全15回のうち 第6回
連載「美術館の英語を読める人になる」
Oil on canvas / Gift of作品キャプションの読み方
美術館で作品の横に貼られた小さなラベル。作家名とタイトルの下に、Oil on canvas、Gift of …、数字の並んだ番号……と、短い英語がぎっしり詰まっています。この記事は、連載「美術館の英語を読める人になる」の第6回です。今回から単元B「美術館の英語を読む」に入り、まずはいちばん短い文書、作品ラベル(キャプション)を1行ずつ読み解きます。
連載の全体像と学ぶ順番は、アート英語カリキュラム 目次にまとめています。
読了目安 約17分(練習問題を含む)使える型 3つ練習問題 3問
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この回を読むと、美術館のラベルの medium(素材)・dimensions(寸法)・credit line(Gift of など)を正しく読めるようになります。
この回で扱う言葉
今日の1枚

DETAIL
DETAIL今回はこのラベルそのものが主役です。英語のラベルを1行ずつ見ていきます。
Johannes Vermeer (Dutch, 1632–1675)
1誰が(作家)
Young Woman with a Water Pitcher, ca. 1662
2何を・いつ(タイトルと年)
Oil on canvas
3何で(素材)medium + support
18 × 16 in. (45.7 × 40.6 cm)
4どのくらいの大きさで(寸法)dimensions
The Metropolitan Museum of Art, Marquand Collection, Gift of Henry G. Marquand, 1889 (89.15.21)
5どこが・どうやって手に入れたか(所蔵とクレジット)credit line
- 作品名
- 《水差しを持つ若い女》
- 作家
- ヨハネス・フェルメール(オランダ、1632–1675)
- 制作年
- 1662年頃
- 素材・技法
- 油彩、カンヴァス
- サイズ
- 45.7 × 40.6 cm
- 所蔵
- メトロポリタン美術館(ニューヨーク)ヨーロッパ絵画部門
- クレジット
- Marquand Collection, Gift of Henry G. Marquand, 1889(89.15.21)
- 画像
- The Met Open Access(CC0)/作品ページ(The Met)
ラベルは上から「誰が(作家)→何を・いつ(タイトルと年)→何で(素材)→どのくらいの大きさで(寸法)→どこが・どうやって手に入れたか(所蔵とクレジット)」の順に並んでいます。順番を覚えておくと、どの美術館のラベルでも目当ての行をすぐに探せます。フェルメールの生涯と代表作については、フェルメールの解説記事で詳しく紹介しています。
美術館の解説文で読む
ラベルの情報が、解説文の中ではどのように文章になるのかを見てみます。美術館のウォールテキストの書き方にならって書いた、Euphoric " " によるオリジナルの英文です。
A young woman pauses between two tasks. With one hand she opens a leaded window; with the other she holds a metal pitcher that rests in a basin. Light falls from the left across her white hood and collar, and a map on the back wall closes off the composition. The palette is restrained: deep blue in her skirt, cool gray on the wall, and warm reds in the carpet on the table. Vermeer painted the picture in oil on canvas1, on a modest scale of eighteen by sixteen inches3. The credit line on the label records how it reached the Museum: Henry G. Marquand gave it in 1889. It was the first painting by Vermeer to reach the United States4.
下線と番号は、このあとの「読み解き」1・3・4に対応しています。
全訳を読む
訳:若い女性が、2つの動作のあいだでふと手を止めています。片手で鉛枠の窓を開け、もう片方の手で洗面器に置かれた金属の水差しを持っています。光は左から差し込み、白い頭巾と襟を照らします。奥の壁に掛かった地図が、画面の構成を閉じています。色づかいは抑えられています。スカートの深い青、壁の冷たい灰色、そしてテーブルの絨毯の温かな赤。フェルメールはこの絵を、油彩でカンヴァスに、18×16インチという控えめな大きさで描きました。この作品が美術館に入った経緯は、ラベルのクレジットラインに記されています。1889年、ヘンリー・G・マーカンドが寄贈しました。アメリカに渡った最初のフェルメールの絵画です。
英文の後半は、ラベルの3行(素材・寸法・クレジット)をそのまま文章に言い換えたものです。Oil on canvas は painted … in oil on canvas に、18 × 16 in. は eighteen by sixteen inches に、Gift of Henry G. Marquand, 1889 は Henry G. Marquand gave it in 1889 になっています。ラベルは「名詞の短い記録」、解説文は「その記録を動詞で語り直したもの」と考えると、2つのつながりが見えてきます。
読み解き:なぜこの言い方なのか
ラベルの3行目は素材欄で、英語では medium(メディウム、複数形は media)と呼ばれます。Oil on canvas は「〔何で描いたか〕on〔何の上に描いたか〕」の形で、on の前が絵具などの素材、後ろが描かれた面です。この「描かれる面」を英語で support(支持体)と言います。
日本語のキャプションでは「油彩、カンヴァス」「カンヴァスに油彩」と書くので、語順が逆になります。英語は素材が先、支持体が後です。
文章の中でこの情報を言うときは、第1回で学んだ「in+画材」を使って Vermeer painted the picture in oil on canvas. とします。ラベルの素材欄は、第1回の painting と drawing の区別が最終的に確定する場所でもあります。素材欄が Oil や Tempera で始まれば painting、Graphite(鉛筆)、Charcoal(木炭)、Pen and ink(ペンとインク)などで始まれば drawing です。
素材欄は、主に使われた素材が先頭に、いちばん下の層が over の後ろに来ると覚えると読みやすくなります。
油彩画の素材欄は短いことが多いのですが、素描や版画のラベルでは、素材欄が長くなります。メトロポリタン美術館が所蔵するダヴィッドの素描のラベルを見てみます(作品は次回の第7回で扱います)。
Jacques Louis David (French, 1748–1825)
The Death of Socrates, ca. 1782
Pen and black ink, with brush and gray wash, over black chalk; lightly squared in black chalk
M素材欄(medium)
Sheet: 9 5/8 × 14 7/8 in. (24.4 × 37.8 cm)
SSheet:=紙全体の大きさ
The Metropolitan Museum of Art, The Elisha Whittelsey Collection, The Elisha Whittelsey Fund, 2013 (2013.59)
素材欄は、主に使われた素材が先頭に、いちばん下の層が over の後ろに来ると覚えると読みやすくなります。いちばん下の層は over black chalk(黒チョークの下描きの上に)。その上に pen and black ink(ペンと黒インクの線)を引き、with brush and gray wash(筆で灰色の淡彩=薄く溶いたインク)で陰影を付けた、という意味です。前置詞 over は「〜の上に重ねて」、with は「〜を添えて」を表します。
最後の lightly squared in black chalk は「黒チョークで軽く方眼が引かれている」。方眼(squaring)は、小さな下絵を大きな画面に写し取るためのマス目です。この短い言葉から、この素描が完成作ではなく、大きな作品のための準備段階にあったことが読み取れます。第1回で学んだ study(習作)を思い出してください。ラベルのタイトルが Study for …(〜のための習作)と書かれている場合もありますが、この素描のようにタイトルには書かれず、素材欄の手がかりから習作だとわかる場合もあります。
寸法の前にある Sheet: は「紙全体の大きさ」です。紙の作品では、紙そのもの(sheet)と、描かれた部分や版の部分が別に測られることがあるため、どこを測ったかを書き添えます。第1回で、紙の作品を the sheet と呼んだのと同じ語です。
寸法欄の dimensions は、英語圏の美術館では高さ × 幅(立体なら高さ × 幅 × 奥行き)の順で書くのが一般的です。18 × 16 in. は「高さ18インチ、幅16インチ」。1インチ=2.54cmなので、括弧内の 45.7 × 40.6 cm と一致します。
18 × 16 in.=高さ × 幅
- in.
- inches(インチ)の略。ピリオドを付けるのは、前置詞 in と区別するため
- x と ×
- どちらも by と読みます。美術館や作品によって表記が混在しています
- 9 5/8
- nine and five-eighths(9と8分の5)。インチは分数で書かれます
声に出すときや文章にするときは、x を by と読みます。
解説文の on a modest scale(控えめな大きさで)にも注目してください。寸法の数字を、解説文では「大きい・小さい」という評価の言葉に変換しています。数字を見て「この作品は手に取れるほどの大きさなのか、壁一面なのか」を想像できると、ラベルを読む意味がぐっと増します。
ラベルの最後の行は credit line(クレジットライン)と呼ばれ、作品がどうやって美術館に来たのかを記録します。英語のラベルでは、作品を贈った人や購入資金を出した人の名前を記すのが慣例です。このため、作品の入手経路が、そのまま寄贈者への謝意の表明にもなっています。
クレジットラインの例(すべて Met 所蔵品の実際の表記)
Gift と Bequest の違いは、贈り主が生きているうちに贈ったか(gift)、遺言で贈ったか(bequest)です。bequest は動詞 bequeath(遺贈する)の名詞形で、日常会話ではまず使わない法律寄りの語です。Purchase は美術館が購入した作品、Fund はその購入資金を出した基金の名前です。Rogers Fund は「ロジャーズさんの遺した基金」であって、ロジャーズさんが作品を贈ったわけではありません。
日本語話者がつまずきやすいのは、Gift of の of です。of の後ろは「贈り物の中身」ではなく贈った人です。
解説文の最後の2文は、このクレジットラインを物語に変えています。the first painting by Vermeer to reach the United States(アメリカに渡った最初のフェルメール)という情報は、ラベルの1行の背後にある歴史を示しています。第10回では、他館から借りてきた作品のクレジット(Lent by …)も扱います。
番号の付け方は美術館や部門によって違うので、「年が入っていることが多い固有番号」と覚えておくと十分です。
クレジットラインの最後の括弧内の数字は accession number(所蔵番号・登録番号)です。accession は「(コレクションへの)受け入れ」。美術館が作品を正式に受け入れた時点で付ける、作品ごとの固有の番号です。
メトロポリタン美術館の番号は、多くの場合、最初の数字が受け入れた年に対応しています。89.15.21 の 89 は1889年、ダヴィッドの素描の 2013.59 の 2013 は2013年です。ただし、第1回のスーラの番号 61.101.16 はクレジットの年(1960)と1年ずれています。遺贈の年と、美術館が登録を終えた年が違うためと考えられます。また、葛飾北斎の版画(JP2569)のように、部門によっては年ではなく記号で始まる番号もあります。番号の付け方は美術館や部門によって違うので、「年が入っていることが多い固有番号」と覚えておくと十分です。
所蔵番号を控えておくと、美術館のオンライン・コレクションで同じ作品を確実に検索できます。英語で論文やレポートを書くときにも、作品を特定する情報として添えると正確です。
制作年の ca. 1662 は「1662年頃」。ラテン語の circa(およそ)の略で、読むときは circa sixteen sixty-two または about 1662 と読みます。制作年を記した記録がない作品では、様式や技法の比較から年代を推定するため、このように幅を持たせて書きます。日本語の「頃」とほぼ同じ働きです。
作家名の前に Attributed to が付くラベルもあります。「〜に帰属する」、つまりその作家の作品だと考えられているが、確定はしていないという意味です。日本の美術館の「伝〇〇」に近い表記です。さらに確度が下がると、次のような言い方が使われます。
美術館のラベルは短い文書ですが、確かなことと推定にすぎないことを、単語1つで書き分けています。ラベルを「事実の羅列」ではなく「どこまでわかっているかの記録」として読むと、英語の細かな違いにも目が向くようになります。
最後に時制を確認しておきます。解説文では Vermeer painted …、Marquand gave it in 1889 のように、過去の出来事は過去形です。一方、she opens a leaded window、Light falls from the left のように、画面に今見えていることは現在形で書かれています。第1回で学んだ使い分けが、ここでも基本になっています。
使える型3つ
ラベルの素材欄の基本形です。on の前に絵具などの素材、後ろに描かれた面を置きます。
クレジットラインの基本形です。of の後ろは贈った人。Gift を Bequest や Purchase に替えると、入手経路が変わります。
寸法は高さが先、幅が後。文章では x を by と言います。
練習問題
( )に入る語を選んでください。
- The museum bought the print with money from a fund. The credit line reads “(Gift / Bequest / Purchase), Rogers Fund.”
- The collector left the painting to the museum in her will. The credit line reads “(Gift / Bequest / Purchase) of Mary Smith.”
- “Watercolor on paper”: the support is (watercolor / paper).
模範解答を見る
- Purchase:美術館が基金のお金で買った作品なので Purchase。
- Bequest:遺言(will)で贈られたので Bequest。
- paper:on の後ろが支持体。watercolor は素材(medium)です。
次のラベルの内容を、型2と型3を使った英語の文章にしてください。
Oil on canvas / 18 × 16 in. / Gift of Henry G. Marquand, 1889
模範解答を見る
The painting is oil on canvas and measures 18 by 16 inches. Henry G. Marquand gave it to the museum in 1889.
別解:Painted in oil on canvas, it measures 18 by 16 inches. It was a gift of Henry G. Marquand in 1889. 文章にするときは x を by にし、Gift of をそのまま使うか、give の過去形で言い換えます。
美術館のオンライン・コレクションなどで好きな作品のラベルを1つ見つけ、素材と入手経路を英語で1〜2文にまとめてください。
解答例を見る
It is a drawing in pen and ink on paper. The museum bought it in 2013 with money from a fund.
This painting is tempera on wood. It came to the museum as a bequest in 1960.
答えは作品によって変わります。「素材欄を X on Y で言い、クレジットラインを gift / bequest / purchase で言い換える」の2文構成にすると、ラベルの要点が伝わります。
前回の復習
第5回「筆の跡と質感」の言葉を使って答えてください。
絵具を厚く盛り上げて塗る技法を英語で何と言いますか。
答えを見る
impasto(インパスト)。The paint is applied in thick impasto. のように使います。
「筆づかいがゆるやかだ(筆跡がはっきり残っている)」を、brushwork を主語にして英語で言ってください。
答えを見る
The brushwork is loose.
反対に、筆跡が目立たない細かな仕上げは tight です。
今日の1枚のラベルの素材欄 Oil on canvas のうち、第5回で学んだ glaze(グレーズ)や impasto は、canvas と oil のどちらの使い方を表す言葉ですか。
答えを見る
oil(素材)。glaze も impasto も、素材である油絵具の塗り方を表す言葉です。canvas(支持体)は、その絵肌を下で支える面です。
次回予告と目次
第7回 壁の解説文の型wall text
ゴール:ウォールテキストの4段構成(つかみ→文脈→観察→意義)を見抜けるようになる。
画像:ジャック=ルイ・ダヴィッド《ソクラテスの死》1787年 The Metropolitan Museum of Art, Catharine Lorillard Wolfe Collection, Wolfe Fund, 1931(31.45)/Open Access(CC0)
全15回の一覧と、学んだ回のチェック表はアート英語カリキュラム 目次にあります。
全15回の目次を見る- フェルメールとは?「光の魔術師」と呼ばれる理由と生涯・代表作を解説
- シカゴ美術館附属美術大学(SAIC)とは?歴史・学費・出願・美術館との関係を徹底解説美術館と一体の美大
- アートの英単語31語|「表現」・構図・美学は英語で?例文つき辞典単語を引きたいときに
- 美術の専門用語を英語で|明暗法・図像学・来歴など31語の辞典
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