リブランディングとは?GAP、トロピカーナの失敗から学ぶ注意点と進め方

リブランディングとは?GAP、トロピカーナの失敗から学ぶ注意点と進め方

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リブランディングとは、すでにあるブランドの考え方・見え方・体験を見直し、現在や将来の状況に合う形に再構築することです。ロゴや包装の変更だけを指す言葉として使われることもありますが、本来は「何を大切にするブランドか」という中身の再点検まで含みます。見た目だけを変えると、既存の顧客が戸惑い、期待した効果が出ないことがあります。

この記事では、GAPとトロピカーナという、よく知られた失敗事例を事実に即して振り返り、アートの世界の事例も交えて、リブランディングで注意すべき点と判断の基準を整理します。

この記事で分かること

  • リブランディングの定義と、新規ブランディングとの違い
  • GAP(2010年)とトロピカーナ(2009年)の失敗の経緯と、そこから読み取れること
  • ホイットニー美術館など、アートの現場に見る刷新の考え方
  • 実施前のチェックリストと、よくある誤解

リブランディングとは:定義と、新規のブランディングとの違い

新しくブランドをつくるときは、白紙から考えられます。一方、リブランディングには、すでに顧客の記憶に残っているイメージという前提があります。名前、色、形、使い心地、そして「あのブランドらしさ」に愛着を持つ人がいます。刷新は、その資産を活かしながら変える作業です。

リブランディングが検討される主な4つの場面(実態とのずれ、合併・再編、節目、違いが見えにくい)を示した図
図:リブランディングを検討する場面

リブランディングが検討される主な場面は、次のとおりです。

  • 事業内容や顧客層が変わり、今のイメージが実態に合わなくなった
  • 合併や事業再編で、ブランドの整理が必要になった
  • 移転、周年、新施設の開設といった節目で、見直しの機会が生まれた
  • 時代の変化で、競合との違いが見えにくくなった

重要なのは、「変えたいから変える」のではなく、変える理由と、変えてはいけないものを区別することです。

事例1:GAPの新ロゴ撤回(2010年)

アパレルブランドのGAPは、2010年10月に新しいロゴを発表しました。従来の青い四角のロゴから、黒いHelvetica書体の「Gap」に、「p」の後ろへ小さな青い四角を添えたデザインへの変更です。しかし、発表から1週間足らずの2010年10月12日ごろに、従来のロゴ(1990年のもの)に戻すと発表しました。日付は報道により数日の違いがあります。

背景には、利用者からの強い反発がありました。GAPは、ロゴの案を一般から募る形を取りましたが、報酬の約束がなく、これも批判を呼びました。同社は声明で、「これは、クラウドソーシングに適した案件でも、タイミングでもなかった」とし、北米のブランド責任者は「適切なやり方で進めなかった」と認めたと報じられています。また「あらゆる道が、青い四角に私たちを連れ戻していた」という趣旨の説明もありました。

ここから読み取れる点は、次の3つです。

  1. 既存の資産を軽く見ない:長年使われた青い四角は、顧客にとってGAPの象徴でした。変更の理由が顧客に伝わらなければ、反発を招きます。
  2. 進め方も評価される:ロゴそのものだけでなく、案の募り方という「進め方」が批判を呼びました。
  3. 発表前に、反応を確かめる余地:撤回までの速さは、社内外の反応を事前に確かめる手順が十分でなかったことを想像させます(これは編集部の推測です)。

事例2:トロピカーナの包装刷新(2009年)

オレンジジュースのブランド、トロピカーナは、2009年に包装デザインを刷新しました。デザインを手がけたのは、アーネル・グループです。しかし、新しい包装は発売から2か月足らずの2009年2月23日に、刷新した包装を取りやめると発表しました。

発売から約2か月で売上が約20%減ったと報じられており、競合ブランドが恩恵を受けたとも伝えられています。減少額や総費用は媒体によって見積もりが異なるため、ここでは取り上げません。

読み取れるのは、次の点です。

  1. 商品棚での「見つけやすさ」も資産:包装は、店頭で顧客が無意識に探す目印として機能しています。見た目を大きく変えることは、その目印を失うリスクを伴います。
  2. デザインの良し悪しと、ブランドとしての成否は別:デザインが優れていても、顧客の習慣や認識と合わなければ、購買に結びつきません。
  3. 規模の大きい変更ほど、事前検証が重要:全国の店頭に一斉に出す前に、検証の段階を設ける考え方があります。

事例3:ホイットニー美術館のアイデンティティ刷新(2013年)

次に、アートの現場の例を見てみましょう。ニューヨークのホイットニー美術館は、2013年にオランダのデザインスタジオ、エクスペリメンタル・ジェットセットが手がける新しいビジュアル・アイデンティティを発表しました。13年間使われてきた、ペンタグラム(アボット・ミラー設計)のロゴを置き換えるもので、2015年にレンゾ・ピアノ設計の新館へ移転する準備の一環でもありました。

新しいロゴは、ジグザグの「W」が、状況に合わせて形を変える「レスポンシブW」です。デザイナーはこのWを、ニューヨークの鼓動にたとえて説明しています。このWは、作品や展覧会に応じて画像や文字を入れる枠としても機能するように設計されています。また、デザイン・チームは220ページのガイドブックを作り、館内のデザイン担当者が運用できる余地を残しました。

一方で、デザイン批評サイトのデザイン・オブザーバーは、デザイナーの説明が曖昧で、流行語に頼っていると批判しました。つまり、評価は一枚岩ではありません。それでも、この事例から学べる点があります。

  • 節目(移転)に合わせた刷新:新館の開館という明確な理由があります。
  • 運用の設計:ロゴ単体ではなく、多様な展覧会に対応する「仕組み」として設計されています。
  • 内部で運用できる体制:ガイドブックを作り、館内のチームが運用できるようにしています。

なお、この事例の「成功」の度合いを測る客観的な数値は、今回の調査では確認できていません。

参考:エアビーアンドビー(2014年)に見る「反応」の扱い方

民泊サービスのエアビーアンドビーは、2014年にデザインスタジオDesignStudioとともに、新しいシンボル「ベロ(Bélo)」を発表しました。「どこにでも居場所がある(Belong Anywhere)」という考え方を軸に、人・場所・愛を表す形とされています。発表直後は、他ブランドのシンボルに似ているといった批判も多く出ました。10年後の振り返り記事が出るほど議論を呼んだ刷新ですが、この事例が示すのは、刷新は賛否の反応を前提に設計する必要があるということです。

3つの事例を並べて読む

ここまでの事例を、リブランディングの観点で比べてみます。

リブランディングのGAP、トロピカーナ、ホイットニー美術館の3事例を、変えたもの・結果・学べることで比べた図
図:3つの事例を並べて読む
項目GAP(2010年)トロピカーナ(2009年)ホイットニー美術館(2013年)
変えたものロゴ包装デザインロゴを中心とするビジュアル・アイデンティティ
結果約1週間で従来のロゴへ戻した2か月足らずで従来の包装へ戻した(売上約20%減との報道)評価は分かれる(批判もある)
論点進め方(案の募り方)と、既存資産の軽視店頭での見つけやすさ、既存の認識節目に合わせた刷新と、運用の設計
学べること変える理由を伝え、反応を確かめる包装は購買の目印でもあるロゴ単体でなく仕組みとして設計する

共通するのは、見た目の変更が顧客や利用者の認識と結びついているという点です。ロゴや包装は、単なる飾りではなく、人がブランドを見分けるための手がかりです。それを変えるときには、変えた後の「見分けやすさ」を保てるかが問われます。

リブランディングの進め方:全体像

詳しい手順は連載の別の回で扱いますが、ここでは大まかな流れを示します。

リブランディングの進め方を、現状の把握から検証と浸透までの6つの段階で示した全体像の図
図:リブランディングの進め方 全体像
  1. 現状の把握:顧客、従業員、取引先が自社をどう見ているかを調べます。
  2. 変える理由の整理:事業の変化や節目など、変更の根拠を言葉にします。
  3. 資産の棚卸し:名称、色、形、言葉、体験のうち、残すものと変えるものを分けます。
  4. 新しい方向性の言語化:ミッション、ビジョン、ブランドの約束を整理します。
  5. 表現への落とし込み:ロゴ、色、空間、言葉づかいなどの形にします。
  6. 検証と浸透:発表前の反応確認、社内への説明、運用ルールの整備を行います。

特に5より前の段階を省略すると、見た目の変更に議論が集中してしまいます。GAPの事例が示すように、進め方そのものが評価の対象になることも、頭に置いておきたい点です。

空間とアートがリブランディングで果たす役割

リブランディングは、ロゴやウェブサイトだけでなく、オフィス、店舗、ホテルなど、人が実際に過ごす空間の変化を伴うことがあります。移転や新設の機会に、ブランドの新しい方向性を空間で示すことは、顧客や従業員にとって分かりやすい変化の伝え方です。

アートは、そうした空間のなかで、言葉にしにくい価値観を伝える手段として使われています。ホイットニー美術館の事例のように、美術館自身が、移転という節目で見た目を刷新することもあります。企業の場合も、新しい本社や施設の開設に合わせて、アートの選定を含めた空間づくりを行うと、ブランドの方向性が体験として伝わりやすくなります。

ただし、アートを入れること自体が目的になってはいけません。何を伝えたいのかが先にあり、そのための手段としてアートを選ぶ順序が重要です。

リブランディング実施前のチェックリスト

  • [ ] 変える理由を一文で説明できる(事業変化・合併・節目など)
  • [ ] 変えるものと、変えないもの(資産)を区別している
  • [ ] 顧客・従業員・取引先の認識を調査している
  • [ ] 発表前に、一部で試す、または反応を確かめる段階を設けている
  • [ ] 進め方(誰がどう決め、どう伝えるか)まで設計している
  • [ ] 運用のルール(ガイドライン)と、社内で運用する体制がある
  • [ ] 反発があった場合の対応方針を決めている

よくある誤解

誤解1:リブランディング=ロゴを変えること

ロゴは、リブランディングの一部です。事業の中身やサービス、従業員の行動が変わらないまま見た目だけ変えても、期待した効果は得られにくくなります。

誤解2:新しいほど良い

GAPやトロピカーナが示すように、顧客は「慣れ親しんだもの」に価値を置いています。新しさそのものは、目的にはなりません。

誤解3:デザイナーに任せれば済む

デザインは重要ですが、「何を変え、何を残すか」は経営の判断です。デザイナーに丸投げすると、見栄えと経営の意図がずれることがあります。

誤解4:発表がゴール

発表はスタート地点です。社内への浸透、運用ルールの整備、顧客の反応の確認までが、リブランディングの範囲です。

まとめ

リブランディングは、既存の資産を活かしながら、ブランドを現在と将来に合う形へ再構築する取り組みです。GAPは新ロゴを約1週間で撤回し、トロピカーナは新しい包装の導入から2か月足らずで取りやめました。どちらも、顧客の認識と進め方への配慮が十分でなかった例として語られています。一方、ホイットニー美術館のように、移転という節目に合わせ、運用の仕組みまで設計した例もあります。変える理由と残すものを区別し、反応を確かめながら進めることが、失敗を避ける基本になります。計画段階で専門家に相談しながら、調査と進め方を設計する方法もあります。

よくある質問(FAQ)

Q1. リブランディングとロゴ変更は同じですか。

同じではありません。ロゴ変更は、リブランディングの手段の一つです。事業の方向性、価値観、顧客体験の見直しを伴うのが本来のリブランディングです。

Q2. リブランディングはどんなときに行うのがよいですか。

事業内容や顧客層の変化、合併、移転、周年など、見直す理由がはっきりしている節目が向いています。理由が曖昧なまま行うと、顧客に意図が伝わらず、混乱を招くことがあります。

Q3. リブランディングで失敗しないために最初にすべきことは何ですか。

顧客・従業員がそのブランドの何を大切にしているかを調べ、変えてはいけない資産を把握することです。そのうえで、発表前に反応を確かめる段階を設けると、リスクを下げられます。


この記事を書いた Euphoric " " について

Euphoric " " は、ユアムーン株式会社が運営するアートメディアです。ユアムーンは、デザインとクリエイティブを軸にしたブランディング会社です。ブランドの言語化から、ロゴやWebサイトなどのデザイン、社内外への発信までを一貫して設計しています。ご希望に応じて、アートの選定・導入もお手伝いしています。

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