全15回のうち 第2回
連載「美術館の英語を読める人になる」
hue / tone / palette色を語る
「色合い」を英語で言うと?辞書を引くと hue、tone、shade、tint と候補がいくつも出てきて、どれを使えばよいのか迷います。この記事は、連載「美術館の英語を読める人になる」の第2回です。ゴッホの風景画を1枚見ながら、美術館の解説文が色をどう語るのかを確かめていきます。
連載の全体像と学ぶ順番は、アート英語カリキュラム 目次にまとめています。
読了目安 約15分(練習問題を含む)使える型 3つ練習問題 3問
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この回を読むと、hue・tone・palette を使い分けて、作品の色づかいを英語で1文にまとめられるようになります。
この回で扱う言葉
hue
色相・色み
何を言う語か赤・青・黄など「色の種類」
warm hues, a reddish hue
tone
色調・明暗の度合い
何を言う語か同じ色の中の明るさ・暗さの段階
in many tones, tonal contrast
tint
明るい色合い
何を言う語か白を混ぜて明るくした色
a pale tint of blue
shade
暗い色合い(日常語では「色合い」全般)
何を言う語か黒を混ぜて暗くした色
a dark shade of green
palette
(作品の)色づかい・色の顔ぶれ
何を言う語かその作品・作家が使っている色の組み合わせ全体
The palette is dominated by ~
大まかには、hue が「どの色か」、tone・tint・shade が「その色のどの明るさか」、palette が「作品全体でどんな色がそろっているか」です。それぞれの使われ方を、実際の解説文で見ていきます。
今日の1枚

DETAIL
DETAIL美術館で作品の横に貼られている作品ラベルの形で見てみます。ラベルの読み方そのものは第6回で詳しく扱います。
Vincent van Gogh (Dutch, 1853–1890)
Wheat Field with Cypresses, 1889
Oil on canvas
28 13/16 × 36 3/4 in. (73.2 × 93.4 cm)
The Metropolitan Museum of Art, Purchase, The Annenberg Foundation Gift, 1993 (1993.132)
- 作品名
- 《糸杉のある麦畑》
- 作家
- フィンセント・ファン・ゴッホ(オランダ、1853–1890)
- 制作年
- 1889年
- 素材・技法
- 油彩、カンヴァス
- サイズ
- 73.2 × 93.4 cm
- 所蔵
- メトロポリタン美術館(ニューヨーク)ヨーロッパ絵画部門
- クレジット
- Purchase, The Annenberg Foundation Gift, 1993(1993.132)
- 画像
- The Met Open Access(CC0)/作品ページ(The Met)
1889年6月の終わりごろ、ゴッホは糸杉を連作の主題にしようと決め、7月2日にはこの構図を葦ペンの素描にして弟テオに送っています。同じ年の9月には、アトリエで同じ大きさの作品(ロンドン・ナショナル・ギャラリー所蔵)と小さな複製も描きました。ゴッホの生涯については、ゴッホの解説記事で詳しく紹介しています。
美術館の解説文で読む
美術館の壁に掲げられる解説文(ウォールテキスト)の書き方にならって、この作品の解説を英語で書きました(Euphoric " " によるオリジナルの文章です)。まず英文を通して読み、そのあと訳で確認してください。
Van Gogh painted this wheat field in the summer of 1889, while he was living at an asylum in Saint-Rémy. The palette is dominated by yellow, green, and blue1, but each color appears in many tones. The wheat ranges from pale straw to deep ocher, and the sky mixes cool blues with pale tints of turquoise. The cypress, the darkest form in the picture, is built from shades of green2 that come close to black. Its tall, flame-like shape rises above the warm hues3 of the field. The distant hills are a quieter, muted blue. Near the bottom edge, a few red flowers are set against4 green grass, a complementary pair that makes both colors look more saturated5. Van Gogh counted this work among his best summer landscapes.
下線と番号は、このあとの「読み解き」1〜5に対応しています。
全訳を読む
訳:ゴッホは1889年の夏、サン=レミの療養院で暮らしていたころに、この麦畑を描きました。色づかいは黄・緑・青が中心ですが、どの色もさまざまな明るさの段階で現れます。麦は淡い麦わら色から深い黄土色まで幅があり、空は涼しげな青に、淡いターコイズの色合いが混ざります。画面でいちばん暗い形である糸杉は、黒に近い濃い緑の色合いで組み立てられています。炎のようにすらりと伸びたその形は、畑の暖かい色の上へとそびえています。遠くの山並みは、それより控えめな、くすんだ青です。画面の下端近くでは、赤い花がいくつか、緑の草を背にして際立っています。赤と緑は補色の組み合わせで、互いの色をより鮮やかに見せます。ゴッホはこの作品を、自分の夏の風景画の中でも最もよいものの一つに数えていました。
読み解き:なぜこの言い方なのか
日本語の「パレット」は、絵具を出して混ぜる板のことです。
英語の palette もその板を指しますが、美術館の文章では多くの場合、その作品(または作家)が使っている色の組み合わせ全体を指します。
「この絵の色づかい」を一語で言える便利な語です。
日本語の発想で「この絵の色は黄色です」と言おうとすると、次のような文になりがちです。
be dominated by は「~が大部分を占める」。主語は palette で、受け身の形になります。
ほかにも a limited palette(使う色を絞った色づかい)、a bright palette(明るい色づかい)のように、形容詞と組み合わせて作品の印象を短く言えます。
なお、yellow, green, and blue の and の前にコンマがあるのは、アメリカ英語の出版物で広く使われる書き方(シリアル・コンマ、またはオックスフォード・コンマ)です。3つ以上を並べるときに、最後の2つがひとまとまりに読まれるのを防ぎます。
解説文は「黄・緑・青が中心」と言ったあと、すぐに but each color appears in many tones(どの色も多くの段階で現れる)と続けます。
hue が「どの色か」を言うのに対して、tone は「その色の明るさ・暗さの度合い」を言う語です。
第1回で学んだ he built the figure from tone rather than outline(輪郭線ではなく濃淡で人物を組み立てた)の tone も、同じ「明暗の度合い」の意味でした。白黒の素描でも使えるのが tone の特徴です。
tone をさらに細かく言うのが tint と shade です。
解説文で、明るい空には tints、暗い糸杉には shades が使われているのはこのためです。
ただし日常会話の shade は「色合い」全般の意味でも使われます(a lovely shade of blue =きれいな色合いの青)。暗さを含むかどうかは文脈で判断します。
同じように tint も、日常語では a reddish tint(赤みがかった色合い)のように「かすかな色み」の意味で使われます。明るい・暗いを厳密に言い分けるのは、色を説明する文章の中での使い方です。
赤・オレンジ・黄のような色は warm(暖色)、青・緑・紫のような色は cool(寒色)と言います。
日本語の「寒色」から cold を選びたくなりますが、色について言うときの基本は cool です。
もう一つの注目点は blues という複数形です。色の名前は普通は数えませんが、いろいろな種類の青を言うときは複数形にします。cool blues は「さまざまな寒色系の青」、browns and grays は「茶系と灰色系の色々」です。
複数形にするだけで「1色ではなく幅がある」ことを伝えられるので、解説文でよく使われます。
綴りにも注意が必要です。ocher(黄土色)はアメリカ式で、イギリス式では ochre と書きます。同様に gray(米)/grey(英)、color(米)/colour(英)です。この連載の英文は米式でそろえています。
X is set against Y は、「X が Y を背景にして置かれている」こと、そしてその結果 X が際立って見えることを一度に言う形です。
against は「~に接して・~に向かい合って」が基本の意味で、そこから「~を背景にして」の意味になります(against the sky =空を背景に)。
ここで言いたいのは、小さな赤い花が、まわりの緑の草を背景にして目に飛び込んでくるという色の対比です。単に位置を言う in や among とは違い、set against には「違いが目立つ」という含みがあります。
なお、Y に来るのは背景になるものです。糸杉の場合、麦畑は糸杉より手前にあるので、糸杉の「背景」ではありません。そのため解説文は糸杉について rises above the warm hues of the field(畑の暖かい色の上へとそびえる)と書き、set against は使っていません。
時制にも目を向けてください。Van Gogh painted … は作家の行為なので過去形、are set against、the sky mixes は今も画面で見えていることなので現在形です。第1回で見た「作家がしたことは過去形、画面で見えることは現在形」の使い分けが、この解説文でもそのまま使われています。
complementary colors は補色、つまり色相環で向かい合う色の組み合わせ(赤と緑、青とオレンジ、黄と紫)です。並べると互いを引き立てるため、解説文では「なぜその色が強く見えるのか」の説明によく使われます。
ここで日本語話者がつまずきやすいのが綴りです。
色の強さ(彩度)を言う語が saturated と muted です。
saturated は「彩度が高い、色が濃く純粋な」、muted は「彩度を抑えた、くすんだ」。
日本語の「鮮やか」は英語ではいくつかに分かれるので、言いたいことに合わせて選びます。
解説文が遠くの山並みを a quieter, muted blue と書いているのは、山が「地味だ」と言うためではありません。手前の強い色に比べて彩度を抑えてあることを、評価を交えずに伝えるためです。否定の響きを持たせたいときは dull(くすんで冴えない)を使います。
使える型3つ
作品の色づかいを一文で言う、いちばん基本の形です。色の名前は複数形にすると「その系統の色々」の意味になります。
palette の前に形容詞、後ろに of +色を置いて、色づかいの性格と中身を一度に言う形です。文の中に名詞のまとまりとして入れられます。
色や形の対比を言うときの形です。X に目立つもの、Y に背景になるものを置きます。
練習問題
( )に入る語を選んでください。
- Mixing white into red gives a pale (tint / shade) of red.
- The sky is painted in (cool / cold) blues.
- Red and green are (complementary / complimentary) colors.
模範解答を見る
- tint:白を混ぜて明るくした色は tint。黒を混ぜれば shade です。
- cool:色について「寒色」と言うときは cool が基本です。
- complementary:補色は complementary。complimentary は「無料の」です。
型1を使って、次の日本語を英語にしてください。
「この絵の色づかいは、黄色と青が中心です。」
模範解答を見る
The palette of this painting is dominated by yellow and blue.
何の作品か明らかな場面なら The palette is dominated by yellow and blue. だけで十分です。いろいろな黄色と青を含むことを示したいときは yellows and blues と複数形にします。能動態にした Yellow and blue dominate the palette. も正解です。
好きな作品を1点選び、その色づかいを英語で1〜2文書いてください。型1〜3のどれかを使ってみましょう。
解答例を見る
The palette is dominated by muted greens and browns. A small red roof is set against the trees.
The artist used a cool palette of blues and grays, with a few warm tints in the sky.
答えは作品によって変わります。「型1で全体の色づかい、型3で目立つ色の対比」の2文にすると、まとまった説明になります。
前回の復習
第1回 painting・drawing・picture の違いの言葉を使って、3問だけ解いてみましょう。
( )に入る語を選んでください。
Seurat (drew / painted) his friend in conté crayon.
答えを見る
drew:コンテ・クレヨンは絵具ではないので draw です。絵具で描くときだけ paint を使います。
「画面の中でいちばん明るい色は、雲の白です。」の( )を埋めてください。
The brightest color ( ) the ( ) is the white of the clouds.
答えを見る
in the picture:「画面の中で」は in the picture。今日の1枚は油彩なので in the painting でも誤りではありませんが、作品の種類を問わず使えるのは picture です。
次の日本語を英語にしてください。
「これは素描で、絵画ではありません。」
答えを見る
It’s a drawing, not a painting.
正しい方を先に言い、コンマのあとに not B を続けます。
次回予告と目次
第3回 光と影chiaroscuro・sfumato
ゴール:chiaroscuro と sfumato を区別し、光源と影を英語で描写できるようになる。
画像:ジョルジュ・ド・ラ・トゥール《悔悛するマグダラのマリア》1640年頃 The Metropolitan Museum of Art, Gift of Mr. and Mrs. Charles Wrightsman, 1978(1978.517)/Open Access(CC0)
全15回の一覧と、学んだ回のチェック表はアート英語カリキュラム 目次にあります。
全15回の目次を見る- 絵画は英語で何て言う?painting・drawing・pictureの違い【アート英語 第1回】
- ゴッホの本名とフルネーム|生涯と代表作を解説
- アートの英単語31語|「表現」・構図・美学は英語で?例文つき辞典単語を引きたいときに
- 美術の専門用語を英語で|明暗法・図像学・来歴など31語の辞典
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