ラグジュアリー戦略とは?カプフェレとバスティアンの「反マーケティング」を読み解く

ラグジュアリー戦略とは?カプフェレとバスティアンの「反マーケティング」を読み解く
写真:Janine from South Korea, United States / Wikimedia Commons(CC BY 2.0。トリミング・文字入れ)

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ラグジュアリー戦略とは、ジャン=ノエル・カプフェレとヴァンサン・バスティアンが著書『The Luxury Strategy』(邦訳『ラグジュアリー戦略』)で整理した、ラグジュアリーブランドを一般的なマーケティングの定石とは別の原理で運営する考え方のことです。顧客の要望に合わせて売るのではなく、つくり手の意思と世界観を軸に価値を保ち続ける点に特徴があります。

アートの世界に近い言葉で言えば、「市場調査で絵を描く画家はいない」という感覚に近い考え方です。この記事では、その中身と、アートとの深い結びつきを整理します。

この記事で分かること

  • ラグジュアリー戦略の定義と、プレミアム戦略との違い
  • 「反マーケティング」と呼ばれる24の原則のうち、実務で参考になるもの
  • エルメス、ルイ・ヴィトンなどがアートとどう付き合ってきたか、そして一般企業が取り入れられる部分

ラグジュアリー戦略とは何か:定義と著者

ラグジュアリー戦略の出発点は、著者の二人の立場にあります。出版社 Kogan Page の紹介によると、カプフェレはHEC Paris の教授、バスティアンはHEC Paris の客員(アフィリエイト)教授で、ルイ・ヴィトン マルティエの元マネージングディレクター、イヴ・サンローラン・パルファンの元CEOとされています。研究者と実務家が組んで書いた本であることが、この本の説得力の源です。

日本語版は『ラグジュアリー戦略 真のラグジュアリーブランドをいかに構築しマネジメントするか』という題で、長沢伸也さんの訳により東洋経済新報社から2011年2月に刊行されています。英語版は2012年に第2版が出ており、版を重ねて読まれてきた本です。

なお、この記事は書籍を逐語的に要約するものではありません。出版社の紹介、書誌情報、24の原則を紹介した公開記事(参考資料参照)に基づいて整理しています。原則の細かなニュアンスは、ぜひ書籍で確認してください。

ラグジュアリーとプレミアムは何が違うのか

多くの企業が最初につまずくのは、「高品質で価格が高い=ラグジュアリー」という思い込みです。公開されている解説によれば、カプフェレとバスティアンは、ラグジュアリー、ファッション、プレミアムを区別することを重視しています。

ラグジュアリー戦略におけるラグジュアリーとプレミアムの違いを、価値の中心・価格・顧客との関係・他社との比較で示した図
図:プレミアムとラグジュアリー

たとえば、ネット販売について「ファッションやプレミアムにはきわめて適しているが、ラグジュアリーには向かない」という趣旨の整理があります。また、プレミアムブランドの目標は「完璧な製品を届けること」である一方、ラグジュアリーはそれとは別の原理で動くものとして位置づけられています。

観点プレミアムラグジュアリー
価値の中心品質・性能の優位世界観・歴史・つくり手の意思
価格の考え方価値に見合う範囲で設定価格がラグジュアリーを決めるのではなく、ラグジュアリーが価格を決める
顧客との関係要望に応えて改善する顧客の要望に迎合しない
他社との比較比較されて選ばれる比較されない(比較の土俵に乗らない)

この表は、24の原則の見出しを編集部が整理したものです。「だからラグジュアリーを目指すのが正しい」という話ではありません。プレミアムは立派な戦略であり、自社がどちらの原理で動いているかを自覚することが、ブランディングの出発点になります。

「反マーケティング」と呼ばれる24の原則

カプフェレとバスティアンは、ラグジュアリー分野が長い時間をかけて守ってきた、一般的なマーケティングの常識と逆向きの原則を、24の「アンチ・ロー(反法則)」として示しました。公開されている紹介記事(The Fashion Law)に載っている原則の見出しから、実務の参考になるものを編集部の訳で抜き出します。

ラグジュアリー戦略の24の原則から、顧客の声・需要・広告・価格について一般的なマーケティングの常識と比べた図
図:「反マーケティング」の原則から
原則(編集部訳)一般的なマーケティングの常識読み取れる意味
ポジショニングを忘れる:ラグジュアリーは比較ではない競合との違いを打ち出す「他より良い」ではなく「唯一である」ことを目指す
顧客の願いに迎合しない顧客の声を聞くつくり手の美意識を起点にする
熱狂していない人を遠ざける顧客層を広げる全員に好かれることを目指さない
需要の増加に応えない需要に合わせて増産する希少性は価値の一部
販売しにくくする購入の手間を減らす買うこと自体を体験にする
広告の役割は売ることではない広告で販売を促す広告は世界観を伝えるためにある
ラグジュアリーが価格を決める価格は競合と市場で決まる値付けはブランドの意思表明
時間とともに価格を上げる値下げで需要を喚起する長く続くほど価値が積み上がる
広告に有名人を使わない著名人で認知を稼ぐ人の人気に依存しない
芸術との近さを育てる(通常は議論されない)アートはブランドの正統性を支える
テストしない売る前に検証する「テストをすれば大衆的な高級ブランドになる」という趣旨の整理
合意を求めない社内外の合意形成を重視意思決定の速度と一貫性を守る

この中で、アートに関わる原則が独立した項目として挙げられている点に注目してください。ラグジュアリー戦略は、アートを「飾り」ではなく、戦略の構成要素として扱っているわけです。

なぜラグジュアリーはアートに近づくのか

ラグジュアリーとアートが結びつく理由は、戦略の中身から説明できます。アートは「市場の要望から生まれるのではない」「唯一性がある」「時間とともに評価が積み上がる」という性質を持っており、これはラグジュアリー戦略の原則とほぼ重なるからです。

事例1:ルイ・ヴィトンと村上隆(2003年)

ルイ・ヴィトンは、マーク・ジェイコブスがクリエイティブ・ディレクターを務めていた時期(1997年から2014年)に、2003年春夏コレクションで現代美術家の村上隆さんとコラボレーションを行いました。創業以来のモノグラム柄を多色に再構成した「モノグラム・マルチカラー」はその象徴で、ブランドのアイコンそのものをアーティストの手に委ねた点が、当時の大きな話題になりました。

茶色の地に金色のLVの組み文字と花のモチーフが並ぶ、ルイ・ヴィトンのモノグラム柄のバッグ
ルイ・ヴィトンのモノグラム・キャンバス(村上隆さんが多色に再構成した、もとの柄)
写真:Janine from South Korea, United States / Wikimedia Commons(CC BY 2.0)

ここで注目したいのは、ブランドが自社の最も大切な資産にアーティストの感性を入れた、という構造です。広告に有名人を起用して人気を借りるのではなく、作家の創作を通じて、ブランド自身の価値を更新しています。

事例2:フォンダシオン ルイ・ヴィトン(2014年)

LVMHは2014年、パリのブローニュの森にフォンダシオン ルイ・ヴィトンを開館させました。設計はフランク・ゲーリーで、LVMHの発表では2014年10月27日に一般公開が始まりました。ベルナール・アルノーの依頼で建てられた建物です。

木々の向こうに見える、ガラスの帆を重ねたような形のフォンダシオン ルイ・ヴィトンの建物
パリ・ブローニュの森のフォンダシオン ルイ・ヴィトン(設計:フランク・ゲーリー)
写真:Romainbehar / Wikimedia Commons(CC0)

こうした文化施設への投資は、ラグジュアリー戦略の「芸術との近さを育てる」という原則の具体的な形と読むことができます。企業がアートに近づく選択は、ブランドの姿勢をそのまま映します。目的や距離の取り方が曖昧だと、広告や宣伝の延長に見えてしまうおそれもあります(編集部の見解です)。

松の枝越しに山と谷の広がる風景を描いた油彩画
フォンダシオン ルイ・ヴィトンの「コートールド・コレクション」展(2019年)で展示された、セザンヌ《大きな松のあるサント=ヴィクトワール山》(1887年頃、コートールド・ギャラリー所蔵)
写真:Jean-Pierre Dalbéra from Paris, France / Wikimedia Commons(CC BY 2.0)

事例3:エルメスの「つくり手の意思」

24の原則を紹介した記事は、エルメスを複数の原則の例として挙げています。たとえば時計について、文字盤に12、3、6、9の4つの数字だけを置く設計を、完璧さではなく「魂を与える個性」の例として紹介しています。また、ルイ・ヴィトン、シャネル、エルメスは「テストをしない」ブランドの例として名前が挙がっています。いずれも、顧客調査より、つくり手の判断が先に立つ姿勢を示す例です。

3つの事例に共通すること

ここまでの3事例には、共通点があります。いずれも、アートを「広告素材」として使うのではなく、ブランドの意思決定の中心に近い場所に置いている点です。ルイ・ヴィトンはブランドのアイコンそのものを作家に委ね、フォンダシオンは財団という形で文化に投資し、エルメスは顧客調査よりつくり手の判断を優先します。アートとの距離の取り方そのものが、ブランドの姿勢を表しています。

ラグジュアリー戦略とアートの関係を、ルイ・ヴィトンと村上隆、フォンダシオン、エルメスの3事例で整理した図
図:アートとの距離の取り方3例

よくある誤解:ラグジュアリー戦略は「高くして減らす」ことではない

「値段を上げて数を減らせばラグジュアリーになる」という理解は、よくある誤解です。公開されている紹介記事は、価格を上げ続ける原則に触れる際、価値を加えずに「ヴェブレン効果」(高価格そのものが魅力になる現象)だけに頼ったブランドが、すぐに失敗を経験したと述べています。

英語の書籍ページ。THE THEORY OF THE LEISURE CLASS、CHAPTER I の見出しと本文
ソースティン・ヴェブレン『有閑階級の理論』(1899年初版。写真は1924年ロンドン版の第1章冒頭)
資料:BEIC Digital Library / Wikimedia Commons(パブリックドメイン)

価格は結果であって、原因ではありません。世界観、歴史、素材と技術、アートとの関係といった中身が先にあり、それが価格の根拠になります。中身のないまま価格だけを上げると、顧客はすぐにそれを見抜きます。

一般企業はどこから取り入れられるか

多くの企業にとって、ラグジュアリーそのものを目指す必要はありません。ただ、24の原則から借りられる考え方はあります。ここからは編集部の見解です。

取り入れやすい3つの視点

  1. 比較の土俵から降りる:競合との機能比較ではなく、自社の「唯一の理由」を言葉にする
  2. 広告の役割を見直す:売るための広告だけでなく、世界観を伝える発信を持つ
  3. アートとの接点を戦略に位置づける:装飾としてではなく、ブランドの考え方を表すものとして選ぶ

セルフチェックリスト

  • [ ] 自社のブランドは「比較されて選ばれる」か、「それ以外に選択肢がない」と思われているか
  • [ ] 値上げの根拠を、価格以外の価値で説明できるか
  • [ ] 全員に好かれる設計になっていないか(誰を遠ざけるかを決めているか)
  • [ ] 社内に「顧客の声」と「つくり手の意思」を区別する基準があるか
  • [ ] アートを導入する場合、その作家・作品を選ぶ理由をブランドの言葉で説明できるか

最後の項目は、特に大切です。アートの導入は、節目の計画段階で専門家に相談しながら、ブランドの考え方と作品がつながっているかを確認することで、後悔の少ない選択になりやすくなります。

原則を読むときの3つの注意

24の原則は、主に欧州発の高級ブランドを念頭に整理されたものです。日本の企業が参考にするときは、次の3点に気を付けてください(編集部の見解です)。

1. 原則は互いに連動している

たとえば「価格を上げ続ける」だけを取り出しても成立しません。「需要の増加に応えない」「広告は売るためではない」「合意を求めない」といった原則が、同じ世界観の下で支え合っています。一つだけ抜き出すと、ただの強気な値付けになってしまいます。

2. 業種によって当てはまり方が違う

BtoBの製造業、地域の飲食店、サービス業では、顧客との関係も、数を売る必要性も異なります。「熱狂していない人を遠ざける」は、専門性で選ばれる事業では有効でも、地域の誰もが使う施設には合わない場合があります。

3. 「つくり手の意思」が実際にあるかが前提

「顧客に迎合しない」は、つくり手に確かな美意識と判断基準があって初めて成り立ちます。それが言葉になっていない段階で形だけ真似をすると、単に顧客の声を聞かない企業になってしまいます。ブランドの言語化が先、というのが編集部の考えです。

まとめ

ラグジュアリー戦略とは、カプフェレとバスティアンが整理した、比較・迎合・増産といったマーケティングの定石とは逆の原理でブランドを運営する考え方です。その中で、アートとの近さは独立した原則として挙げられており、ルイ・ヴィトンと村上隆さんの協業や、フォンダシオン ルイ・ヴィトンの開館は、その具体例として読むことができます。

ただし、価格を上げて数を減らすだけでは、ラグジュアリーにはなりません。中身が先、価格は後です。自社がプレミアムの原理で動くのか、ラグジュアリーの原理で動くのかを自覚し、その上でアートをどう位置づけるかを決めること。それが、この戦略から学べる最も実務的な点だと私たちは考えています。

よくある質問(FAQ)

Q1. ラグジュアリー戦略とプレミアム戦略の違いは何ですか。

プレミアム戦略は品質・性能の優位で選ばれることを目指し、顧客の要望を取り入れて改善を重ねます。ラグジュアリー戦略は、世界観や歴史、つくり手の意思を軸にし、顧客の要望に迎合せず、価格もブランドが決めるという原理で動きます。どちらが優れているかではなく、原理が異なります。

Q2. 「反マーケティング」とは、マーケティングをしないという意味ですか。

いいえ。市場調査を重ね、顧客の声に合わせて商品を改善するといった一般的な定石とは逆の原則で、ブランドを運営するという意味です。広告や顧客との関係づくりをやめるのではなく、その目的や進め方が異なります。

Q3. 中小企業でもラグジュアリー戦略は使えますか。

ラグジュアリーそのものを目指す必要はありませんが、「比較の土俵から降りる」「広告で世界観を伝える」「アートとの接点を持つ」といった考え方は、規模にかかわらず取り入れられます。まず自社がどの原理で動いているかを確認することから始めるのが現実的です。

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この記事を書いた Euphoric " " について

Euphoric " " は、ユアムーン株式会社が運営するアートメディアです。ユアムーンは、デザインとクリエイティブを軸にしたブランディング会社です。ブランドの言語化から、ロゴやWebサイトなどのデザイン、社内外への発信までを一貫して設計しています。ご希望に応じて、アートの選定・導入もお手伝いしています。

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