【徹底解説】藤本壮介とは?大屋根リングを構想した建築家の人生と作品を解説!

【徹底解説】藤本壮介とは?大屋根リングを構想した建築家の人生と作品を解説!
写真:大阪・関西万博 大屋根リング(パブリックドメイン/Wikimedia Commons)

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こんにちは。ユアムーン株式会社 編集部です。

皆さんは藤本壮介(ふじもと・そうすけ)という人物をご存知ですか?

藤本壮介は、1971年に北海道で生まれた日本の建築家です。2025年に開かれた大阪・関西万博では会場デザインプロデューサーを務め、会場のシンボルである大屋根リングを構想しました。ロンドンのサーペンタイン・ギャラリー・パビリオン、フランス・モンペリエの集合住宅ラルブル・ブラン、ブダペストのハンガリー音楽の家など、海外でも大きな建築を完成させています。

本記事ではそんな藤本壮介の人生と作品についてご紹介します。存命の建築家ですので、現在の肩書や活動は2026年10月時点で確認できた公式情報にもとづいています。作品の公式写真や模型の画像は使わず、図解と、撮影者がライセンスを明示した建物の外観写真で解説します。

藤本壮介って?

藤本壮介の歩みを4段階で示した図。2000年に事務所を設立、2013年にサーペンタイン・ギャラリー・パビリオンを設計、2020年に万博の会場デザインプロデューサーに決定、2025年に万博が開幕した。
図:藤本壮介の歩み

藤本壮介は、東京とパリ、深圳に設計事務所を構える建築家です。森美術館の展覧会資料によると、個人住宅から大学、商業施設、ホテル、複合施設まで、世界各地でさまざまなプロジェクトを手がけています。

藤本の建築を語るうえで欠かせない言葉が「森」です。北海道の雑木林で育った記憶が出発点にあり、人の暮らしと自然、建物と街の境目をやわらかくつなぐ考え方が、住宅から万博会場までを貫いています。本人は2025年の個展に寄せたメッセージで、建築家とは人と人、人と自然の関係を紡ぐ「場」を作る仕事であり、それは自分にとって自然と人工が溶け合う「未来の森」のような場所だと述べています。

基本情報

本名藤本 壮介(ふじもと・そうすけ)。英語表記は Sou Fujimoto
生年月日(没年月日)1971年生まれ(存命)。月日は公式資料に記載がなく不詳
国籍・出身日本。北海道生まれ。旭川の隣町の東神楽町で育つ
学歴東京大学工学部建築学科卒業(1994年)
分野建築(住宅、美術館・図書館、集合住宅、ホテル、音楽施設、万博会場など)
傾向「森」の考え方。自然と人工、内と外、建物と街がゆるやかにつながる建築
師事した人物・影響を受けた人物記録なし(公式資料では確認できません)。2000年の青森県立美術館の設計競技案は、伊東豊雄らに高く評価された

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経歴と作品

北海道の雑木林から、建築の道へ(〜2000年)

藤本壮介は1971年に北海道で生まれました。森美術館の展覧会資料によると、育ったのは旭川の隣町にあたる自然豊かな東神楽町で、北海道の雑木林が藤本にとっての原風景です。

この雑木林の記憶は、のちに藤本建築のキーワードになる「森」へつながります。同じ資料には、東京のような巨大都市の入り組んだ路地や、雑多なものが並び合うありさまにも、藤本が「乱雑さの中にゆるやかな秩序がある」と森の要素を見ていると説明されています。小さな枝や葉でできた森も、路地に置かれた植木鉢や自転車、看板も、人の手の届く大きさ、つまりヒューマンスケールのものです。森も都市も、いくつもの層が重なり、命が生まれ循環する場所でもあります。藤本はこの「森」を、未来の建築や社会のモデルにもなると考えています。

学歴は東京大学工学部建築学科の卒業です。熊本県の公式ページに載る略歴では、卒業は1994年とされています。そして2000年に、自分の名前を冠した藤本壮介建築設計事務所を設立しました。

この2000年に、藤本は一躍、建築界の注目を集めます。青森県立美術館の設計競技(建築家が案を出し合って設計者を選ぶコンペ)に案を提出し、建築家の伊東豊雄らから高い評価を受けて2位に選ばれたのです。森美術館の資料は、このとき藤本を「無名の新人建築家」と紹介しています。事務所を開いたばかりの若い建築家が、設計競技をきっかけに名前を知られるようになった、というのが出発点でした。

小さな家から考える(2000年代)

事務所を設立してからの数年、藤本が手がけたのは、住宅や福祉施設といった、暮らしに身近な建築でした。熊本県の公式ページの略歴には、主な作品としてT house、7/2 house、House O、House Nなどが並びます。森美術館の資料によれば、T house(2005年、群馬)は家族が時に離れ、時に一緒に過ごす住まいで、House N(2008年、大分)も主なプロジェクトとして挙げられています。

評価も、この時期から積み重なりました。同じ略歴には、2004年のJIA新人賞、2005年のAR AWARDS入賞、2006年のAR AWARDS大賞と優秀賞、2006年の東京建築士会住宅建築賞金賞、2007年のAR AWARDS優秀賞などが記されています。2008年にはJIA日本建築大賞も受けています。2009年からは東京大学の特任准教授などを務めると、同じ略歴に記されています。

年賞・選定出典
2004年JIA新人賞熊本県の公式ページ(略歴)
2006年AR AWARDS 大賞・優秀賞、東京建築士会住宅建築賞 金賞熊本県の公式ページ(略歴)
2008年JIA日本建築大賞熊本県の公式ページ(略歴)
2014年モンペリエ国際設計競技 最優秀賞(ラルブル・ブラン)森美術館、万博協会
2015・2017・2018年ヨーロッパ各国の国際設計競技で最優秀賞森美術館、万博協会
2023年Pál Csonka Award(ハンガリー建築家協会の賞。ハンガリー音楽の家)Liget Budapest Project
2024年仙台市の複合施設の基本設計者に特定(公募型プロポーザル)仙台市

『Final Wooden House』(2008年)

この時期の藤本を知るには、熊本県芦北町にある小さな木造の建物がわかりやすい例です。県の公式ページでは「球泉洞休暇村バンガロー『final wooden house』」として紹介されています。地上1階の木造で、県の建築データでは建築面積が15.13平方メートル、ロフトが7.50平方メートルと記され、工事期間は2008年2月から7月、総工事費は400万円です。外部は熊本産のスギ材です。

県のページに載る「建築概要」の文章は、執筆者名の記載がなく、「僕たち」という一人称で書かれています。設計者の考えを伝える文章とみられ、建物の考え方をこう説明しています。木材は万能であり、通常の木造建築ではその万能性ゆえにさまざまな場所へ使い分けられる。ならば逆に、ただ一つの木の使い方だけで、それらをすべて満たす建築を作れないだろうか。そこから、機能や役割が細かく分かれる前の「未分化」の状態を保った新しい空間をつくろうとした、という内容です。使われたのは350ミリ角のスギ材で、350ミリの段差が立体的な空間をつくります。床、壁、天井の区別はなく、床だと思っていた場所が、別の場所から見ると椅子であり、天井であり、壁でもあります。

この「未分化」という言葉は、のちの個展でも藤本建築の根幹をなす系譜の一つとして出てきます。

藤本建築の3つの系譜の図。境界線が外へ開かれる「ひらかれ かこわれ」、用途が曖昧で多義的な「未分化」、一つの建築が多くのパーツでできる「たくさんのたくさん」。
図:藤本建築の3つの系譜

森美術館の展覧会資料は、藤本建築の根幹を3つの系譜で整理しています。閉鎖的な境界線が外部に開かれる「ひらかれ かこわれ」、空間の用途や性質が曖昧で多義的な「未分化」、一つの建築が多くのパーツで構成される「たくさんのたくさん」です。これから紹介する作品は、この3つのどれかを手がかりにすると読みやすくなります。

「書物の森」をつくる:武蔵野美術大学 美術館・図書館(2010年)

2010年に東京で完成した《武蔵野美術大学 美術館・図書館》は、藤本の初期の代表作の一つです。武蔵野美術大学の公式サイトも、図書館棟を、大屋根リングで話題の建築家である藤本壮介の初期の代表作の一つと紹介しています。

森美術館の資料によると、この建物の考え方は「書物の森」で、本棚が渦巻き状に並びます。大学の公式サイトには、藤本本人による解説動画が5本公開されており、その題名から設計のポイントがうかがえます。「天井まで続く本棚」「渦巻き状の書棚とサイン計画」「図書館と自然光」「季節を感じる開口部」です。大学のデジタルガイドも、藤本が手がけた「書物の森」をさまよってみませんかと呼びかけています。

同じ大学の公式サイトによれば、美術館は1967年に美術館・図書館として開館し、2010年に館名を「武蔵野美術大学 美術館・図書館」に改め、2011年に改修を終えて再開しました。図書館には、美術・デザイン分野を中心に32万冊の図書と5,000タイトルの雑誌があります。藤本の「書物の森」は、そうした専門書の森でもあるわけです。

ロンドンの庭に現れた雲:サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン2013

藤本の名前が世界に広がる大きな転機が、2013年のロンドンでした。サーペンタイン・ギャラリーは、建築家を招いてケンジントン・ガーデンズに期間限定のパビリオンを建てる企画で知られています。公式サイトによると、藤本は41歳で、この招待を受けた建築家として最年少でした。パビリオンの設計者としては13人目で、日本人建築家では2002年の伊東豊雄、2009年の妹島和世と西沢立衛(SANAA)に続く3人目です。

青空と緑の芝生の中に、白い細い棒を格子状に組んだ低い建物が雲のように広がるサーペンタイン・ギャラリー・パビリオン2013の外観。
サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン2013(ロンドン)。撮影:David Hawgood/CC BY-SA 2.0/出典:Wikimedia Commons(Geograph)

公式サイトの説明では、2013年のパビリオンは20ミリの白い鋼鉄の棒を、複雑な格子状に組んだものです。地面から立ちのぼる、きらめく網目のように見えたと書かれています。敷地の芝生のうち約350平方メートルを占め、藤本の計画では入口は2つ、段状のテラスが座る場所になります。内部にはカフェも置かれました。公式サイトの作品紹介では、会期は2013年6月8日から10月20日までです。

藤本は設計の考え方を、サーペンタイン・ギャラリーの公式サイトで次のように述べています(原文は英語。以下は編集部による参考訳です)。ケンジントン・ガーデンズの牧歌的な環境のなかで、周りの植物の鮮やかな緑と、人がつくった幾何学を織り合わせたい。自然と人工が溶け合う新しい環境、つまり建築だけでも自然だけでもない、両者のユニークな出会いをつくりたい、という趣旨です。公式サイトは、このパビリオンを自由に流れる社会的な空間として構想され、藤本自身が「透明な地形」(英語で a transparent terrain)と表現したと紹介しています。

細い棒で組まれた半透明の構造は、軽く、周りの景色に溶け込みます。公式サイトは、雲のように風景へ溶け込み、背後にあるギャラリーの列柱のある東棟の古典的な景色にもなじんだと説明しています。「森」の考え方が、ロンドンの公園で別のかたちをとった例と言えるでしょう。

ヨーロッパで選ばれた建築:ラルブル・ブランとハンガリー音楽の家

2010年代の半ば以降、藤本は欧州の設計競技で次々と選ばれていきます。森美術館や万博協会の略歴によると、2014年にフランス・モンペリエの国際設計競技で最優秀賞を得た《ラルブル・ブラン(白い樹)》に続き、2015年、2017年、2018年にも、ヨーロッパ各国の国際設計競技で最優秀賞を受けました。

サーペンタイン・パビリオン2013、ラルブル・ブラン、ハンガリー音楽の家を比べた図。ロンドン、モンペリエ、ブダペストの場所と、鉄の格子、枝のようなバルコニー、波打つ屋根の違いを並べた。
図:海外の3つのプロジェクトを比べる

ラルブル・ブラン(2019年)は、モンペリエの川沿いに建つ集合住宅です。設計事務所OXO Architectesの公式ページによると、2014年の設計競技に、藤本壮介建築設計事務所、Nicolas Laisné Associés、OXO Architectesの3事務所が集まって生まれました。バルコニーは、木の枝のように、一つ一つ向きを変えて張り出します。日当たりや眺めに合わせて形が違い、夏は日陰を、冬は日差しをつくります。1階にはアートギャラリーとレストランがあって川沿いの遊歩道に開かれ、最上部にはパノラマの見えるバーと庭があります。住戸は、ワンルームから4部屋までの113戸です。森美術館の資料は、これを「樹木から葉が広がるように大きなバルコニーが多数配置された集合住宅」と紹介しています。

ハンガリー音楽の家は、ブダペストの市民公園(シティパーク)に建つ音楽施設です。Liget Budapest Projectの公式ページによると、約170件の国際的な提案の中から藤本の案が選ばれ、2022年1月に開館しました。建物は、荒れて使われなくなっていた旧オフィス施設の跡地に建てられ、その周りの約7,000平方メートルの緑地も整備されて、公園を訪れる人に開かれています。起伏する屋根には穴があき、水平に途切れない大きなガラスの壁がめぐります。

葉を落とした木々の間に、穴のあいた波打つ屋根が広がるハンガリー音楽の家の外観。
ハンガリー音楽の家(ブダペスト)の外観。撮影:Elekes Andor/CC BY-SA 4.0/出典:Wikimedia Commons

館内では、人の声が生まれたところから現代の潮流までの音楽の歴史を、ハンガリーの音楽に重点を置いて紹介する常設展が開かれています。主な来館者として想定されているのは、子どもや保護者、教師、若い世代など、音楽の専門知識がない幅広い人たちです。公式ページによると、この建物は2022年にMIPIM AwardsのGrand Jury Prize、Architecture Masterprizeの「Architectural Design of the Year」などを受け、2023年にはハンガリー建築家協会のPál Csonka Awardを、藤本と構造技術者のBalázs Puskás、建築家のBence Vargaが受けています。森美術館の資料は、公園の緑に溶け込み、自然と建築の境界をあいまいにする音楽複合施設と紹介しています。なお、森美術館の資料では完成年が2021年と記され、ハンガリー音楽の家の公式ページでは開館が2022年1月と記されています。

この時期の藤本は、フランス・サクレーの《エコール・ポリテクニーク・ラーニングセンター》(2023年)のように、学生が集い、語り合う場づくりにも取り組んでいます。

国内のホテルや街づくり:白井屋ホテル(2020年)

国内の仕事で大きく取り上げたいのが、群馬県前橋市の《白井屋ホテル》です。ホテルの公式サイトによると、江戸時代に創業した老舗旅館の白井屋は2008年に営業を終え、取り壊しの危機にありました。それが2014年に始まった前橋の再生事業によって救われ、6年半の改修を経て、2020年12月に「白井屋ホテル」として生まれ変わっています。公式サイトは、この再生が、エグゼクティブデザイナーの藤本壮介と、レアンドロ・エルリッヒを含む世界的に活躍する6人のアーティストの力でなされたと紹介しています。客室には「Sou Fujimoto Room」もあります。

草木で覆われた斜面の向こうに、白い建物と、テラスに植物のある建物が並ぶ白井屋ホテルの外観。
白井屋ホテルの外観(北側から、2024年10月撮影)。撮影:こやまひろ/CC BY 4.0/出典:Wikimedia Commons

森美術館の資料は、このホテルでは現代美術作家やデザイナーが、藤本の手がけた空間に呼応するかたちで作品をつくったと説明しています。建築家が一人で完結させるのではなく、さまざまな表現者と一緒に場をつくるやり方は、のちの大阪・関西万博にもつながります。

ほかにも、藤本は2019年に津田塾大学小平キャンパスのマスタープラン策定でマスターアーキテクトに選ばれました。また、UNIQLO PARK 横浜ベイサイド店(2020年、神奈川)、マルホンまきあーとテラス(石巻市複合文化施設、2021年、宮城)、太宰府天満宮の仮殿(2023年、福岡)など、用途の異なる建物を数多く完成させています。UNIQLO PARKは、子どもたちがあちこちで遊び回り、斜面を登り下りする場所として、森美術館の個展でも紹介されました。

大阪・関西万博と大屋根リング(2020〜2025年)

藤本壮介の名前を日本中に知らせたのが、2025年の大阪・関西万博です。2025年日本国際博覧会協会は、2020年7月13日に10名のプロデューサーを発表し、会場デザインプロデューサーに建築家の藤本壮介が就任しました。会場デザインプロデューサーの役割は、万博のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」を会場のデザインで実現することです。

大屋根リングの歩みを4段階で示した図。2020年7月に藤本が会場デザインプロデューサーに決定、2023年6月に組み立て開始、2024年8月に約2kmがつながり、2025年3月にギネス世界記録に認定。
図:大屋根リングの歩み

そのシンボルが《大屋根リング》です。万博協会の公式発表では、藤本によって構想された、「多様でありながら、ひとつ」という会場デザインの理念を表す建築物とされています。日本の神社仏閣などの建築に使われてきた伝統的な貫(ぬき)接合に、現代の工法を加えて建てられました。会場の主動線として円滑な交通空間であると同時に、雨風や日差しを遮る快適な滞留空間としても使われました。

水辺越しに見た大屋根リング。木の柱と梁が格子状に組まれ、上の歩廊に小さく人が並んでいる。
大屋根リング(2025年9月撮影)。撮影:Abasaa/パブリックドメイン/出典:Wikimedia Commons

公式発表による規模は、建築面積が61,035.55平方メートル、内径が約615メートル、外径が約675メートル、幅が約30メートルです。高さは約12メートルで、外側は約20メートル。12メートルは、来場者が歩けるスカイウォークの高さにあたります。使われた木材は、国産のスギとヒノキが約7割、外国産のオウシュウアカマツが約3割です。

設計と施工の体制も公式サイトにまとめられています。基本設計・実施設計・工事監理の欄には藤本壮介の名があり、基本設計は東畑・梓設計共同企業体が担当しました。実施設計・施工・監理は3つの工区に分かれ、北東工区は大林組らの共同企業体、南東工区は清水建設らの共同企業体、西工区は竹中工務店らの共同企業体が受け持っています。

工事は、2023年6月30日に木組み部分の組み立てを始め、2024年8月21日に全周約2キロがひとつにつながりました。2025年2月28日に施工事業者から万博協会へ引き渡され、2025年3月4日には「最大の木造建築物」としてギネス世界記録に認定されました。認定面積は61,035.55平方メートルです。万博は2025年4月13日から10月13日まで開かれました。

水辺と石張りの広場の向こうに、横長の大屋根リングが伸びている。手前の階段に来場者が小さく写る。
大屋根リングと水辺の広場(2025年9月撮影)。撮影:LondonArchitectureGuide/CC BY 4.0/出典:Wikimedia Commons

藤本は大屋根リングを、求心性と発散性を同時にもつ「開かれた円環」という考え方でも説明しています。森美術館の資料によれば、これは分断を超えたつながりを象徴するもので、ハンガリー音楽の家など関連する12のプロジェクトの模型と並べて展示されました。

万博では、ほかにも藤本の発案で、若手の建築家がトイレや休憩所を設計する機会がつくられました。会場全体を一人の建築家の作品にせず、多くの人の手で一つの場をつくるという、「多様でありながら、ひとつ」の理念を実際の仕組みにした例と考えられます。

閉幕後のリングについては、大阪市の2026年2月13日の会議資料に、国や経済界、大阪府市、博覧会協会でつくる検討会の総意として「リングを200メートル残置することが望ましい」との結論を得たと記されています。市は、部材の接着性能を確認したうえで、残したリングを人が登れる形の公園施設として整備・管理する方針を示していますが、この資料の時点では検討の途中です。2026年10月時点の最新の扱いは、大阪市などの公式発表で確認してください。

森美術館での初の個展と、いま進んでいる仕事(2025〜2026年)

万博の開幕から約2か月半後の2025年7月2日、東京・六本木の森美術館で、藤本にとって初の大規模個展「藤本壮介の建築:原初・未来・森」が始まりました。会期は11月9日までです。約30年にわたる歩みを8つのセクションで紹介し、模型や設計図面、竣工写真に加え、インスタレーションや空間を体験できる大型模型なども並びました。

中心になったのは、100を超えるプロジェクトを300平方メートルを超える空間で見せる大型インスタレーション《思考の森》です。ほかにも、1994年から今後竣工予定のものまでの96のプロジェクトを、倉方俊輔の監修で総覧する年表「軌跡の森」、大屋根リングの5分の1の部分模型を中心にした「開かれた円環」、建築がぬいぐるみになって語り合う「ぬいぐるみたちの森のざわめき」などがありました。最後のセクションでは、藤本とデータサイエンティストの宮田裕章が考えた未来都市の提案が展示されました。大小さまざまな球体状の構造体が複雑に組み合わさり、全体で高さ500メートルほどの範囲に収まる都市です。

建築の展覧会でありながら、読む場や動きを感じる場も用意されました。「あわいの図書室」は、ブックディレクターの幅允孝が藤本建築から着想した5つのテーマ、「森 自然と都市」「混沌と秩序」「大地の記憶」「重なり合う声」「未完の風景」で40冊の本を選び、1冊ずつ椅子に置いたラウンジです。「ゆらめきの森」では、利用者や居住者の動きを表したアニメーションを建築模型に映し出し、建築そのものではなく人の動きに目を向けます。取り上げられたのは、T house、UNIQLO PARK 横浜ベイサイド店、エコール・ポリテクニーク・ラーニングセンターなど5つのプロジェクトです。

藤本は、この展覧会を「いわゆる回顧展というより、現在進行形で、むしろ未来を向いているもの」と語っています。森美術館の発表では、9月6日に来館者が10万人を超えました。この個展は2026年に台北の忠泰美術館へ巡回し、会期は2026年8月15日から2027年1月3日までと、森美術館の公式サイトに案内されています。

新しい仕事も進んでいます。仙台市では、音楽ホールを中心とする複合施設《(仮称)国際センター駅北地区複合施設》の基本設計をめぐって公募型プロポーザルが行われ、2024年9月8日の最終審査を経て、藤本壮介建築設計事務所が受注候補者に特定されました。仙台市のページによると、基本設計は2026年3月にまとまり、同年5月に市民説明会が開かれています。竣工は2031年の予定と、森美術館の資料にあります。

年主な作品場所
2005年T house群馬
2008年House N/Final Wooden House大分/熊本県芦北町
2010年武蔵野美術大学 美術館・図書館東京
2011年House NA東京
2013年サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン2013ロンドン
2019年ラルブル・ブランフランス、モンペリエ
2020年白井屋ホテル/UNIQLO PARK 横浜ベイサイド店群馬/神奈川
2021〜2022年ハンガリー音楽の家(完成2021年、開館2022年1月)ブダペスト
2025年大阪・関西万博 大屋根リング大阪
2031年(予定)仙台市(仮称)国際センター駅北地区複合施設宮城

まとめ

いかがだったでしょうか。

藤本壮介は、北海道の雑木林で育った記憶を、「森」という考え方に育てた建築家です。小さな木の家で試した「未分化」の空間、武蔵野美術大学の「書物の森」、ロンドンの公園に現れた雲のようなパビリオン、枝のようなバルコニーが張り出すモンペリエの集合住宅、ブダペストの市民公園に開く音楽の家と、場所や用途が違っても、自然と人工、内と外をゆるやかにつなぐ姿勢が通っています。

その延長にあるのが、2025年の大阪・関西万博の大屋根リングです。「多様でありながら、ひとつ」という理念を、約2キロの木の輪というかたちにして、世界最大の木造建築物として記録されました。そして、仙台の複合施設や海外のプロジェクトなど、これからの仕事もまだ続いています。存命の建築家の今後の歩みを追いかける楽しみも、藤本の建築にはあります。

Euphoric " " の視点

熊本県芦北町の『Final Wooden House』は、建築面積15.13平方メートルの小さな木造の建物です。熊本県の公式ページに載る建築概要は、機能や役割が細かく分かれる前の「未分化」の状態を保った空間をつくろうとした、と説明しています。床、壁、天井の区別はなく、床だと思っていた場所が、別の場所から見ると椅子であり、天井であり、壁でもあります。

森美術館の個展の「ゆらめきの森」では、利用者や居住者の動きを表したアニメーションが建築模型に映し出されました。T houseやUNIQLO PARK 横浜ベイサイド店などが取り上げられています。

使い方を先に細かく決めすぎない場所では、使う人のほうが、座る場所や遊び方を見つけていくのかもしれません。建築を、完成した形としてだけでなく、人の動きが加わって育っていく場として見る。藤本の仕事は、その見方の楽しさを教えてくれるように思います。

この作品を見に行くには

記事で紹介した建築のうち、次の場所の公式ページで最新の案内を確認できます。利用できる範囲や時期は変わることがあるため、お出かけの前に公式サイトをご確認ください。サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン2013は期間限定の建築で、大屋根リングは万博の閉幕後に一部の残置が検討されています(2026年10月時点)。

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