資生堂ギャラリーに学ぶ、100年以上続く企業とアートの関係と、その設計の要点

資生堂ギャラリーに学ぶ、100年以上続く企業とアートの関係と、その設計の要点

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資生堂ギャラリーとは、化粧品メーカーの資生堂が1919年に開設した、東京・銀座にある企業運営の画廊です。現存する国内の画廊としては最古ともいわれ、100年以上にわたって、美術と向き合う場を持ち続けてきました。

企業がアートに関わるとき、多くの場合は「周年のイベント」や「オフィスの装飾」など、期間や用途が限られた取り組みになりがちです。そのなかで、一つの場を100年以上続けることは、どういう設計によって可能になるのでしょうか。この記事では、公開されている情報をもとに資生堂ギャラリーの歩みを整理し、企業がアートと長く付き合うための要点を読み解きます。

この記事で分かること

  • 資生堂ギャラリーの歴史と、現在の姿
  • 椿会、shiseido art eggなど、継続の仕組みとして読み取れる取り組み
  • 企業とアートの関係を長続きさせるための5つの視点
  • 自社でアートに関わるときの確認ポイントと注意点

資生堂ギャラリーとは:100年以上続く企業の画廊

資生堂ギャラリーは、1919年(大正8年)に開館しました。創設者は、資生堂の初代社長である福原信三です。福原は写真家としても活動した人物で、芸術への関心を持つ経営者として知られています。資生堂の沿革では、同年に「陳列場」が開設され、これが現在の資生堂ギャラリーにあたるとされています。

ギャラリーが掲げる方針は「新しい美の発見と創造」です。これまでに3,100回以上の展覧会が開かれ、横山大観や藤田嗣治をはじめ、多くの作家が発表の足がかりにしたと紹介されています。震災、戦争、建物の改築による中断はありましたが、そのたびに活動を再開してきました。

2001年に、銀座の資生堂ビル地下1階へ移転し、リニューアルオープンしました。新しい会場は吹き抜けの高さが5メートルを超えるとされています。1990年代からは現代美術を中心に紹介し、初心者にも入りやすい内容になったと紹介されています。現在は年に4〜5回のペースで展覧会を開いています(情報は観光・施設紹介サイトによるもので、最新の開催状況は公式サイトでご確認ください)。

椿会:戦後の再開から続くグループ展

資生堂ギャラリーを語るうえで外せないのが「椿会」です。公式サイトによれば、椿会は、第二次世界大戦で一時中断していた資生堂ギャラリーの活動を1947年に再開する際に生まれたグループ展です。戦争や災害、不況などで社会が閉塞していた時も、再興への願いを込めて開催されてきました。趣旨は「アートが人々に希望と勇気を与える」という考えに基づくとされています。

直近の「第八次椿会」は2021年に始まり、2023年まで3年間続きました。参加したのは、杉戸洋、中村竜治、Nerhol、ミヤギフトシ、宮永愛子、目[mé]の6組で、各年に「触発/Impetus」(2021年)、「探求/Quest」(2022年)、「ただ、いま、ここ」(2023年)というテーマが掲げられました。

ここから読み取れるのは、一つの展覧会を「シリーズ」として育て、時代ごとに参加者を入れ替えながら続けているという設計です。同じ名前で続けることが、企業の姿勢を示す積み重ねになっていると考えられます。

shiseido art egg:新しい作家と出会う場

もう一つの取り組みが「shiseido art egg」です。公式サイトには「shiseido art eggとは」「応募要項」「審査結果」といった項目があり、応募と審査を経て作家を選ぶ形式であることがうかがえます。2026年1月には第18回のPDFカタログが公開されたとの記載があります。具体的な開始年や選考の詳細は、公式サイトの案内でご確認ください。

椿会が実績ある作家との継続的な関係を、art eggが新しい作家との出会いを担うと捉えると、関係の深さと入口の広さを同時に持つ構造に見えます。これは、編集部の読み取りであり、資生堂が公式にそう位置づけているわけではない点にご注意ください。

企業とアートの関係を長続きさせる5つの視点

資生堂ギャラリーの事例から、企業がアートと長く付き合うための視点を5つに整理します。ただし、以下は公開情報をもとにした編集部の考察であり、資生堂の意図を代弁するものではありません。

資生堂ギャラリーの事例から整理した、企業とアートの関係を長続きさせる5つの視点を示した図
図:企業とアートを長続きさせる5つの視点

視点1:経営者の関心が起点になっている

ギャラリーは、写真家でもあった初代社長の福原信三が始めたものです。担当者の発案ではなく、経営の意思として始まったことが、中断を乗り越えて再開できた背景にあると考えられます。

視点2:「場」を持っている

イベントは終われば消えますが、画廊という場は、展覧会が変わっても存在し続けます。場があることで、作家や来場者との関係が積み重なります。

視点3:理念が短い言葉で示されている

「新しい美の発見と創造」という方針は、短く、解釈に幅があります。展覧会の内容が変わっても、この方針を軸に判断できます。

視点4:シリーズとして続ける仕組みがある

椿会やart eggのように、名前のついた継続的な枠があると、担当者が変わっても続けやすくなります。

視点5:時代に合わせて変えている

1990年代から現代美術を中心にするなど、内容は時代に合わせて変わってきました。続けることと変えないことは同じではありません。変えるものと変えないものを分けることが、長く続く要因の一つと考えられます。

「続ける」ことの難しさ:中断と再開が示すもの

100年を超える歴史といっても、一直線に続いてきたわけではありません。資生堂ギャラリーの公式サイトの椿会のページには、第二次世界大戦で活動が一時中断し、1947年に再開したことが記されています。ギャラリーの紹介でも、震災、戦争、建物の改築による中断があったとされています。

企業が文化活動を長く続ける際に壁になりやすいのは、業績の悪化、担当者の交代、経営方針の変化といった、外部と内部の環境変化です。そのなかで椿会が、公式サイトの言葉を借りれば、戦争や災害、不況などで社会が閉塞していたときも「再興への願いを込めて」開催されてきたことは、続ける意思が制度より先にあったことを示しています。

ここで企業が学べるのは、「絶対に止めない」と決めることではなく、止まっても戻れる状態をつくっておくことだと編集部は考えます。理念が言葉として残り、シリーズの名前があり、場所が存在していれば、環境が変わっても再開の足がかりになります。

作家との関係の築き方:場を「貸す」のか、「共につくる」のか

企業が画廊を持つ場合、作家との関係には複数の形があります。単に会場を提供する形、公募で作家を選ぶ形、継続的にグループとして関わる形などです。資生堂ギャラリーでは、椿会のように継続的に関わる枠と、shiseido art eggのように応募と審査を経る枠が併存しています。

作家との関係をつくるうえで、企業が注意しておきたい点を整理します。

  • 表現への介入の範囲を決める:企業の宣伝や商品と関係のない表現でも、場を提供する姿勢が信頼につながります。ただし、どこまで任せるかは、事前に方針として整理しておく必要があります。
  • 権利の取り扱いを明確にする:作品の写真撮影、図録、ウェブサイトへの掲載には、作家の許諾が必要です。契約や確認の手順を、あらかじめ文書で整えます。
  • 作家への敬意を形にする:展示の設営、告知、記録の質は、作家に対する企業の姿勢をそのまま映します。

こうした点は、画廊を持たない企業が、オフィスアートや協賛に取り組む際にも共通します。

小さく始める企業のための3つのヒント

画廊の運営は大きな投資ですが、考え方は小さな規模でも応用できます。

企業が小さくアートを始めるための3つのヒント(場を決める、年間の枠をつくる、短い理念を言葉にする)の図
図:小さく始める3つのヒント
  1. 場を一つ決める:受付の壁一面、会議室、社屋の一角など、展示を続ける場所を決めます。場所が決まると、運営の手順も具体的になります。
  2. 年間の枠をつくる:年に数回の入れ替えなど、無理のない周期を決めます。シリーズに名前を付けると、社内外で語りやすくなります。
  3. 短い理念を言葉にする:何のためにアートと関わるのかを、一文で示します。担当者が変わっても、判断の軸が残ります。

これらは、資生堂の取り組みの縮小版ではなく、編集部が整理した応用の例です。企業の規模や業種によって、適した形は異なります。

比較:「イベント型」と「場・シリーズ型」の企業アート

企業アートのイベント型と場・シリーズ型を、例・期間・得られるもの・難しさで比べた図
図:イベント型と場・シリーズ型
項目イベント型場・シリーズ型
例周年の展示、オフィスの装飾画廊の運営、継続的な展覧会シリーズ
期間短い(数日〜数か月)長い(年単位〜世代単位)
費用の性質単発継続的な負担
得られるもの話題、記念信頼、作家との関係、蓄積
難しさ終われば残らない継続の意思と体制が必要

どちらが優れているというわけではありません。目的と体力に合わせて選ぶことが大切です。

よくある誤解

誤解1:「大企業でないと企業とアートの関係は築けない」

資生堂ギャラリーは大企業の事例ですが、ここで読み取れるのは規模ではなく、続ける意思と、続けるための枠組みです。小さな企業でも、年に一度の展示や、特定の作家との継続的な関係といった形で、積み重ねる方法はあります。

誤解2:「アートは宣伝になるから続けられる」

宣伝効果だけを目的にすると、成果が見えにくい時期に続けられなくなります。資生堂ギャラリーの理念は、売上や宣伝の言葉ではなく、「新しい美の発見と創造」という文化への姿勢で示されています。

誤解3:「一度立ち上げれば自然に続く」

戦争や震災、建物の改築などで中断が起きても再開してきたことは、再開する意思があったことを示しています。仕組みだけでなく、意思の継続が欠かせません。

自社に生かす:確認ポイント

  • [ ] 経営の意思として、何のためにアートと関わるのかを言えるか
  • [ ] 短い言葉の理念(方針)を決められるか
  • [ ] 一回で終わらず、続けられる枠(シリーズ・場)を設計できるか
  • [ ] 担当者が変わっても続く体制か
  • [ ] 作家の権利(著作権・展示・掲載の許諾)を整理しているか
  • [ ] 内容を時代に合わせて見直す時期を決めているか

アートの導入は、費用面でも体制面でも長期の計画が必要です。節目の計画段階で専門家に相談しながら、無理なく続けられる規模を設計する方法もあります。

まとめ

資生堂ギャラリーは、1919年の開館から100年以上、一つの場を続けてきた企業とアートの関係の代表的な例です。経営者の関心から始まり、場を持ち、理念を短い言葉で示し、椿会やshiseido art eggのような枠で続けてきたことが、長続きの要因として読み取れます。大切なのは、規模の大きさよりも、続ける意思と、続けるための枠組みです。自社にとって無理のない形を考えるうえで、この事例は一つの手がかりになります。

よくある質問(FAQ)

Q1. 資生堂ギャラリーはいつ開館しましたか。

1919年(大正8年)です。創設者は資生堂の初代社長、福原信三です。現存する国内の画廊としては最古ともいわれています。2001年に銀座の資生堂ビル地下1階へ移転しました。

Q2. 椿会とは何ですか。

第二次世界大戦で一時中断していた資生堂ギャラリーの活動を1947年に再開する際に生まれたグループ展です。時代ごとに参加する作家を入れ替えながら続いており、直近の第八次椿会は2021年から2023年まで開催されました。

Q3. 企業がギャラリーを持つのは、中小企業には現実的ではありませんか。

専用の画廊を持つ必要はありません。年に一度の展示や、特定の作家との継続的な関係など、小さな枠から始める方法があります。大切なのは、続けられる規模で設計することです。


この記事を書いた Euphoric " " について

Euphoric " " は、ユアムーン株式会社が運営するアートメディアです。ユアムーンは、デザインとクリエイティブを軸にしたブランディング会社です。ブランドの言語化から、ロゴやWebサイトなどのデザイン、社内外への発信までを一貫して設計しています。ご希望に応じて、アートの選定・導入もお手伝いしています。

企業がアートと長く付き合うには、理念と枠組みの設計が欠かせません。自社に合った関わり方を、規模に応じて一緒に整理します。

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