【徹底解説】名和晃平とは?PixCellとThroneで知られる彫刻家の人生と作品を解説!

【徹底解説】名和晃平とは?PixCellとThroneで知られる彫刻家の人生と作品を解説!

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こんにちは。ユアムーン株式会社 編集部です。

皆さんは名和晃平という人物をご存知ですか?

1975年に大阪で生まれ、京都を拠点に活動する彫刻家です。剥製の動物を透明な球で覆った「PixCell(ピクセル)」シリーズ、泡が次々に湧き上がって形をつくる《Foam》、2018年にルーヴル美術館のピラミッドの下に展示された金箔の《Throne》など、「これは彫刻なのか」と一瞬立ち止まってしまうような作品で知られています。

2009年には京都で創作のためのプラットフォーム「SANDWICH」を立ち上げ、舞台美術や建築のプロジェクトにも取り組んできました。彫刻という枠を押し広げ続けてきた作家と言えます。

本記事ではそんな名和晃平の人生と作品についてご紹介します。代表作は、作家の公式サイトに公開されている画像を、解説のために引用して掲載します。あわせて図解と表、美術館の外観写真で解説します。なお、現在の活動に関する記述は2026年10月時点の情報です。

名和晃平って?

基本情報

名前名和 晃平(なわ こうへい/Kohei Nawa)。本名は記録なし
生年(存命)1975年生まれ(2026年10月時点で存命)
国籍・出身日本/大阪生まれ、京都を拠点に活動
学歴京都市立芸術大学 美術学部彫刻専攻卒業(1998年)。1999年に英国王立美術院(Royal College of Art)へ交換留学。同大学院の博士(後期)課程を修了し、博士号(美術)を取得(2003年)
現在の肩書彫刻家。京都芸術大学教授、Sandwich Inc.主宰(2026年10月時点)
分野彫刻、インスタレーション、絵画、ドローイング、写真、舞台美術、建築のプロジェクト
傾向物の「表皮」に着目し、「セル(細胞・粒)」という概念を軸に、ビーズ、プリズム、液体、泡などを用いて制作する
師事した人物・影響を受けた人物記録なし(公式の略歴では確認できませんでした)。協働者に、振付家のダミアン・ジャレがいます

同じように、日本と世界で活躍する現代の作家や、彫刻の可能性を広げた作家については、以下の記事でもご紹介しています。あわせてご覧ください。

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名和晃平の歩みの流れ図。1975年に大阪で生まれ、2002年にPixCellを発表、2009年にSANDWICHを設立、2011年に東京都現代美術館で個展、2018年にルーヴルでThroneを展示。
図:名和晃平の歩み

どんな作家として知られているのか

名和晃平は、自分のことを「彫刻家」と名乗っています。ただ、その作品は、石や金属を彫ったり固めたりする従来の彫刻のイメージとは、かなり違って見えるかもしれません。ガラスのビーズ、プリズムシート、発泡ポリウレタン、シリコーンオイルといった素材を使い、ときには泡や液体そのものを作品にしてきたからです。

東京都現代美術館が2011年の個展で掲げた説明によると、名和はこれらの素材やメディアを、情報社会における感覚や思考のメタファー(たとえ)として扱い、デジタルとアナログの間で揺れ動く身体と知覚のリアリティを表現してきたとされています。難しく聞こえますが、画面越しに世界を見ることの多い私たちの感覚を、物質の手ざわりで確かめ直すような作品づくりだと受け取ると、入り口がつかめると考えます。

キーワードは「表皮」と「セル」です。同じ美術館の説明は、名和が「感性と物質をつなぐインターフェイス(接点)である表皮の質を通して、私たちが対象をリアルに感じ取っている」ことに注目していると述べています。たしかに私たちは、物の内側ではなく、まず表面の光や質感を通してその物を知ります。そこで名和は、表面(表皮)をつくり替えることで、見る人の感覚そのものを揺さぶろうとしてきました。

もう一つの「セル」は、十和田市現代美術館の展覧会紹介にある「セル(細胞・粒)で世界を認識するという独自の概念」のことです。世界を、細胞や粒のような小さな単位の集まりとして見るという考え方で、この記事の後半に出てくる作品の多くが、ここにつながっています。

経歴と作品

大阪に生まれ、京都で彫刻を学ぶ(1975年〜2003年)

名和晃平は1975年に大阪で生まれました。京都市立芸術大学の彫刻専攻に進み、1998年に学部を卒業しています。公式サイトの略歴によると、1999年には英国王立美術院(Royal College of Art)の彫刻コースに交換留学し、2003年に京都市立芸術大学大学院の博士(後期)課程を修了しました。ルーヴル美術館の公式資料は、修士の取得を2000年としています。

2003年に取得した博士号について、公式サイトは「博士号(美術、第1号)」と記しています。東京都現代美術館の展覧会概要によれば、その博士論文の題名は「感性と表皮…現代彫刻における一方法論」でした。のちに作品の中心となる「表皮」への関心は、この時期の研究にすでに現れていたことがわかります。

大学院生の頃のドローイングには、「Esquisse(エスキース)」というシリーズがあります。2022年の十和田市現代美術館での個展で、この大学院生時代のシリーズが、のちの代表作「PixCell」と並べて紹介されました。エスキースとは、作品を本格的につくる前に描く下絵やスケッチを指す言葉です。作家の出発点にあたる素描を、後年の代表作と並べて見せたことになります。

もう一つ、人物像を知る手がかりとして、東京都現代美術館のスタッフブログが紹介している名和自身の言葉があります。宇宙に興味を持った時期やきっかけをたずねられた名和は、次のように答えています。

「7才くらいの時に小さな天体望遠鏡をもらって、月や土星を観察したのがきっかけだと思います。10才くらいの頃に天文学研究部を作って、星の観察や撮影、鉱物の収集を行うようになりました。」

星や鉱物という、遠くて小さく、それでいて大きな世界につながる対象に、子どもの頃から惹かれていたことがうかがえます。ここから先は書き手の考えですが、のちの「世界を粒の集まりとして見る」というセルの発想や、重力や液体を扱う作品群が、こうした関心と無関係とは言い切れないと考えます。もちろん本人が因果関係を語っているわけではないので、あくまで見方の一つとして受け取ってください。

大学院を出たあとの動きも、公式の資料から追えます。東京都現代美術館の作家略歴によると、2005年にはアジアン・カルチュラル・カウンシルの日米芸術交流プログラムでニューヨークに滞在し、2006年にはダイムラー・クライスラー・ファウンデーション・イン・ジャパンの芸術支援プログラム「アート・スコープ2005〜2006」でベルリンに滞在しています。同じ年に東京のSCAI THE BATHHOUSEで個展を開き、注目を集めたと記されています。

PixCell:映像の細胞をつくる(2002年〜)

名和晃平を語るうえで欠かせないのが、2002年に発表された「PixCell(ピクセル)」です。東京都現代美術館の説明によれば、これは「映像の細胞 PixCell=Pixel(画素)+Cell(細胞・器)」という造語で、感性と物質のやりとりのなかから生まれてくるイメージを追うための概念です。GINZA SIXの作品紹介も、名和が2002年に、情報化時代を象徴する「PixCell」を発表したと記しています。

ここで言葉を補っておきます。画素(Pixel)とは、デジタル画像を構成する小さな点のことです。細胞(Cell)は生き物の体をつくる小さな単位です。この二つを合わせた名前は、画像も生命も、小さな粒の集まりで成り立っているという見方を、一語で示しているように読めます。

具体的にどんな作品なのでしょうか。ペース・ギャラリーの2026年の展覧会紹介は、PixCellのシリーズについて、物の表面を透明な球(セル)で覆い、その下にある形の見え方をゆがませる作品だと説明しています。素材に剥製の動物や、作家が集めてきた物を使うこと、そして新しい技術とアナログな素材を並べることが特徴です。十和田市現代美術館の紹介は、レンズ効果によって、見る人の視点が動くと表皮が映像のように姿を変えていく、と述べています。

PixCellとPrismの比較表。PixCellは物の表面を透明な球で覆い形の見え方をゆがませる。Prismは物を透明な箱に収め、見る位置で中身の見え方が断片的に変わる。
図:PixCellとPrismの違い

2026年の展覧会では、もう一つのシリーズ「Prism(プリズム)」が、PixCellと並べて紹介されました。ペース・ギャラリーの説明では、Prismは物を透明な箱の中に収め、見る人の位置によって、中身の見え方を断片的に変えてしまう作品です。どちらのシリーズも、見るという体験を通して、現実とは何かを問いかけるものだと説明されています。

作品名にも、素材の性格が表れています。公式サイトの個展リストには、2018年にパリの狩猟自然博物館で開かれた「PixCell-Deer」の名があります。2026年のペース・ギャラリー展では、剥製のエルク(ヘラジカの仲間)を中心に据えた《PixCell-Elk#3》などが並びました。名前の「Deer」や「Elk」は、覆われている動物の種類を指していると読めます。

書き手の意見を添えると、動物の形を、ビーズという「粒」で覆うことで、その姿が、画像を構成する画素のようにも見えてくる点が、PixCellの面白さだと考えます。生命と情報、自然と人工という二つの世界が、一つの表面で重なっているからです。ペース・ギャラリーの説明が、この系列の制作がシュルレアリスム(現実と夢が交わる表現を目指した20世紀の芸術運動)の歴史への関心を反映していると述べているのも、同じ方向の話だと受け取れます。

重力、液体、泡:形が「生まれる」作品(2010年代〜)

PixCellが「表面を覆う」作品だとすれば、もう一つの大きな流れは、素材の力そのものに形をつくらせる作品群です。GINZA SIXの作品紹介は、名和のシリーズを次のように挙げています。重力で描くペインティングの「Direction」、シリコーンオイルが空間に降り注ぐ「Force」、液面に現れる泡とグリッド(格子)の「Biomatrix」、そして泡そのものが巨大なボリュームに成長する「Foam」です。

「Direction」と、その仲間の「Moment」は、2014年に東京都現代美術館で開かれた展覧会「ミッション[宇宙×芸術]」で紹介されました。同館のスタッフブログによると、《Direction》はキャンバスを傾け、重力に従って流れ落ちる絵の具で描いた平面作品、《Moment》は、振り子式のドローイングマシン(描画装置)で描いた絵画です。人の手で筆を運ぶのではなく、重力や振り子の動きに、描く仕事を委ねているわけです。

同じ展示には彫刻の《Ether》もありました。作家自身が書いた展示キャプションによると、粘度の高い液体が床に落ちるときの形を5段階で3D化し、上下を反転させたものを組み合わせて、無限に続く柱のようにランダムに積み重ねた作品で、無重力をイメージしているそうです。液体の落ちる一瞬の形をデータにして、それを上下に反転して積み上げるという手順には、「物質が情報に変わり、再び物質に戻る」という、名和作品に共通する往復運動が見えると考えます。

名和晃平の液体と重力の作品群の図。重力で描くDirection、オイルが降り注ぐForce、液面に泡とグリッドが現れるBiomatrix、泡が巨大に育つFoamの四つ。
図:重力・液体・泡でつくる作品群

この流れの代表作が《Foam》です。金沢21世紀美術館の公式ページによると、2019年4月27日から8月25日まで、同館の展示室13で特別展示「名和晃平 Foam」が開かれ、観覧は無料でした。作品は、液体のわずかな振幅とともに、小さな泡が終わりなく湧き出して集まり、泡の集合体として有機的な構造を自分でつくっていく様子を見せます。立ち上がったボリュームは飽和して膨らみ続け、ときにしぼんで地面に落ちる、と説明されています。

金沢21世紀美術館は、生成と消滅という単純な過程を繰り返す個々の泡が、代謝や循環を支える細胞の本質的な振る舞いに似ていて、見る人に生命の根源を連想させる、とも述べています。泡という身近なものを、細胞という言葉でつなぎ直している点が、「セル」を軸にしてきた名和らしい読み方です。

青い光に満たされた展示室で、雲のように盛り上がった白い泡の塊に、母子が手を伸ばしている様子
名和晃平『Foam』(2019年)、ミクストメディア、金沢21世紀美術館での展示風景。画像出典:名和晃平公式サイト(引用)

《Foam》は、金沢が初めてではありません。同館のページに載る写真の説明には、2018年にパリのHôtel Salomon de Rothschild(オテル・サロモン・ド・ロスチャイルド)で開かれた「FUKAMI」展での展示風景があり、公式サイトの略歴でも、2018年の団体展「深みへ-日本の美意識を求めて-」がこの会場として挙がっています。GINZA SIXの紹介は、2013年の《Foam》の写真に「あいちトリエンナーレ2013」の提供というクレジットを付けています。

《Biomatrix》も、実物を見るとインパクトのある作品です。十和田市現代美術館は、シリコーンオイルからグリッド状に泡が沸き立つ《Biomatrix (W)》(2022年)を、刻々と変化する界面(二つの物質の境目)が、視覚と触覚を静かに刺激する作品として紹介しています。2018年には東京のSCAI THE BATHHOUSEで、個展「Biomatrix」も開かれました。

白い展示室の床に細長く伸びる水槽に、格子状に並んだシリコーンオイルの泡の列が続く
名和晃平『Biomatrix (W)』(2022年)、ミクストメディア、十和田市現代美術館「生成する表皮」での展示風景。画像出典:名和晃平公式サイト(引用)

SANDWICHの設立と、建築、舞台への広がり(2009年〜2016年)

名和は2009年に、京都市の伏見区で「SANDWICH(サンドイッチ)」を立ち上げました。東京都現代美術館の作家略歴によれば、これは旧サンドイッチ工場を改装した、創作のためのプラットフォームです。アーティスト、デザイナー、建築家などさまざまな分野のクリエイターが集まり、プロジェクトが進むスタジオを、名和がディレクターとして運営していると説明されています。ルーヴル美術館の資料も、SANDWICHを、建築家、写真家、デザイナーなどからなる横断的な創作のコレクティブ(集団)と紹介し、制作スタジオとアーティスト・イン・レジデンスの場を備えていると記しています。

2013年には、瀬戸内海の犬島に、《Biota(Fauna/Flora)》が設置されました。GINZA SIXの紹介によると、SANAAが設計した構造物の内部に据えられた作品群で、ベネッセホールディングスの所蔵として恒久設置されています。同じ年に韓国のチョナン市にも大型彫刻《Manifold》が設置されました。この件は、東京都現代美術館のスタッフブログが「2013年には韓国のチョナン市に大型彫刻Manifoldを設置」と紹介しています。また、あいちトリエンナーレ2013にも参加しました。

2016年には、広島県福山市の神勝寺(禅と庭のミュージアム)に、アートパビリオン「洸庭(こうてい/KOHTEI)」が完成しました。瀬戸内の建築と観光を紹介する「SETOUCHI ARCHI-TOURISM」のサイトによると、洸庭は名和とSANDWICHの設計で、船のような形をしています。散らばった岩の海の上に、高い支柱で持ち上げられた形です。建物の本体はコンクリートですが、約59万枚のサワラ材の板で覆われているので、いまにも帆を上げそうな軽やかさがある、と説明されています。内部には、禅の瞑想の体験を表現したインスタレーションがあります。

緑の木々に囲まれた丘の上に、船のような形をした低い屋根の建物があり、手前に細い通路が続く
名和晃平『洸庭(KOHTEI)』(2016年)、神勝寺 禅と庭のミュージアム(広島県福山市)。©Shinshoji。画像出典:名和晃平公式サイト(引用)
名和晃平が建築や舞台に広げた仕事の図。2013年の犬島のBiota、2016年の神勝寺の洸庭、2015年に始まるダミアン・ジャレとの舞台作品VESSELの三つ。
図:彫刻から建築、舞台へ(2013年〜2016年)

そして2015年以降、名和が取り組んでいるのが、ベルギーの振付家ダミアン・ジャレとの協働による舞台作品《VESSEL(ヴェッセル)》です。GINZA SIXの紹介によると、名和が舞台美術、ジャレが振付を担当し、森山未來らのダンサーが出演しました。公式サイトの上演リストを見ると、2015年に大阪で上演されたあと、2016年に岡山の犬島と京都、2017年に横浜、2019年にはロンドンのサドラーズ・ウェルズ劇場やブリュッセルのラ・モネなど、国内外の劇場で再演が重ねられています。

ジャレとは、その後も《Planet [wanderer]》(2021年〜)、映像作品《Mist》、《Mirage》(2024年〜。2025年にはジュネーブとハンブルクで上演)が続いています。公式サイトの上演リストには、これらの上演が並んでいます。GINZA SIXでは、2021年にジャレとの共作によるARのパフォーマンスも発表されました。彫刻家が、舞台という時間のある場所に表現を広げていった流れとして、注目してよい展開だと考えます。

東京都現代美術館の個展「シンセシス」(2011年)

名和晃平の活動を大規模にまとめて紹介した機会が、2011年6月11日から8月28日まで、東京都現代美術館で開かれた個展「名和晃平 シンセシス」でした。会場は、企画展示室の地下2階とアトリウムです。美術館の展覧会概要は、この展覧会を「公立館初の大規模個展」と位置づけています。

展示は、BEADS(ビーズ)、PRISM(プリズム)、LIQUID(液体)、GLUE(グルー)、SCUM(スカム)、DRAWING(ドローイング)といったカテゴリーごとの空間を、行き来しながら巡る構成でした。音楽、ファッション、プロダクトデザインとのコラボレーション、パブリックアート(公共の場所に置く芸術作品)、プロジェクトチームによる制作も紹介されています。展覧会の関連事業として、グルーガン(接着剤を溶かして出す工具)を使って制作する作品《Catalyst》の公開制作も行われました。

この頃までの活動は、同館の作家略歴にまとまっています。2009年に銀座のメゾンエルメスで個展「L_B_S」を開き、ドイツのハンブルクのVera Munroでも個展を開催しました。ブリスベンの第6回アジア・パシフィック・トリエンナーレにも参加し、出展作の写真がカタログの表紙を飾ったと記されています。2010年には釜山ビエンナーレと、第14回アジアン・アート・ビエンナーレ・バングラデシュ2010に日本代表として参加し、バングラデシュでは最優秀賞を受けました。

東京都現代美術館の外観。斜めに組まれた黒っぽい柱と大きな庇が青空を背景に立つ。
名和晃平の個展「シンセシス」(2011年)が開かれた東京都現代美術館の外観。撮影:Kakidai/CC BY-SA 4.0/出典:Wikimedia Commons

携帯電話のコンセプトモデルの発表、豊洲の街区へのパブリックアートの設置、人気ミュージシャンのミュージックビデオの制作など、美術館の外へ活動を広げていたことも、同じ略歴に記されています。「シンセシス(合成・統合)」という展覧会名は、こうして枝分かれしていった名和の活動を、一つの空間で見渡す試みだったのだと考えます。

ルーヴル美術館の《Throne》(2018年)

名和晃平の代表作の一つが、2018年にルーヴル美術館のピラミッドの下に展示された《Throne(スローン)》です。ルーヴル美術館の公式の報道資料によると、2018年は日仏の外交関係が始まって160年にあたり、日本が西洋に門を開いた明治の始まりから150年でもありました。この節目に行われた「ジャポニスム2018:響きあう魂」のシーズンの一環として、《Throne》が展示されました。

公式資料と作品の基本データを、次の表にまとめます。

作品名《Throne》(2018年)
高さ10.4メートル(ペース・ギャラリーの表記は 1040 × 480 × 330 cm、ミクストメディア)
表面全体を金箔で覆う(ルーヴル美術館の公式資料)
展示期間2018年7月13日から2019年1月14日まで(ルーヴル美術館の公式資料)
展示場所ルーヴル美術館のガラスのピラミッドの下。公式資料は「ベルヴェデール(見晴らし台)」に浮かぶと表現
主催ルーヴル美術館、Fondation du Japon(ジャパン・ファウンデーション)

ルーヴル美術館の説明によれば、《Throne》は、東洋の宗教的な祭りで使われる山車(だし)の形と起源から着想を得ています。最新の3Dモデリングのシステムと、金箔を貼る伝統技法を組み合わせてつくられました。金箔の技法は、古代エジプトやルーヴルのコレクションとも響き合うと述べられています。

ルーヴル美術館のガラスのピラミッドの下に浮かぶように設置された、金箔で覆われた高さ約10メートルの彫刻。青空を背景に炎のような形が上へ伸びている
名和晃平『Throne』(2018年)、ミクストメディア・金箔、ルーヴル美術館ピラミッド下での展示風景。画像出典:名和晃平公式サイト(引用)

形は、有機的なものと機械的なものが混ざり合い、上へ向かうにつれて増えたり溶け合ったりしていきます。公式資料は、神道に根ざす要素として日本の祭りの行列に登場する神輿(みこし)、仏教の要素として後光(光背)を負った観音が、ここに合成されていると記しています。日本の祭りの賑わいと、仏像の静けさが、一つの塔のような造形の中に同居しているのが印象的です。

この作品には、はっきりした問いが込められています。ルーヴルの資料は、名和が、情報科学やAIの急速な進歩が、長い目で見れば、政治や経済に影響を及ぼす道具としての権力や権威を、置き換えてしまうのではないか、という直感を表していると述べています。過去から受け継がれてきた絶対的な権力という考え方を問い直し、未来を問うものだと説明されています。

Throneを読む三つの手がかりの図。形は東洋の祭りの山車に着想、技法は最新の3Dモデリングと金箔、問いは情報科学やAIが権力や権威に取って代わるかという直感。
図:《Throne》を読む三つの手がかり

ルーヴルのピラミッドの中央の柱は、設計者のイオ・ミン・ペイ(Ieoh Ming Pei)が、最初から大きな彫刻を受け入れるために構想したものだと、公式資料は述べています。2014年4月2日以降、この場所には現代美術の作品が展示されてきました。クロード・レヴェック、ロリス・グレオー、トニー・クラッグ、ヴィム・デルボアの作品に続く展示が、名和の《Throne》でした。

書き手の意見を添えると、AIをめぐる議論が日常のニュースになったいま、「権力を象徴する玉座」を、AIの時代の問いとして金色の塔に変えて見せた《Throne》は、時間がたつほど読み方の幅が広がる作品だと考えます。

2019年以降:泡、庭、そして世界各地の個展

2019年の金沢21世紀美術館での《Foam》のあとも、名和は、美術館や公共の空間での発表を重ねています。公式サイトによれば、2020年には明治神宮で、鎮座百年祭の特別展示を行いました。

2021年4月12日から2022年10月20日まで、GINZA SIXの2階の中央吹き抜けには、インスタレーション「Metamorphosis Garden(変容の庭)」が展示されました。GINZA SIXの紹介によれば、生命と物質、あるいはその境界にある曖昧なものが共存する世界をテーマにした作品で、犬島の《Biota》の発展形として、混沌から生まれる新たな物語を表現しています。不定形の島々と雫の上に、生命の象徴として《Ether》と《Trans-Deer》が立ち上がり、アルミナ(酸化アルミニウム)とマイクロビーズの粒に覆われた彫刻群が、吹き抜けに浮かぶように配置されました。

さらにこの空間では、ダミアン・ジャレとの共作によるARのパフォーマンスも展開されました。実在する彫刻にアプリをかざすと、現実とARが重なったコンテンポラリーダンスが見られるという仕組みで、上演時間は約3分30秒と記されています。物質と情報を行き来してきた名和の関心が、そのままARという技術に結びついた例だと考えます。

2022年6月18日から11月20日までは、十和田市現代美術館で個展「生成する表皮(Generative Interface)」が開かれました。同館の紹介によれば、この展覧会は、名和の作品に通じる制作の考え方を示すもので、本展のために制作された最新作を公開しています。会場は、美術館と、2022年9月に開館した地域交流センター(設計は藤本壮介。同センターの会期は10月1日から)の二つでした。美術館では、大学院生時代のドローイング「Esquisse」と、代表作の「PixCell」、新作の「White Code」を含むさまざまなシリーズを紹介しました。地域交流センターでは、円と線で構成された版画「Array-Black」シリーズの《Dot》《Line》や、苔や菌糸のような絨毛を付着させた「Velvet」シリーズ、数か月かけて表面が少しずつ変わっていく「Black Field」シリーズが展示されています。

年展覧会・発表会場
2011年「シンセシス」東京都現代美術館(東京)
2013年「SCULPTURE GARDEN」霧島アートの森(鹿児島)
2015年「FORCE」Pace Gallery(ロンドン)、SCAI THE BATHHOUSE(東京)
2018年「Throne」ルーヴル美術館(パリ)
2019年「Foam」金沢21世紀美術館(石川)
2021年「Metamorphosis Garden(変容の庭)」GINZA SIX(東京)
2022年「生成する表皮」/「Aether」十和田市現代美術館(青森)/Pace Gallery(ニューヨーク)
2023年「Cosmic Sensibility」Pace Gallery(ソウル)
2025年「Sentient」SCAI THE BATHHOUSE(東京)
2026年「Photon Camp」Pace Gallery(ロサンゼルス)

※公式サイトの個展リストと、各館の公式ページをもとに、編集部が抜粋しました。

最近の活動(2023年〜2026年)

公式サイトの個展リストによれば、2022年にニューヨークのペース・ギャラリーで「Aether」、2023年にソウルの同ギャラリーで「Cosmic Sensibility」、2024年にハンブルクのGalerie Vera Munroで「Soma」、2025年に東京のSCAI THE BATHHOUSEで「Sentient」と、毎年のように個展が続いています。2025年には東京国立博物館で開かれたグループ展「浮世絵現代」にも名前が見えます。

2026年4月11日から6月13日まで、ロサンゼルスのペース・ギャラリーで開かれた「Photon Camp」は、同ギャラリーによれば、ロサンゼルスで初めての個展でした。PixCellとPrismの2つのシリーズから20点の新作が、会場の建築と呼応するように並びました。中心には、剥製のエルクを使った大きな独立型の彫刻《PixCell-Elk#3》が置かれています。

展覧会の題名にある「フォトン(光子)」について、ギャラリーの説明は、名和にとって作品とは一つの意味に固定された静的な存在ではなく、無数の光子が一瞬、奇跡的に集まるときに起こる、現象学的な出来事だと述べています。PixCellを始めておよそ25年がたつと説明されていますが、それだけの時間を経てもなお、「見るとはどういうことか」という問いが制作の中心にあると考えます。

受賞歴と収蔵先

最後に、公式サイトに記載された受賞歴と、作品を収蔵している主な施設を整理します。

年受賞
2010年第14回アジアン・アート・ビエンナーレ・バングラデシュ2010 最優秀賞
2011年平成23年度 京都市芸術新人賞
2017年平成29年度 京都府文化賞 功労賞
2018年Pen クリエイター・アワード 2018
2019年第32回 京都美術文化賞
区分収蔵先(公式サイトの一覧から抜粋)
国内の美術館東京都現代美術館、森美術館、原美術館、高松市美術館、越後妻有里山現代美術館 MonET、トヨタアートコレクション
海外の美術館・コレクションMetropolitan Museum of Art(ニューヨーク)、National Gallery of Victoria(メルボルン)、Queensland Art Gallery | Gallery of Modern Art(ブリスベン)、Daimler Art Collection(ベルリン)、Long Museum(上海)
建築・公共空間東京ミッドタウン、新丸ビル、豊洲フロント、ザ・リッツ・カールトン京都、新風館

美術館だけでなく、ビルや商業施設、ホテルといった日常の場所にも作品が置かれている点に、名和の仕事の広がりが表れていると考えます。

まとめ

いかがだったでしょうか。名和晃平は、1975年に大阪で生まれ、京都で彫刻を学び、2002年に「PixCell」を発表しました。物の表皮を通して世界を感じるという関心を軸に、ビーズや液体、泡といった素材から、金箔の塔《Throne》、建築、舞台へと、表現の範囲を広げてきた作家です。

公式の資料をたどると、名和の作品が、見る位置や時間によって姿を変えること、そして素材の力や、技術の進歩が私たちの感覚をどう変えるのかという問いに、一貫して向き合っていることが見えてきます。画像だけでは伝わらない質感や大きさがあるからこそ、ぜひ実際の作品の前に立って、ご自身の目で確かめてみてください。

Euphoric " " の視点

名和晃平の仕事には、素材の力そのものに形をつくらせる作品群があります。《Direction》はキャンバスを傾け、重力に従って流れ落ちる絵の具で描いた平面作品、《Moment》は振り子式のドローイングマシン(描画装置)で描いた絵画です。《Foam》では、小さな泡が終わりなく湧き出して集まり、泡の集合体として有機的な構造を自分でつくっていきます。

とはいえ、委ねることは、何もしないことではないと考えます。キャンバスを傾けること、振り子式の装置で描くこと。そこには、形が生まれる条件を整える仕事があると読めます。

仕事では、結果を細部まで思いどおりに決めることが良いとされがちかもしれません。けれども名和の作品は、条件を丁寧に用意し、その先を重力や泡の動きに委ねることで、作り手ひとりの手では描けない形に出会える、という見方を示してくれているように思います。ものづくりの幅を広げてくれる考え方です。

この作品を見に行くには

記事で紹介した作品は、次の館などで公開されています。展示替えがあるため、最新の情報は公式サイトをご確認ください。

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