アーティストステートメントの英語を読む【アート英語 第9回】

アーティストステートメントの英語を読む【アート英語 第9回】
ジェームズ・マクニール・ホイッスラー《肌色と黒のアレンジメント:テオドール・デュレの肖像》1883年 画像:The Metropolitan Museum of Art, Catharine Lorillard Wolfe Collection, Wolfe Fund, 1913(13.20)/Open Access(CC0)

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ART ENGLISH 09/ 15PART B 美術館の英語を読む

全15回のうち 第9回

連載「美術館の英語を読める人になる」

artist statement作家のステートメントを読む

美術館やギャラリー、美大の出願書類でよく目にする artist statement(アーティストステートメント)。作家が自分の作品について、一人称で書く短い文章です。この記事は、連載「美術館の英語を読める人になる」の第9回です。これまで読んできたラベルや解説文は、美術館が三人称で書く文章でした。今回は、作家自身が「I」で語る英語の型を読み解きます。

連載の全体像と学ぶ順番は、アート英語カリキュラム 目次にまとめています。

読了目安 約17分(練習問題を含む)使える型 3つ練習問題 3問

今日のゴール

この回を読むと、作家自身の言葉(一人称の文章)に出てくる典型的な表現を読み取れるようになります。

この回で扱う言葉

statementpracticeprocessexploreinvestigateengage withaddressconcern
先に答え:解説文とステートメントの違い
ウォールテキスト(解説文)アーティストステートメント
書き手美術館(学芸員)作家本人
人称三人称(Whistler painted …)一人称(I paint …)
主な時制作家の行為は過去形、画面は現在形現在形(今も続けている制作として)
中心になる内容作品の文脈・観察・意義関心・方法・目指していること
よく出る動詞depicts, anticipatesexplores, investigates, engages with

今日の1枚

ジェームズ・マクニール・ホイッスラー《肌色と黒のアレンジメント:テオドール・デュレの肖像》(1883年)、メトロポリタン美術館。明るい灰色の地を背に、黒い夜会服の男性が立つ縦長の全身像。片腕にピンクのマントを掛け、赤い扇を持ち、もう片方の手にシルクハットを提げている。
ジェームズ・マクニール・ホイッスラー《肌色と黒のアレンジメント:テオドール・デュレの肖像》1883年 画像:The Metropolitan Museum of Art, Catharine Lorillard Wolfe Collection, Wolfe Fund, 1913(13.20)/Open Access(CC0)
《テオドール・デュレの肖像》の部分拡大。腕に掛けたピンクのマントに重ねて持つ赤い扇。DETAIL
部分拡大:赤い扇とピンクのマント画面でいちばん温かな色合いが中央近くで出会います
《テオドール・デュレの肖像》の部分拡大。明るい灰色の地を背にした、黒い夜会服の男性の顔と胸元。DETAIL
部分拡大:黒い夜会服明るく温かな灰色の地を背に、黒い夜会服で立っています
MUSEUM LABEL

James McNeill Whistler (American, 1834–1903)
Arrangement in Flesh Colour and Black: Portrait of Theodore Duret, 1883
Oil on canvas
76 1/8 × 35 3/4 in. (193.4 × 90.8 cm)
The Metropolitan Museum of Art, Catharine Lorillard Wolfe Collection, Wolfe Fund, 1913 (13.20)

作品名
《肌色と黒のアレンジメント:テオドール・デュレの肖像》
作家
ジェームズ・マクニール・ホイッスラー(アメリカ、1834–1903)
制作年
1883年
素材・技法
油彩、カンヴァス
サイズ
193.4 × 90.8 cm
所蔵
メトロポリタン美術館(ニューヨーク)アメリカン・ウィング
クレジット
Catharine Lorillard Wolfe Collection, Wolfe Fund, 1913(13.20)
画像
The Met Open Access(CC0)/作品ページ(The Met)

タイトルの Colour は英式の綴りです。この連載の英文は米式(color)に統一していますが、作品の原題は作家が付けたとおりに書くため、ここだけ英式のまま残しています。アメリカ生まれのホイッスラーは、主にロンドンとパリで活動しました。生涯と作品は、ホイッスラーの解説記事で詳しく紹介しています。

美術館の解説文で読む

まずは、美術館の側からこの肖像を説明した解説文です。美術館のウォールテキストの書き方にならって書いた、Euphoric " " によるオリジナルの英文です。作家本人の言葉が、どのように解説文に組み込まれているかに注目してください。

WALL TEXTJames McNeill Whistler, Portrait of Theodore Duret, 1883

Whistler gave this full-length portrait a title borrowed from music, calling it an “arrangement.” The sitter, the French critic Theodore Duret, stands in black evening dress against a pale, warm gray ground. He holds a red fan against a pink cloak draped over his arm, so the warmest hues in the picture meet near the center. Whistler painted Duret in 1883. Two years later, in his “Ten O’Clock” lecture, he argued that nature supplies the raw elements and the artist selects and groups them, “as the musician gathers his notes, and forms his chords.”6 The portrait puts that idea into practice: the man is the subject, but the title names the colors.

下線と番号は、このあとの「読み解き」6(ホイッスラーの講演)に対応しています。

全訳を読む

訳:ホイッスラーはこの全身肖像に音楽から借りた題名を付け、「アレンジメント(配置・編曲)」と呼びました。モデルのフランスの批評家テオドール・デュレは、明るく温かな灰色の地を背に、黒い夜会服で立っています。彼は腕に掛けたピンクのマントに赤い扇を重ねて持ち、画面でいちばん温かな色合いが中央近くで出会います。ホイッスラーがデュレを描いたのは1883年。その2年後、「テン・オクロック」講演で彼は、自然は素材となる要素を与えるだけで、それを選び、まとめるのは芸術家だと論じました。「音楽家が音を集め、和音を形づくるように」。この肖像はその考えを実践しています。描かれているのは男性ですが、題名が名指ししているのは色なのです。

もう一つの英文:架空の作家のステートメント

次は、作家が自分で書くステートメントの例です。以下は、この記事のために Euphoric " " が作成した架空の作家の文章です。実在の作家の言葉ではありません。ホイッスラーのように色の組み合わせを重視する、現代の画家を想定しています。

ARTIST STATEMENT1文ごとの役割つき

架空この記事のために Euphoric " " が作成した架空の作家の文章です。実在の作家の言葉ではありません。

My work explores how color changes the way we remember a room.

1作品が扱っているテーマ読み解き1

I paint interiors from memory, never from photographs, and I limit each painting to three or four colors.

2何に関心があるか読み解き3

I am interested in what is lost when a place is reduced to a few tones, and what becomes clearer.

3関心の出発点(問い)読み解き2

Through thin layers of glaze, I build surfaces that look calm from a distance but reveal earlier decisions up close.

4それをどうやって作品にしているか読み解き3

The process is slow; a single canvas can take a year.

5制作の過程・手順読み解き4

My practice also engages with the history of the interior in European painting, from Dutch scenes of the seventeenth century to Whistler’s arrangements.

6自分の作品がどの伝統とつながっているのか読み解き4・5

全訳を読む

訳:私の作品は、色が、部屋の記憶のされ方をどう変えるのかを探っています。私は室内を写真ではなく記憶から描き、1枚の絵に使う色を3〜4色に限っています。場所がいくつかの色調にまで削ぎ落とされたとき、何が失われ、何がはっきりするのかに関心があります。薄いグレーズ(透明な絵具の層)を重ねることで、遠くからは静かに見え、近づくと前の段階の判断が見えてくる表面を作ります。制作の過程は遅く、1枚のカンヴァスに1年かかることもあります。私の制作活動は、17世紀のオランダの室内画からホイッスラーのアレンジメントまで、ヨーロッパ絵画における室内という主題の歴史とも向き合っています。

読み解き:なぜこの言い方なのか

My work explores …:主語を「私」ではなく「作品」にする理由

ステートメントの読み手(学芸員、審査員、来場者)が知りたいのは、作家の人柄よりも作品の中身だからです。

ステートメントの1文目は、I explore … ではなく My work explores …(私の作品は〜を探っている)で始まっています。主語を作品にすると、作家個人の気持ちではなく、作品が扱っているテーマを述べる文になります。ステートメントの読み手(学芸員、審査員、来場者)が知りたいのは、作家の人柄よりも作品の中身だからです。

explore は「(答えを決めずに)探る・掘り下げる」。ステートメントで最もよく使われる動詞の1つです。似た動詞と比べると、それぞれ扱う対象の性格が違います。

exploreテーマを幅広く探る(開かれた問い)My work explores memory and place.
investigate仕組みや原因を調べる(研究に近い)I investigate how light changes color.
address(社会的な)問題を取り上げるThe series addresses migration.
engage with歴史・伝統・他者と向き合い、関わるMy practice engages with the history of portraiture.

日本語話者が気をつけたいのは、address を「住所」と読んでしまうことです。ステートメントの address は動詞で、「(問題に)取り組む・言及する」の意味です。

✕
My work explores about memory.(explore は他動詞なので about は不要)
○
My work explores memory.
I am interested in …:interested と interesting を取り違えない

3文目の I am interested in …(〜に関心がある)は、ステートメントで作家の関心の出発点を示す定番の形です。in の後ろには名詞のほか、この例のように what is lost …(何が失われるのか)といった疑問詞の節も置けます。答えではなく問いを示すことで、作品を見る人に考える余地を残す書き方です。

✕
I am interesting in color.(「私は面白い人だ」という意味になってしまう)
○
I am interested in color.

同じ内容を名詞で言う語に concern があります。A central concern of my work is memory.(私の作品の中心的な関心は記憶です)のように使い、「心配」ではなく「関心事」の意味になります。複数形の concerns で「(作家が繰り返し扱う)テーマ」を指すこともあり、美術館の解説文でも the artist’s concerns の形で出てきます。

Through thin layers of glaze, I build …:方法から結果へ

4文目は Through 〔方法〕, I 〔動詞〕 …(〜を通じて、私は〜する)の形です。文頭に方法を置き、その後に作家が作り出すものを続けます。「何に関心があるか」(2文目・3文目)の後に、「それをどうやって作品にしているか」を示す段になっています。

ここでは、第5回で学んだ glaze(グレーズ:透明な絵具を薄く重ねる技法)や surface(表面・絵肌)が使われています。ステートメントは抽象的な言葉だけでなく、こうした素材や技法の具体的な言葉を含むと、読み手に作品の姿が伝わりやすくなります。look calm from a distance but reveal earlier decisions up close(遠くからは静かに見えるが、近くでは前の判断が見える)のように、作品を見る距離で起きることを書くのも、具体的にする方法の1つです。

practice と process:「練習」ではない practice

美術の英語では作家が続けている制作の営み全体を指します。

6文目の My practice は「私の制作活動(全体)」。日本語話者は practice を「練習」と読みがちですが、美術の英語では作家が続けている制作の営み全体を指します。an artist’s practice、studio practice(アトリエでの制作)、her painting practice のように使います。医師や弁護士の「業務・開業」を practice と呼ぶのと同じ用法で、専門職として続けている活動、という含みがあります。

5文目の process は「制作の過程・手順」。practice が活動全体なら、process は1点の作品ができるまでの道のりです。

制作活動(全体)practice作家が続けている制作の営み全体
制作の過程・手順process1点の作品ができるまでの道のり
✕
I do practice of painting every day.(「練習する」の意味で、しかも不自然な形)
○
My practice centers on painting.(私の制作活動の中心は絵画です)

なお、ステートメントの時制はほぼすべて現在形です(explores、paint、build)。解説文が作家の行為を過去形で書くのは、それが終わった出来事だからでした。ステートメントは、作家が今も続けている制作について書くので、現在形になります。

Whistler’s arrangements:ステートメントは「系譜」を名乗る

最後の文は、自分の制作を the history of the interior in European painting(ヨーロッパ絵画の室内画の歴史)に位置づけています。具体的な名前(17世紀オランダ、ホイッスラー)を挙げて、自分の作品がどの伝統とつながっているのかを示す書き方です。第8回で学んだ「作品を美術運動と結び付ける」ことを、作家自身が行っているともいえます。

engage with は、過去の伝統を「まねる」のでも「否定する」のでもなく、対話する・向き合うというニュアンスの句です。be influenced by …(〜の影響を受けている)よりも、作家の主体性が強く出る言い方として、ステートメントや展覧会の解説で好まれます。

作家本人の言葉:ホイッスラーの講演を読む

ホイッスラーは、自分の芸術の考え方を講演や文章で発表した画家でもあります。現在のような短いステートメントの形ではありませんが、作家本人が自分の芸術を語った英語として読むことができます。解説文で一部を引いた1885年の「テン・オクロック」講演の該当箇所を、原文で読んでみます。

Nature contains the elements, in colour and form, of all pictures, as the keyboard contains the notes of all music.

But the artist is born to pick, and choose, and group with science, these elements, that the result may be beautiful—as the musician gathers his notes, and forms his chords, until he bring forth from chaos glorious harmony.

出典:James McNeill Whistler, Mr. Whistler’s “Ten O’Clock”(London: Chatto and Windus, 1888), p. 14。1885年2月20日にロンドンで行われた講演の刊行版。原本のスキャン(Internet Archive)

全訳を読む

訳:自然は、色と形において、あらゆる絵の要素を含んでいる。鍵盤があらゆる音楽の音を含んでいるように。しかし芸術家は、それらの要素を選び、取り出し、知恵をもってまとめ、その結果が美しくなるようにするために生まれてくるのだ。音楽家が音を集め、和音を形づくり、混沌から輝かしい調和を生み出すように。

この講演と現代のステートメントを比べると、書き方の違いがはっきりします。

主語
ホイッスラーは I ではなく the artist(芸術家というもの)を主語にし、芸術の一般論として語っています。現代のステートメントは my work、I で、自分の制作について語ります。
文体
until he bring forth(主語が he なのに動詞が原形の bring)は、until の後に動詞の原形を使う、古風で格式ばった言い方(仮定法現在)です。現代の英語なら until he brings forth となります。1文が長く、聴衆に語りかける演説の調子です。
共通点
「何に関心があるか(色と形)」「それをどう扱うか(選び、まとめる)」を述べる骨組みは、現代のステートメントと同じです。

解説文では、この講演の一部を引用符で囲んで引いていました(“as the musician gathers his notes, and forms his chords.”)。美術館の文章は、作家の言葉を引用符で正確に引く部分と、he argued that …(〜と論じた)で要約する部分を使い分けます。引用は原文どおりに書くので、英式の綴りや古い文法もそのまま残します。作家の考えをタイトルの付け方や画面と結び付けて読むことで、ステートメントの言葉が作品の見方を変えることも実感できます。

使える型3つ

My work explores 〜(型1:私の作品は〜を探っています)

ステートメントの1文目の定番です。explores の後ろに、作品のテーマを名詞か名詞節で置きます。

My work explores the relationship between color and memory.私の作品は、色と記憶の関係を探っています。
Her work explores how cities change at night.彼女の作品は、夜に都市がどう変わるのかを探っています。
I am interested in 〜(型2:私は〜に関心があります)

関心の出発点を示す形です。in の後ろに疑問詞の節を置くと、問いとしての関心を示せます。

I am interested in the edges of things.私は、ものの縁(境目)に関心があります。
I am interested in what a portrait leaves out.私は、肖像画が描かずに省くものに関心があります。
Through 〜, I 〜(型3:〜を通じて、私は〜します)

方法と、それによって作家がすることを1文で結ぶ形です。

Through drawing, I slow down the act of looking.素描を通じて、私は見るという行為をゆっくりにしています。
Through repeated layers of paint, I record the passing of time.絵具の層を重ねることで、私は時間の経過を記録しています。

練習問題

Q1選択

( )に入る語を選んでください。

  1. I am (interesting / interested) in the color of shadows.
  2. My studio (practice / process) includes painting, drawing, and printmaking.
  3. The series (addresses / explores about) the history of the city.
模範解答を見る
  1. interested:「関心がある」は interested in。
  2. practice:複数のメディアを含む制作活動全体なので practice。
  3. addresses:address も explore も他動詞なので、about は付けません。
Q2型3を使う

型3を使って、次の日本語を英語にしてください。
「色を限ることで、私は形に注意を向けさせます。」

模範解答を見る

Through a limited palette, I draw attention to form.

別解:By limiting my colors, I draw attention to form. 「〜することで」は Through +名詞、または By +動詞の -ing 形で言えます。palette は第2回で学んだ語です。

Q3自由作文

好きな作家を1人選び、その作家になったつもりで、型1か型2を使ったステートメントの1文目を英語で書いてください(架空の文であることを意識して書いてください)。

解答例を見る

My work explores the light of early morning in the city.

I am interested in how a single color can change a whole room.

答えは作家によって変わります。作品を見て「この作家は何を繰り返し描いているか」を1語のテーマにしてから文にすると書きやすくなります。第14回では、自分のステートメントを100語前後で書く練習をします。

前回の復習

第8回「〜ismの読み方」の言葉を使って答えてください。

R1小問1

「ホイッスラーは印象派の画家ではありませんでした」を英語で言ってください。

答えを見る

Whistler was not an Impressionist.

人を表すのは -ist。ホイッスラーはフランスの印象派の画家たちと同じ時代に活動しましたが、一般に印象派の画家には数えられず、トーナリズムやジャポニスムと結び付けて語られます(ホイッスラーの解説記事)。

R2小問2

「この肖像は写実主義の様式で描かれているのではない」を、型 in the 〜 style を使って英語で言ってください。

答えを見る

This portrait is not painted in the Realist style.

R3小問3

movement と school のうち、「師弟関係や土地のつながりでまとまった画家たち」を指すのはどちらですか。

答えを見る

school。movement は、目的や考え方を共有する画家たちの動きを指します。

次回予告と目次

葛飾北斎《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》(1830–32年頃)、メトロポリタン美術館。大きな波が舟の上に覆いかぶさり、奥に小さな富士山が見える木版画。NEXT 10

第10回 展覧会タイトルとプレスリリースを読むon view / brings together

ゴール:「タイトル:サブタイトル」型や on view/brings together などを読めるようになる。

画像:葛飾北斎《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》1830–32年頃 The Metropolitan Museum of Art, The Howard Mansfield Collection, Purchase, Rogers Fund, 1936(JP2569)/Open Access(CC0)

全15回の一覧と、学んだ回のチェック表はアート英語カリキュラム 目次にあります。

全15回の目次を見る
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