リブランディングの進め方とは、「なぜ変えるのか」を確認し、現状を調べ、ブランドの核を言葉にし、名称やロゴなどの表現へ落とし込み、社内に浸透させてから、社外へ発信して検証する一連の手順のことです。ロゴを新しくする作業は、その一部にすぎません。
周年、合併、事業の転換、オフィスの移転、社名と実態のずれ。企業がリブランディングを考える場面はさまざまですが、「どこから手を付けるか」で迷う担当者の方は少なくありません。この記事では、リブランディングの進め方を6つの段階に分け、失敗した事例と、アートの世界で丁寧に進められた事例の両方を見ながら整理します。
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Toggleこの記事で分かること
- リブランディングを6つの段階で進める流れと、各段階でやること
- GapとTropicanaの失敗から読み取れる、やってはいけない進め方
- 美術館のリブランディング(Whitney美術館)に学ぶ「変わり続ける仕組み」の作り方
リブランディングの進め方を考える前に:何を「変える」のか
進め方に入る前に、リブランディングで変えるものを整理しておきます。変える対象は、大きく3つの層に分けて考えると混乱しません。

| 層 | 変えるもの | 例 |
|---|---|---|
| 核(中身) | 存在意義、提供価値、約束していること | ミッション、ポジショニング、パーパス |
| 表現(見た目と言葉) | 名称、ロゴ、色、書体、キャッチコピー、トーン | ロゴ、パッケージ、Webサイト、空間 |
| 行動(実際の振る舞い) | 接客、商品、制度、社内の意思決定 | 採用基準、社内ルール、顧客対応 |
失敗しやすいのは、核を決めないまま表現の層だけを変えるケースです。見た目は新しくなったのに、中身も社員の行動も以前のままであれば、顧客から見れば「何が変わったのか分からない」状態になります。
リブランディングの定義や基本については、本連載の「リブランディングとは?GAP、トロピカーナの失敗から学ぶ注意点」でも解説しています。この記事は、その「実際にどう進めるか」を手順に絞った実務編です。
失敗事例から学ぶ:Gap(2010年)とTropicana(2009年)
進め方を学ぶ近道は、うまくいかなかった事例を見ることです。ここでは、広く報じられた2つの事例を取り上げます。
Gap:発表から約1週間でロゴを元に戻した
米国の衣料ブランドGapは、2010年10月にロゴを新しいものに変更しました。報道によると、新ロゴは米国のウェブサイトに登場し、利用者から2,000件を超えるコメントがFacebookページに寄せられるなど、批判が相次ぎました。Gap North Americaの社長だったMarka Hansen氏は、その後、青い四角の旧ロゴに戻すことを表明しています。同氏は、オンラインのコミュニティを巻き込む機会を逃したと認め、このプロジェクトはクラウドソーシングに適した案件ではなかった、とも述べたと伝えられています。

画像:Wikimedia Commons(パブリックドメイン)

画像:Wikimedia Commons(パブリックドメイン)
ここから読み取れるのは、顧客がブランドに抱いている愛着や記憶を調べないまま、見た目を変える怖さです。なお、この変更にかかった費用について「約1億ドル」とする記述が一部にありますが、出典の確認が取れていないため、ここでは触れません。
Tropicana:パッケージ変更後、約20%売上が落ちて撤回
ジュースブランドTropicanaは、2009年1月にパッケージを一新しました。デザインと広告キャンペーンはArnell社が担当しました。ところが、業界専門誌Ad Ageの報道(Bloombergが引用)によると、売上は1月1日から2月22日の間に約20%落ちたとされます。そして2009年2月23日、Tropicanaの親会社であるPepsiCoは、新しい紙パックの採用をやめると発表しました。顧客からの苦情が背景にあったと報じられています。
売上の落ち幅には、数え方によって差があります。調査会社の数字では、個数ベースで約20%、金額ベースで約19%(約3,300万ドル)の減少とされています。いずれにせよ、日用品のように「棚の前で一瞬で選ぶ」商品では、見慣れた形が購買の手がかりになっていることを示した事例です。
2つの事例に共通する点
- 変更の目的よりも、見た目の刷新が先に立っていた
- 顧客が何を手がかりにそのブランドを選んでいるかを、変更前に確認した形跡が報じられていない
- 発表後に反応を見て、元に戻すという判断になった
なお、この記事は報道に基づいて整理したもので、両社の内部事情までは分かりません。「失敗の原因はこれだ」と断定するのではなく、進め方の注意点として読み替えるのが適切です。
リブランディングの進め方:6つの段階
ここからが本題です。リブランディングは、次の6段階で進めると抜け漏れが減ります。

| 段階 | やること | 主なアウトプット |
|---|---|---|
| 1. 目的の確認 | なぜ変えるのか、何が変わったのかを言葉にする | 目的メモ、変えない範囲の合意 |
| 2. 現状調査 | 社内外のブランド認識を調べる | 調査レポート、強みと誤解の一覧 |
| 3. 核の再定義 | 存在意義、約束、らしさを言葉にする | ブランドの核(言葉)、判断基準 |
| 4. 表現の設計 | 名称、ロゴ、色、空間、言葉づかいに落とす | デザイン一式、ガイドライン |
| 5. 社内浸透 | 社外に出す前に、社員が語れる状態にする | 説明会、研修、運用ルール |
| 6. 発信と検証 | 社外へ発信し、反応を見て磨く | 発信計画、点検の指標 |
第1段階:目的の確認(なぜ変えるのか)
最初に決めるのは、「何を変えるか」ではなく「なぜ変えるか」です。たとえば、次のような引き金があります。
- 合併や事業の統合で、複数の名称やロゴが混在している
- 事業の中身が変わり、今の名称が実態を表さなくなった
- 古いイメージが、新しい顧客や採用候補者との出会いを妨げている
- 創業から時間が経ち、社員が自社の価値を言葉にできなくなった
ここで併せて決めておきたいのが、「変えないもの」です。顧客が信頼している点、長年の取引先との関係、創業時から続く姿勢などは、変えないと決めた方がよい場合があります。変えない範囲を最初に決めると、後の議論が散らかりません。
学術研究でも、リブランディングの引き金は構造の変化が多いとされています。Muzellec氏とLambkin氏が2006年に『European Journal of Marketing』に発表した論文(166社の事例を分析)では、合併・買収などの構造変化が最も多い引き金とされ、見た目の変更よりも社員の行動のほうがブランド資産に影響しうる、と報告されています。この点は、第5段階の「社内浸透」の重要性につながります。なお、全文は有料公開のため、ここでは要旨に基づいて紹介しています。
第2段階:現状調査(社内と社外の両方を見る)
次に、いまブランドがどう見られているかを調べます。調査の対象は、社外だけではありません。
- 社外:顧客、取引先、見込み客、採用候補者が、自社をどう認識しているか
- 社内:社員、経営層、現場が、自社の強みと課題をどう語るか
- 競合・市場:同じ領域のブランドが、何を約束して選ばれているか
調べ方は、アンケート、インタビュー、既存のデータ(問い合わせの内容、口コミ、商談のメモなど)の分析など、予算に合わせて選べます。大切なのは、「社内が思う自社像」と「社外が見ている自社像」のずれを見つけることです。このずれが、リブランディングで埋めるべき部分になります。
この段階で、顧客が無意識に頼っている「手がかり」(色、形、呼び名、店の雰囲気など)も洗い出します。TropicanaやGapの事例が示すように、変えてはいけない手がかりを知らないまま進めることが、最も避けたい失敗だからです。
第3段階:核の再定義(言葉にする)
調査結果をもとに、ブランドの核を言葉にします。ここで扱う代表的な要素は次のとおりです。

- 存在意義(なぜ存在するのか)
- 提供価値(誰に、何を約束するのか)
- 独自性(他と何が違うのか)
- 人格・らしさ(どんな振る舞いと言葉づかいか)
ブランドアイデンティティの考え方は、David A. Aaker氏の『Building Strong Brands』(1996年)や、Jean-Noël Kapferer氏のブランド・アイデンティティ・プリズムなどで体系化されています。専門用語を覚える必要はありませんが、「核は短い言葉で、現場の判断に使えるものにする」という点は共通しています。判断に使えない言葉は、額に入れて飾られるだけで終わります。
言葉の確認には、次の問いが役立ちます。
- この言葉は、他社が使っても成り立ってしまわないか
- 現場の社員が、迷ったときの判断に使えるか
- 顧客に対して、実際に守れる約束になっているか
- 5年後にも、無理なく使い続けられるか
第4段階:表現の設計(見た目・言葉・空間に落とす)
核が決まって初めて、名称、ロゴ、色、書体、写真の方針、言葉づかい、空間などの表現を設計します。この段階の成果物が、ブランドガイドライン(ルールブック)です。
ここで参考になるのが、アートの世界のリブランディング事例です。
事例:Whitney美術館(2013年)の「変わり続ける」ロゴ
ニューヨークのWhitney美術館は、2013年に新しいグラフィック・アイデンティティを発表しました。デザインを手がけたのは、アムステルダムのスタジオExperimental Jetsetです。美術館が2015年にRenzo Piano設計の新しい建物へ移転することを控え、2011年に依頼があったと同スタジオは説明しています。

写真:Gunnar Klack / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)
新しいロゴは「レスポンシブW」と呼ばれる、折れ線状の「W」です。このWは、展覧会やアーティストごとに形を変えて使えるように設計されています。つまり、「いつも同じ形」を守るのではなく、「変わる中でも同じ美術館だと分かる仕組み」を作ったことになります。
また、Experimental Jetsetは220ページの指針書を作成し、実際の制作は美術館の内部チームに任せる形をとったと報じられています。ロゴを渡して終わりではなく、運用する人が自分で判断できる仕組みまで設計した点が、第4段階のよい手本です。
一方で、このロゴをめぐっては、評価する声と批判的な見方の両方があったと報じられています。新しい試みには賛否があることを、事前に想定しておく必要があることも、この事例は教えてくれます。
事例:Airbnb(2014年)の「誰でも描ける」シンボル
民泊サービスのAirbnbは、2014年にロンドンのDesignStudioとともにブランドを刷新し、「Bélo(ベロ)」というシンボルを発表しました。デザイナーは「誰でも描ける形」を目指し、「所属すること(belonging)」を軸にしたと報じられています。発表直後には他社のロゴとの類似を指摘する声や、形をめぐる批判もありましたが、その後、類似を指摘された企業との間で共同声明が出されています。

画像:Wikimedia Commons(パブリックドメイン)
この事例からは、表現を先に決めたのではなく、「所属」という核を先に置いたうえで、形を作ったという順序が読み取れます。
第5段階:社内浸透(社外に出す前に、社内を整える)
リブランディングで意外に後回しにされるのが、社内への浸透です。社外へ発表する前に、次の点を整えておきます。
- 経営層が、同じ言葉で説明できる
- 現場の社員が、なぜ変えたのかを自分の言葉で話せる
- 名刺、メール署名、資料、Webサイトなど、日々の道具が差し替えられる
- 問い合わせや質問を受ける窓口が決まっている
社員が新しいブランドを語れなければ、顧客と接する場面で、ブランドは以前のままになってしまいます。前述のMuzellec氏とLambkin氏の研究が、社員の行動の影響を指摘していた点は、まさにここに関わります。
アートは、この社内浸透の場面でも使えます。たとえば、新しいブランドの考え方を象徴する作品をオフィスの共有部分に置くと、言葉だけでは伝わりにくい価値観を、日々の景色として共有できます。作品の選び方や権利の扱いは慎重に進める必要がありますが、言葉の説明会と並行して、空間で伝える手段を持つと、浸透の速度と深さが変わると私たちは考えています。
第6段階:発信と検証(出して終わりにしない)
社内の準備が整ったら、社外へ発信します。発表の際には、次の点を意識します。
- 何を変え、何を変えないのかを、はっきり伝える
- 変更の理由を、顧客にとっての意味で説明する
- 旧名称や旧ロゴの扱い(併記の期間など)を決めておく
- 反応を受け止める窓口と、見直しの基準を決めておく
そして、発信後に点検の指標を決めておきます。ブランディングの成果は短期間で出にくいため、認知・指名検索・問い合わせの質・採用応募の質・社員の理解度など、複数の指標を一定期間追います。本連載の「KPIとは?KGIとの違いと、ブランディングの成果を測る指標の選び方」も参考にしてください。
リブランディングの進め方チェックリスト
実際に動き出す前に、次の項目に答えられるか確認してみてください。
- [ ] 変える理由を、一文で説明できる
- [ ] 変えないものを、決めている
- [ ] 社外の認識を、データやインタビューで把握している
- [ ] 社内の認識も、調べている
- [ ] ブランドの核が、短い言葉になっている
- [ ] その言葉が、現場の判断に使える
- [ ] 表現(ロゴ・色・空間など)が、核から導かれている
- [ ] 運用ルール(ガイドライン)がある
- [ ] 社員への説明が、発表より先に済んでいる
- [ ] 発信後の点検指標と、見直しの基準がある
半分以上に答えられない場合は、発表日を決める前に、第2段階か第3段階に戻ることをおすすめします。
期間と費用の考え方
リブランディングの期間と費用は、会社の規模、対象の範囲、調査の深さによって大きく変わります。調査と核の再定義だけを行う場合と、名称・ロゴ・Webサイト・空間まで一式を作り替える場合とでは、作業量がまったく異なるため、一律の相場は示しにくいのが実情です。
依頼先に見積もりを求めるときは、次の点を確認すると比較しやすくなります。
- 調査(社内・社外)が含まれているか
- 核の再定義に、経営層とのワークショップがあるか
- 表現の制作範囲(ロゴのみか、ガイドライン、Web、空間まで含むか)
- 社内浸透の支援が含まれているか
- 発信後の点検や運用の支援が含まれているか
費用全般の考え方は、本連載の「ブランディングの費用相場:何にいくらかかるのか、見積もりの読み方」にまとめています。
よくある質問(FAQ)
Q1. リブランディングは、何から始めればよいですか。
A. 最初に着手するのは、ロゴのデザインではなく「目的の確認」です。変える理由と、変えないものを言葉にして、経営層で合意します。そのうえで、社内外のブランド認識を調べる第2段階に進みます。
Q2. リブランディングにはどのくらいの期間がかかりますか。
A. 範囲によって大きく変わります。調査と核の再定義が中心であれば数か月、名称、ロゴ、Webサイト、空間、社内浸透まで含める場合は、半年から1年以上かかることもあります。表現の制作より、調査と社内の合意形成に時間がかかる傾向があります。
Q3. リブランディングに失敗しないために、最も大切なことは何ですか。
A. 顧客が無意識に頼っている手がかりを知らないまま、見た目を変えないことです。GapやTropicanaの事例が示すように、愛着や習慣に根ざした手がかりを変えると、反応が大きく出ることがあります。変更前の調査と、社員への事前説明が、最も効果的な備えになります。
まとめ
リブランディングの進め方は、目的の確認、現状調査、核の再定義、表現の設計、社内浸透、発信と検証の6段階で整理できます。失敗した事例では、見た目の刷新が先に立ち、顧客の手がかりや社内の理解が置き去りになっていました。反対に、Whitney美術館のように、変わり続けることを前提に運用の仕組みまで設計した事例もあります。ロゴを作り替える前に、「なぜ変えるのか」と「何を変えないのか」を言葉にすることから始めてみてください。
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この記事を書いた Euphoric " " について
Euphoric " " は、ユアムーン株式会社が運営するアートメディアです。ユアムーンは、デザインとクリエイティブを軸にしたブランディング会社です。ブランドの言語化から、ロゴやWebサイトなどのデザイン、社内外への発信までを一貫して設計しています。ご希望に応じて、アートの選定・導入もお手伝いしています。
リブランディングでは、調査と核の言語化に加え、新しいブランドの考え方をロゴやWebサイトなどのデザインで社内外に伝えるところまでを設計できます。料金の目安は、アートブランディング・プロジェクトが60万円〜(税別)、制作や運用を継続して伴走するクリエイティブパートナーが月額40万円〜(税別)+制作費、発信を継続して担うメディアパートナーが月額40万円〜(税別)・初期50万円〜です。実際の費用は範囲によって変わりますので、まずは現状と目的をお聞かせください。初回のご相談は無料です。
参考資料
- Gap scraps new logo after online furore(The Drum)https://www.thedrum.com/news/gap-scraps-new-logo-after-online-furore
- Learning from the Gap Logo Redesign Fail(The Branding Journal)https://www.thebrandingjournal.com/2021/04/learnings-gap-logo-redesign-fail/
- Tropicana Fiasco From Arnell is Gift That Keeps Giving(Bloomberg, 2009)https://www.bloomberg.com/news/articles/2009-04-02/tropicana-fiasco-from-arnell-is-gift-that-keeps-giving
- What to Learn From Tropicana’s Packaging Redesign Failure?(The Branding Journal)https://www.thebrandingjournal.com/2015/05/what-to-learn-from-tropicanas-packaging-redesign-failure/
- Whitney Graphic Identity by Experimental Jetset(Dezeen, 2013)https://www.dezeen.com/2013/05/21/whitney-graphic-identity-by-experimental-jetset/
- The Whitney Museum’s New Mark(Whitney Museum of American Art)https://whitney.org/media/296
- Airbnb rebrand by DesignStudio(Dezeen, 2014)https://www.dezeen.com/2014/07/16/airbnb-rebrand-designstudio/
- The Airbnb rebrand: 10 years on(Creative Review)https://www.creativereview.co.uk/the-airbnb-rebrand-10-years-on/
- Muzellec, L. & Lambkin, M. (2006) “Corporate rebranding: destroying, transferring or creating brand equity?” European Journal of Marketing, 40(7/8), 803-824. https://emerald.com/insight/content/doi/10.1108/03090560610670007/full/html
- Aaker, D. A. (1996) Building Strong Brands, Free Press(書籍)











