アールト大学とは?3大学統合の歴史と学費・出願・キャンパスを解説

アールト大学とは?3大学統合の歴史と学費・出願・キャンパスを解説
アイキャッチ使用画像|アールト(作成 2026-10-01 / Saki) Commonsファイル : Dipoli11.jpg Commonsページ : https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Dipoli11.jpg 画像URL : https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/b/ba/Dipoli11.jpg/1280px-Dipoli11.jpg ライセンス : CC BY-SA 4.0 撮影者 : Halaszo 撮影日 : 2017-09-23 被写体 : ディポリ(アールト大学 本館・オタニエミ) 画像内の表記 : 画像:ディポリ(アールト大学 本館・オタニエミ) / Photo: Halaszo / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons 処理: 切り取り・色調整なし。object-fit:contain で全体を収め、余白は黒帯。 文字は写真の上に重ねず、右のクリーム地パネル(別領域)に配置。 大学のロゴは使用していません(仕様書15-2)。

アートコンサルティング

アールト大学(Aalto University)は、フィンランドの首都圏エスポー市オタニエミにある総合大学です。QS世界大学ランキングのアート&デザイン部門2026年版で世界9位にランクインし、フィンランド国内では1位の評価を得ています。

「アールト大学」という名前は、フィンランドを代表する建築家アルヴァ・アアルトにちなんでいます。大学そのものは2010年にできた比較的新しい組織ですが、芸術分野の前身校をたどると1871年までさかのぼります。この記事では公式サイトで確認できた情報をもとに、成り立ち、芸術・デザイン・建築学部の構成、学費と奨学金、出願の進め方、キャンパスまでをまとめました。それでは早速いってみましょう。

アールト大学の基本情報

アールト大学 芸術・デザイン・建築学部(ARTS)が入るヴァーレ(Väre)校舎
アールト大学 芸術・デザイン・建築学部(School of Arts, Design and Architecture)が入るヴァーレ(Väre)校舎(オタニエミキャンパス)。Verstas Architectsの設計で2018年に開館しました/撮影:Aatu Dorochenko(CC BY-SA 4.0)/出典:Wikimedia Commons
正式名称Aalto University(アールト大学)
設立2010年1月1日、3つの大学が統合して発足
校名の由来建築家アルヴァ・アアルト(Alvar Aalto、1898〜1976)。オタニエミキャンパスの都市計画とキャンパス内の複数の建物を設計した人物
所在地フィンランド・エスポー市オタニエミ(ヘルシンキ都市圏)
大学の性格財団型大学(foundation-based university)。公式は「科学と芸術が、テクノロジーとビジネスと出会う大学」と説明
学部(スクール)数6学部(芸術・デザイン・建築学部、経営学部、化学工学部、電気工学部、工学部、理学部)
大学全体の学生数約16,000名
大学全体の教職員数約5,200名(うち教授446名)
学長(President)イルッカ・ニエメラ(Ilkka Niemelä)。2017年7月に就任し、2期目を務めている
芸術・デザイン・建築学部 学生数(2025年)2,755名(学士1,194名/修士1,236名/博士325名)
QSランキング(アート&デザイン部門)2026年版で世界9位、スコア82.3(前年8位から1つ下降)

順位の読み方は、【最新!2026年版】アート&デザイン部門 QS世界大学ランキングで詳しく解説しています。

3つの大学が1つになった、アールト大学の成り立ち

2010年、3大学の統合で誕生しました

アールト大学は2010年1月1日、ヘルシンキ経済大学(Helsinki School of Economics)、ヘルシンキ工科大学(Helsinki University of Technology)、ヘルシンキ美術デザイン大学(University of Art and Design Helsinki)の3校が統合して発足しました。公式サイトは「アールト大学は、フィンランドの大学改革における優先プロジェクトとして設立された。科学とテクノロジー、デザインとアート、ビジネスと経済を統合する新しい革新的な大学をつくるというアイデアだった」と説明しています。

統合のアイデアが最初に示されたのは2005年の秋です。公式の沿革ページは「統合のアイデアは、当時のヘルシンキ美術デザイン大学の学長ユルヨ・ソタマー(Yrjö Sotamaa)が、2005年秋の学年度開講式の式辞で初めて示したものだった」と記しています。2008年12月19日には大学理事会がトゥーラ・ティーリ(Tuula Teeri)教授を初代学長に選出し、2010年の発足を迎えています。

アールト大学は国立大学ではなく、財団型大学(foundation-based university)という珍しい運営形態を取っています。これはフィンランドの大学改革の一環として導入された形態で、公式サイトも組織の説明として「アールト大学は財団型大学であり、6つの学部を持つ」と記しています。統合から10年を迎えた際、公式サイトは「10年間で、アールト大学は世界クラスの専門知識の拠点をつくり上げた」と振り返り、ニエメラ学長は「この10年で、私たちは自分たちの重要な分野でフォアランナー(先駆者)になった」とコメントしています。現在の学長はイルッカ・ニエメラ教授で、2017年7月1日付で5年の任期で選任され、2022年7月から2期目を務めています。

芸術分野の前身は、1871年の「クラフト・スクール」

3校のうち、芸術・デザイン・建築学部(ARTS)につながるヘルシンキ美術デザイン大学の起源はもっとも古く、公式サイトは「芸術・デザイン・建築学部は、1871年にクラフト・スクール(Craft School)として設立された」と記しています。ヘルシンキ工科大学は1849年設立、ヘルシンキ経済大学は1911年設立ですので、芸術系の前身校がもっとも長い歴史を持っていたことになります。

ヘルシンキ美術デザイン大学(通称TaiK)は、ヘルシンキ東部アラビアンランタ地区にあるアラビア製陶所の建物を校舎として使っていました。公式のキャンパス年表によると、2010年の統合後も芸術・デザイン・建築学部はこのアラビア地区に置かれたままで、オタニエミのヴァーレ(Väre)校舎へ移転したのは2018年です。統合から8年をかけて、ようやく1つのキャンパスに揃ったことになります。製陶所の建物を校舎にしていたという出自からも、前身校の性格がうかがえます。

アラビアンランタのアラビア製陶所の建物。旧ヘルシンキ美術デザイン大学の校舎
アラビアンランタ(ヘルシンキ)のアラビア製陶所の建物。ヘルシンキ美術デザイン大学(TaiK)と、統合後の芸術・デザイン・建築学部は2018年までここを校舎にしていました/撮影:kallerna(CC BY-SA 3.0)/出典:Wikimedia Commons

校名になった建築家、アルヴァ・アアルト

大学の名前は、フィンランドを代表するモダニズム建築家アルヴァ・アアルトにちなんでいます。公式サイトは「アールト大学の名前は、建築家アルヴァ・アアルトの生涯と仕事に敬意を表している」と説明しています。アアルトは1921年に、のちのヘルシンキ工科大学にあたるヘルシンキ工業学院で建築の学位を取得しており、統合前の3校のうちの1校とも縁のある人物です。

なお、校名の「アールト」と建築家の「アアルト」は、どちらも同じ Aalto です。日本語では、大学名を「アールト大学」、建築家を「アルヴァ・アアルト」と書き分けることが多く、国内の美術館も展覧会名では「アアルト」を用いています。本記事もその慣用に従っています。

アアルトは、オタニエミキャンパスの都市計画そのものを手がけました。1949年のキャンパス設計競技で、アアルトと最初の妻アイノ・マルシオ=アアルトの建築事務所が提出した案「Ave Alma Mater, morituri te salutant」が最優秀案に選ばれています。現在キャンパスの中心にある建物の多くも、アアルトと2番目の妻エリッサ・アアルトの設計です。

建築家アルヴァ・アアルト(1969年)
建築家アルヴァ・アアルト(1969年、ヘルシンキ・ムンキニエミのアトリエにて)/撮影:Hans Paul/所蔵:フィンランド国立文化財庁 JOKA報道写真アーカイブ/出典:Wikimedia Commons(フィンランド著作権法49a条により、創作から50年を経た写真としてパブリックドメイン)

芸術・デザイン・建築学部(School of Arts, Design and Architecture)

アールト大学の6学部のうち、アート・デザイン・建築を扱うのがSchool of Arts, Design and Architecture(通称ARTS)です。公式サイトは学部の使命を「アートとデザインは、世界が抱える大きな課題に新しい視点と解決策をもたらす」と表現しています。学部長(Dean)はトゥオマス・アウヴィネン(Tuomas Auvinen)です。

4つの学科

ARTSは次の4学科で構成されています。

学科英語名扱う領域
建築学科Department of Architecture建築、ランドスケープ建築、インテリア建築、都市デザイン
デザイン学科Department of Design協働・工業デザイン、ファッション・衣服・テキスタイルデザイン、コンテンポラリーデザイン
アート&メディア学科Department of Art and Media美術教育、現代美術、キュレーション、ゲームデザイン、ニューメディア、写真、ビジュアル・コミュニケーション・デザイン、視覚文化
映画学科(ELO)Department of Film (ELO)映画監督、撮影、編集、ドキュメンタリー、映画音響デザイン、プロダクションデザイン、衣裳デザイン、映画・テレビプロデュース、脚本(脚本はフィンランド語課程のみ)

学部全体では23のMAプログラムと2つのMScプログラムがあり、ほとんどが英語で学べます。他学部との学際プログラムとして、Creative Sustainability(サステナビリティ)とInternational Design Business Management(デザインビジネス経営)の2つ、さらにヘルシンキ大学と共同のUrban Studies Programme(都市研究)も用意されています。学士レベルで英語で学べるのは、アート・デザイン分野ではDesign and Media(デザイン&メディア、学士+修士)です。加えて、技術・ビジネス・デザインの3分野を1つのクラスで学ぶ学際プログラムTechnology, Business and Design(テクノロジー・ビジネス・デザイン、学士+修士)が2027年秋に新設されます。

主なプログラムの例

領域プログラム例
建築Architecture(建築、MSc)、Interior Architecture(インテリア建築)、Urban Studies and Planning(都市計画)
デザインCollaborative and Industrial Design(協働・工業デザイン)、Fashion and Textile Design(ファッション・テキスタイルデザイン)、Contemporary Design(コンテンポラリーデザイン)
アート&メディアVisual Communication Design(ビジュアル・コミュニケーション・デザイン)、Game Design and Development(ゲームデザイン)、Photography(写真)、New Media(ニューメディア)
映画(ELO)Film Directing(映画監督)、Documentary Film(ドキュメンタリー)、Cinematography(撮影)、Film Editing(編集)、Film Sound Design(映画音響デザイン)、Production Design(プロダクションデザイン)

2025年の学部の数字

ARTS学部の公式「Key figures for 2025」によると、2025年の学生数は学士1,194名、修士1,236名、博士325名の合計2,755名です。同年の学位授与数は学士255件、修士446件、博士21件。教職員は427名で、うちテニュアトラック教授58名、その他の教授14名という構成です。

研究・発信の面では、学部が運営するウェブマガジン「The Long Read」や、実践を軸にした研究プラットフォーム「Aalto Art and Design Cases」など、作品づくりと並行して考え方や研究成果を外部に出す仕組みも整えられています。博士課程は「Aalto Doctoral Programme in Arts, Design and Architecture」という名称です。

学費:日本からの留学生はどちらの区分か

フィンランドの学費制度には、日本人の読者が誤解しやすいポイントがあります。アールト大学の出願者向け公式ページは「フィンランドでは、欧州連合(EU)、欧州経済領域(EEA)、スイスのいずれの市民でもない学生から学費を徴収する。学費は英語で行われる学位課程に適用される」と明記しています。つまり学費が無償なのはEU・EEA・スイス圏の市民で、日本国籍の方は原則として学費の支払いが必要な区分になります。「フィンランドは大学無償」というイメージだけで判断しないでください。

いっぽうで、同じページは学費がかからない範囲も示しています。学費が適用されるのは英語で行われる学士課程・修士課程だけで、博士課程には学費がかかりません。フィンランド語・スウェーデン語で行われる課程も対象外です(それぞれの言語要件を満たす必要があります)。また、フィンランドの永住許可(type P)など特定の在留許可を持っている場合は、非EU・EEA市民でも学費が免除されます。詳細は公式ページのFAQで確認できます。

2025年8月1日以降に就学権(right to study)が始まる学生の学費は、分野ごとに次のとおりです(公式の学費ページより)。公式の表は「プログラムの開始日」ではなく「就学権の開始日」で区分されており、2024年8月1日までに就学権が始まった学生には別の(より低い)金額が適用されます。表を読むときは、この年度の区分を必ず確認してください。

分野学士課程(年額)修士課程(年額)
Arts and Architecture(芸術・建築)€15,000€20,000
Business(経営)€12,000€15,000
Technology(工学・理学)€12,000€17,000
Multidisciplinary(学際プログラム)該当なし€17,000

芸術・デザイン・建築学部(ARTS)が該当する「Arts and Architecture」区分は、大学でもっとも学費が高い設定です。見落としやすいのが学際プログラムの扱いです。公式ページは「アールト大学の学際修士プログラムは、Creative Sustainability、International Design Business Management、Urban Studies and Planning である」と注記しており、この3つは芸術・建築区分ではなく年額€17,000の学際区分になります。ARTSが関わるプログラムでも金額が変わりますので、志望プログラムのページで必ず確認してください。

また、学士課程の新入生には初年度のみ25%の割引があります。公式ページは「学士課程の新入生であれば、指示どおりに合格を受諾し、定められた期限までに学費を支払った場合、初年度の学費が25%減額される」と説明しています。芸術・建築分野なら初年度は€15,000が€11,250になります。期限は合格通知に記載されます。修士課程にはこの割引はありません。

金額はユーロ建てのため、円換算は出願直前のレートでご確認ください。

生活費の目安

学費に加えて生活費も見込む必要があります。公式サイトは、留学生向けの月額生活費の目安を次のように示しています。

項目月額の目安
住居€300〜500(学生住宅の相場。民間の賃貸は€600以上が目安)
交通費€50〜70
食費€220〜380
携帯電話€20〜40
インターネット€0〜30(学生住宅では家賃に含まれる場合があります)
スポーツ€30
娯楽・交際費€50〜
衣類€30〜50
旅行€50〜
その他雑費€50〜100
合計€800〜1,300超

公式FAQは首都圏について「エスポー、ヘルシンキ、ヴァンターの首都圏は他の地域より生活費が高い。そのため、フィンランドの首都圏で生活費をまかなうには、月に少なくとも800ユーロを用意しておくことが望まれる」とも述べています。食費については「学食での1食あたり最安値は€3.10、食料品などは週€40〜80」という内訳も示されています。このほか渡航直後には、空港からの移動費、一時的な宿泊費、敷金(家賃1〜3か月分)、家具代といった初期費用もかかります。在留許可を得るには、生活費をまかなえる資金があることを証明する必要もあります。

奨学金制度

学費の支払いが必要な学生を対象に、アールト大学はAalto University Excellence Scholarshipという奨学金制度を設けています。公式ページは「Aalto University Excellence Scholarshipは、プログラムの標準修業年限の間、学費の全額をカバーする」と説明しています。対象は学費を支払う義務のある学生で、出願は別途の手続きではなく、出願書類の提出と同じタイミングで行います。選考は実力主義で、「各プログラムの評価基準にもとづき、もっとも優秀な出願者に競争的に授与される」とされています。

公式サイトは次の点も明記しています。

  • 奨学金は生活費はカバーしない(学費のみが対象)
  • 奨学金の枠は非常に限られており、プログラムによっては奨学金を一切授与しない年もある
  • 奨学金の出願者はプログラムの入学審査基準にもとづいて順位づけされ、最上位の出願者にのみ授与されることがある

支給される期間も決まっています。公式ページは「標準修業年限は学士課程で3年、修士課程で2年のフルタイム就学である」として、その期間を対象に授与すると説明しており、翌年度へ継続するには毎年3月末までに履修の進度が審査されます。個人学修計画どおりに進んでいないと打ち切られることがあり、フィンランド移民局(Migri)も在留許可の更新に年間45ECTS以上の修得を求めています。

このほか、アールト大学は国別の外部奨学金基金とも協定を結んでおり、公式の「External Scholarships」ページで一覧が公開されています。アールト大学が運営する制度ではないため、条件は各基金で直接ご確認ください。

出願の進め方

Studyinfo.fi経由の共通出願

フィンランドの大学は、Studyinfo.fiという国の共通出願システムで出願を受け付けています。アールト大学も例外ではなく、修士課程の出願はこのシステム上のフォームに必要書類をアップロードする形で行い、1回の出願で最大2つの専攻まで志望順位をつけて出願できます。

2027年秋入学の修士課程の場合、出願期間は2026年12月7日から2027年1月5日まで(現地時間15時締切)で、書類のアップロード期限はその1週間後の2027年1月12日です。アート・デザイン・建築分野は2段階選考になっており、1次選考の結果が2027年3月12日に出たあと、最終の合否が2027年3月30日に発表されます。進学の意思表示の締切は2027年4月21日です。

英語で行われる学士課程(Design and Mediaや、2027年秋に新設されるTechnology, Business and Designなど)は修士課程とは別の日程で、2027年1月7日から22日までが出願期間です。

項目日程(2027年入学・修士課程の例)
出願期間2026年12月7日〜2027年1月5日(現地時間15時締切)
書類提出期限2027年1月12日(現地時間15時)
アート・デザイン・建築分野の1次選考結果2027年3月12日(この分野は2段階選考のため1次結果の発表があります)
合否発表2027年3月30日
進学意思の表明期限2027年4月21日(現地時間15時)
出願料(EU・EEA・スイス圏外の市民)€100

必要書類とポートフォリオ

出願には、学士号の学位証明書、成績証明書(英語・フィンランド語・スウェーデン語以外は翻訳が必要)、英語力の証明、パスポート等の身分証明に加えて、アート・デザイン・建築系の専攻はすべてポートフォリオの提出が必須です。修士出願ページは「アート・デザインおよび建築分野のすべての専攻は、PDF形式のポートフォリオを必要とする。出願フォームでの最大ファイルサイズは1GB。100MB未満の小さいファイルサイズが推奨される」としています。ただしこの1GBは出願フォーム側の上限であって、専攻ごとの指定はこれよりずっと厳しいことがあります。たとえば建築専攻は「ポートフォリオは最大24ページ、PDF形式」「ポートフォリオの最大サイズは1GB」ですが、Collaborative and Industrial Design(協働・工業デザイン)専攻は最大14ページ・30MBまで、Photography(写真)専攻は「20〜30ページを推奨」と、条件がまったく違います。1GBを基準に作り込むと出し直しになりますので、志望プログラムのページを最初に確認してください。

提出物の組み方も専攻によって異なります。たとえばCollaborative and Industrial Design(協働・工業デザイン)専攻では、「CV、志望理由書、ポートフォリオという3つの要素を、この順番で1つのPDFファイルにまとめて提出する」ことが求められ、作品は4〜6点にしぼり、それぞれにタイトル・目的・制作年・短い説明を添えるよう指示されています。同専攻は「選考委員会はPDFファイルに表示された内容のみを評価する。外部素材へのリンクや動画素材は考慮されない」とも明記しています。Photography(写真)専攻では「出願者には、高い水準でピントの合ったポートフォリオを提示することを期待する」とされるなど、専攻の性格によって審査の観点が変わることがうかがえます。

英語力の証明

日本国籍の方は、英語力の証明が出願の必須要件です。公式サイトは、英語で行われる修士プログラムの入学基準として「IELTS Academicで総合6.5、ライティング6.0以上」という基準を示しています。IELTSのほか、TOEFL iBT(総合92・ライティング22以上。2026年1月21日以降に受験した場合は総合4.5かつ全セクション4.0以上)、PTE Academic(総合68・ライティング61以上)、Cambridge English(C1 Advanced/C2 Proficiency)なども認められています。スコアの有効期限はIELTS・TOEFL iBT・PTEが受験から2年以内で、Cambridge Englishには有効期限がありません(2005年以降の受験が対象)。

キャンパス(オタニエミ)

アールト大学のメインキャンパスは、エスポー市オタニエミ地区にあります。前述のとおり、キャンパスの都市計画そのものをアルヴァ・アアルトが手がけました。公式サイトはこの一帯を「1950〜70年代のフィンランド・モダニズム、有機的な建築、そして最新の北欧建築が、緑ゆたかな森と海辺の風景のなかで出会う、他にない集合体」と説明しています。

アアルト設計の本館(現Undergraduate Centre)

キャンパスの中心にあるのが、旧ヘルシンキ工科大学の本館です。扇形の講堂部分は1964年に完成し、アアルトと2番目の妻エリッサ・アアルトの設計による建物全体は1966年に開館しました。最初の図面は1960年春で、完成まで6年をかけています。現在はUndergraduate Centre(学部生センター)という名称で使われ、2015年秋に保存建築としての大規模改修が完了しました。

旧ヘルシンキ工科大学本館(現Undergraduate Centre)。アルヴァ・アアルトとエリッサ・アアルトの設計
旧ヘルシンキ工科大学本館(現Undergraduate Centre)。アルヴァ・アアルトとエリッサ・アアルトの設計で1966年開館、扇形の講堂が特徴です/撮影:Markus Säynevirta(CC BY-SA 4.0)/出典:Wikimedia Commons

図書館(Harald Herlin Learning Centre)

同じくアアルト夫妻が設計した図書館棟は1969年に完成しました。改修を経て2016年から2017年にかけてHarald Herlin Learning Centreという名前に生まれ変わり、全学の図書館機能が1か所に集まりました。現在は学習スペースを兼ねた図書館棟になっています。

ハラルド・ヘルリン・ラーニング・センター(旧図書館棟)の階下にある学習スペース
ハラルド・ヘルリン・ラーニング・センター(旧図書館棟)の階下にある学習スペース。建物自体はアルヴァ・アアルトとエリッサ・アアルトの設計で1969年完成、この学習スペースは改修後のものです/撮影:Markus Säynevirta(CC BY-SA 4.0)/出典:Wikimedia Commons

Aalto Design Factory:学部の垣根を越えるものづくりの拠点

オタニエミキャンパスには、学部横断のものづくり拠点Aalto Design Factoryもあります。公式サイトは「Aalto Design Factory(ADF)は、学生・教員・研究者・産業界を結びつける、学際的なプロダクトデザインと学びのハブである」と説明し、「2008年に設立され、アールト大学となる統合の中で協働を試みた最初の先導プロジェクトのひとつだった」と位置づけています。オープンスペースやチームでの作業スペース、実際に手を動かせる工房を備え、金属加工、電子工作、3Dプリント、レーザーカット、ポスター印刷といった設備と、それを使いこなすスタッフが学生を支援しています。統合前から始まっていたこの取り組みが、のちに世界各地へ広がる「Design Factory Global Network」の出発点になりました。

ディポリ(Dipoli)と、建設費1%をアートにあてる方針

キャンパスにはアアルト以外の建築家による建物も点在します。代表格がディポリ(Dipoli)で、レイマ・ピエティラとライリ・ピエティラ夫妻の設計により1966年に完成しました。公式サイトは、岩盤と周囲の森が「彫刻的な銅と花崗岩のファサードに着想を与えた」と述べ、この建物を「フィンランド建築の宝石」と呼んでいます。もともとは学生組合のための建物でしたが、2017年からは現在のアールト大学の本館になり、ALA Architectsの改修を経て、学習・仕事・くつろぎのための場として一般にも開かれています。

ディポリ(Dipoli)。レイマ・ピエティラとライリ・ピエティラの設計
ディポリ(Dipoli、2025年撮影)。レイマ・ピエティラとライリ・ピエティラ夫妻の設計で1966年完成、2017年からアールト大学の本館です/撮影:Ypsilon from Finland(CC0)/出典:Wikimedia Commons

アールト大学は、新しい建物を建てる際に建設費のおよそ1%をパブリックアートにあてる方針を持っています。公式サイトは「アールト大学は、アートのパーセント原則に取り組むフィンランド初の大学である」と説明し、経営学部の校舎や工学系の建物でこの方針にもとづくコレクションが作られてきました。芸術系の前身校を持つ大学らしい制度です。

Welcome to Aalto University campus!(アールト大学 公式YouTube/2021年10月公開)

QSランキング2026年版での評価

QS世界大学ランキングのアート&デザイン部門2026年版で、アールト大学は世界9位(スコア82.3)にランクインしました。前年版の8位から1つ順位を下げましたが、フィンランド国内では引き続き1位です。このランキングは2026年3月25日に公表され、55分野で1,700校以上を対象にしたものです。ARTS学部長のトゥオマス・アウヴィネンは公式発表で「世界最高水準の大学の中に位置づけられているのは素晴らしいことです。数千校もの学校の中でのこの順位は大きな成果です」とコメントしています。

同じ2026年版では、建築・建造環境(Architecture and Built Environment)部門でも世界36位に入り、前年の49位から順位を上げています。

このランキングの配点は、研究者・教員へのアンケートにもとづくAcademic Reputation(学術評判)が90%、企業の採用担当者へのアンケートにもとづくEmployer Reputation(雇用者評判)が10%という構成です。アールト大学のスコア内訳は学術評判84.6、雇用者評判61.4で、研究者からの評価が相対的に高いという特徴があります。論文の被引用数などの研究指標は、このランキングでは使われていません。

QSランキング全体の見方や他大学との比較は、【最新!2026年版】アート&デザイン部門 QS世界大学ランキングで解説しています。

主な卒業生

アールト大学と前身2校の公式サイトが紹介している卒業生を挙げます。

分野人物備考
デザインタピオ・ヴィルカラ(Tapio Wirkkala)、カイ・フランク(Kaj Franck)公式の学部沿革ページに「タピオ・ヴィルカラやカイ・フランクなど、多くの卒業生がその仕事によって国際的に認められている」と記載
建築アルヴァ・アアルト(Alvar Aalto)、エリエル・サーリネン(Eliel Saarinen)、ヴィルヨ・レヴェル(Viljo Revell)、レイマ・ピエティラ(Reima Pietilä)旧ヘルシンキ工科大学の建築学科出身。公式の学部沿革ページが「近代フィンランド建築を代表する名前」として、シグネ・ホルンボリ(Signe Hornborg)、ティモ・ペンティラ(Timo Penttilä)、ユハニ・パッラスマー(Juhani Pallasmaa)とともに挙げています
映画ピルヨ・ホンカサロ(Pirjo Honkasalo)、ユホ・クオスマネン(Juho Kuosmanen)いずれも映画監督。公式の学部沿革ページは、ELO映画学科が「フィンランドの監督・プロデューサー・撮影監督・脚本家を何世代にもわたって育ててきた」として両名を挙げています

いずれも公式の学部沿革ページが名前を挙げている人物で、芸術分野の前身校が持っていた蓄積の厚みがうかがえます。

日本からアールト大学を目指す方へ

日本から出願する場合に、実務上おさえておきたい点を整理します。

  • 学費は無償ではありません。EU・EEA・スイス圏の市民は学費が無償ですが、日本国籍の方は原則としてその対象外です。芸術・建築分野は学部€15,000/修士€20,000(年額、2025年8月1日以降に就学権が始まる学生)という学費がかかります。ただしCreative Sustainability、International Design Business Management、Urban Studies and Planningの3プログラムは学際区分で年額€17,000、博士課程は学費がかかりません
  • 出願はStudyinfo.fi経由です。アールト大学単独のポータルではなく、フィンランドの大学に共通の出願システムを使います。出願期間は短く、2027年入学の修士課程は約1か月間(2026年12月7日〜2027年1月5日)です。アート・デザイン・建築分野は2段階選考で、1次結果は2027年3月12日に出ます
  • ポートフォリオが選考の柱です。アート・デザイン・建築系のすべての専攻でPDF形式のポートフォリオが必須です。出願フォーム側の上限は1GBですが、専攻ごとの指定はもっと厳しく、建築は最大24ページ、協働・工業デザインは最大14ページ・30MBまでと大きく違います。志望プログラムのページを最初に確認してください
  • 英語力の証明も必須です。IELTS Academicなら総合6.5・ライティング6.0以上が基準で、スコアの有効期限は原則2年です。ポートフォリオの準備と並行して早めに受験してください
  • 奨学金は出願と同時に申し込みます。Aalto University Excellence Scholarshipは、別途の手続きではなく出願書類の提出と同時に申し込む仕組みです。狭き門ですが、学費全額が免除される可能性があります。給付後も年1回、履修の進度が審査されます

まとめ

アールト大学メトロ駅前から見たオタニエミの街並み
アールト大学メトロ駅前から見たオタニエミの街並み。右手に写る赤レンガの建物が、アルヴァ・アアルト設計の旧本館です/撮影:JIP(CC BY-SA 4.0)/出典:Wikimedia Commons

いかがだったでしょうか。アールト大学について見てきました。要点は次の6つです。

  • 2010年1月1日、ヘルシンキ経済大学・ヘルシンキ工科大学・ヘルシンキ美術デザイン大学の3校が統合して発足しました。芸術系の前身は1871年のクラフト・スクールです
  • 校名は建築家アルヴァ・アアルトに由来し、オタニエミキャンパスの都市計画とキャンパス内の主要建物を設計しました
  • 芸術・デザイン・建築学部(ARTS)は建築・デザイン・アート&メディア・映画(ELO)の4学科構成で、2025年の学生数は2,755名です(学士1,194名/修士1,236名/博士325名)
  • 学費はEU・EEA・スイス圏の市民は無償ですが、日本国籍の方を含む圏外の学生には学費がかかります(芸術・建築分野は学部€15,000/修士€20,000、年額。学際プログラムは€17,000、博士課程は無償)
  • 出願はフィンランド共通の出願システムStudyinfo.fiを通じて行い、アート・デザイン・建築系の専攻はすべてポートフォリオが必須です
  • QS世界大学ランキングのアート&デザイン部門2026年版で世界9位、フィンランド国内では1位です

金額や日程は年度ごとに変わります。出願を具体的に考える段階では、必ず公式サイトで最新の情報をご確認ください。

Euphoric " " の視点

アールト大学という名前は、建築家アルヴァ・アアルトから取られています。国が新しくつくった大学に、王の名でも創立者の名でも土地の名でもなく、デザイナーの名前を付けました。それがどういう国なのかを、名前そのものが語っています。

2010年の統合では、経済、技術、芸術の3つの大学がひとつになりました。芸術が技術のなかに吸収されたのではありません。3本の柱のひとつとして並べられました。デザインは最後の仕上げではなく、最初から一緒に考えるものだという立場が、そのまま組織の形になっています。

学費の設計も同じ考えの上にあります。EU圏の学生は無償です。教育を個人の投資としてではなく、社会の基盤として扱っているということです。

学校を選ぶとき、順位や学費のほかにも見られるものがあります。その学校が、何を対等なものとして扱っているか。組織の形は、たいていその答えを示しています。

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もっと知るには

本記事の情報は、アールト大学の公式発表をもとに確認しています。学費・日程・プログラム内容は年度ごとに変わりますので、出願の際は下記の公式ページで最新の情報をご確認ください。

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