン」は1999年に発表され、テート・モダンは2000年5月11日に開館しました。Creative Reviewの記事によると、ウォルフ・オリンズは、2000年のテート・モダン開館に間に合うよう、組織全体のブランドを再設計しました。ロゴは、ロンドン(テート・モダン、テート・ブリテン)、セント・アイヴス、リバプールのすべての拠点で使われています。クリエイティブ・ディレクターのマリーナ・ウィラーさんは、異なるTateを1つにまとめるものが必要だった、と語っています。コンセプトは「もう一度見て、もう一度考える」で、ロゴは焦点の合い方が変わる複数の変形で構成されました。
この構造を、先ほどの型に当てはめて考えてみます。「Tate」というマスターブランドの下に、各館の名前が添えられている形は、ブランデッド・ハウスから、サブブランドの型に近いと、編集部は捉えています。館ごとの個性を残しながら、1つの信頼で束ねる。美術館のように、館ごとに展示の性格が異なる組織にとって、示唆の多い整理です。

写真:Julian Herzog / Wikimedia Commons(CC BY 4.0)
なお、Tateのロゴは後年、North社により再整理され、単一のロゴに移行したと報じられています。ブランドアーキテクチャは一度決めて終わりではなく、時間とともに見直すものです。
自社のブランドを整理する手順
ここからは、実務です。たとえば、飲食とホテルと不動産の3つの事業を持つ会社を想定して、手順を見てみましょう。(これは説明のための仮の例で、実在の会社ではありません。)

1. すべてのブランドを書き出す
社名、事業名、商品名、施設名、サービス名、過去に使った名前。まず一覧にします。意外に、社内でも全体像を把握している人がいないことがあります。
2. ブランドごとの「役割」を決める
主力ブランドか、新しい挑戦か、親を支える存在か。役割を決めると、投資の優先順位が見えてきます。
3. 顧客と約束を整理する
それぞれのブランドが、誰に、どんな約束をしているのか。顧客層が近く、約束が似ていれば、1つにまとめる選択肢があります。顧客層も約束も大きく違えば、独立させる選択肢が出てきます。
4. 型を選ぶ
次の問いに答えて、候補の型を絞ります。

| 問い | 「はい」なら | 「いいえ」なら |
|---|---|---|
| 親ブランドの信頼は、新しいブランドの価値を高めるか | 親の名前を前に出す方向(ブランデッド・ハウス、サブブランド) | 親の名前を抑える方向(エンドースド、ハウス・オブ・ブランズ) |
| 親ブランドは、新しい分野に広げても約束を保てるか | 広げる方向 | 別の名前を検討 |
| 別ブランドを育てる予算と人はあるか | 独立の方向 | 統合の方向 |
| 1つのブランドの失敗が、全体に及ぶことを許容できるか | まとめる方向 | 分ける方向 |
この表は、アーカーらの整理をもとに、編集部が実務向けにつくった問いの例です。アーカーらが示した判断基準そのものではありません。
5. 名前と見せ方のルールをつくる
型が決まったら、名前のつけ方、ロゴの組み合わせ、使ってはいけない表現などを、ルールとしてまとめます。商標の確認も忘れずに行います(ネーミングの確認手順は、連載の別の回で扱っています)。
6. 社内に共有し、定期的に見直す
設計図は、社内で共有されて初めて機能します。事業が変われば、設計も見直す必要があります。大きな節目の計画段階で、専門家に相談しておくと、手戻りを減らせます。
よくある失敗
- 名前の付け足しだけで済ませる:ルールがないまま新しい名前を足していく
- 親の名前を借りすぎる:新しい約束に合わないのに、親の名前を無理に冠する
- 反対に、親を隠しすぎる:せっかくの信頼を使えず、毎回ゼロから育てることになる
- 見た目だけを整える:ロゴを揃えても、各事業の約束が整理されていないと、混乱は残る
ブランドアーキテクチャを見直すタイミング
ブランドの整理は、日常の中ではつい後回しになります。見直しのきっかけになりやすい場面を挙げます。
| きっかけ | 見直しの観点 |
|---|---|
| 周年事業 | 創業からの事業やブランドの歴史を、あらためて整理する |
| 新施設・新店舗の開業 | 新しい施設の名前を、既存のブランドとどう関係づけるか |
| M&A・グループ再編 | 統合・併存するブランドの役割を決める |
| 新規事業の立ち上げ | 親の名前を使うか、別の名前にするか |
| リブランディング | 全体の名前・ロゴ・見せ方のルールを揃える |
これらは、企業にとって大きな節目でもあります。節目は、ブランドアーキテクチャを見直す好機であり、同時に、アートや空間の表現を一緒に整える好機にもなります。
アートの視点から:美術館のブランドが教えてくれること
美術館や文化施設は、ブランドアーキテクチャを考える上で、示唆に富む存在です。1つの館の中に、常設展、特別展、教育普及、ショップ、カフェといった複数の「商品」があり、それらを1つの信頼でまとめているからです。
Tateの事例のように、複数の拠点を持つ美術館は、館ごとの個性と、全体の一貫性のバランスを常に問われます。企業にとっても、事業や施設ごとの個性を尊重しながら、全体としての約束をどう保つかは、共通の課題です。美術館がどのように名前や見せ方を設計しているのかを観察してみることは、自社のブランドを考える手がかりになります。

写真:Rodhullandemu / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)
まとめ
ブランドアーキテクチャとは、複数のブランドの関係と役割を整理する設計図です。アーカーとヨアヒムスターラーの「ブランド関係スペクトラム」では、ブランデッド・ハウス、サブブランド、エンドースドブランド、ハウス・オブ・ブランズという型で整理されます。
トヨタとレクサスは別ブランドとする判断の例、Alphabetは構造と責任を切り分ける例、Tateは1つのマスターブランドで複数の館をまとめる例です。どれが正解というより、自社の顧客・約束・体制に合う型を選び、時間とともに見直していくことが大切です。まずは、今あるブランドの書き出しから始めてみてください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 親ブランドと子ブランドは、どう使い分けますか。
親ブランドの信頼が新しいブランドの価値を高めるなら、親の名前を前に出す方向、そうでなければ親を抑える方向が候補になります。顧客層と約束の違いを整理して、判断します。
Q2. ブランドが少ない小さな会社にも、ブランドアーキテクチャは必要ですか。
数が少なくても、今後新しいサービスや施設を足す可能性があるなら、基本的な考え方を持っておくと役立ちます。最初は、名前のつけ方のルールを決める程度でも十分です。
Q3. すでに増えてしまったブランドは、統合すべきですか。
すべてを統合すれば良いわけではありません。顧客層や約束が近いものはまとめ、大きく異なるものは分ける、といった整理が考えられます。統合や名称変更は、商標や契約への影響もあるため、専門家に相談したうえで検討するのが安心です。
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この記事を書いた Euphoric " " について
Euphoric " " は、ユアムーン株式会社が運営するアートメディアです。ユアムーンは、デザインとクリエイティブを軸にしたブランディング会社です。ブランドの言語化から、ロゴやWebサイトなどのデザイン、社内外への発信までを一貫して設計しています。ご希望に応じて、アートの選定・導入もお手伝いしています。
ブランドが増えるほど、関係と役割の整理が大切になります。ユアムーンは、リブランディングや周年などの節目に、ブランドの言語化と、見せ方の設計を整理するお手伝いをしています。
参考資料
- Aaker, David A. and Joachimsthaler, Erich. Brand Leadership. Free Press, 2000. https://simonandschuster.com.au/books/Brand-Leadership/David-A-Aaker/9781847398352
- Aaker, D. A. and Joachimsthaler, E. “The Brand Relationship Spectrum: The Key to the Brand Architecture Challenge.” California Management Review, 2000.
- WARC「Brand architecture spectrum」(4つの型の定義) https://www.warc.com/content/article/brand-architecture-spectrum/en-gb/87992
- Wards Auto「Lexus turns 20」 https://wardsauto.com/lexus/lexus-turns-20
- Google公式ブログ「G is for Google」(Larry Page、2015年8月10日) https://blog.google/alphabet/google-alphabet/
- Tate「History of Tate Modern」 https://www.tate.org.uk/about-us/history-tate/history-tate-modern
- Creative Review「The Tate logo」 https://www.creativereview.co.uk/the-tate-logo/
- It’s Nice That「North evolves Tate identity to be more adaptable」 https://www.itsnicethat.com/news/north-tate-identity-210616











