全15回のうち 第10回
連載「美術館の英語を読める人になる」
on view / brings together展覧会タイトルとプレスリリースを読む
海外の美術館のウェブサイトや展覧会のポスターには、“Title: Subtitle” の形の展覧会名、On view through …、The exhibition brings together … といった決まった英語が並んでいます。この記事は、連載「美術館の英語を読める人になる」の第10回で、単元B「美術館の英語を読む」の締めくくりです。今回は、展覧会のタイトルと、美術館が報道機関向けに出すプレスリリースの英語を読み解きます。
連載の全体像と学ぶ順番は、アート英語カリキュラム 目次にまとめています。
読了目安 約17分(練習問題を含む)使える型 3つ練習問題 3問
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この回を読むと、「タイトル:サブタイトル」型の展覧会名や、on view/brings together などのプレスリリースの英語を読めるようになります。
この回で扱う言葉
今日の1枚

DETAIL
DETAILKatsushika Hokusai (Japanese, 1760–1849)
Under the Wave off Kanagawa (Kanagawa oki nami ura), or The Great Wave, from the series Thirty-six Views of Mount Fuji (Fugaku sanjūrokkei), ca. 1830–32
Woodblock print; ink and color on paper
10 × 15 in. (25.4 × 38.1 cm)
The Metropolitan Museum of Art, The Howard Mansfield Collection, Purchase, Rogers Fund, 1936 (JP2569)
- 作品名
- 《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》
- 作家
- 葛飾北斎(日本、1760–1849)
- 制作年
- 1830–32年頃
- 素材・技法
- 木版画、墨・色、紙
- サイズ
- 25.4 × 38.1 cm
- 所蔵
- メトロポリタン美術館(ニューヨーク)アジア美術部門
- クレジット
- The Howard Mansfield Collection, Purchase, Rogers Fund, 1936(JP2569)
- 画像
- The Met Open Access(CC0)/作品ページ(The Met)
英語のタイトルには、日本語の題のローマ字(Kanagawa oki nami ura)と、英語圏での通称 The Great Wave が併記されています。or は「または(通称)」、from the series … は「〜の連作のうちの1点」です。第6回で学んだクレジットラインを読むと、Purchase, Rogers Fund=ロジャーズ基金による購入で、1936年に収蔵されたことがわかります。北斎の生涯と作品は、葛飾北斎の解説記事で詳しく紹介しています。
美術館の解説文で読む
まずは比較のために、この作品のウォールテキストを読みます。美術館の解説文の書き方にならって書いた、Euphoric " " によるオリジナルの英文です。
A huge wave curls over three boats, its crest breaking into claw-like spray. Far behind it, Mount Fuji sits small and still under a cap of snow. Hokusai designed this print for his series Thirty-six Views of Mount Fuji, published about 1830–32. Like other woodblock prints, it was printed in many impressions4 from carved blocks, and the Museum owns more than one. In the foreground, rowers crouch low in their boats, while the diagonal sweep of the wave leads the eye toward the mountain. Set on a low horizon, the peak looks smaller than the water about to fall on it. This sheet entered the collection by purchase in 1936.
下線と番号は、このあとの「読み解き」4に対応しています。
全訳を読む
訳:巨大な波が3艘の舟の上で巻き上がり、波頭は鉤爪のようなしぶきとなって砕けています。そのはるか後方に、富士山が雪の帽子をかぶり、小さく静かに座っています。北斎はこの版画を、1830–32年頃に刊行された連作『冨嶽三十六景』のためにデザインしました。ほかの木版画と同じく、彫られた版木から何枚も摺られており、当館も複数の摺りを所蔵しています。前景では漕ぎ手たちが舟の中で低く身をかがめ、波の対角線のうねりが、見る人の目を山へと導きます。低い地平線の上に置かれた山頂は、今にも崩れ落ちようとする水よりも小さく見えます。この1枚は、1936年に購入により収蔵されました。
第7回で学んだ4段構成で見ると、1〜2文目がつかみ、3〜4文目が文脈、5〜6文目が観察、最後の文が収蔵の記録です(この解説文は、意義の段の代わりに収蔵の記録で締めた形です)。In the foreground(前景で)、diagonal(対角線)、leads the eye(目を導く)、horizon(地平線)は、第4回で学んだ構図の語彙です。
次に、同じ作品を含む展覧会を美術館が発表するときのプレスリリースを読みます。以下は、この記事のために Euphoric " " が作成した架空の展覧会の文章です。実在の美術館・展覧会の発表ではありません。
架空この記事のために Euphoric " " が作成した架空の展覧会の文章です。実在の美術館・展覧会の発表ではありません。
FOR IMMEDIATE RELEASE
6報道機関に向けた定型句(即日発表可)
Waves and Mountains: Hokusai and the Japanese Landscape Print
1展覧会名(タイトル:サブタイトル)
On view March 6 through June 14
2会期(through は最終日を含む)
This spring, the Museum presents a survey of Japanese landscape prints from the early nineteenth century.
3展覧会の種類
Organized by the Museum’s curators of Asian art, the exhibition brings together about eighty woodblock prints, illustrated books, and drawings, including an impression of Hokusai’s Under the Wave off Kanagawa.
4誰が、何を、どれだけ
Because works on paper are sensitive to light, the prints will be shown in two rotations.
5展示替えの予告
Several works are on loan from private collections.
5個人コレクションからの借用
An illustrated catalog accompanies the exhibition.
5カタログや関連イベントの紹介
番号は、このあとの「読み解き」の番号です。
全訳を読む
訳:報道解禁:即日
「波と山:北斎と日本の風景版画」
会期:3月6日〜6月14日
この春、当館は19世紀前半の日本の風景版画を概観する展覧会を開催します。当館のアジア美術担当学芸員の企画により、木版画、絵入り本、素描など約80点を一堂に集め、北斎《神奈川沖浪裏》の摺りも展示します。紙の作品は光に弱いため、版画は2期に分けて展示替えを行います。一部の作品は個人コレクションからの借用です。図版入りのカタログを刊行します。
読み解き:なぜこの言い方なのか
英語の展覧会名は、Title: Subtitle(タイトル:サブタイトル)の2段構えが非常に多く見られます。コロンの前は短く印象的な言葉(ここでは Waves and Mountains)、後ろは作家名や主題・時代など内容を正確に説明する言葉です。前半で興味を引き、後半で「何の展覧会か」を伝える、という分担になっています。
日本の展覧会名は「北斎展」「〇〇美術館展」のように内容をそのまま名前にするものも多いので、英語のタイトルを訳すときは、コロンの後ろから読むと内容をつかみやすくなります。
- Waves and Mountains: Hokusai and the Japanese Landscape Print
- → 内容は「北斎と日本の風景版画」。前半は展覧会のテーマを示すキャッチコピー
タイトルの中の the Japanese Landscape Print は単数形ですが、1枚の版画のことではありません。the+単数名詞で「〜というもの(ジャンル全体)」を表す用法です。the portrait(肖像画というジャンル)、the interior(室内画というジャンル)も同じで、第9回のステートメントの the history of the interior もこの用法でした。
展覧会名は、英語の文章の中ではイタリック(斜体)か引用符で示されます。作品名と同じく固有の題名として扱われるためです。日本語では「 」で囲みます。
on view は「展示中・公開中」。The painting is on view in Gallery 5.(その絵は第5展示室で展示中)のように、作品にも展覧会にも使えます。反対は not on view(展示されていない)で、美術館のオンライン・コレクションでよく見かける表示です。
期間を示す through は、アメリカ英語で「〜まで(その日を含む)」。through June 14 は6月14日も展示している、という意味です。
日本語話者が迷いやすいのは、to や till では最終日を含むかどうかがあいまいになることです。美術館の会期表示に through が好まれるのは、最終日を含むことを誤解なく伝えるためです。
本文の1文目は the Museum presents a survey of Japanese landscape prints(日本の風景版画の概観展を開催する)。survey は「調査」ではなく、展覧会ではあるテーマや時代を広く見渡す展覧会を指します。複数の作家を含み、全体像を示すことが目的です。
retrospective は「過去を振り返る」という意味の語で、作家の歩みを時間順にたどる展覧会に使います。新作だけの個展を retrospective とは呼びません。
動詞 presents(開催する・紹介する)も、プレスリリースの1文目の定番です。The Museum presents …、The Museum is pleased to announce … のように、美術館を主語にして始めます。
2文目は、プレスリリースの情報が最も詰まった文です。
- Organized by the Museum’s curators of Asian art
- 当館のアジア美術担当学芸員の企画による。organize は「(展覧会を)企画・組織する」で、日本語の「主催」より、内容を組み立てた主体を表す語です。複数の館を巡回する展覧会では、organized by A in collaboration with B(A が B と共同で企画)のように書かれます
- the exhibition brings together about eighty … prints
- 約80点を一堂に集める。bring together は「ばらばらにあるものを一か所に集める」で、展覧会が普段は見られない組み合わせを実現することを伝える動詞です
- including an impression of …
- 〜の摺りを含む。注目作品を including で1点挙げるのも定番の書き方です
ここで an impression(1枚の摺り)と書いているのは、版画が同じ版木から何枚も摺られるからです。解説文の it was printed in many impressions と同じ語で、メトロポリタン美術館も《神奈川沖浪裏》の摺りを複数所蔵しています。「北斎の《神奈川沖浪裏》(唯一の原本)」のように書くと誤りになります。
解説文の Hokusai designed this print(北斎がこの版画をデザインした)も、版画ならではの言い方です。浮世絵の版画は、絵師が下絵を描き、彫師が版木を彫り、摺師が摺るという分業で作られました。北斎が自分の手で摺ったわけではないので、Hokusai printed this ではなく designed が正確です。
Because works on paper are sensitive to light, the prints will be shown in two rotations. は、展示替えの予告です。第1回で学んだ works on paper(紙の作品)は光で色あせやすいため、展示期間を区切って入れ替えることがよくあります。rotation は「交替・入れ替え」で、in two rotations は「2期に分けて」です。
on loan from private collections は「個人コレクションから借りている」。loan は「貸し出し・借用品」で、美術館どうしの作品の貸し借りにも使います。借りてきた作品のラベルでは、第6回のクレジットラインの位置に次のような表記が入ります。
自館の作品は Gift of … や Purchase で入手経路を示し、借りた作品は Lent by … で所有者を示す、という違いです。第13回では、ギャラリーで来歴(provenance)を尋ねる英語を扱います。
最後の An illustrated catalog accompanies the exhibition. は「図版入りのカタログが展覧会に合わせて刊行される」。accompany(〜に付随する)は、カタログや関連イベントを紹介するときの決まった動詞です。
同じ作品でも、読み手が違えば英語の組み立てが変わる
同じ作品について書いた2つの英文を比べると、文書の目的の違いがはっきりします。
プレスリリースは、記者が記事に必要な情報(いつ・どこで・何を・どれだけ)を最初の数文で手に入れられるように書かれます。冒頭の FOR IMMEDIATE RELEASE(即日発表可)も、報道機関に向けた定型句です。一方、ウォールテキストは作品の前で読まれるので、会期や点数は書かず、画面のどこを見ればよいかに字数を使います。同じ作品でも、読み手が違えば英語の組み立てが変わることを意識すると、美術館の英語の読み分けがしやすくなります。
なお、実際のプレスリリースには、landmark(画期的な)、major(大規模な)など、宣伝のための評価語がよく使われます。ウォールテキストが評価語を避けて観察で語るのとは対照的です。読むときは、評価語を取り除いて事実の部分(点数・会期・企画者)を拾うと、展覧会の中身を正確につかめます。
使える型3つ
展覧会名の基本形です。コロンの前で興味を引き、後ろで内容を説明します。
架空※どちらも説明用に作った架空の展覧会名です。
展覧会の規模と範囲を伝える形です。点数や作品の種類を具体的に入れます。
会期の最終日を示す形です。through は最終日を含みます。
練習問題
( )に入る語を選んでください。
- The exhibition is on view (by / through) September 30.
- A (retrospective / survey) traces one artist’s work from the earliest paintings to the last.
- This painting is on (view / loan) from a private collection.
模範解答を見る
- through:会期の最終日は through。by は期限を表します。
- retrospective:1人の作家の制作を初期から晩年までたどるのは回顧展。
- loan:on loan from … で「〜から借りている」。
型2と型3を使って、次の日本語を英語にしてください。
「この展覧会は北斎の版画約50点を一堂に集めます。5月31日まで開催しています。」
模範解答を見る
The exhibition brings together about fifty prints by Hokusai. It is on view through May 31.
「約」は about。prints by Hokusai の by は「〜による(作者)」です。
好きな作家か主題を1つ選び、型1を使って架空の展覧会名を英語で考えてください。コロンの後ろに、内容がわかる言葉を入れてください。
解答例を見る
After the Storm: Landscape Painting in Nineteenth-Century Britain
Small Worlds: Still Life in Dutch Painting
答えは自由です。コロンの前は短いイメージの言葉、後ろは「誰の・何の・いつの」がわかる言葉にすると、英語の展覧会名らしくなります。
前回の復習
第9回「作家のステートメントを読む」の言葉を使って答えてください。
ステートメントで、作家の「制作活動全体」を指す語は practice と process のどちらですか。
答えを見る
practice。process は1点の作品ができるまでの過程です。
次の文の誤りを直してください。
My work explores about the sea.
答えを見る
My work explores the sea.
explore は他動詞なので about は不要です。
北斎になったつもりで、型「I am interested in 〜」を使い、今日の1枚にちなんだ1文を英語で書いてください(架空の文です)。
答えを見る
I am interested in how a small mountain can hold its place against a huge wave.
答えは自由です。一人称・現在形で、関心を1つに絞ると、ステートメントらしい文になります。
次回予告と目次
第11回 「I like it」以外で感想を言うWhat strikes me is …
ゴール:好き・嫌いを、観察に基づく1〜2文で言えるようになる。次回から単元C「自分の言葉で語る」に入ります。
画像:ローザ・ボヌール《馬市》1852–55年 The Metropolitan Museum of Art, Gift of Cornelius Vanderbilt, 1887(87.25)/Open Access(CC0)
全15回の一覧と、学んだ回のチェック表はアート英語カリキュラム 目次にあります。
全15回の目次を見る- 葛飾北斎はどんな人?出身・生涯・代表作をわかりやすく解説
- アートの英単語31語|「表現」・構図・美学は英語で?例文つき辞典単語を引きたいときに
- 美術の専門用語を英語で|明暗法・図像学・来歴など31語の辞典
- アート留学の記事一覧
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