全15回のうち 第12回
連載「美術館の英語を読める人になる」
suggests / evokes解釈を述べる
作品を見て「これは○○を表している」と思っても、英語で This means ~. と言い切ると、強すぎて聞こえることがあります。この記事は、連載「美術館の英語を読める人になる」の第12回です。前回は「感想」を言いました。今回はその一歩先、「解釈」を断定しすぎずに言う英語を、美術館の解説文で確かめます。
連載の全体像と学ぶ順番は、アート英語カリキュラム 目次にまとめています。
読了目安 約16分(練習問題を含む)使える型 3つ練習問題 4問
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この回を読むと、suggests・evokes・may・seems to を使って、断定しすぎずに作品の解釈を英語で言えるようになります。
この回で扱う言葉
suggest
示唆する、~をうかがわせる
何を言うか見えるものから、考え・意味をほのめかす
The light suggests morning.
evoke
呼び起こす
何を言うか見る人の中に、感情・記憶・雰囲気を呼び起こす
The scene evokes summer.
imply
(言外に)含む
何を言うかはっきり描かれていないが、裏にある意味を含む
The empty chair implies absence.
3語とも、主語は作品や画面の要素です。
3語とも、主語は作品や画面の要素です。「画家が言いたかったこと」を決めつけるのではなく、「画面がそう見せている」と言うことで、解釈の責任を見る人と作品の間に置けます。美術館の解説文がこの3語を好むのはそのためです。
今日の1枚

DETAIL
DETAIL作品ラベルの形で見てみます。長い正式名の最後にある The Oxbow(オックスボウ=牛の首木のようにU字に曲がった川)が、この作品の通称です。
Thomas Cole (American, 1801–1848)
View from Mount Holyoke, Northampton, Massachusetts, after a Thunderstorm—The Oxbow, 1836
Oil on canvas
51 1/2 × 76 in. (130.8 × 193 cm)
The Metropolitan Museum of Art, Gift of Mrs. Russell Sage, 1908 (08.228)
- 作品名
- 《マウント・ホリヨークからの眺め、ノーサンプトン、マサチューセッツ、雷雨の後―オックスボウ》(通称《オックスボウ》)
- 作家
- トマス・コール(アメリカ、1801–1848。イングランド生まれ)
- 制作年
- 1836年
- 素材・技法
- 油彩、カンヴァス
- サイズ
- 130.8 × 193 cm
- 所蔵
- メトロポリタン美術館(ニューヨーク)アメリカン・ウィング
- クレジット
- Gift of Mrs. Russell Sage, 1908(08.228)
- 画像
- The Met Open Access(CC0)/作品ページ(The Met)
※Met のデータでは、作家の経歴は「American, Lancashire 1801–1848 Catskill, New York」(イングランドのランカシャー生まれ、ニューヨーク州キャッツキル没)と表記されています。上のラベルでは、Met のデータの国籍欄(American)を使っています。
トマス・コールは、アメリカの風景画の流れ「ハドソン・リバー派」の創始者とされる画家です。《オックスボウ》は1836年にニューヨークのナショナル・アカデミー・オブ・デザインで発表されました。
画面が左右で大きく性格を変えるため、昔から複数の読み方がされてきた作品で、解釈の英語を学ぶ題材に向いています。作家についてはトマス・コールの解説記事で詳しく紹介しています。
美術館の解説文で読む
美術館の壁に掲げられる解説文(ウォールテキスト)の書き方にならって、この作品の解説を英語で書きました(Euphoric " " によるオリジナルの文章です)。
どの文が「観察」で、どの文が「解釈」かを意識して読んでください。
Thomas Cole painted this view from Mount Holyoke, in western Massachusetts, in 1836. A thunderstorm drifts over the wooded hills at the left, while sunlit farmland spreads along a loop of the Connecticut River at the right. The composition is split almost in half, and the contrast between dark wilderness and bright fields suggests a choice1 between two futures. The scene can be read as2 a hopeful picture of a growing nation. It may also imply a warning3, since the cleared hillsides in the distance show what settlement costs. In the foreground, Cole included a tiny figure of himself at an easel, who seems to look back at us4. The passing storm evokes the force of nature5, yet the painting’s meaning remains ambiguous6.
下線と番号は、このあとの「読み解き」1〜6に対応しています。
全訳を読む
訳:トマス・コールは1836年、マサチューセッツ州西部のマウント・ホリヨークからのこの眺めを描きました。左側では雷雨が木々の茂る丘の上を流れていき、右側ではコネチカット川の湾曲に沿って、日の当たる農地が広がっています。構図はほぼ半分に分かれていて、暗い原生林と明るい畑の対比は、二つの未来のどちらかを選ぶことをうかがわせます。この景色は、成長していく国の希望に満ちた姿として読むこともできます。一方で、遠くの切り開かれた山肌が入植の代償を示していることから、警告を含んでいるのかもしれません。前景には、コールがイーゼルに向かう小さな自分の姿を描き入れていて、その人物はこちらを振り返っているように見えます。過ぎ去っていく嵐は自然の力を呼び起こしますが、作品の意味ははっきりと一つには決まりません。
読み解き:なぜこの言い方なのか
確かめられるものを主語にし、解釈は動詞 suggest に担わせる。
suggest は日本語の「提案する」で覚えている人が多い語ですが、美術の文章では「(見えるものが)~をうかがわせる、示唆する」の意味で頻繁に使われます。ここで主語になっているのは Cole ではなく the contrast(対比)です。
画家の頭の中は、手紙や日記などの記録がない限り確かめられません。一方、contrast(対比)は誰でも画面で確かめられます。
確かめられるものを主語にし、解釈は動詞 suggest に担わせる。これが、解説文が断定を避けながらも主張を持つための基本の組み立てです。contrast は第3回(光と影)、composition は第4回(構図)の語です。
read は文字を読むだけでなく、絵を「読む」=解釈することにも使われます。
can be read as ~ は「~として読むことができる」。read は文字を読むだけでなく、絵を「読む」=解釈することにも使われます。can(可能性)+受け身にすることで、「そう読む人もいる」「そう読むことも許される」という開かれた言い方になります。
英文では、この直後に It may also imply a warning と、もう一つの読み方を並べています。美術館の解説文は、研究者の間で解釈が分かれている作品について、どちらか一方に決めずに並べて示すことがよくあります。
《オックスボウ》も、明るい国の未来像としても、原生林が失われることへの警告としても読まれてきました。
控えめな言い方と根拠は、必ずセットで使うと説得力が出ます。
may は「~かもしれない」。imply は「はっきり言わずに含む」。この文は、助動詞と動詞の両方で断定を弱めています。
それでも曖昧な文になっていないのは、直後に since the cleared hillsides in the distance show …(遠くの切り開かれた山肌が示しているので)と画面上の根拠を付けているからです。控えめな言い方と根拠は、必ずセットで使うと説得力が出ます。
日本語話者が混同しやすいのが imply と infer です。
断定の強さを段階で並べると、次のようになります。上ほど強く、下ほど控えめです。
- The painting is a warning.(言い切り)
- The painting suggests a warning.(画面がうかがわせる)
- The painting may imply a warning.(含んでいるかもしれない)
- Perhaps the painting is a warning.(もしかすると。perhaps は文頭に置くと控えめさが目立つ)
He seems to look back at us. とすると、「私にはそう見える」という観察の立場が保たれます。
seem to + 動詞 は「~するように見える」。描かれた人物の視線や気持ちは、本当のところは確かめられません。He looks back at us. と言い切るより、He seems to look back at us. とすると、「私にはそう見える」という観察の立場が保たれます。
型3で扱う It seems to A rather than B.(BというよりAしているように見える)は、二つの見方を比べて自分の解釈を示す形です。rather than を足すだけで、ただの印象が「比較に基づく解釈」に変わります。
suggest が「意味」をほのめかすのに対し、evoke は見る人の中に感覚や感情を起こす語です。
evoke は「(感情・記憶・雰囲気を)呼び起こす」。suggest が「意味」をほのめかすのに対し、evoke は見る人の中に感覚や感情を起こす語です。嵐の絵から「自然の力」を感じるのは、意味の解読というより感覚の喚起なので、ここでは evoke が合います。
注意点が一つあります。evoke a sense of ~(~の感覚を呼び起こす)は便利なぶん、使いすぎると中身のない決まり文句に聞こえます。
evokes a sense of mystery のように抽象語を続けるより、この英文のように the force of nature と何を呼び起こすのかを具体的に言うと、文が締まります。
解釈は「今この画面を見て言えること」なので現在形になります。
ambiguous は「二通り以上に解釈できる、曖昧な」。日本語の「曖昧」には否定的な響きがありますが、美術の文章では作品の豊かさとして肯定的に使われることがよくあります。vague(ぼんやりしてはっきりしない)とは違い、ambiguous は「複数の意味がはっきり成り立つ」状態です。
時制も確認します。Cole painted …、Cole included … は過去形(作家の行為)。suggests、may imply、seems to、evokes、remains は現在形です。
解釈は「今この画面を見て言えること」なので現在形になります。第1回で見た使い分けが、解釈の文にもそのまま当てはまります。
また、画家の意図について推測するときは may have + 過去分詞 を使います。Cole may have intended both readings.(コールは両方の読み方を意図していたのかもしれない)。第1回で学んだ anticipates(予告している)のような強い解釈語も、may anticipate とすれば控えめに使えます。
前回(第11回)の What strikes me is ~ と組み合わせると、感想から解釈へと自然につなげられます。
使える型3つ
確かめられるもの(光、色、配置、身ぶり)を主語にして、解釈を動詞に担わせる形です。
解釈を一つに決めず、可能な読み方として示す形です。or as ~ で別の読み方を並べられます。
二つの見方を比べて、自分の解釈を示す形です。A と B には動詞の原形が入ります。
練習問題
( )に入る語を選んでください。
- The dark clouds (suggest / infer) that a storm has just passed.
- The warm colors (evoke / remind) a summer afternoon.
- The ending of the story is (ambiguous / vague) — it can be read in two clear ways.
模範解答を見る
- suggest:主語が画面の要素(雲)なので suggest。infer は見る人が主語のときに使います。
- evoke:remind は remind 人 of ~ の形が必要。evoke は呼び起こすものを直接目的語にとります。
- ambiguous:「二通りにはっきり読める」なので ambiguous。vague は「ぼんやりしている」。
型2を使って、「この川は時の流れとして読むことができます」を英語で書いてください。
模範解答を見る
The river can be read as the passage of time.
「時の流れ」は the passage of time が自然です。can を抜くと「そう読まれている」と断定に近づきます。
次の日本語を英語にしてください。
「その人物は、話しているというより、聞いているように見えます。」
模範解答を見る
The figure seems to listen rather than speak.
型3の形です。rather than の後ろも動詞の原形にそろえます。
別解:The figure seems to be listening rather than speaking.(進行形にすると「今まさに」の感じが強まります)
好きな作品を1点選び、①画面の観察を1文、②その観察に基づく解釈を suggests・can be read as・seems to のどれかを使って1文、合計2文の英語で書いてください。
解答例を見る
A single lamp lights the woman’s face, and the rest of the room is dark. The light seems to isolate her rather than comfort her.
The road disappears over a hill. It can be read as a symbol of an uncertain future.
答えは作品によって変わります。1文目に「誰でも確かめられる観察」、2文目に「控えめな解釈」を置くと、根拠のある解釈になります。
前回の復習
第11回「『I like it』以外で感想を言う」の言葉を使う小問です。
( )に入る語を選んでください。
What (strikes / strike) me first is the size of the canvas.
答えを見る
strikes:主語は What(目を引くもの)で単数扱いなので strikes。
「色づかいが抑えられているので、赤い服が際立ちます」を英語にしてください。
答えを見る
The palette is restrained, so the red dress stands out.
restrained は「意図して抑えた」。否定的な dull と区別します。
次の文の下線部を、自分の視線の動きを表す言い方に直してください。
I like the dog in the corner.
答えを見る
I keep coming back to the dog in the corner.
「好き」と言わずに、何度も目が戻ることで好きな気持ちを伝える形です。
次回予告と目次
第13回 ギャラリーで質問する在庫・エディション・来歴
ゴール:作品の購入可否・エディション・来歴・状態を、ていねいな英語で質問できるようになる。
画像:アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック《ディヴァン・ジャポネ》1892–93年 The Metropolitan Museum of Art, Bequest of Clifford A. Furst, 1958(58.621.17)/Open Access(CC0)
全15回の一覧と、学んだ回のチェック表はアート英語カリキュラム 目次にあります。
全15回の目次を見る- 【徹底解説】トマス・コールってどんな作家?その人生と作品を追う
- 絵画は英語で何て言う?painting・drawing・pictureの違いを名画で学ぶ【アート英語 第1回】
- アートの英単語31語|「表現」・構図・美学は英語で?例文つき辞典単語を引きたいときに
- 美術の専門用語を英語で|明暗法・図像学・来歴など31語の辞典
作品を「見る」から「持つ」へ
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