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Toggleブランドロイヤルティとは:一文の定義
ブランドロイヤルティとは、顧客が特定のブランドに対して抱く心理的な結びつきと、それにもとづいて繰り返しそのブランドを選び続ける傾向のことです。 「ブランド忠誠度」と訳されることもあり、単に何度も買っているという行動の記録ではなく、「他の選択肢があっても、このブランドがよい」と思う気持ちまでを含む点が特徴です。
ブランドを調べている企業の担当者の方にとって、ロイヤルティは新規顧客の獲得より地味に見えるテーマかもしれません。しかし、長く事業を続ける企業ほど、既存の顧客やファンとの関係が経営を支えます。この記事では、ロイヤルティの意味を理論から整理し、美術館やアートの世界の事例を手がかりに、「ファンが離れない」状態がどのようにつくられるのかを考えます。
この記事で分かることは次の3点です。
- ブランドロイヤルティの定義と、「リピート購入」「満足度」との違い
- オリバー、アーカー、ライクヘルドの研究が示す、ロイヤルティの段階と経営上の意味
- 美術館の会員制度などアートの事例から見る、ロイヤルティを育てる実務の考え方
なぜブランドロイヤルティが大事なのか
「よく買われている」ことと「選ばれ続ける」ことは別
売上の数字だけを見ると、リピート購入が多いブランドはロイヤルティが高いように見えます。ところが、近くに他の店がなかったから買っていた、いちばん安かったから買っていた、という場合は、条件が変わった瞬間に離れてしまいます。ロイヤルティの研究者たちが、行動だけでなく心理に目を向けてきたのはこのためです。

マーケティング研究者のリチャード・オリバー(Richard L. Oliver)は、1999年の論文「Whence Consumer Loyalty?」(Journal of Marketing, 63巻)で、ロイヤルティを「好ましい製品・サービスを、将来にわたって一貫して買い直す、または利用し続けるという、強く保持されたコミットメント」として整理しました。あわせて、購入の頻度やシェアなど「消費者が何をしたか」だけを記録する従来の定義には限界があると指摘しています。(詳しくは末尾の参考資料をご覧ください。)
既存顧客との関係は利益に効く:ライクヘルドの指摘
顧客維持の重要性を経営の言葉で広めた一人が、フレデリック・ライクヘルド(Frederick F. Reichheld)です。1996年にハーバード・ビジネス・スクール・プレスから出版された『The Loyalty Effect』(トーマス・ティールとの共著)は、顧客・従業員・投資家の「入れ替わり」が企業の成長と収益を損なうと論じ、ロイヤルティを軸にした経営を提案しました。
同書については、典型的な企業で顧客の維持率が5ポイント上がると、利益が25%以上、成長が100%以上増えるという著者の試算が当時の新聞記事で紹介されています。ただし、これは著者自身の推計であり、すべての業種にそのまま当てはまる数字ではありません。「維持率のわずかな改善が、利益に大きく響く可能性がある」という考え方として受け取るのが適切です。
ロイヤルティを分解する:オリバーの4段階とアーカーの位置づけ
オリバーの4段階
オリバーは、ロイヤルティが形成される過程を、態度の側面にもとづく4つの段階(認知的・感情的・意図的・行動的)で説明しました。

| 段階 | 状態 | 企業側の見え方 |
|---|---|---|
| 認知的ロイヤルティ | 品質や価格などの情報から「このブランドがよい」と判断している | 条件が変われば乗り換えやすい |
| 感情的ロイヤルティ | 利用を重ねて「好き」「心地よい」という気持ちが生まれている | 好意はあるが、他社の誘いに揺れることもある |
| 意図的ロイヤルティ | 「次も買う」という意思が強まっている | 購入意向として調査で測りやすい |
| 行動的ロイヤルティ | 意思が行動になり、障害があっても買い直す | 他社の働きかけに強く抵抗する |
オリバーは、満足は必要な条件だが、ロイヤルティが深まるにつれて決め手としての重みは下がると論じています。最終的なロイヤルティは、製品への優越性の認識、個人としての堅固さ(競合の誘いに抵抗する度合い)、社会的な結びつき、そしてそれらの相乗効果から生まれるという整理です。「満足度が高いから安心」とはいえない、という点は実務でも大切な視点です。
アーカーの「ブランド・エクイティ」の中で
デービッド・アーカー(David A. Aaker)は1991年の著書『Managing Brand Equity』(Free Press)で、ブランドの資産と負債を、ブランドロイヤルティ、ブランド認知、知覚品質、ブランド連想、その他の独自資産の5つに分類しました。ロイヤルティはその筆頭に置かれています。ブランド全体の価値を考えるときにも、ロイヤルティは中心の要素の一つだといえます。(ブランドエクイティについては、連載の別の回で詳しく扱います。)
アートの世界に見る「離れない関係」のつくり方
美術館の会員制度:割引ではなく「関係」を売る
美術館は、企業のロイヤルティ施策を考えるうえで参考になる場です。ニューヨーク近代美術館(MoMA)の会員(入門的な「Access」会員)には、毎日の無料入館や会員向けの観覧機会が含まれると、同館の会員案内に記載されています。英国のテート(Tate)でも、会員は展覧会に予約なしで何度でも無料で入れ、会員限定の時間帯(Members Hours)に混雑を避けて鑑賞できるとされています。
ここで注目したいのは、特典が「値引き」だけではなく、「優先的に作品と向き合える」「いつでも訪れてよい」という体験になっている点です。会員になることで、美術館との関係が「展覧会ごとのチケット購入」から「継続的な付き合い」に変わります。企業に置き換えるなら、ポイントの付与だけでなく、顧客が自社のブランドに「関わり続ける理由」を設計することに相当します。(なお、会費は国や時期で異なるため、本記事では記載していません。最新の条件は各館の公式サイトをご確認ください。)
長く続く文化の場がもたらす信頼:資生堂ギャラリーの例
資生堂ギャラリーは、1919年に福原信三が設立した画廊で、現存する日本最古の画廊といわれています。現在は東京・銀座の資生堂ビル地下にあります。1947年からは、同ギャラリーを会場に「椿会美術展」が断続的に開催されてきました(第5次は2001〜2005年)。
100年を超えて文化の場を続けてきた事実は、化粧品という商品の外側で、ブランドへの信頼や親しみを積み重ねてきた例として読むことができます。ただし、これがロイヤルティの数値にどう影響したかを示す資料は編集部では確認していないため、因果関係を断定することは控えます。
よくある誤解
誤解1:ポイント制度を作ればロイヤルティが上がる。 ポイントは行動を促しますが、オリバーの整理でいえば「行動」の側面に働きかける手段です。ブランドへの好意や信頼が伴わなければ、特典がなくなった時点で関係も終わりかねません。
誤解2:満足度が高ければロイヤルティも高い。 満足は前提条件ですが、それだけでは競合の誘いに抵抗する力にはなりにくい、というのがオリバーの指摘です。
誤解3:ロイヤルティは消費者向けの話で、法人向けには関係がない。 取引先との関係、従業員の定着、投資家との関係も、広い意味でのロイヤルティです。
実務での使い方:ロイヤルティを高めるための5つの視点
次の5つは、編集部が理論と事例を踏まえてまとめた考え方です。
- ブランドの約束を決める。 何を一貫して提供するのかが曖昧だと、顧客は「また選ぶ理由」を持てません。
- 接点ごとに体験をそろえる。 店舗、サイト、問い合わせ対応、空間で、ブランドの印象がずれないようにします。
- 特典は「値引き」より「関係」を軸にする。 先行体験、限定の機会、背景を知れる情報など、関わりが深まる設計を検討します。
- 社内にも浸透させる。 従業員がブランドを自分ごととして語れる状態は、顧客体験の質に直結します。
- 測り方を決めておく。 継続率、再購入率に加え、推奨意向などの心理指標も組み合わせます。
空間にアートを置くという選択
ブランドの約束を、言葉だけでなく空間で伝えたい企業にとって、アートは一つの手段になります。オフィス、ホテル、商業施設にアートを取り入れる場合は、「飾り」としてではなく、ブランドの価値観を体現する選択として、計画の早い段階で検討すると一貫性を保ちやすくなります。節目の計画段階で専門家に相談する価値はそこにあります。
ロイヤルティの段階に合わせて打ち手を変える
オリバーの4段階を使うと、自社の顧客がどこにいるかによって、必要な打ち手が違うことが見えてきます。たとえば、認知的な段階にとどまる顧客が多いなら、品質や価格といった「選ぶ理由」を分かりやすく伝えることが先です。感情的な段階の顧客が多いなら、接点での体験や、ブランドの世界観に触れる機会を増やすことが効果を持ちやすくなります。意図的・行動的な段階に進んだ顧客に対しては、関係を「もてなす」姿勢が重要になり、特別扱いを感じられる機会や、意見を聞く場を設けることが考えられます。段階を無視して一律の特典を配ると、すでに深い関係にある顧客には物足りず、浅い関係の顧客には効き目が弱い、というずれが生じます。
ロイヤルティが下がるとき
ロイヤルティは積み上げるのに時間がかかる一方、損なわれるのは早いといわれます。典型的なのは、次のような場面です。

- 約束と実態のずれ。 広告や空間が語る世界観と、実際の接客や品質が合っていないとき。
- 接点ごとの不統一。 店舗、ウェブサイト、問い合わせ窓口で印象が大きく違うとき。
- 既存顧客が後回しにされるとき。 新規顧客だけに有利な条件を出し、長く使う顧客に不公平感が生まれるとき。
関係が長く続くほど、ノウハウや信頼が蓄積し、経営の安定につながる、というのが編集部の見立てです。ロイヤルティは広報や販促の部署だけで扱うのではなく、経営の設計に関わるテーマとして捉えるほうが、継続的な成果につながりやすくなります。
美術館の会員から学べる「関係の階段」
美術館の会員制度は、入会者の関わり方を段階的に深められる設計になっていることが多く、MoMAでも、入門的な会員の上に、同伴者を含む上位の会員区分が用意されていると案内されています。企業のブランドでも、無料の会員登録、定期的な情報の受け取り、限定の体験、意見交換への参加、と関わりの深さを段階で設計すると、顧客が自分のペースで関係を深められます。ここで重要なのは、各段階で「その段階にいる人にとっての価値」を用意することです。上位の区分を設けること自体が目的になってしまうと、かえって運用の負担だけが増えます。
まとめ
ブランドロイヤルティは、リピート購入の多さではなく、心理的な結びつきを含む概念です。オリバーは段階的な形成過程を示し、ライクヘルドは顧客維持が経営に及ぼす影響を論じ、アーカーはロイヤルティをブランド資産の筆頭に位置づけました。美術館の会員制度のように、値引きではなく関係そのものを設計する発想は、企業のブランド運営にも参考になります。
よくある質問(FAQ)
Q1. ブランドロイヤルティと顧客満足度の違いは何ですか。
満足度は、利用した結果への評価です。ロイヤルティは、それを踏まえて今後も選び続ける意思やコミットメントを指します。オリバーは、満足はロイヤルティの必要条件であっても、それだけでは十分でないと論じています。
Q2. ブランドロイヤルティはどのように測りますか。
再購入率や継続期間などの行動指標と、推奨意向・好意度などの心理指標を組み合わせるのが一般的です。何を重視するかは事業の性質で異なるため、測定項目は目的に合わせて決めます。
Q3. 中小企業でもロイヤルティを高められますか。
規模に関係なく取り組めます。ブランドの約束を明確にし、接点ごとの体験をそろえることは、大きな予算がなくても始められる取り組みです。
この記事を書いた Euphoric " " について
Euphoric " " は、ユアムーン株式会社が運営するアートメディアです。ユアムーンは、デザインとクリエイティブを軸にしたブランディング会社です。ブランドの言語化から、ロゴやWebサイトなどのデザイン、社内外への発信までを一貫して設計しています。ご希望に応じて、アートの選定・導入もお手伝いしています。
ブランドロイヤルティは、スローガンではなく、体験や表現の一貫性の積み重ねで育ちます。ブランドの価値観をデザインや発信でどう表すかを整理したい段階で、お役に立てれば幸いです。
参考資料
- Oliver, R. L. (1999). Whence Consumer Loyalty? Journal of Marketing, 63. https://foster.uw.edu/wp-content/uploads/2016/07/12_Oliver_1999.pdf
- Reichheld, F. F. (1996). The Loyalty Effect. Harvard Business School Press. https://www.publishersweekly.com/9780875844480
- Christian Science Monitor(1996年3月4日)による同書の紹介記事 https://www.csmonitor.com/1996/0304/04082.html
- Aaker, D. A. (1991). Managing Brand Equity. Free Press. https://search.worldcat.org/title/23180129
- MoMA 会員案内 https://go.moma.org/membership
- Tate Members https://shop.tate.org.uk/ticket-membership-benefits.html
- 資生堂ギャラリー 資料 https://gallery.shiseido.com/wpss/wp-content/uploads/2022/04/2022-04-12_08-14-48_673128.pdf






