全15回のうち 第3回
連載「美術館の英語を読める人になる」
chiaroscuro / sfumato光と影
「明暗法」を英語で言うと chiaroscuro(キアロスクーロ)。では、よく一緒に出てくる sfumato(スフマート)とは何が違うのでしょうか。この記事は、連載「美術館の英語を読める人になる」の第3回です。ろうそく1本の光で描かれた絵を見ながら、光と影を英語でどう描写するのかを確かめていきます。
連載の全体像と学ぶ順番は、アート英語カリキュラム 目次にまとめています。
読了目安 約15分(練習問題を含む)使える型 3つ練習問題 3問
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この回を読むと、chiaroscuro と sfumato を区別し、光がどこから来て、何を照らし、どこに影ができているかを英語で描写できるようになります。
この回で扱う言葉
chiaroscuro
明暗法・キアロスクーロ
何をする技法か光と影の強い対比で、形に立体感と劇的な効果を与える
境目の見え方明るい部分と暗い部分がはっきり分かれる
sfumato
スフマート(ぼかし技法)
何をする技法か色や明暗の移り変わりを、煙のように少しずつぼかす
境目の見え方輪郭線が見えず、境目が溶け合う
どちらもイタリア語から英語に入った美術用語です。chiaroscuro は chiaro(明るい)+ scuro(暗い)、sfumato は fumo(煙)に由来し、「煙のようにぼかした」という意味です。sfumato はレオナルド・ダ・ヴィンチの《モナ・リザ》の説明によく使われます。
今日の1枚

DETAIL
DETAIL美術館で作品の横に貼られている作品ラベルの形で見てみます。ラベルの読み方そのものは第6回で詳しく扱います。
Georges de La Tour (French, 1593–1652)
The Penitent Magdalen, ca. 1640
Oil on canvas
52 1/2 × 40 1/4 in. (133.4 × 102.2 cm)
The Metropolitan Museum of Art, Gift of Mr. and Mrs. Charles Wrightsman, 1978 (1978.517)
- 作品名
- 《悔悛するマグダラのマリア》
- 作家
- ジョルジュ・ド・ラ・トゥール(フランス、1593–1652)
- 制作年
- 1640年頃
- 素材・技法
- 油彩、カンヴァス
- サイズ
- 133.4 × 102.2 cm
- 所蔵
- メトロポリタン美術館(ニューヨーク)ヨーロッパ絵画部門
- クレジット
- Gift of Mr. and Mrs. Charles Wrightsman, 1978(1978.517)
- 画像
- The Met Open Access(CC0)/作品ページ(The Met)
マグダラのマリアは、世俗の楽しみを捨てて悔い改めた女性として描かれてきた聖人です。ラ・トゥールはこの主題を何度も描いており、本作はろうそくの炎と鏡に映った炎の二つが見えることから「二つの炎のマグダラ」とも呼ばれます。
明暗の対比そのものはルネサンスから使われてきましたが、暗闇の中で人物に強い光を当てて浮かび上がらせる劇的な表現(テネブリズム)はカラヴァッジョが広め、ラ・トゥールもその流れに続いた画家の一人とされます。詳しくはカラヴァッジョの解説記事で紹介しています。
美術館の解説文で読む
美術館の壁に掲げられる解説文(ウォールテキスト)の書き方にならって、この作品の解説を英語で書きました(Euphoric " " によるオリジナルの文章です)。まず英文を通して読み、そのあと訳で確認してください。
The only light source in this painting is a candle. Mary Magdalen sits at a table, her hands clasped over a skull in her lap. The light falls from the right1, illuminating her face2, her white blouse, and the top of the skull. The rest of the room sinks into deep browns and blacks, and the figure emerges from the darkness in strong tonal contrast3. This sharp division of light and dark is known as chiaroscuro. Her profile forms a clean edge rather than dissolving into the smoky haze of sfumato4. In front of the mirror, the candle itself is almost a silhouette5, while its reflection glows. La Tour painted this subject several times; here the mirror stands for vanity6 and the skull for mortality.
下線と番号は、このあとの「読み解き」1〜6に対応しています。
全訳を読む
訳:この絵の光源は、1本のろうそくだけです。マグダラのマリアはテーブルのそばに座り、膝の上の頭蓋骨に両手を重ねています。光は右から差し、彼女の顔、白いブラウス、そして頭蓋骨の上の部分を照らしています。部屋のほかの部分は深い茶色と黒の中に沈み、人物は強い明暗の対比によって暗闇から浮かび上がります。このように光と闇をはっきり分ける表現を、キアロスクーロ(明暗法)と呼びます。彼女の横顔はくっきりとした輪郭をなしていて、スフマートのように煙った霞の中へ溶けていくことはありません。鏡の前に立つろうそく本体はほとんど影絵のように暗く、鏡に映った姿のほうが輝いています。ラ・トゥールはこの主題を何度も描きました。この作品では、鏡は虚栄を、頭蓋骨は死を免れない人間の運命を表しています。
読み解き:なぜこの言い方なのか
光を描写するとき、美術館の解説文がまず確かめるのは光源(light source)がどこにあるかです。
窓、ろうそく、空など、光源が画面の中にあるのか外にあるのかで、絵の読み方が変わるからです。この作品では光源が画面の中に描かれているので、The only light source in this painting is a candle. と最初に言い切っています。
a single candle(1本だけのろうそく)と only(唯一の)を同じ文に重ねると「1本だけ」を二度言うことになるので、どちらか一方で十分です。
光の向きは fall で言います。日本語では光が「差す」「当たる」ですが、英語では光が注ぐ・降りかかるイメージで fall を使います。この絵のように横から差す光にも、そのまま fall を使えます。falls from は「どこから」、falls on は「何に当たるか」です。
方向は from the left、from above(上から)、from the upper left(左上から)のように言います。above には the を付けない点も合わせて覚えておくと便利です。
「ろうそくが顔を照らす」を英語にするとき、shine を使いたくなります。しかし shine は「(それ自体が)光る・輝く」という意味が中心で、「何かを照らす」の意味で目的語を直接とる使い方は一般的ではありません。
illuminate はやや硬い語で、解説文に向いています。会話なら light や light up で十分です。
解説文の The light falls from the right, illuminating her face … は、文の後半を -ing で続けて「差して、そして照らす」と一息で言う形で、描写文によく使われます。
この回の言葉 candlelit(ろうそくに照らされた)も、light の過去分詞 lit からできた語です。a candlelit room(ろうそくの灯る部屋)、a sunlit field(日の当たる野原)、a moonlit sea(月明かりの海)のように、光源+lit で形容詞になります。
この一文には、前の回で学んだ言葉が二つ入っています。
一つは 第1回の The sitter’s profile emerges from a dark ground。emerge from(~から浮かび上がる)は、明暗法の絵を描写するときの決まった言い方です。第1回の素描は「暗い地(ground)」から、今回の油彩は「暗闇(the darkness)」から浮かび上がります。
ground は画面に敷かれた地の色や下地そのもの、the darkness は描かれた部屋の暗さです。ground と background(背景)の違いは、第4回で扱います。
もう一つは第2回の tone(明暗の度合い)です。tonal contrast は「明暗の対比」。色そのものの対比(赤と緑など)は color contrast と言い分けます。
この絵は茶・白・赤が中心の限られた色づかいなので、効いているのは色の違いではなく明るさの違い、つまり tonal contrast です。
なお、第1回の sitter は「肖像のモデルになった人」でしたが、今回は the figure を使っています。マグダラのマリアは聖書に登場する聖人で、肖像を描いてもらうために画家の前に座ったモデル本人ではないからです。
描かれた人物一般は figure、肖像画のモデル本人は sitter と使い分けます。
contrast を使うときの前置詞にも注意が必要です。
動詞なら contrast with、名詞なら in contrast to(または in contrast with)です。発音も、動詞は後ろ(con-TRAST)、名詞は前(CON-trast)に強勢が来ます。
解説文は、いきなり chiaroscuro という語を出していません。まず光と影の様子を観察で描写し、This sharp division of light and dark is known as chiaroscuro. と最後に名前を与えています。
専門用語を知らない来館者も読む美術館の文章では、「現象の説明 → 用語」の順に書くのが読みやすい組み立てです。
be known as ~ は「~と呼ばれる」。is called よりやや改まった言い方で、用語の紹介によく使われます。
chiaroscuro と sfumato は、どちらも数えられない名詞として使うのが基本です。
解説文の rather than dissolving into the smoky haze of sfumato は、「sfumato のように煙った霞に溶けていくのではなく」。あえてこの絵に無い技法を引き合いに出して、横顔の輪郭がくっきりしていることを際立たせています。
第1回の There is no paint in this portrait. と同じく、「何ではないか」を言うことで「何であるか」をはっきりさせる書き方です。
さらに強い明暗の表現は tenebrism(テネブリズム)と呼ばれ、カラヴァッジョとその後継者の説明でよく使われます。
日本語の「影」は一語ですが、英語はいくつかに分かれます。第2回の shade(暗い色合い)とも関わるので、まとめて整理します。
- shadow
- 光がさえぎられてできる影
in shadow(影になって) - cast shadow
- 物体が床や壁に落とす影
The vase casts a shadow on the table. - silhouette
- 明るい背景に対して、暗く塗りつぶされたように見える形
almost a silhouette, in silhouette - shade
- 日陰(場所)/暗い色合い(第2回)
sit in the shade
cast(投げる)は影と結び付く動詞で、cast a shadow(影を落とす)の形でよく使われます。
名詞の cast shadow は、絵画の分析で「物体そのものの光が当たらない面(form shadow)」と区別して「床や壁に落ちた影」を言うときの用語です。
解説文の the candle itself is almost a silhouette は、鏡の前のろうそく本体が、すぐ上の明るい炎や光る額縁に囲まれて、細部の見えない暗い形になっていることを言っています。
silhouette は本来「明るい背景に対する暗い形」です。ここではろうそくのすぐ後ろが暗い鏡の面なので、完全な silhouette ではないという意味で almost(ほとんど)を付けています。silhouette はフランス語由来で、発音は「シルエット」に近く、綴りの u と最後の te に注意が必要です。
最後の文は、前半と後半で時制が変わります。La Tour painted this subject several times は作家の行為なので過去形、the mirror stands for vanity は今この絵の中で鏡が意味していることなので現在形です。
第1回から続けて見てきた「作家がしたことは過去形、作品が見せていることは現在形」の使い分けは、象徴の説明にもそのまま当てはまります。
stand for は「~を表す・象徴する」。symbolize や represent と同じ意味で使えますが、stand for のほうがやや平易です。the mirror stands for vanity and the skull for mortality のように、2つ目の stands を省いて並べると、解説文らしい引き締まった文になります。
所蔵館は、ろうそくについては「おそらく霊的な悟りを示している」と、言い切らない書き方をしています。解釈を断定しすぎずに述べる英語は、第12回で詳しく扱います。
使える型3つ
光源の方向を言う基本の形です。方向には the を付けます(above・below は例外)。
明暗法の絵で、明るく照らされた部分を描写する形です。描写なので現在形で使います。
明るさや色の違いを強調する形です。文の後ろに付け足すことも、be 動詞の後に置くこともできます。
練習問題
( )に入る語を選んでください。
- The candle (illuminates / shines) her face.
- The tree casts a long (shadow / shade) on the grass.
- Leonardo’s soft, smoky blending of tones is called (chiaroscuro / sfumato).
模範解答を見る
- illuminates:「~を照らす」は illuminate(または light)。shine なら shines on her face です。
- shadow:物体が落とす影は shadow。cast a shadow で「影を落とす」です。
- sfumato:煙のようにぼかす技法は sfumato。強い明暗の対比は chiaroscuro です。
型1を使って、次の日本語を英語にしてください。
「光は左上から差しています。」
模範解答を見る
The light falls from the upper left.
方向には the を付けます。「左上」は upper left(左上)、「右下」なら lower right です。
好きな作品を1点選び、光がどこから来て、何を照らしているかを英語で1〜2文書いてください。
解答例を見る
The light falls from a window on the left and illuminates the woman’s hands. Her face emerges from the darkness.
The light falls from above. The figures cast long shadows on the ground.
答えは作品によって変わります。「型1で光の向き、illuminate で照らされているもの、型2か cast a shadow で明暗」の順に書くと、まとまった描写になります。
前回の復習
第2回 色を語る(hue・tone・palette)の言葉を使って、3問だけ解いてみましょう。
( )に入る語を選んでください。
The cypress is built from dark (tints / shades) of green.
答えを見る
shades:黒に近い暗い色合いは shade。白を混ぜた明るい色合いは tint です。
今日の1枚の色づかいを、型 The palette is dominated by ~. を使って英語で言ってください。(ヒント:茶色・黒・白・赤)
答えを見る
The palette is dominated by browns and blacks, with touches of white and red.
いろいろな茶色・黒を含むので複数形にしています。with touches of ~ は「~を少し加えて」です。
「赤と緑は補色です。」を英語にしてください。
答えを見る
Red and green are complementary colors.
complimentary(無料の)と綴りを間違えないように注意します。
次回予告と目次
第4回 構図foreground・focal point
ゴール:foreground・background、diagonal、focal point を使って、画面の組み立てを英語で説明できるようになる。
画像:ピーテル・ブリューゲル(父)《穀物の収穫》1565年 The Metropolitan Museum of Art, Rogers Fund, 1919(19.164)/Open Access(CC0)
全15回の一覧と、学んだ回のチェック表はアート英語カリキュラム 目次にあります。
全15回の目次を見る- カラヴァッジョとは?生涯・代表作・死因をわかりやすく解説明暗法の源流
- 絵画は英語で何て言う?painting・drawing・pictureの違い【アート英語 第1回】
- アートの英単語31語|「表現」・構図・美学は英語で?例文つき辞典単語を引きたいときに
- 美術の専門用語を英語で|明暗法・図像学・来歴など31語の辞典
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