中小企業のブランディングにアートを使う:大企業と同じことをしない3つの方法

中小企業のブランディングにアートを使う:大企業と同じことをしない3つの方法
写真:KimonBerlin / Wikimedia Commons(CC BY-SA 2.0。トリミング・文字入れ。この画像もCC BY-SA 2.0で提供)

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中小企業のブランディングとは、会社の規模や予算が限られるなかで、自社が何者で、誰にどんな価値を届けるのかを言葉と形にし、取引先・顧客・社員に一貫して伝えていく取り組みのことです。大企業のように広告に大きな予算をかけられない分、何を選ばないかを決める作業が中心になります。

アートは、この「選ばない」判断を、目に見える形で伝えるのに向いた素材です。この記事では、中小企業がアートをブランディングに取り入れるときの考え方を、3つの方法で整理します。

この記事で分かること

  • 中小企業が大企業と同じ方法を取ると行き詰まりやすい理由
  • 「絞る」「続ける」「小さく始める」の3つの方法と、その事例
  • 始める前に確認したいチェックリスト

中小企業こそ、ブランディングで差がつく理由

中小企業庁の集計(2021年6月時点、令和3年経済センサス-活動調査に基づく)によると、中小企業は336.5万者で、企業全体の99.7%を占めます。従業者についても、同庁の2024年版白書の付属統計では、2021年の中小企業の従業者は約3,310万人で全体の69.7%、つまり約7割です。

つまり、多くの会社は大企業と同じ土俵では戦っていません。広告費や店舗数で競うのではなく、「この会社だから頼みたい」と思われる理由をつくることが、中小企業のブランディングの目的になります。

もうひとつ、経済産業省の動きも参考になります。同省は2022年6月から「アートと経済社会について考える研究会」を開き、2023年7月に報告書を公表しました。研究会の資料には、日本企業の多くがアートやデザインを経営から比較的遠い場所に置いてきたことが、マークアップ率(価格を上乗せして売れる力)の低さの一因との指摘がある、と記されています。報告書の目次には「企業によるアートへの投資」として、社内改革・人材開発と、対外発信・事業開発の両面が取り上げられています。アートは、価格競争から離れる手がかりとして、国の側でも検討されている分野です。

大企業と同じことをすると、中小企業が行き詰まりやすい理由

アートを経営に取り入れる事例は、大企業のものが目立ちます。しかし、同じ方法をそのまま取ると、次のような壁に当たりやすくなります。

アートを使ったブランディングで、大企業の方法をそのまま取ると中小企業が行き詰まりやすい理由を4項目で比べた図。Euphoric
図:大企業の方法と中小企業の壁
大企業の方法中小企業にとっての難しさ
著名な作家の大型作品を購入・設置する費用が大きく、判断の失敗が経営に響く
全国規模の展覧会や広告で発信する予算が足りず、発信が続かない
専任の担当部署が長期で運営する担当者が兼務で、異動や退職で止まる
多くの商品・拠点に展開する一つひとつの質が薄まりやすい

アートを活用する効果は、費用の大きさに比例するわけではありません。作品が会社の理念とつながっていて、その理由を語れるかどうかが、取引先や社員への伝わり方を左右します。むしろ中小企業は、経営者が自分の言葉で理由を説明でき、意思決定が速いという強みを活かしやすい立場にあります。

大企業の事例から学べるのは「考え方」であり、「規模」ではありません。以下の3つの方法は、規模を追わずに、アートの効果を活かすための整理です。

3つの方法:絞る・続ける・小さく始める

中小企業が取り組みやすい方法を、3つに分けて紹介します。

中小企業がアートでブランディングを進める3つの方法(絞る・続ける・小さく始める)をまとめた図。Euphoric
図:中小企業のアートブランディング 3つの方法

方法1:絞る(一つの場所、一つの作家、一つの意味に)

最初の方法は、取り組みを絞ることです。会社全体の壁を作品で埋めるのではなく、来訪者や社員が最初に目にする一か所に、一つの意味を持たせて置きます。

絞るときは、次の三つを決めます。

  1. 場所:受付、応接室、工場の入口など、人が立ち止まる場所
  2. 作家:地域の作家、会社の沿革と縁のある作家など、選んだ理由を話せる人
  3. 意味:その作品が、会社の理念や姿勢とどうつながるのか

たとえば、地方で金属加工を営む会社を想定してみましょう。手仕事の精度を大切にしている会社なら、素材や手の跡が伝わる作品を応接室に一点置き、作品の隣に選んだ理由を短く添えます。これは仮定の例ですが、絞ることで、訪れた取引先が会社の姿勢を自然に受け取る形になります。

社員にとっての意味も見逃せません。応接室の作品の前で、選んだ理由を社員が自分の言葉で説明できるようになると、会社の姿勢を社員自身が語れるようになります。ブランドは、広告よりも、日々の会話の中で形づくられることが多いからです。

また、地域の作家や地元の素材と結びついた作品を選ぶと、会社が地域とどう関わっているかを、言葉を足さなくても伝えやすくなります。

絞る方法は、費用面でも有利です。大きな買い物を一度にするより、一点を丁寧に選ぶ方が、後悔が少なく、会社の語りにも使えます。

方法2:続ける(一度の話題より、長い関係を資産にする)

二つめの方法は、続けることです。中小企業は、一度の大きな話題をつくる力では大企業に及びません。しかし、同じ作家や同じ地域と長く付き合い続けることは、規模に関係なく取り組めます。

長期の取り組みの事例として、直島があります。ベネッセホールディングスと福武財団は、直島・豊島・犬島を中心にアートを通じた地域づくりを行い、その総称が「ベネッセアートサイト直島」です。経済産業省の資料では、1987年以来の活動の総称と説明されています(直島文化村構想の開始を1988年とする資料もあります)。1992年にはベネッセハウスの本館・ミュージアム棟が開館し、2004年には地中美術館が開館しました。何十年にもわたって、少しずつ施設と作品を足してきた事例です。

海を背に、細い4本の線が風で動く金属彫刻
ベネッセハウスの屋外に置かれたジョージ・リッキー《Four Lines》。瀬戸内海を背に風で動く彫刻
写真:KimonBerlin / Wikimedia Commons(CC BY-SA 2.0)

直島は大きな組織の取り組みで、中小企業がそのまま真似できるものではありません。ただ、「続けることで、取り組みが会社の語りになる」点は応用できます。たとえば、次のような形です。

  • 年に一度、地域の作家に展示の機会を提供する
  • 同じ作家との商品開発を、数年かけて少しずつ広げる
  • 作品を入れ替えながら、展示の記録を社内外に蓄積する

続けるうえでは、予算の考え方も重要です。一度に大きな金額を使うのではなく、毎年の経費の中で無理なく続けられる金額を決めておくと、景気や人事に左右されにくくなります。金額の大小よりも、「毎年やる」と決めていることが、取引先や社員にとっての安心につながります。

続けるためには、担当者が替わっても運営できるよう、目的と手順を文書にしておくことが有効です。誰が何を判断するかを決めておくと、取り組みが属人的になりません。

方法3:小さく始める(コラボ商品や期間限定から)

三つめの方法は、小さく始めることです。いきなり作品を購入したり、空間を改装したりせず、期間限定やコラボ商品などの、やり直しの利く形から試します。

ヘラルボニーは、岩手県盛岡市に本社を置く企業で、2018年7月に設立されました(FRaU掲載記事による)。採用ページでは、国内外の障害のある作家とIPライセンス契約を結び、自社ブランドの運営など、さまざまな形で事業を展開していると説明しています。Forbes JAPANの2024年11月21日付の記事では、契約作家は241人とされています。

注目したいのは、同社が組む相手が大企業にとどまらないことです。盛岡のコーヒーブランドNagasawa COFFEEとは、2023年に契約作家4名のアートを使ったドリップバッグを共同で発売しました。その後、2026年5月1日には、オリジナルブレンドのコールドブリューバッグ(20g、税込1,404円)を発売し、同日にコラボTシャツ(税込9,900円)の発売も案内されました。販売は、盛岡市のISAI PARKと公式オンラインストアです(koubo.jp掲載記事)。

作家のアートを使った包装のドリップバッグとコーヒーカップ
ヘラルボニー×Nagasawa COFFEEのドリップバッグ(2023年に始まった協業のシリーズ)
写真:株式会社ヘラルボニー/PR TIMES掲載プレスリリース(報道利用可)
青い包装のドリップバッグとコースター、コーヒーカップ
旗艦店「HERALBONY ISAI PARK」のカフェで出しているオリジナルブレンドのドリップバッグ
写真:株式会社ヘラルボニー/PR TIMES掲載プレスリリース(報道利用可)
水差しからグラスにアイスコーヒーを注ぐ様子と、ロゴ入りの白いコールドブリューバッグ
2026年5月1日に発売されたコールドブリューバッグ
写真:株式会社ヘラルボニー/PR TIMES掲載プレスリリース(報道利用可)

ここから学べるのは、次の点です。

  • ドリップバッグのような小さな商品でも、作家の世界観とブランドを掛け合わせられる
  • 同じ相手と続けて展開することで、関係が積み重なる
  • 売る場所を、実店舗とオンラインストアなど、管理しやすい範囲に絞れる

小さく始める場合でも、契約は省略できません。作品を商品に使うなら、使う範囲・期間・数量・作家名の表示を、書面で決めておく必要があります。詳しくは本連載の「アーティストとのコラボ商品の作り方」で解説しています。

3つの方法を組み合わせる:進め方の例

3つの方法は、順番に使うと整理しやすくなります。

中小企業のアートブランディングで、準備から小さく始める、絞る、続けるへと進める4段階の例を示した図。Euphoric
図:3つの方法を組み合わせる進め方
段階やること目安
準備理念・提供価値を短い言葉にし、アートを使う目的を決める社内で数回の話し合い
小さく始める期間限定の展示や、小ロットのコラボ商品を試す数か月
絞る反応を見て、場所・作家・意味を一つに決める試行の後
続ける年間の計画に組み込み、記録を残す年単位

最初に「小さく始める」と「絞る」のどちらを選ぶかは、会社の状況で変わります。すでに来訪者の多い会社なら、空間から「絞る」。商品がある会社なら、コラボから「小さく始める」のが入りやすいでしょう。

よくある失敗と、避けるための工夫

失敗1:好みで作品を選ぶ
経営者の好みだけで選ぶと、社員や取引先に意図が伝わりません。選んだ理由を、会社の理念とつなげて説明できるようにしておきます。

失敗2:作品を置いて終わりにする
作品の隣に、選んだ理由や作家の言葉を添える、展示を入れ替えるなどして、運営を続けます。

失敗3:発信が単発で終わる
プレスリリースを一度出して終わりにせず、社内の報告、取引先への説明、サイトでの継続的な紹介を計画に入れます。

失敗4:社内に目的を伝えない
社員が「なぜ作品が置かれたのか」を知らないままだと、取り組みは経営者の趣味として受け取られがちです。導入の際に、目的と選んだ理由を社内に共有し、展示替えの際にも一言添えると、受け止め方が変わります。

失敗5:権利の確認を後回しにする
作品を商品や広告に使うときは、著作権の扱いを最初に確認します。判断に迷う場合は、弁護士などの専門家に相談してください。

始める前のチェックリスト

  • [ ] 会社の理念や提供価値を、短い言葉で説明できる
  • [ ] アートを使う目的(取引先への印象、採用、商品の付加価値など)を決めている
  • [ ] 取り組む場所・商品を、一つに絞っている
  • [ ] 作家を選ぶ理由を、社員と取引先に説明できる
  • [ ] 予算の上限と、続ける期間の見通しがある
  • [ ] 担当者が替わっても運営できるよう、目的と手順を書面にしている
  • [ ] 作品の利用範囲や著作権の確認方法を決めている

まとめ

中小企業のアートブランディングは、大企業の規模を追うのではなく、「絞る」「続ける」「小さく始める」の3つを軸にすると、取り組みやすくなります。

  • 日本の企業の99.7%は中小企業であり、規模ではなく「選ばれる理由」で差がつく
  • 一つの場所・作家・意味に絞り、選んだ理由を語れるようにする
  • 長く続けることで、取り組みが会社の語りになる
  • 期間限定や小ロットのコラボから、やり直しの利く形で始める
  • 作品を使う場合は、契約と著作権を最初に確認する

自社に合う形は、会社の規模や拠点、扱う商品によって異なります。まずは、会社の理念を短い言葉にするところから始めてみてください。

よくある質問(FAQ)

Q1. 予算が限られていても、アートブランディングはできますか。

できる場合があります。作品を購入せず、期間限定の展示や、地域の作家との小ロットのコラボから始める方法があります。費用の大きさよりも、取り組む目的を決め、一つに絞ることの方が結果を左右します。

Q2. どのように作家を探せばよいですか。

美術館やギャラリーの展覧会、アートメディア、地域の文化施設などが入口になります。選ぶときは、作品が会社の理念とどうつながるかを説明できるかを基準にし、権利を誰が持っているかを書面で確認してください。

Q3. 社内で反対されたら、どう進めればよいですか。

最初から大きく始めず、期間限定や小規模で試し、反応を共有する方法があります。目的(取引先への印象、採用など)を数字や声で確認できる形にしておくと、継続の判断がしやすくなります。

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この記事を書いた Euphoric " " について

Euphoric " " は、ユアムーン株式会社が運営するアートメディアです。ユアムーンは、デザインとクリエイティブを軸にしたブランディング会社です。ブランドの言語化から、ロゴやWebサイトなどのデザイン、社内外への発信までを一貫して設計しています。ご希望に応じて、アートの選定・導入もお手伝いしています。

中小企業のアートブランディングでは、規模に合った範囲を決めることが成否を分けます。理念の言語化から、最初の一歩の設計まで、節目の計画段階からご相談をお受けしています。

参考資料

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